ヴェンデッタ
お読みいただきありがとうございます。
・・・ん?あれ、俺どうしたんだっけ?確か、有馬記念に出走してゴール寸前で化け物に追いついて・・・そうだそうだ。勝ったんだ。人生初の差しきり勝ち。嬉しかったなぁ。
もう15年も前になるのか
4歳の有馬記念を勝った後も現役を続け、勝ったり負けたり死にかけたりしながらなんとか現役引退。
念願の種牡馬入りを果たした。正直、俺は種牡馬として働けるのか不安ではあったが、馬の本能はあったらしく、なんとかやることはヤることが出来た。
そっから安泰の種牡馬生活・・・と思ったら、最初の数年はどっかのスタリオンステーションでスタッドインしたかと思えば、すぐに及川牧場に出戻った。
うん、予想はしてたよ。年をおうごとに種付け数が明らかに減っていったからね。最初はほぼシーズン中は毎日数回ヤってたのが、最後は種付け自体がない日もあったからね。
幸い及川牧場で種牡馬生活をすることが出来た。なので、及川牧場や新冠近辺の繁殖牝馬を中心に種付けさせてもらっていた。毎年同じ牝馬に複数種付けすることもあったので、種付け数が0になることはなかったな。
スタリオンステーション在籍時代からその牝馬達に付けていたので、かなり愛着はある。勝手に俺の嫁達と読んでいる。ハーレムではない。嫁達だ。誰に知られるでもないが。
そんなこんなしてたらこれまた数年後、追い出されたスタリオンステーションに戻ってきた。
多分俺の産駒が何かしらの重賞を勝ったと思うんだが、都合よく牧場のスタッフも話してくれないからな。なんのレースを勝ったかまではわからんかった。
ちなみにこの頃に俺の母スカイシャワーママが亡くなったらしい。産後の肥立ちが悪かったのか。俺の最後の弟か妹には強く生きて欲しい。
そこからまた数年そのスタリオンステーションで仕事に励んでいたが、またもや追い出された。酷くない?再度及川牧場に出戻りですよ。
そこからまた数年、種牡馬生活を満喫して・・・そっか。種牡馬引退したんだっけ。ここ3年くらい種付け数も減った。今年の種付け数は1頭だけだったんじゃなかったかな?俺ももうすぐ20歳。種牡馬としての価値はほぼ無くなったってことか。
幸い、及川牧場で余生を過ごせるらしい。そういや水嶋のおっちゃんは種牡馬になった後もずっと俺の馬主だった。毎年、家族で会いに来てくれてる。おっちゃんの子供達も今じゃ立派な大人だ。息子さんの方はおっちゃんと同じ馬主になるらしい。
そんな水嶋家が老後の俺を養ってくれる話になっていたらしい。本当に感謝。
そして種付けシーズンが終わった夏、なにやら俺を世話しているおっちゃんが恐ろしい言葉を漏らしていた。
「ヴェンデッタの去勢についてですが」
正確にはギリギリ聞き取れたのが「ヴェンデッタ」「去勢」の2フレーズだけなんだが、なんの事かは考えるまでもない。
種牡馬として引退するってことはもう生殖機能はいらんわけで。付いていない方が性格もおとなしくなるし、扱いやすいだろうからということなんだろう。
絶望した!割りとガチで絶望した!
なんでノリが軽いかって?チョン切られてないからだよ。その前にくたばっちまったから。
絶望していた矢先、放牧先で事件が起こったんだ。及川牧場のサービスというか、宣伝の一環で種牡馬を引退した俺は道路沿いの放牧地で放牧されていた。道路から俺が見えるように。それ目当てで観光の人もボチボチ来てくれてたらしい。
その中にいたんですよ、ロクでもないのが。
『過去のすごい馬が未だにすごいのか、試してみた』
つってデッカい犬を俺の放牧地に放り込みやがった。なんか知らんけど犬の方は全力で俺を追ってきやがる。俺も逃げようとして転倒。脚をポッキリヤッちゃった訳。
騒ぎに気付いたスタッフさんが来たときにはロクデナシは逃走。俺は緊急搬送されたけど、獣医から回復の見込みがないと診断され安楽死処分となりましたとさ。
死ぬ直前に崇と翔哉の兄ちゃんが駆けつけてくれた。水嶋一家は間に合わなかった。二人は北海道シリーズでこっちにいたのね。
笠原のおっちゃんはどうやら既に亡くなってしまったらしい。厩舎を翔哉の兄ちゃん・・・いや、もうおっさんか、に譲って引退してすぐポックリ逝っちまったんだと。
そう、俺死んじゃった筈なんだけど、なんで意識残ってるんだ?真っ暗で暖かいこの場所、なーんか記憶の片隅にあるような気がするんだけど。
ん?お、お、お。なんか押し出されるような感覚が。あ、脚持たれた。あれ、この引っ張られる感覚どっかで・・・え、まさか。これって
「よし、産まれた。よくやったぞ!おぉ!牡馬だ。ヴェンデッタの後継、最後の希望が産まれたぞ!」
・・・え?2周目?
というわけで、ここで一旦フクオの物語を閉じさせていただきます。打ちきり感半端ないですね。でも、元々このような形で物語を締めるつもりではいました。
理由としましては、作者が書きたいことを大体書き終えてしまったことと、これ以上書いても似たようなレース内容にしかならず、面白くなさそうと考えたからです。
それでも続きが読みたいというご意見があったらと仮定し、後日大百科的な内容を投稿予定ですが、それまでにそういった声が多ければ続きを書きたいと思います。
いや本当、何で1300人以上からブクマ貰えたんでしょうね?割りと不思議なんですが。
小説の書き方を全く知らない素人の作者がここまで物語を紡いでこれたのも、読んでくださった皆様のお陰です。本当にありがとうございます。
自身が紡いだ作品の内容の薄さやメリハリの無さに内心挫けながらも頑張ってこれました。
拙作が皆さんの娯楽の1つになれたなら幸いです。
誠にありがとうございました。




