大食い令嬢はワンコに愛される
私はミハイルと正式に婚約することになった。
レオも祝福してくれて、気前良く「体脂肪を魔力に変換する王冠」をプレゼントしてくれた。太っ腹だわ。
お父様も、幼い頃から仲の良かったミハイルが相手ならと満足気な様子で、良かったと心から安堵した。
だけど——……ミハイルに告白されてから気になっていることがあるの。
「ミハイル、ひとつ聞いてもいいかしら」
「なあに、シアちゃん」
珍しい外国のお菓子を持ってきたミハイルとティータイムをすることになって、私はコレを機に思っていることをぶつけてみる。
「ミハイルは、いつから私のことが、す、好きだったの?」
「もう、ずっと前からだよ〜」
ミハイルは、いつものように、にっこりと笑うと、紅茶のカップを置いた。
「ねぇ、シアちゃん覚えてる? 初めて会ったとき、僕がこの癖毛を馬鹿にされてたこと」
「ええ、レオのお誕生日会の時よね? 私、お父様を困らせるくらい大激怒したから覚えてるわ。懐かしいわね……」
あれは確か5、6歳の頃だったわね。
私はお父様に引き取られたばかりの時で、同い年くらいの子供達がいると聞いて、友達作りに励もうとしたの。
だけどそこで見たのは、大人達の目を盗んで、ひとりの男の子を取り囲んで意地悪をしている光景だった。
私も食い意地がはっていると、よく馬鹿にされていたから、他人事とは思えなかったのよね。
そして、その男の子が、ミハイルだった。
「あの時、シアちゃんが助けてくれて、言ってくれた言葉が嬉しくて、それからずっとシアちゃんだけが好きだったんだよ〜」
「私が言った、言葉……」
ええ、確かに言ったわね。
ミハイルの癖毛を子犬みたいだと馬鹿にしていたから。
——『おかしいよ! ほんとうの子犬なら、みんなカワイイっていうのに、どうして子犬みたいな髪の毛は好きになれないのッ!?』
わあああっ、思い出したら恥ずか死ぬわ。
子供だからこそ言えた台詞ね。まさかミハイルが覚えているなんて。
「シアちゃんに出会ってから僕は幸せになった。だから今度は、僕がシアちゃんを一生幸せにしてあげるね〜」
そう言って、ミハイルは何故か私の隣に座ってくる。それも肩が触れ合うくらい近くに。
「シアちゃん、大好き、大好きだよ……」
「う、うん。知ってるから」
甘く耳元で囁かれ、ドキドキしてしまったのが悔しくて、私はミハイルの髪をくしゃくしゃと撫でた。肩を揺らしてミハイルが笑っている。
思う存分ふわふわを撫で回して、満足したところで離れようとした時、ミハイルに手首を掴まれ、ぐいっと引き寄せられた。
「えっ!?」
驚いて見上げると、視界いっぱいにミハイルの顔があって、熱っぽい眼差しで距離を縮めてくる。
あら、これは……アレよね?
私はぎゅっと瞳を閉じた。心臓の音がうるさい。
「……ん……っ」
くちびるに押し当てられた柔らかなモノ。
「シアちゃん、もっと……」
離れたと思ったら、今度は強く噛み付くように覆われて、呼吸が苦しくなってしまう。
「ちょ、……ミハ……っ」
胸を押してもビクともしない。
ミハイルに求められるのは、う、嬉しいけど、初めてだから手加減してほしいわ。
ちゅっ、とくちびるを吸われたあと、今度はあごを持ち上げられて、深く、執拗に、舌をからませてくる。
あら、さっきお菓子を食べていたせいか、とても甘くて美味しい味がするわ。
「はっ……シアちゃん、かわいい……」
「も、もう、無理……っ」
ワンコの甘さに、身も心もぐったりだわ。
そんな私を膝の上にのせて、ミハイルは嬉しそうにお菓子を口元まで運んでくれる。
「あ〜、早くシアちゃんと結婚したいな〜」
「そ、そう……」
「新婚旅行は、食べ歩きの旅にしようね」
「とても魅力的な提案だわ」
どこまでも私に尽くしてくれるミハイルの愛に、私は胸もお腹もいっぱいになりそうだと思った。
短く拙いお話でしたが、お読み頂き有難うございました。