ダンジョンで痩せまくりたい。
あれは、いつだったかしら。本当は冒険者になりたいミハイルを無理矢理連れて、私がギルドの門をくぐったのは。
お金さえだせば誰でも冒険者登録できたから、お小遣いをはたいて、ミハイルと二人分の冒険者証明書を発行したのよね。
結局、私は冒険者として活動することはなかったけど、反対にミハイルは精力的で、今も暇さえあればダンジョンに行ってるし、帰ってくればキラキラした瞳で冒険譚を語ってくれる。それはまるで物語の主人公みたいに……。
「でもっ、——今日の主役は私よっ!」
「シアちゃん、冒険者デビューだね〜」
「む、めでたいが、気は抜くなよ」
さっそく私たちは、ダンジョンの入り口だという扉の前に立つ。
ああ、わくわくが止まらないわっ。いざという時のために、お菓子もたくさん持ったし(ミハイルが)、さっそく出発よ!
みょんみょんみょん……。
扉を開いた瞬間、変な音がして身体が吸い込まれていく。驚いたけど誰かが手を握ってくれたから安心できたわ。この大きな手はきっとミハイルね。
「ここが……ダンジョン!?」
自然あふれる森の中にしか見えないわ。空気も新鮮で美味しい。お腹が満たされないのが残念ね。
ガサリと音がして、見たこともない生き物が姿を現す。牙を剥き出しにして、こっちを睨んでるわ。あれが魔物ね!
私はさっそく王冠を頭に乗せる。さあ、魔法を使いまくって痩せるわよっ……、あら。
「シアちゃん下がって! ——サンダーボルト!!」
「シアには指一本触れさせん! ——ウィンドブレイド!!」
二人の魔法が炸裂して、魔物はあっという間に消し炭と化した。
「ちょっとー! 何で倒しちゃうのよっ、私の体脂肪が減らないじゃない!!」
「し、しまった……」
「ごめんシアちゃん。魔物があまりにもシアちゃんを見つめるから、つい反射的に……」
「もう! ミハイルとレオは後方支援だからね!」
なんのためにダンジョンまで来たと思ってるのよ。
さあ、気を取り直して進むわよ!
森のなかを進み、魔物が現れたところでミハイルとレオが程よく痛めつけたあと、最後に私が魔法でやっつける。卑怯な作戦だけど、繰り返しているうちに私の体脂肪はみるみるうちに減っていった。
「ふぅ。さすがに疲れたわ」
魔法を使ったあとは、キャンディを舐めて誤魔化していたけど、そろそろ空腹でおかしくなりそう。
「見て、シアちゃん。泉があるよ〜」
「わあ、すごく綺麗な場所ね!」
目の前にはエメラルドブルーに輝く泉があり、その周りは可憐な野花が咲き乱れている。こんなに綺麗な景色、はじめて見たかもしれない。
「僕のお気に入りの場所なんだ〜。ずっとシアちゃんと一緒にきたいと思ってた」
「そうだったのね。連れてきてくれてありがとう、ミハイル。とても素敵な場所だわ」
「泉の水も冷たくて甘くて、すごく美味しいんだよ〜」
「体力回復効果もあるしな」
ならばと、私は泉の水をすくおうと手を伸ばしたところでバランスを崩した。ぼちゃん、と勢いよくダイブしてしまう。……あっ、本当に甘くて美味しいわ。
「シア! 今、助ける!」
「シアちゃん! 手を伸ばして!」
あら、私、こんなに泳ぎが下手だったかしら。沈んでいくばかりで息苦しい。
ミハイルとレオが助けにきてくれたけど、何故か二人も沈んでいくわ。
「この泉、なにか変よっ——」
そう気付いたときには、もう遅い。
私たちは泉の底に吸い込まれるように落ちていき、次に目を開けた時には、別のダンジョンに転移していた。
これはすごい発見だわ! 興奮しながら私たちは未開拓のダンジョンを攻略し、たくさんのお宝を手にして帰ってきた。嬉しいことに、私の体脂肪もかなり減った。これならサラダだけの生活をしなくても大丈夫ね!
——けれど、屋敷に戻ってくるなり、恐ろしい現実を知ることになる。
三日後だったはずの夜会が、なんと三日前に終わっていたの……。嘘でしょ?




