格闘技1
【格闘技】
ウチは進学高であるが、拳闘部がある。
そこが首都圏エリアで団体戦ベスト4まで勝ち上がった。
キャプテンは、個人戦ミドル級で優勝した。
高校生の大会ではミドル級75kg以下69kgが最も重いクラスになる。
これ以上の階級の選手がいないとは限らないが、
ミドル級優勝選手は高校拳闘界の頂点の一角である。
しかも、聞くところによると全試合ノックアウトだという。
アマチュア拳闘はポイント制でKOする場合は極めて少ない。
その高校生のレベルはどれほどのものか、オレは興味が湧いた。
ある日の放課後、オレは拳闘部の練習場を覗いてみた。
おー、確かにみんなそれなりだ。
素人とは違う。
初動を上手く隠しながら攻撃している。
特に、今リングに上がっている選手。
あれが例のミドル級の選手っぽいな。
ジャブのキレが他とはかなり違う。
しばらく窓の外から見学していると、
そのエースがオレを見て、そばの部員にごにょごにょ話している。
『なあ、窓からみていないで中で見学したら』
うーむ、なんだか嫌な気もするが、彼のジャブはそばで見てみたい。
『じゃあ、ちょっとだけ』
リングサイドで見学させてもらう。
もわっと汗臭さが鼻をつく。
しばらく見学して、オレなら、とシミュレーションをしてみる。
拳闘のルール内では対戦するのはちょっと難しいな。
パンチの初動が非常に分かりづらい。
キレもあるが、体重もあるから重そうなパンチだ。
オレでこうだと、普通の人にはジャブもらい放題、
KOされまくりだろう。
そこで意識的にスキルを使用してみる。
動きをスローモーションで眺めてみた。
ほお。本当に無駄がないな。
これだけ動きを遅くしても、パンチの出どころがわかりにくい。
こいつは本物だな。
そのミドル級の男がリングから、
『君さ、聞いたところによるとカウンターキングとか呼ばれてるらしいね。どう、ちょっとやってみない?』
誰だよ、オレの噂をばらまいているやつは。
しかし、興味がある。
オレは練習用のグローブをつけてリングに上った。
マウスとかヘッドギアは遠慮させてもらった。
『おお、男だね。本当は駄目なんだけど。ま、いっか』
ゴングが鳴る。
お互いのグローブを前に出して開始の挨拶だ。
さて、奴のジャブ。早速来た。
リングで見ると、迫力あるわ。
いきなりオレの目の前にグローブが伸びてくる。
かろうじて避ける。
『ほお、初めてでオレのパンチを避けるのか。なかなかやるな』
いきなり回転があがった。
さっきのは様子見パンチだった。
オレはスウェーしたつもりだが、軽くパンチをもらう。
間合いが取りにくい。
思ったよりも前に踏み込んでくる。
『結構本気でパンチを出してるんだが、微妙にかわすな』
だが1分ほどで奴の間合いはわかってきた。
反撃だ。
やつがジャブを出したところで、オレも合わせてみる。
カウンターが奴に決まった。
それからはオレのラウンドだ。
やつがパンチを出すたびにカウンターを軽く合わせていく。
奴の顔が紅潮したと思ったら、肩に力の入ったパンチを繰り出そうとした。
今までとは違って、スキがありすぎる。
オレは簡単にカウンターを取り、奴をKOした。
『最後、頭に血が登ったみたいだな』
意識を取り戻した奴に聞いてみる。
『ああ、俺はKOされたのか?俺もまだまだだな。あれだけ姿勢が崩れたら、どうぞ撃ってくださいってなもんだ』
『だけど、それまでは大したもんだったぞ。今まで経験したことの無いパンチだった』
『よせよ。簡単に躱してたくせに。まあ、なめてたのは謝る。俺もダウンくらったのは初めてだ。お前がカウンターキングと呼ばれる理由がわかった。どうか、教えて欲しい。俺のジャブで初動がわかるか?』
『先輩のジャブはかなりいい。正直、見たことが無いようなキレの有るジャブだ。しかし、ほんの僅かだが、ジャブを打つ前に空気が揺らぐ』
『揺らぐだと?』
『ああ。動きでは初動はわかりにくい。が、陽炎のように乱れるときがある。それがジャブを見分けるコツ』
『うーん、なんかすごいレベルの話だな。で、どうすれば癖をなくせそうだ?』
『よくわからんが、ひょっとすると、先輩が何かを考えただけで、電気情報が空気を揺らすのかもしれない』
『じゃあ、なにか。俺は考えちゃ駄目ってことか。“無”の境地ってか。伝説の格闘家になっちまうぞ』
『なあ煌人、拳闘部に入らねーか』
『いや、勘弁』
『そうか。じゃあ週1ぐらいはつきあってくれよ』
拳闘部のキャプテンは、何か思うところがあったのか、今まで以上に練習に打ち込み始めた。そして、終末になるとオレは教室から拉致されて練習につきあわされた。
『先輩、なんだか良くなってる気がする』
めんどくさいから、半分以上適当こくんだが、良くなっているのは確かだ。
その後、先輩は拳闘の高校全国大会でミドル級優勝をすることになる。
KO街道を驀進したらしい。
実はオレも練習場に拉致されるうちに、拳闘に興味が湧いた。
オレは碧空とは遊びで拳を合わせたことはある。
しかし、ちゃんとした格闘技の練習をしたことがない。
オレは週1で拳闘部に拉致されるついでに拳闘を教えてもらった。
それ以外は毎日、家でスパーリングの練習をした。
『すごいな。メキメキと上達している。おまえ、家でも練習してるようだな』
『わかる?』
『当たり前だろ。週1の練習でこんなに簡単にスキルが身についたんなら、俺たちの猛練習はなんだって話だ』




