大食い大会で告白
夜会をすっぽかしてしまったことで落ち込んでいた。
時の流れが早いダンジョンにいたと言い訳をしたところで後の祭り。
……お父様に迷惑をかけてしまった。
しかもお父様は、突然姿を消した私のために捜索隊まで結成し、寝ない日々を過ごしていたようだ。それなのに私ときたら肝心なときに失敗するんだから、アホすぎるわ。
落ち込む私を気遣って、ミハイルとレオが街に行こうと屋敷から連れ出してくれた。
ぶらぶらと無言で歩いていると、レオが看板を見て指をさす。
「シア、元気をだせ。ほら、あそこの食堂で大食いチャレンジをやっているようだぞ。……制限時間15分でパンケーキ30枚完食したら賞金アリか。む、想像しただけて胸やけが」
「せっかくだし、みんなで挑戦しよ〜?」
「そうね……」
しょんぼりしていても、お腹はすく。
甘い匂いに釣られた私は、パンケーキの大食いにチャレンジすることにした。
「すごい量……、クリームがたっぷりね」
注文してしばらくすると、タワーのように積み重ねられたパンケーキが運ばれてきた。生クリームとチョコレートソースがたっぷりかかっていて、とても美味しそうだわ。
「む、店主。お勘定を」
さっそく勝負を諦めたレオがお金を払っている。潔いわね。私はどうかしら。食べきれると良いのだけど、もし残したら包んでもらいましょう。
『よーい、スタート!』
合図の声とともに、砂時計がひっくり返される。
「わ〜、ふわふわ〜、」
「なかなか美味いな。もぐ……、ふわりとしているのに、同時にしっとりと弾力もある。この焼き方は研究にも応用できるかもしれん」
そう言ってメモを取り始めるレオと、マイペースに味わって食べているミハイル。二人とも大食いの攻略が全然分かっていないようね。
私はお皿を並べてパンケーキを取り分ける。タワーのままでは食べずらいもの。クリームは味変したい時のために取っておく。いざ、勝負のとき!
「もぐっ、……おいしいわ!」
ふわふわもっちりで、小麦の風味もとても良い。これなら何枚でも食べられそう。
「幸せだわぁ〜」
口のなかで咀嚼したパンケーキをミルクで流し込みながら、私は食べすすめていく。
砂時計の砂が半分ほど落ち切った頃。
「っもぐ、あら、ミハイルはもう食べないの?」
ミハイルは食べる手を止めて、何故かニコニコと私をずっと見ている。
「シアちゃんの幸せそうな顔見たらもう満足。お腹いっぱい」
「ええ? 私?」
「やっと元気になったなぁ〜って……」
そう言ったミハイルは本当に嬉しいという表情をしていて、私はドキリとした。
「僕はシアちゃんが好き」
「ええ、知ってるわ」
「幼馴染みとしてじゃないよ? ひとりの女の子として、シアちゃんのこと想ってる」
「そう言われても……ミハイルには婚約者がいるでしょう?」
「あ、それね、実は婚約は解消したんだ〜」
「ええっ!?」
驚いてフォークを落としてしまう。
ちょっと待ちなさい。婚約解消? いつの間に?
「それとね〜、シアちゃんが夜会で会うはずだった婚約者候補のひとりは僕だったんだよね〜」
「ええっ! 今までそんなこと一言も……」
「やはりミハイル、お前もか。俺もシアの婚約者候補に名乗りを上げたが、父君に却下されてな」
「うそ、レオまで!?」
なんだか情報量が多すぎてついていけないわ。
まさか二人が縁談を申し込んでいたなんて……。
「レオも、シアちゃんのこと、ずっと好きだったもんね〜。嫁にしたいって昔から言ってたし〜」
「馬鹿を言え。俺の嫁は『研究』だ。だが……生涯をかけて研究したいと思う対象は、シアの魔力だけだ」
「ああ、それを父君に言ったから却下されたんだ〜。ぷぷっ」
「ふ、二人とも……」
もうパンケーキを食べるどころじゃない。
ミハイルとレオがそこまで私を想ってくれてるなんて、知らなかった。
もし、夜会に出ていて、そこでミハイルと会っていたら、私はなんて返事をしていたのだろう……。
いつの間にか、砂時計の砂は落ち切っていて、私は勝負に負けてしまった。