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黄泉の巫女  作者: 氷水
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門番

「クロステイルに行くのであれば御一緒してもいいですか? 怪しい者じゃありませんので」


 この先はクロステイルで間違いないはず。

 そこだけはよく覚えている。

 それこそ頭の中に染み込んでいるといっても過言ではない。


「行く理由を聞いてもいいかな?」


 そう質問するフードの人の声は訝しげだった。

 武器からも手を放していないし。

 理由かぁ……。

 どうせ道中までの関係だし、変な嘘をつく必要は無いな。


「ちょっと会っておきたい人がいてな」


 多分いるだろ。

 クロステイルの上級プレイヤー、導き手のひとりとして君臨している妹だし。

 リアルでもゲームでも顔合わせる程度の認識で、当然そこに会話なんてない。

 だけどゲーム内で何かするなら連絡入れろって言われているからなぁ。

 この時間帯ならゲーム内で会った方が早いと思うし。

 男にし直すって言っておかないと、後でなんか言われる。


「どうするみんな?」


 再びフードの人が他の冒険者達に何か確認を取り始めた。

 どうも女の子がどうとか。

 降ってくるか普通? みたいな疑問の声が聞こえてくる。

 プレイヤーの割に随分と慎重派だ。

 死んでもその日限りの永久デバフと所持金半減程度なのに。

 うん、五感も相まってとても異世界っぽい!

 VRへの移植は良アップデートだったようだ。


「いいよ、一緒に行こう」

「じゃ改めてよろ――」

「ただし」


 フードの人は拒絶するかのように手を突き出した。


「私達の半径5メートル以内に近づかない。馬車の中を見るのもダメ。私と一緒に外を歩いて。それと指示するまで何もしない。これが条件」


 淡々とした口調でツラツラと告げてくるフードの人。

 他の冒険者たちからもどことなく近寄ってほしくないオーラを感じる。

 第一印象そんなに悪かった……悪かったね。うん。

 おれは指を三本立てる。


「最初の三つは呑みます。おれも自分の身は大事なので」


 なんかこう、ロリ声でおれって言葉を使うと違和感を覚えるな。

 クール系じゃないからか?

 わたし? あたし? 余? わっち? ……今まで通りおれ口調が一番しっくりくるな。


「……分かった。それでいい」


 フードの人が考えているのか少し硬直した後、冒険者風の人たちに一声かけ、そそくさと馬車に戻らせていった。

 その時一瞬聞こえてきたんだけど、「最近おれが一人称の女の子増えてきているよね」って。

 ……そんなこと、今までのゲームではあり得なかった話だよな。

 けど確認するような脳をおれは持っていないし。


 ひとまずは【おれ】という言葉を使っても問題ないとだけ覚えておくか。


 フードの人は再びおれの方に来る。

 出発の合図を告げるように馬が嘶いた。

 フードの人はおれに注意を逸らすことなく、ナイフに手をかけたまま歩を進め……、進め……、


「……」

「……」


 沈黙が……重い!

 いや確かにこうなるのは必然だったのかもしれない。

 とにかく始まりが悪かった。

 おれだってあんな風に女の子が落ちてきて、無傷で話しかけてきて、その上自分にとっての強敵を意に返さず倒したら速攻距離置く。

 おれだったら絶対こいつなんかあるって疑う!

 どのみちおれは会話が続かない系。

 なに話したらいいか……。


「それにしてもあんなにすごい陰陽道を使う人。初めて見たよ」


 ラッキ! あっちから話題振ってくれた。


「まぁな」


 ……あれ? この返しだと会話途切れね?


「……あんまり陰陽道を使う人っていないから」


 そうなんだ。

 おれの使う呪術は他プレイヤーの多くから外法だの外道だの、この世に存在してはいけない力だって語られているから。

 そりゃ使う人ってなんていないよな。

 広まる方がやばい。


「……何も思わないんだね」


 首を傾けて、意外そうな声を出しているな。

 いや、単純におれだけが使える力ってカッコよくない?

 知らないっていうのは情報戦においても有利に働くからな。

 初見殺しをするの最高に楽しいし!

 というかおれの呪術をみんながみんな使えたら……。

 上級プレイヤー総出で出撃する破目になるだろうな。


  * *  *


 しばらく歩いていると、ようやくクロステイルの城壁らしき黒き壁が見えてきた。

 さらに近づいてみると巨大な門が現れた。

 両脇にはこれまた頑丈な鎧に身を包んだ兵士。

 ……あいつら。


 そりゃ確かに聖国だけどさ。

 アンデッドが立ち入ることなど出来ないある種の花園だけどさ。


「……【金】」


 全員銀武器ってマジかよ。

 そこまでするか? 

 自衛のためだけに。

 確かに銀武器はアンデッドに強い。

 けどそれ以上の利点あんまり無くね?

 そもそも地脈的に知恵無きアンデッドは寄り付かないんじゃなかったっけ?


 実際、この場所は物凄く怖気が走る。

 耐えられないほどじゃないけど。

 この土地、おれレベルでも貫通してくるのか? 

 ……分からないな。

 分かるのは、この場所はとてつもなく【金】の気質が強い。

 並大抵のアンデッドなら最悪消滅だな。

 余計銀で固める必要がない。

 何か理由でもあるのか?


  *  *  *


 検問……というのだろうか。

 兵士がひとりずつ国に入る者達をチェックしていっている。

 門前に並ぶ行列に混じって30分ほど、おれ達の番がやってくる。

 馬車からさっきの冒険者風の人達が出てきた。

 御者とフードの人も何かカードを取り出し、何事もなく国に入って行く。


「身分証を提示してください」


 身分証? さっきのカードがそれか。

 そんなこともするようになったのか。

 さてどこにやったか身分証……じゃねぇよ。

 いや今までなかったじゃん。

 いつできたの身分証。

 魔族の国ですら身分証なんてなかったよな?

 ……いやけどおれが知らないだけで実はあったとか。

 門なんて正面突破するもんでしかなかったし。

 何なら上から通っていた。

 この場だと人が多いし。

 できれば穏便に。


「ガウルとかで代用できませんか?」


 地獄の沙汰も金次第……なんて。

 この世界に地獄無いけど。

 しかし兵士の表情はおれの目論見とは裏腹に険しくなっていく。

 心なしか槍を握る手に力が入っている。


「ダメだ。何のために門番がいる」


 ですよね。

 というか金次第も何も、まずガウルが足りているかどうかすら怪しいんだけどな。

 だって所持金引き継げない訳だし。

 ……マジでどうしよこれ。

 おれどこの国にも入れなくね?

 いつも通り正面突破?

 後でリアル妹から小言を食らうからダメだな、うん。

 とりあえず手当たり次第に。


「子どもがひとり入っても大丈夫ですって」

「なら親を連れてこい」

「会わないといけない人が中に!」

「……それは大変だな。で、身分証は?」

「……頑固っすね」

「そこらのガキの方がもっと良い嘘を吐く」


 せやな。

 おれも思った。

 一貫してないって。

 様々な案を思い浮かべては残像の如く消えていく。

 正しく渦潮に飲み込まれている気分になっていると救いの糸が垂れ下がった。


「きみって超越者だったりするかな? いきなり現れて世界を開拓していった人たちの事なんだけどね。もしそうなら神彩しんさいの宝玉をそこの魔道具にかざして」


 フードの人がそう言ってきた。

 なるほど十中八九、超越者ってのはプレイヤーの事だろうな。

 ……なるほどな。

 大体飲み込めてきた。


「神彩の宝玉とは?」

「武器や武具に埋め込められる、デバイスって聞いたことがあるかな」


 へぇ……救済措置があるじゃないか。

 で、その超越者達、プレイヤー達が持っている神彩の宝玉。

 つまりは……。


 バリルの髪形はサイドテールであり、当然それを纏める髪飾りが付けられている。

 そこにひとつ、紫色の宝玉を施してある。

 倉庫やステータス確認を開け、武具や装備に埋め込める。

 世界観を重視するために運営から配られた一種のデバイス。

 もしかしてとおれは髪飾りを外し、近くに置かれたタッチパネル型の魔道具に近づけた。

 当たりの効果音と共に空中に〇が浮かび上がる。

 兵士が何やら納得したかのように頷き、姿勢を直立に正した。


「失礼いたしました。どうぞお通りください」

「態度変わりすぎじゃね」

「超越者の方々は英雄ですから」


 おれ全く逆の立ち位置だけどな。

 この際堂々とするけど。

 国に入るのも大変になったなぁ。

 何事も良アップデートになる訳じゃないってことか。


 そうかとおれが国に一歩、足を踏み入れた時だった。

 バチっと肌を電気が伝う感覚。特に痛みも一瞬だったから気にせず中に入ろうとした。

 それがダメだったのだろう。

 前置きもなく、けたたましい警報が突然門上から鳴り出した。


「えっ、何々。おれなんかやった?」


 当たり前だけど今回ばかりは断言するよ!? 

 何にもやってない。

【火符】で爆風起こした記憶しか心当たりない! 

 というか普通に国に入っただけじゃん!?

 だからさ。

 兵士に槍を向けられる云われもないと思うんだ。

 マジで誰だよこのクソアップデート考案した奴!


「アンデッドが何をしに来た!」

 

 だから態度変わりすぎだって!

 えっ待って待って。

 なんでそんな態度どころか表情変えられるの? 

 さっき礼儀正しく接してくれてたじゃん。

 ちょっと血気盛んなお年頃なの? 


「よく見てください! 肌の色! 今は快晴! そしてこの土地! ヨモツオオカミに誓ってもいいです」


 今この場でアンデッドが出るにはあまりにも不自然すぎると伝えようとしたのだが……、何がダメだったのか。


「結界を超えたぞ」

「俺達じゃ手に負えない存在じゃないのか」

「騎士長に連絡入れてきます」


 なんて言葉が他の兵士からも、五月雨のように飛び出てくる。

 見れば緊急事態にドギマギする者。

 その場でたじろぐ者。

 声を荒げながら命令を飛ばす者。

 こいつら放火犯の心理かよ。

 もういい。

 マジでなんかやきもきしてきた。

 こっちは国に入ろうとしただけなのに?

 なんでこう犯罪者扱いされなきゃならない。

 いっそ【黄泉】でも発動してやろうか。

 ……ダメだ、リアル妹が怖いから素直に両手上げよ。


「はいはい何もしませんよ」


 絶対なんかの誤作動だろ。

 抵抗はしないって表しているのに、槍ですぐに押さえつけられた。

 まさかVRでログインして最初の国で捕縛される羽目になるとは。

 妹と会えなかったら最悪強行突破だな。

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