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大食い令嬢の悲劇

ゆるい何も考えずに読めるものを目指し、勢いで書きました!


全6話で完結します。

「ぐ、ぐるじぃ、ぐるじぃわ……」


「そんなばかなッ——……」


 三日後に催される夜会を前に、「念のためにドレスを合わせてみましょう」と侍女のケリーに言われたので、暇だからと試してみたら、まさかの悲劇がおこった。三人がかりでコルセットで縛り上げられたあと、身に着けたドレスは、ぴちぴちのぱっつんぱっつん。

 ああ、こんなの窒息してしまうわ。ダンスどころか、少しでも動いたら張り裂けてしまいそうよ。


 この間、採寸して直してもらったばかりなのに、私……——太った!?


 ショックを受けてるのは、私よりもケリーのほうかもしれない。わなわなと全身を震わせて、私を恨めしそうに見てくるのだから。


「エレンシアお嬢様! さては、私に隠れて食べまくりましたねッ!?」


「さ、さぁ、なんのことだか、私にはさっぱりだわぁ……」


 さっぱりどころか、思い当たる節がありすぎて、思わずケリーから目を逸らす。それがイケなかった。

 

「とぼけないでくださいっ! 夜会用のドレスがこんなにキツくなるなんて……。日々、お嬢様の体型のことも考えて食事の量は管理しているのですから有り得ません! それに知ってるんですよ。お嬢様がお部屋の金庫に、大量のお菓子を隠し持ってることを……!」


 ん、ああ、そっちのことね。

 私はてっきり先日街に行って「骨付きチキン5人前を30分で完食したらお代は無料!」に挑戦したことがバレたのかと思った。

 あのローストされたチキン美味しかったなぁ。外はパリパリで、中は柔らかくてジューシーだった。思い出したらお腹がすいてきたわね。じゅるり。


「お嬢様いいですか? 夜会まであと三日間、ドレスのためにもお食事は一日一食のみ! サラダだけのお食事とさせていただきます!」


「そ、そんなッ——!」


 私はあまりのショックでよろめいた。着替えを手伝ってくれた侍女たちが傾ぐ私の背中をおさえる。心配なのはドレスだ。わかってる。


「ケリー、ひどいわ。サラダだけなんて……せめて今日のディナーだけは普通にとらせてちょうだい。明日から死ぬ気でダイエット頑張るから」


「なりません!! 今度の夜会だけは絶対に失敗できないのですからッ!」


 それはよく分かっているわ。私の将来がかかっているのですもの……。

 夜会では、お父様が私のために選んでくださった婚約者候補たちと顔を合わせることになっている。どの方も人格者で男爵令嬢の私にはもったいないくらいの縁談だと聞いている。

 身寄りのない私を引き取って、立派に育ててくださったお父様の面目を潰さないようにしなければいけないわ。

 ……でも、でもね。

 せめて今夜くらいは良いじゃない。

 だって厨房で働いている使用人たちが話しているのを聞いてしまったの。今夜のディナーのメインは「じっくりとろとろ煮込んだビーフシチュー」だと……。ものすごく食べたい。食べたいわ!


「エレンシアお嬢様が、食べることを何よりも大切になさっていることが承知しております。ですが……今回ばかりは駄目です! お菓子を隠してる金庫も、夜会が終わるまで没収させていただきます!」


 ぴしゃりと言い放ったケリーは、侍女たちと一緒に部屋にある金庫を運んで行ってしまう。

 残った侍女達の手を借りて、私はドレスを脱いで、締めつけの少ない部屋着に着替える。ふぅ、ひと仕事終えたあとは小腹が空くわね。

 あら、そういえば、そろそろティータイムの時間じゃないかしら。わくわく。

 けれど出てきたのは紅茶だけ。砂糖もミルクもなし。ケリーの本気を感じるわね。仕方ないから5杯もおかわりした。だけど紅茶だけでは私は満たされない。


「これから三日間、サラダだけなんて……」


 既に心は折れている。

 食べる事が生き甲斐。食べるために生きてるような私が、一日一食、しかもサラダだけなんて。もちろんサラダは好きだからバケツいっぱいに食べたいわ。

 普通の一般女性がどれくらい食べるか知らないけれど、私は普段出される食事だけでは足りなくて、何かと用事をつくっては、街に出掛けてお腹を満たしている。

 冒険者たちの拠点でもあるこの街では、飲食店の数も多いし、安くて美味しくて量もあるから助かっている。

 暴食気味なことを、昔からそばにいるケリーは気付いているようだけど、お父様だけには必死で隠してきた。恩人であるお父様だけには知られたくない。夜会だって全力で成功させなくては。

 お父様が選んだ婚約者候補……。顔も家柄も非の打ち所がないくらい人ばかり。ということは、私に対してもそれなりのものを求めてくるはずだわ。


 ああ、でも……どなたが一番、私に美味しいご飯を食べさせてくれるかしら?

 一生をともにするのだから、大食いの私に呆れない方がいいわ。

 そうそう、会ったらまず料理人の経歴チェックは忘れないようにしないと。できれば色んな国の食文化に詳しい人だと嬉しいわ。

 夢はふくらむばかりね。この調子でお腹もふくれたらいいのだけど……。


 溜息をついたとき、ノックの音がした。


「失礼いたします。エレンシアお嬢様、ミハイル様がいらっしゃいました。面会を希望されております」


「まあ、ミハイルが? 通していいわよ」


「かしこまりました」


 ミハイル……いいところに来たわ。

 仲の良い幼馴染みに、いろいろ相談にのってもらいましょう。


「シアちゃん、ひさしぶり~」


 扉をあけて姿を見せたのはオレンジ色のふわふわとした癖毛が特徴の青年。私の幼馴染であり、親友でもあり、昔から甘えん坊の弟みたいな存在のミハイルだ。侯爵家の次男で十六歳で私より二つ下。


「ミハイル、最近顔を見せなかったけど、元気だった?」


「ごめんね。新しいダンジョンが現れたから、レオと攻略にいってたんだ」


「相変わらず、冒険者やってるのねえ」


「うん。趣味だからぁ~。それより僕、シアちゃんにお土産のお菓子を持ってきたんだけど、侍女さんに取りあげられちゃって」


「そうよミハイル! じつは私、すごく困った状況になってるの。このままじゃ餓死するわッ!」


「!! もしかして借金で没落寸前とか!? それなら僕がシアちゃんを」


「そうじゃないのよ。実は夜会用のドレスがキツくなってしまって……」


 私はさっき起きたばかりの悲劇の顛末を順番に話をする。

 本当は恥ずかしいことなんだろうけど、ミハイルになら何だって話せるの。私が大食いなんだってことを知っても変わらずに接してくれる数少ない親友。とても、ありがたいわ。


「……それはそれはぁ、大変だったね~」


「悪いのは私だから、サラダだけの生活も我慢しなくちゃいけないって分かってる……けどね、今夜のビーフシチューだけは諦めたくないのよ!」


「じっくり煮込んでて、美味しそうだもんね~」


「だからね、手っ取り早く痩せる方法、ミハイルは知らない? ああ、運動以外で!」


 なぜなら、運動してしまうと、よけいに食欲が増してしまうから。いつもの倍は食べたくなってしまうわ。


「ええ~!? むずいよ~。それにシアちゃんは、今のままでじゅうぶん可愛いし~」


「ありがとう。私もミハイルのことを素敵だと思ってるわよ。ふわふわの髪の毛はワンコみたいで昔から可愛いと思ってたし、私のためにいつも美味しいお菓子を買ってきてくれるし」


「シアちゃんのためなら、僕はなんだって……、あっ!」


「急に、どうしたの?」


「いい方法、思いついたよ~!」


「ええ、本当にッ!?」


 さすがミハイル。さすが私のワンコ。相談して正解だったわ。


「ダンジョン攻略で、レオが珍しいアイテムを手に入れたんだけど~」


「ええ、それが?」


「たしか……【体脂肪を魔力に変換できる装置】とかなんとか」


「そ、それだわーー!!」


 なにそれ、すごい!

 体脂肪を魔力に変換? つまり痩せられるということじゃない!

 誰が作ったか知らないけど、その人は天才ね。

 今すぐレオに会いに行かなくちゃ!




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