下校
【下校】
『ねえ、キーくん。ちょっと街に買い物いきたいの。つきあってよ』
『なんでだよ、めんどい』
『街に女の子だけで行かせる気?』
前にも言ったが、この街は治安が悪い。
『キラト、綾羽が頼んでるのにその言い草はなによ』
おかんむりなのは突然割り込んできた碧空。クラスは別。
『碧空がいれば大丈夫だろ。おまえ、オレよりつえーじゃん』
『お前が軟弱なの』
碧空はオレの異才に気付いている。
少なくとも、異常な反応の速さには。
彼女は格闘技の天才だから、気づかない訳がない。
今も碧空はオレにパンチを繰り出す。
簡単に合わせるオレ。
『くそ、なんであたらないのよ』
周りからはその発言が不思議に思える。
碧空のパンチはあたっているように見えるし、
実際音もする。
しかし、碧空だけにはわかっていた。
スウェーで避けられたことを。
『もう、碧空。暴れないの!』
『綾羽、こいつ、ギリギリで避けてるの!』
このやり取りはもうお馴染みだ。
小学生の頃から延々と繰り返している。
仕方がないので、綾羽と碧空に付き合うオレ。
二人は芸能人レベルで見ても上位レベルだ。
小顔、大きな瞳、すっきりした顔、スリム、脚長い。
身長は二人共160前後だが、遠目には高身長に見える。
実際、都会の繁華街にいくと次々とスカウトされるという。
スカウトが列をなして並んでいたという噂もあるぐらいだ。
だから、二人は繁華街には行きたがらない。
もちろん、危険だということが第一なのだが、ナンパも凄いしね。
そんなわけで、オレはボディーガードというか、虫よけにつきあわされる。
オレと言えば、少々うんざりする。
買い物が長い。
延々と迷った挙げ句買わずに次へ行く。
何件か回って、結局関係のないものを衝動買いしたりする。
それから、途切れることなく話し続ける。
オレも男としては無口なほうじゃない。
彼女たちとは幼なじみだから共通の会話も結構ある。
それでも、置いてけぼりを喰らうこともしょっちゅうだ。
買い物に行くと、例によって何かを衝動買いして、
公園でアイスクリームを買おうということになった。
オレは少しだけ嫌な予感がする。
実は、誰かが付けているような感覚がある。
かといって振り返っても誰もいないのだが。
嫌な感覚を保ったまま、オレたちは公園に向かった。
やっぱり出た。
『へへっ、お楽しみ中のところ悪いんだが、顔かしてくれ』
どうやら、無線でオレたちを見張っていたようだ。
後ろのやつが無線で何か話している。
ご丁寧なことで。
『あなたたち、邪魔。あっちいって』
碧空が声を上げる。
『女には手を上げないから、あっち行ってな』
『何言ってるのよ。口臭いくせして。ちゃんと体あらってる?』
いや、臭くはないぞ。煽るな、碧空。
『下手に出ていればいい気になりやがって。ちょっと痛い目み……ウゲッ!』
と奴らが言うが早いか、碧空は奴らをやっつけてしまった。
相手は5人いたのだが、全員地面にうずくまっている。
『碧空、場外乱闘禁止じゃないのか?』
碧空はある実戦格闘技の道場に通っている。
かなりの実力者のはずだ。天才とも言われているらしい。
『自衛のためだから問題ないの』
そうですか。
確かに碧空は強い。
強いというか、キレが凄い。
体重が軽い分、スピードで勝負するタイプだ。
キレ重視といっても、瓦は20枚ぐらい割れるらしいけどな。
『オレがいなくても全然大丈夫じゃんかよ』
『少しは弾除けになるでしょ。私達、か弱い乙女なのよ』
碧空はこの通りだし、性格はサバサバしていて舞台劇によくある男装の令嬢みたいな雰囲気がある。
だから、男よりも女性人気が凄い。
他校の女子生徒が碧空目当てに校門に群がっていることがある。
今も遠巻きに見ていた若い女性たちが、いきなり碧空に寄ってきた。
『私、碧空さんのファンです』
『かっこよかったです』
『握手してください』
女性は暴力を嫌うんじゃないのかよ。




