前夜
【前夜】
『マスター、2万体のハイ・オーク進化が完了しました』
『で?』
『はっ。ハイ・オークの強化版ハイ・オークSに進化したものは1000体ほどおります』
オークが儀式を経てハイ・オークになるときにハイ・オークよりも強化された個体が生まれることがある。彼らはその個体をハイ・オークSと名付けている。
『では、そのうち6頭のハイ・オークと2頭のハイ・オークSでK市を威力偵察してみるか』
『承知いたしました』
『その結果で作戦を決めるぞ』
一方、K市では。
『煌人君。お陰でK市内は小康状態になったようだ』
『武上さん、オレたちも最近はすることがなくなっています』
綾羽がK市に結界を張ったために、魔物は結界内で生息できなくなった。
無理すれば結界内に入り込んでこれるが、耐えきれない不快感に襲われる。
大和国全体が無政府状態であるので、武上さんが暫定的に市長となってみんなを指揮している。
20の学校、数件の病院を拠点として、市民には分散して避難してもらっている。
個別に活動してもいいが、物資の補給がかなり困難になる。
スーパーやコンビニ、ホームセンターでめぼしいものはあらかた拠点に移したからだ。
個別でも請われれば物資を分けるが、
家庭に閉じこもっている人ばかりだ。
外に出れば、魔物にやられるという恐怖心を克服できない。
そして、それは半分正しい。
半分というのは、現在のところ、K市に魔物はいない。
しかし、ほんの少し前までは外出は死を意味していたし、
今後もこの平穏がずっと続くとは思えない。
何しろ、大和国全体に推定数百万体もの魔物がうろついているとみられているからだ。
円形ドームは概ねK市を覆っている。
当然、K市に隣接する範囲も結界の範囲に含まれる。
この範囲に、ホームセンターが3つと巨大なモール、大きな病院1つ、
学校が10近く、その他多くのスーパーとコンビニがあった。
しかし、K市と比較すると、生存している人は少ない。
学校の避難所としての機能は果たしていない。
全ての窓ガラスが割れ、中は荒らされ放題だった。
むしろ、魔物の標的となったのかもしれない。
人間の集まる場所として。
オレたちの仮説として、魔物は人間を襲って進化する。
そして、後日だがそれが正しい推測であることがわかる。
K市はオレたちの本拠地、そして周囲の4つの拠点を中心として、
魔物退治に根を詰めたし、早期から魔物の数は少なかった。
しかし、少し周辺に行くだけで、魔物の密度がぐんとあがる。
ドームの外だと、さらに魔物密度が膨れ上がる。
通りを歩いだだけで、すぐに魔物に補足される。
人間はまず見当たらない。
どこも徹底的に破壊されている。
比較的近くに大きな軍事施設がある。
いや、あったというべきか。
そこにはダンジョンができている。
そこからは、スタンピード以上の魔物、
推定5万体もの魔物がわけでたのだ。
大和国単位で見て、この辺りは魔物密度が濃い地域であろう。
ただ、魔物が人間を襲っているとするならば、
現場では魔物はさらに周辺に広がっているのだろう。
それは、魔烏の観察からも推測できる。
魔烏はK市を中心に半径200km程度にまで範囲を広げている。
首都圏がすっぽりと収まる範囲だ。
ダンジョンを中心に同心円的に魔物が広がっているのが見て取れる。
とにかくK市だけでも安息の日々が訪れている。
オレたちは少々ホッとしながら、次の展開を想像せずにはいられない。
K市の守りの高さは敵に知られていると見るべきだろう。
そもそも、K市には結界が張られている。
普通の人間、あるいは軍隊でもそんなことはできない。
つまり、ここにオレたちがいると敵は断定している。
ゴブリンやホブゴブリン、オーク程度はオレたちの敵ではない。
敵はオレたちの戦力を確かめるために、ハイ・オーク以上の戦力を投入するだろう。
戦力の確認ができたならば、敵の投入できる最大の戦力でオレたちを屠ろうとするはずだ。
場合によっては、いきなり最大戦力が大挙して襲ってくることも考えられる。
オレたちが心配していることの一つは、敵の攻撃力もあるが、前回ハイ・オークが襲来したときに、気配を消していたこと。
オレたちの警戒網に奴らは引っかからなかった。
突然、オレたちの側面から襲ってきたのだ。
今後は更に緊張の強いられる局面が多くなるだろう。




