何も知らなかったフクオ(4歳)
1週間経ってもまだ天皇賞(秋)を引き摺っている作者です。
パンサラッサの走りを見て、拙作のストーリーを今の形にして良かったと改めて思いました。作中で大逃げ天皇賞(秋)勝利とかしていたら、純粋に楽しめなかったかもしれません。自分の作ったストーリーとダブらせてしまうので。
おかしい・・・なんでまだ厩舎にいるんだ俺は。有終の美を飾ったジャパンカップからもう5日は経ったか?
一昨日あたりまでは流石にしんどくてロクに動けませんアピールをしていたせいか、俺を北海道に帰す動きはなかった。
そんで漸く昨日あたりからしんどいのが多少マシになってきたから、しんどいときは出来んかった飯のおかわりもお願いした。ここの飯も食い納めだからね。
食欲が戻ったからか、おっちゃんや兄ちゃんもホッとしてたようだし。凱旋を果たした馬がボロボロの状態だったともなれば、及川牧場のみんなもいい気分はしないだろうしな。
というか、俺はどこにスタッドインするんだ?ちょっと信頼性が怪しくなってきた前世の記憶と照らし合わせれば、恐らく社○スタリオンステーション的なとこになるんかな?
つかあるんか○台?
なにせこの血統で天皇賞春秋連覇に加え、ジャパンカップまで勝ってしまった話題性抜群の天皇賞馬なわけで。
まぁ、産駒が走らねば即お払い箱なんだろうけど。捨てられたら及川牧場で拾ってもらえないかな?
あぁ、自分の戦績言ってて気付いたけど、有馬記念も勝てば秋の古馬3冠か。前世ではテイエムオペラオーとゼンノロブロイの2頭しか成し遂げていない偉業。
どうせ引退するなら、有馬記念も出るだけ出てもよかったなぁ。どうせあの化け物も出るんだろうけど、一応?俺とあれは?ライバル?的な?あれですから?
通算戦績自体は大きく負け越してるけど・・・あれ?戦績どんなもんだっけ?ホープフル、皐月、ダービー、菊花、宝塚と・・・5戦1勝4敗。
改めて数字に出すとめっちゃ負け越しじゃん。ライバルとか言ったら鼻で笑われるやつじゃん。
んー、まぁいっか。あれが負けるとかそれこそ天皇賞(春)くらいしか可能性無いんじゃないかな?日本のレースなら特に。あ、そういやあいつ凱旋門賞行ったんじゃなかったか?結局どうなったんだあれは!?
そういやジャパンカップにいたな欧州最強。あいつ凱旋門賞走ったのか?え?じゃあどっちが勝ったんだ?
かたや神の戯れで創られたような化け物。かたやその化け物と遜色無い豪脚をジャパンカップで見せた欧州最強。
舞台がパリ、ロンシャンなら欧州最強が勝ったんかな?エルコンドルパサーに勝ったモンジュー的な。となると俺がスペシャルウィークかい。
でもなぁ、あの化け物が負けるとは思えないんだよな。過去、あんだけやられた側としては。
まぁ、ロンシャンを知らない俺が考えても答えは出ないか。
「ボーっとしてどうしたんだいフクオ君?」
***
「ボーっとしてどうしたんだいフクオ君?」
ジャパンカップの疲労で動くのも辛そうだったフクオがやっと回復し始め、厩舎スタッフ一同ホッとしたが、それは厩舎所属騎手、本田 愛河も同じであった。
(しかし、回復早すぎないか?1度は今年はこのまま休養になる事も先生は考えていたくらいなのに)
まだ若い彼にはフクオがちょっと大袈裟にしんどいアピールをしていたことは見破れなかった。もっとも、あながち仮病でもないのだが。今回は本当にたまたま早くフクオはジャパンカップのダメージから回復することに成功していた。
「元気なようでなによりってことにしておくか。お、そうだ。ちょっとSNS投稿のネタを貰うよ」
そう言いながらスマホを取り出し、撮影を始める。
本田 愛河は今年騎手になった新人だ。12月に入った現在で既に40勝。初騎乗初勝利、初重賞で初勝利。一日警察署長になるなど、今時の人・・・な訳もなく、先日なんとか8勝目をあげた、未だ重賞への騎乗もなく、一日警察署長なんて話もない。ついでに言えば、初騎乗はなんの見せ場も作れず11着だった新人ジョッキーだ。
それでも8勝ならまだマシである。未だ勝ち星の無い同期もいるのだから。
そんな彼が何をしているかと言えば、よく言えば自己アピール。悪く言えば売名行為である。
翔哉はともかく、笠原厩舎はSNSでの厩舎アカウントこそ持っているが、更新はほぼ行っていない。翔哉もあくまでプライベートのアカウントの為、身バレすると不都合な部分が多い。
専用アカウントを作る手もあるが、管理出来ずアカウントがバレる危険性が高いと判断し作っていない。
その為、笠原厩舎の所属馬についての投稿を多くする本田 愛河のアカウントは実質的な笠原厩舎アカウントとして認知されていた。無論、笠原の許可は取ってある。
「ヴェンデッタくぅ~ん、お加減いかかですか~?大分元気になったね」
他の厩舎のスタッフや先輩の騎手がやっている事を参考に、適度に台詞も入れつつ動画を撮影する。
厩舎の馬を撮影して投稿する。ファンサービスの一環でもあるが、先程も言った通り、競馬ファンや競馬関係者に自分の名前を知ってもらうため始めたことだ。
本田 愛河自身は千葉県出身で親族に競馬関係者がいるわけではない。父親が競馬好きで子供の頃、中山競馬場に連れていってもらったのが競馬を知ったきっかけだ。
親族に競馬関係者のいる他の同期に比べ知名度も低く、騎手になってからもそこまで成績を残せているわけでもない。
夏を函館、札幌で過ごし、経験こそ積んで、他厩舎と交流を持つことは出来たが勝ち星を伸ばすことは出来なかった。
しかし笠原は愛河が勝ち星を伸ばすことが出来ない事は折り込み済みで愛河の夏を北海道で過ごさせた。
美浦では騎手の減量よりも技量を重視する傾向にある。栗東は逆に技量より減量だ。その為、美浦ではいくら3キロ減のハンデをもらっても技量が未熟だとなかなか馬が回ってこないのだ。
そこで笠原は愛河を北海道に送り、調教に乗って技量をアピールし、関西馬の騎乗機会を増やすべく、交流を持つよう指示をした。
その甲斐あり、愛河は夏競馬後6勝をあげた。夏競馬以降徐々に騎乗以来も増え、勝利にこそ届いていないが、掲示板内に入る事も増えてきていた。
「この調子なら有馬記念も出られるかな?ジャパンカップ後の様子じゃ来年のドバイまで休養も考えていたけど」
撮影を終え、投稿する操作をしながら愛河は呟いた。元々予定していた秋古馬3冠。近年では挑戦する馬すらほぼいなくなった偉業に手を掛けている状態だ。期待しないわけがない。
「あー、そういえばロードケラウノスのラストランだから最後の対決にもなるんだよな。世界王者VS日本総大将。カッケーなフクオく・・・ん?」
投稿を終え、フクオの方を向いた愛河が見たのは寝藁に寝っ転がり、不貞腐れたようなフクオであった。
「どうしたフクオ君?ロードケラウノスって名前に反応したのかな?」
まさか愛河もてっきり引退とばかり思っていたら、有馬記念を出走するだけでなく、化け物とのラストバトルをすることになり、尚且つまだまだ引退にはならないことを知ったフクオが落ち込んでいるとはわからなかった。
今週はGⅠこそありませんが、2歳重賞2つ、トライアル重賞1つ、ハンデ重賞1つ。
そして今日の深夜にあるブリーダーズカップのブリーダーズカップフィリー&メアスプリントに出走するチェーンオブラブとウィリアム・ビュイック騎手には頑張ってもらいたいです。




