実験、そしてダンジョンへ
地下室には実験用の部屋がいくつもある。
そのなかのひとつ、魔法防御壁がはられた部屋につれていかれた。ここならどんな魔法を使っても外への被害は出ないから大丈夫。さっそく試すわよ!
「久しぶりに、お前の魔法を使うところが見れるな」
「僕も〜。シアちゃんの魔法って面白いよね」
わくわくした様子の二人から離れて、私は王冠を頭にのせた。あら、サイズがぴったりだわ。
「いくわよっ! ファイヤーボール!!」
私は火属性の魔法を放った。頭にのせた王冠がピカッと光る。同時に私のお腹も鳴った。
「手応えありよ!!」
とは言え、私の魔法は何故か分からないけど時間差で発動するのよね。おかげで、魔法の授業の時はいつも皆に笑われていたわ。
いち、にい、さん…… ——ボフンッッ!!
燃えさかる大きな火球があらわれた。熱いし、ものすごい威力だわ。さすが私!
「おお〜、シアちゃんすごい!」
「ふふっ、これくらい朝飯前よ」
「む。 ——シア、レオ、気を付けろ!!」
次の瞬間、火球が大爆発した。
おかしいわ。ファイヤーボールじゃなくて、エクスプロージョンの魔法だったかしら。ピシピシと石礫が飛んできたけど、走ってきたミハイルが庇ってくれた。
レオは大丈夫かしら……。ああっ、なんてこと。メガネのレンズにひびが入ってるわ。大変!
「レオ、怪我はない? その……メガネは弁償するわ」
「よくあることだから問題ない。それよりも実に興味深いぞ。何故、火属性の魔法を発動したのに土属性のコンボになったのか、王冠が光ったときに魔力は装填されたはずだが、シアの魔法はやはり時間差で発動した。この現象はシアの魔力による、」
「ところでシアちゃん、身体はどう?」
「そういえば……」
ペタペタと、体脂肪の気になるお腹のあたりを触ってみる。
「ええっ、ウソ! どういうこと!?」
「どうしたの!?」
「さっきと全然変わってないのよ!」
1ミリも減った感じがしない。期待していたのにがっかりだわ。あまりのショックにお腹がギュルーッと鳴る。やだ、止まらないわ。
「シアちゃんは、お腹の音まで可愛いね〜」
「あら、ちょっと待って? ……あらあらっ!?」
なんだか急にお腹がへこんでいくわ。
やったわ! 本当に体脂肪が使われていたのね!
「すごいわ! 魔法を使っただけで本当に痩せたわ!」
「ふむ。実に興味深いな。俺がそのアイテムを使ったときには効果は瞬時にでた。遅効性の魔法に遅効性の効果。体脂肪の減りにまで影響するとは、」
「レオ、そんな舐めるような目でシアちゃんを見るな。穢れるだろ〜」
「心配ないわミハイル。よく見て、レオのメガネはヒビだらけだもの。……それより」
お腹がすいた。もう駄目。一歩も動けないわ。
ぺたりと、私はその場にしゃがみこむ。
「大丈夫? シアちゃん……」
「なにか食べたいわ」
「うん。いったん戻ろうね」
ミハイルはそう言うと、私を軽々と抱き上げた。力強い腕の感触にどきどきしてしまう。もう、ワンコのくせにっ。私はミハイルの頭をくしゃくしゃに撫でまくった。
研究室に戻った私は、レオが持って来てくれたクッキーやチョコレートを思う存分に食べた。ああ、幸せだわ。
「……だけど体脂肪も元に戻ってしまったみたい」
結局、振り出しに戻ってしまい私は頭を抱えた。
「体脂肪を減らすためには、何度も魔法を使わないといけないようね。でもその度に強烈な空腹と戦うのは辛いわ」
「それなら、ダンジョンに行くのはどうだ?」
「えっ」
「それ名案かも〜! ダンジョンには回復の泉とか、癒し効果のある木の実もあるから、いくら摂取してもヘルシーだよ。これからすぐに行って、ディナー前に帰ってくればいいんじゃない?」
「すごくいいアイディアだわ!」
私たちは、さっそくダンジョン攻略に向かうことにした。