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黄泉の巫女  作者: 氷水
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外した仮面


 おれは聖人じゃないし善人でもない。

 どこで誰が死のうとどうだっていい。

 むしろ呪術は魂を扱う。

 おれからすれば大量に魂を取れて万々歳だ。

 これ以上無く色んな呪いを実験できる。

 だけど、偽六魔のせいで妹が暗くなるのなら。

 例えどんなに冷たくされようが助けたい。


 どれだけ頑張ろうと、呪いを扱うおれが聖なる導き手の救いになれないのも分かっている。

 それでもおれは、兄として。

 目標を遠回りしてでも。

 今はひとりしかいない家族を助けたい!

 天光がおれに降り注ぐ。

 ここで断られようものなら、間違いなくおれは四人の聖者の手によって殺されることだろう。

 おれはまるで、裁判にでもかけられたかのような面持ちでテルミの次の言葉を、


「さてと、ふぃぃぃ!! はいお終いお終い! もう物々しい口調はここでエンド! 頭痛が痛いぜ!」

「……はっ?」

 

 優しく、暖かい声はそのままで。

 見た目からは到底発し無さそうな言葉が、テルミさんから解き放たれた。


「バリルちゃんもいいよ」

「……バリル……ちゃん?」


 さっきまでの聖人そのものだったテルミさんが、壊れたかのようにバンと机を叩いた。

 腕を組みつつ、左右に指を振った。


「おれ口調には二通りある。中身が男だからか。はたまた中二病だからか。あーしはボーイッシュ派だぜ!」


 えっ?

 待って待って。

 一旦落ち着こう?

 おふざけ無しでこの人誰?

 このなんか、とりあえず騒ぎたい女子の典型例みたいなこの人マジで誰?

 二通りとか言っていたけど、なんか三通り出てきたぞ?

 テルミさん?

 両腕を上に背筋を伸ばす。

 そして力を失ったかのように、前のめりになってテーブルに突っ伏した。


「協力だっけ? うん、受ける受ける。いやー、サクッチマジナーイス」


 やる気をなくした猫のように、テルミさんは緩く手を振りながら言う。

 シグレさんはというと、なんか顔を手で覆いながら天を見上げていらっしゃるぅ! ついでにヤーティはあくびを溢すな。


「ちゃんと考えろっての!」

「そうですね。戦力増強にはなるでしょうが、聖国の面目は保たれないと思います。アンデッド。ましてやバリルと組むなど」


 食い気味に妹とシグレさんが反応した。

 けどテルミさんは呑気に「あー、あー!」と耳に手を当てて聞こえないふりしている。

 というかそれよりもあの……、さっきの風格は?

 このままだとおれ無駄に瘴気でこの場穢しただけになるんだけど?

 テルミは意見を鎮めるように手を振った。


「まぁ待て。皆まで言うな。あっ、サクッチはこの場所浄化しといて」

「ふざけんなクソ呪巫女!」


 はいすいませんでした! 無駄に瘴気で穢しました!

 おれをぎろりと睨みつけてくる妹。

 腕を広げて、瘴気に塗れたこの場を聖力で浄化そうじし始める。


「シグレンたちは分かっているよね。今の状況」


 なんかテルミさん、いきなりまともなこと言い出そうとしている。

 おれの脳内女神像は既に音を立ててひび割れているのに。

 シグレさんと妹は悔しそうな表情で顔を逸らした。

 確か十人で偽六魔王をひとり相手するのがやっとなんだっけか。

 その割にはこの国平和そのもののような。

 戦禍とかないし、本気で焦っている様子も無い。


「ならさ、あーしとしては力も借りたくなるわけよ。てか、大会前の部活に留学選手が入ってくる展開よ! 受け入れるなら今しかないと思ったね」


 テルミさん、「イエーーーイ!!」となんか敬礼に似たポーズをはしゃいでいる。

 しかも早速、「せっかくだし愛称決めようぜ」っておれの呼び方を何にしようか決めようとしているし。


 うっわぁ……。

 このノリついていけない。

 やばい。

 教室の隅でシミになっていた記憶ががが。

 というかヤーティは特に異論ないのか?

 ちらと視線を向けて見たり。


「おっ? 俺としちゃあバリルからは大した被害食っちゃぁいねぇからよ。テルが気に入ったら良いと思うぞ」

「はい賛成表一! バリキチと私合わせて三! よってしょーうり! やったぜ!」


 テルミさんは天高くガッツポーズ。

 なんかピースしている。

 そして勝手に票を入れられている!?

 名前がバリキチになっているし!

 やだ、この人。

 おれとは絶対相いれない存在だ。


「そんでさー。今修行に行っているせいで導き手三人しかいないんだよね、この国。正直かなり手薄なわけよ」

「テルミ!」

「いずれバレるし。気にしなーい気にしない」


 シグレさんの意見に、テルミさんは緩く手をひらひら振って流している。

 開いた口が塞がらないってきっとこういうことを言うんだろうな。

 シグレさん……大変そうですね。


「国を守れってこと? 別にそれくらいなら」

「いや、強強つよつよでも意味無いからさ。光の矢を出している女子おなごもいることだしのう」


 その言葉でようやくシグレさんが光の矢を消した。

 正直ずっと話に集中しにくかったから助かる。

 それと口調変えすぎ。

 どの路線で行こうとしているんでしょうかあなたは。

 妹が「そういうこと」と頷いた。

 テルミも「うんうん」頷きながら言葉を続ける。


「偽六魔は偽物でもかなり強大だよ。ひとりでも多く戦力は手元に置いておきたい。もちろん民たちが信頼できる存在ってのも含めてね」

「十二人でやっとなんだろ。二人じゃ余計に無理だろ」

 

 だから他の奴らが修行の旅に行っているんだろうけど。

 ひとりひとりが六魔王の力を得るのは相当難しいだろうな。

 あの領域へ辿り着くのに必要なのは、天才でもなく努力でもない。

 当たり前を当たり前と思うことができないただの狂気だ。


「だからバリキチ。悪いんだけどサクッチを六魔王レベルにまで鍛えることって出来るかな? バリキチなりのやり方でさ」

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