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黄泉の巫女  作者: 氷水
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妹と風呂

 食事の時間は終わりを告げる。

 料理の大半を平らげていたのが妹なのは驚いたな。

 まさかヤーティよりも食べるなんて。

 すべての料理が無くなったタイミングで、テルミはおれに視線を送りつつパンと手を叩いた。


「それじゃ、体で語り合いと行こうぜ! 隅々までお姉さんが見てやるからな~、バリキチ~!」


 なんでだろう。

 疲れるのはまだ早いような気がしてきた。

 それから気のせいだろうか? 妹の足が若干ふらついているような……?

 一抹の不安。

 それが風呂場にて実現することとなる。

 お湯が緩やかに流れ、泡がボコボコと弾ける音が聞こえる。

 鼻には独特な刺激臭。

 熱い湯気がお湯で火照った肌を撫でていく。

 ほのかに口に残るのは妙に蜜のような甘い味。

 おれは体を伸ばしながら湯船に浸かっていた。

 ……女風呂で。


「バリキチ、遊ぼうよー!」


 女風呂といえば、男にとっての秘境。

 世の英雄たちがあらゆる手段を用いて目指す場所。

 だけど元からいたら秘境もじゃないと思うんだよ。

 緊張感とか背徳感とか、様々な感情が合わさるからこそだと思う。

 秘密じゃなくなった時点で秘境はただの場所となる。

 よく言った物だ。


「バリキチと親睦を深めたいんだよぉ!」


 当然、おれだって男だ。

 女子の裸には非常に興味がある。

 それこそ遠慮なく眺めたい!

 堂々とはしゃぎたい!

 しかしそれ以上になんかこう……。

 女風呂だ!

 更衣室だ!

 ヒャッホーイって入れる勇気が羨ましい。

 だってここに来る前は男だったんだぞ。

 それが今女風呂って……。

 ヤーティにも言ったけど、なんか申し訳ないし。

 なのでおれは目を瞑っている。

 それとテルミ、バシャバシャうるさい。


「やっぱ傍から見れば大天使」


 妹が何か言っているような気がするけど、きっと気のせいだな。

 しかし温泉に入るなんて何年振りか。

 はぁー……。

 手足を伸ばせるって快適だな。

 ちなみにおれの服を脱がし体を洗ったのは妹だ。

 風呂にあるもの全てプレイヤー用だから平気って言ってたのに。

 気になって本気でシャワーを握ったら潰れたからなぁ。

 それに、未だ少女の体に触れるのはこう……うん。

 抵抗感がある。

 まさか妹とトイレに行き、体を洗ってもらう日が来るとは……。

 しかも城のシャワーにすら水をかけられたし。

 塩じゃないんだからさ。


「今度は何を着せようか」

「ははぁーん、バリキチってば誘っているなぁ? バーリキチー!」

「止めなさい」


 シグレさんの声がしたかと思えば、バシャーン! と誰かがお湯の中にダイブする音が聞こえた。

 妹もなんか変なこと呟いているし。

 ……何をしているんだか。


「それで、最近のゴブリンの動きですが」


 風呂場で開かれた女子会はなぜかゴブリンの話題へと切り替わっていた。

 最近目撃情報が冒険者から増えている。

 昨日の時点で一か月に遭遇する数を大幅に超えているとかなんとか。

 妹は繁殖期で森の食料が減ったのではないかと考察する。

 だがシグレさんは「いくら何でも数が多すぎます」と否定した。

 食料難とか、繁殖期だとしても一か月前の記録を一日二日で上回るとか普通ない。

 普通はね。


「他にゴブっていえば……バリルちゃん」


 妹は膝上にいるおれの頬を突いてくる。

 呼び名がちゃん付けになっているぞ、妹よ。

 なんか気になるからって、座らされたんだよな。

 多分風呂場で目を瞑っているからだと思うけど。

 子どもへの面倒見が良いとは、シグレさんの言だ。

 テルミも相変わらずって言っていたし。

 ……もしかして子ども扱いされている?


「ゴブリンが現れたのは二、三週間前って聞いたけど?」


 おれは妹を見上げるようにして、リーフから聞いた通り口にする。


「……目を開けた」

「だって妹だし」


 妹を女の子として見るのはちょっと。

 例えどれだけ可愛いロリっ子であったとしても。

 そういう風に兄の身体はできている。

 間違えた。

 そういう風に思考するよう血縁者の脳はできている。

 おれは妹に対して正面から宣言する。


「妹に嘘は絶対につかないと誓う」


 というより嘘をつくの結構苦手だし。

 すぐにボロが出たり、途中で面倒になったりするから。

 何を考えているのか分からないけど、妹はおれの顔をじっと見てくる。

 それから妹はなんかおれの首に腕を回して抱き着いてきた。


「バリルちゃんかぁわいい!」


 えっと……、妹さん?

 キャラ変わってません?

 なんというか……キャラ変わってません!?

 妙に赤みがかった顔で「なに?」と、首をかしげてくる妹。

 ……あっうん。

 こいつ酔っているな?

 さらに妹がおれの頭を撫でてきた。

 うん、これ間違いなく酔っているわ。

 普段の妹だったら絶対しないわ。

 とりあえずおれは目を閉じてからテルミの方を見た。


「魔精霊なら見かけたぞ」

「そりゃ大変だね~。今の状態だと強かったでしょ~? そうそうシグレン聞いてよ~」


 ……待って。

 えっ?

 それだけ?

 魔精霊だぞ。

 あの魔精霊だぞ。

 土地に居たら間違いなく異常ありって分かる魔精霊だ ぞ!?

 なにその目を閉じているから分からないけど、頷くだけで終わりそうな反応!?


「それはこの聖国付近でですか?」


 ようやく話が進みそうな雰囲気に、おれはそうそうと頷いておく。

 精霊って基本意思を持たない。

 誰かに呼び出されなければ具現化さえ出来ない、自然の塊だ。

 もしあれが呼び出されたとしたら、誰かがおれとリーフを襲ったことになる。

 火の魔精霊に襲われた状況を思い返しつつ、かいつまんで説明する。

 妹がまたもおれに抱き着いてきた。

 それどころか頬を摺り寄せてくる。


「流石バリルちゃん! 見て見て強いでしょ、うちの天使!」

「まぁ、酔いの、誘惑に、負けない程度には!」


 妹が抱き着いてくるうえ揺らしてくる!

 これが妹の本性か?

 バリルの巫女服持っていたし。

 どこかに漫画が置いてあったような気がするし。

 そういえば受付嬢のしていた話の中に、この巫女服が限定衣装だっていう話があったような……。

 醒めた時、記憶に残らないタイプだといいな、妹よ。

 おれも滅多にできる体験ではないと割り切って、妹の頭を撫でておく。

 すると妹は「えへへ」と破顔して笑った。

 やばい。

 マジでこいつ本当に妹か?


「ゴブリンと精霊は親密なのは知っていますよね」

「それはどういうことでしょうか?」


 割と有名なのにシグレさんが知らない?

 魔族界隈では当たり前なのに。

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