煌人(キラト)
【1部 煌人 】
『キーくん、朝だよ』
インターフォン越しに若い女性の声で起こされる俺。
オレの名前は遠小路煌人 。
高校2年生になったばかり。
若い女性の声は九条綾羽。
オレの幼馴染みで家が隣。
俺は両親がいない。一人暮らしだ。
で、綾羽がちょくちょく俺の面倒をみてくれる。
綾羽も母親がいないが、家事を仕切っている。
高校の成績もトップクラス。
加えて、美少女というヒロインスペック。
『キラト、早くおきなさいよー!』
この甲高い声は五辻碧空。
オレたち3人は幼なじみで、ずっと同じ学校に通っている。
幼なじみといっても、オレと綾羽は幼稚園から。
碧空は小4のときにオレたちの近くに引っ越してきた。
碧空は、運動神経バツグンで格闘技の天才と言われているらしい。
竹を割ったような性格の美少女だ。
男子よりも女子に人気がある。
成績はそこそこ。
とはいうものの、オレたちの通う高校は結構な進学校だ。
だから、世間的には勉強のできるタイプだ。
綾羽大好き少女でいつも綾羽にくっついている。
百合じゃないかと思うぐらいだ。
本人は綾羽のボディーガードを自認している。
何しろ、この辺りはあまり治安がよろしくない。
というか、この国はあまり治安がよろしくない。
オレたちの国の名は、大和国。ダイワじゃなくてヤマトと呼ぶ。
結構歴史のある国で、治安の良さで世界的にも有名だったらしいが、
ここ10年ちょっとですっかり治安が悪化した。
喧嘩は日常茶飯事で誰も気にしない。
治安が悪いのは世界的な傾向だから、
相対的には大和国は治安がいい方らしいが。
外国だと銃所持がデフォらしいからな。
さすがに我が国では銃は出回っていない。
ナイフぐらいだな。
とにかく、女の独り歩きなどとてもできない。
だから、女性はつるんで出歩くのが普通だ。
女性は防犯グッズ必携だ。
とんがらしスプレーとか、スタンガンとかだ。
両方とも携帯は違法だが、野放しになっている。
いっておくが、スタンガンで気絶するようなことはまずない。
軍用とかはわからんが、スタンガンは電源が電池だ。
気絶させるような威力のスタンガンがあれば、それは殺人兵器と同義だ。
スタンガンの威力は映画で増幅されてしまっている。
女だけじゃない。危ないのは男にも言える。
俺は何かと単独行動が多いせいなのか、
もしくは態度が大きいせいか、
小さいときからやたら絡まれることが多い。
顕著になったのは中学生からだな。
特に首都は凶悪な事件が頻発した。
オレの住んでいる街(K市)は首都の郊外だ。
それでも、首都同様に治安が悪い。
特に繁華街は、この国でも最悪の部類だ。
とにかく、オレはウロウロと起き上がる。
『うにゃ』
おっと、お腹の上にはいつものとおり黒猫のノワールだ。
こいつはある日帰宅してドアをあけたら、スルスルとオレの家に入り込んでそのまま住み着いた猫だ。
一人暮らしだから飼うのはどうかと思ったが、案外簡単だった。
だって、餌と水を与えておけば、あとは砂場のトイレだけだ。
問題は奴はいつもオレを朝の4時ごろに起こすことだな。
ザーラザーラ、オレの頬を舐めるので痛くて仕方がない。
だから、餌をやって2度寝する。
家をあけることはあんまりないが、宿泊する時はペットシーターを頼んでいる。
治安が悪いなかでオレは無事に生き残ってきた。
それには俺の能力が大いに関係している。
綾羽一家3人とオレ一家3人がある団体旅行に行った時だ。
オレと綾羽は小3だった。
バス同乗中、対向車線から車がこっちに突っ込んできたのだ。
中央分離帯を乗り越えて、文字通りこちらに飛んできた。
バスはハンドルをきったが、ガードレールを飛び越え、
そのまま谷底に転落した。
グルグルとバスが回転しつつ落下する。
なんと、割れた窓から綾羽が投げ出されてしまった。
オレは瞬間的に綾羽をかばい、身を挺して綾羽を救った。
オレの両親と綾羽の母親は事故死。
オレ、綾羽、綾羽の父親はなんとか生き残った。
それ以来、綾羽の父親九条雅人がオレの法定後見人となった。
彼はオレの父親と親友だった。家が隣同士ということもある。
綾羽父は不動産業で凄腕らしい。
そのスキルでオレが小4のときに条件のいい家を見つけてきた。
2世帯住宅のような物件だ。
で、小4に上がるときに現在の家に引っ越してきた。
夕食はいつもオレ、綾羽、綾羽父の3人一緒だ。
綾羽は助けてくれたオレに恩を感じて何かと面倒を見てくれる。
もともと面倒見のいい性格だしな。
ただ、断っておくがお互い恋愛感情はないぞ。
あるとしたら肉親的な感情だ。
綾羽は、母親か姉のようなポジションである。
彼女は優等生で真面目だから、オレはしょっちゅうお小言を言われる。
ついでに綾羽父も綾羽からいつもお小言を言われている。
ふたりとも家ではだらしない。




