マイルチャンピオンシップ
ほとんど変わりませんが、マンネリ防止でトニーパイセンのレースを書きました。
第5回京都6日目 第11レース
マイルチャンピオンシップ(GⅠ) 芝1600m 天気:晴 馬場状態:良
『競馬史に残る大激戦となった天皇賞(秋)から中2週。ハナ差に涙を飲んだ昨年の覇者はここ京都1600mで復活を誓う』
ゲイリーホーン 入澤 載司調教師
『(天皇賞の)疲れを残すことなく十分勝負が出来る状態です。前年の覇者として、それに相応しい走りをやってもらいたいです』
ゲイリーホーン 池子 謙一郎騎手
『今年の3走は全て2着、それも僅差での2着なので前年覇者としてしっかりと勝ちにいきたいと思います』
『対するは、前走スプリンターズステークス2着からの今回、得意のマイル戦で春のマイル王は春秋連覇に挑む』
ランドトニー 笠原 雅道調教師
『(レース後短期放牧を挟んで)良い状態でレースに臨める。春の王者として頑張ってほしい』
ランドトニー 横川 光典騎手
『(追い切りで乗った感じ)良い状態で来てますよ。春秋マイル制覇、勿論意識はしていますが、相手も強いんでね。簡単ではないなと(笑)』
***
『秋華賞、菊花賞、エリザベス女王杯、そしてマイルチャンピオンシップ。京都競馬場で行われる秋のGⅠレース最終戦。ひんやりとした空気に包まれています。
同一GⅠ連覇か、春秋連覇か。他馬が待ったをかけるのか。出走馬15頭で争われます今年のマイルチャンピオンシップ。出走馬の枠順はご覧の通りです』
1枠①番 ヴィヴァースナイト
2枠②番 ウメノキソードマン
2枠③番 プロクローム
3枠④番 ペイトロネッジ
3枠⑤番 アーキフロスト
4枠⑥番 ゲイリーホーン
4枠⑦番 カノンウィンド
5枠⑧番 グラスレーサー
5枠⑨番 ドトウノアラシ
6枠⑩番 ネクストボーイ
6枠⑪番 ガリャルド
7枠⑫番 スペシャルボディ
7枠⑬番 メイディアーマ
8枠⑭番 ランドトニー
8枠⑮番 ブランギャルソン
『その15頭は現在スタート地点で輪乗りを行っております。スタート地点の吉永アナウンサー、リポートをお願いします』
『今日は最高気温が14℃と大分ひんやりした空気の為か、発汗している馬は見受けられません。
1番人気ランドトニーは悠然とした面持ちで淡々と輪乗りをこなしております。
一方2番人気のゲイリーホーンは気合い十分といった感じで一完歩一完歩の踏み込みがとても力強いです。
それからブランギャルソンにネクストボーイ、グラスレーサー、カノンウィンド。このあたりも気合いのノリがいいですね。メイディアーマは冬毛が目立ってきています』
『ありがとうございます。解説の大久保さん。今日は人気2頭がオッズを分けあっていますが、大久保さんの見立てはどうでしょうか?』
『はい、人気2頭は前走スプリントや中距離を走ってきて、共に2着と好走してのマイル戦というわけですが、そうラクに勝てる保証はありませんからね。
安田記念では8着に沈んだネクストボーイも前走毎日王冠で快勝して復調してきていますし、春のようにはならないなと感じます』
『ありがとうございます。さぁ、スターターが台上に上がりました。ファンファーレです』
***
「思えば遠くに来たもんだ」
「何がですか?」
マイルチャンピオンシップスタート地点、ランドトニーを引く厩務員の井上 泰斗が呟いた言葉をランドトニー鞍上、横川 光典が聞き返す。
「いやぁ、まさかトニーがGⅠの舞台に立つなんてと思いまして。それも1番人気として。未勝利脱出が出来なくて焦っていた頃は想像も出来ませんでしたよ」
ランドトニーは3歳6月まではパッとしない、数多くいる未勝利馬でしかなかった。残り少なくなってきた未勝利戦を数えながら、あと何回チャンスがあるかを考えつつもどこか諦めも混じり始めていた。
その矢先に未勝利脱出。そのままあっという間に5連勝で笠原厩舎久々の重賞ウィナーになったかと思えば、あれよあれよとマイル重賞の常連となっていた。
それだけに留まらず、今年の春のマイル王決定戦である安田記念はまさかの優勝。笠原厩舎初のGⅠ馬とはならなかったが、今や現役マイラーの中でもトップクラスに位置するまでになった。
「僕がトニーに乗らせてもらい始めたのも重賞初挑戦だったダービー卿チャレンジトロフィーからですからね。そこら辺は戦績としてでしかわかりませんが」
「未勝利の頃はかなり神経質で常にカリカリしていたんですよ。レースでも鞍上と折り合えず惨敗することも多かったです。それがとある馬が来てからその神経質さが一気に改善されましたね」
「フクオ君ですか?」
「分かり易すぎましたね。えぇ、おっしゃる通りフクオが入厩してからトニーの気性も大分穏やかになりましたね」
フクオがトニーの精神安定剤であることは笠原厩舎スタッフ全員が知っていた。
『こいつらどっちかが牝馬だったら良かっt・・・いや、良くねぇな。牡馬側が馬っ気で、牝馬は春にフケでエラいことになりそうだわ』
と笠原が冗談交じりに言っていたが、厩舎スタッフ全員が深く同意するくらいにはこの2頭は仲が良かった。
最初はトニーがフクオに懐いているといった感じだが、今ではフクオもそれ相応にトニーのことが大切なように見える。フクオはトニーと一緒じゃなくても平気だが、やはりトニーと一緒の方が機嫌はいい。
どちらも笠原厩舎を代表する馬達だ。互いに古馬。いつまで現役かわからない。今のところ、共に引退の話は出てきていないが、怪我での引退も当たり前の世界だ。願わくば、同じ時期の引退となればいいと考えるのは我儘だろうか。
などと考えていたらスターターが台上へ移動を始めた。
「そろそろファンファーレですね。トニー、お前ならやれる。頑張ってこい。横川さん、よろしくお願いします」
「最善を尽くしますよ」
関西GⅠファンファーレが鳴り、枠入りが始まる。偶数番のトニーは後の方だが順調に枠入りは進み、トニーもゲートの中へ。
「しっかりな」
そう言い残し捌けていく井上。最後に大外の馬がゲートインし係員が離れる。
ガシャン!
***
『早くも冬の訪れを感じさせる京都競馬場にGⅠファンファーレが鳴り渡りました。既にゲートインは始まっております。吉永さんスムーズですか?』
『特に嫌がる素振りを見せる馬もなくスムーズに枠入りが進んでいます。ランドトニー、ゲイリーホーン共に落ち着いている様子です』
『大久保さん、まず誰が行くでしょうか?』
『カノンウィンドとブランギャルソンが行くでしょうね。恐らくカノンウィンドがハナを奪いきるでしょう』
『なるほど。さぁ、全馬ゲートイン完了。それぞれの世代が集まるマイル王決定戦。いざ、スタートぉ!
揃ったスタートとなりました。⑭番ランドトニーは後方からとなります。好スタートは外から⑮番ブランギャルソン、真ん中から⑦番カノンウィンドが出てまいりました。鞍上初コンビ横川 崇がハナを取りに行きます。
外に⑮番ブランギャルソン芦毛の馬体、②番ウメノキソードマン3番手。その外並んで⑩番ネクストボーイ。外外には⑬番メイディアーマ。⑨番ドトウノアラシその後ろ。更に内に⑤番アーキフロストで先行集団固まっております。
その後ろ1馬身差⑫番スペシャルボディ、更に1馬身差③番プロクローム、④番ペイトロネッジ並走。
そこから2馬身差⑥番ゲイリーホーン、その外⑧番グラスレーサー。⑪番ガリャルドその後ろ。
⑭番ランドトニーここにいた。そして最後方ポツンと①番ヴィヴァースナイトの展開で半マイル45秒、やや速いか⑦番カノンウインド。さぁ2番手は⑮番ブランギャルソン田嶋 一夫、手綱をがっちりと、ここで先頭に立つのか。②番ウメノキソードマン、⑩番ネクストボーイ、⑬番メイディアーマ、そして⑥番ゲイリーホーン、⑭番ランドトニーは外に持ち出している!
まもなく4コーナーから直線!各馬が追い出しにかかる!先頭ブランギャルソンだ!ここでムチを抜いた田嶋 一夫!炸裂するか二の脚!
内からはグラスレーサー!真ん中ネクストボーイ!大外からガリャルド!
先頭はグラスレーサーかネクストボーイか!内からプロクローム!大外!ゲイリーホーンが伸びてくる!一緒にランドトニーか!
先頭グラスレーサーか!しかし!ゲイリーだ!ゲイリーだ!トニーは伸びない!トニーが後退していく!
先頭はレーサーか!?それともゲイリーか!?ゲイリーだ!ゲイリーだ!ゲイリーホーンだぁ!
真のマイル王は俺だ!ゲイリーホーン2連覇!左手を大きく掲げた池子 謙一郎!今年もその末脚は健在!ゲイリーホーンです!
なお、1番人気の⑭番ランドトニーは入線後横川 光典騎手が下馬しております』
マイルチャンピオンシップ 着順
1着⑥番ゲイリーホーン
2着⑧番グラスレーサー 1/2馬身差
3着⑩番ネクストボーイ 3/4馬身差
4着③番プロクローム 1馬身差
5着⑮番ブランギャルソン クビ差
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15着⑭番ランドトニー
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「とりあえず、大事なくて良かった」
マイルチャンピオンシップの翌日、美浦笠原厩舎には笠原 雅道と厩務員の井上 泰斗がいた。
「本当に。心房細動という事でしたが、すぐ治ってくれて本当に良かった」
心房細動とは心臓に異常な電気信号が起こり、心房が規則正しいリズムを失う不整脈の一種。競走馬がレース中に発症すると、血液を全身に上手く送り出せなくなるため、急激に失速する。ヒトの心房細動と異なり、全く異常のない競走馬がレース中に突如として発症するが、特に治療もなく治る事がほとんどであり、今回も自然治癒により治ってくれた。
「1番人気が飛んだ事で大分ボロクソ言われたが、競馬は自己責任なんだから、お門違いにも程があらぁなぁ」
「まぁその通りですけどね」
「こうやって話せているのも横山さんがトニーの異変を瞬時に察して無理をさせなかったのが大きいな」
「レース直前、最善を尽くすと言ってくれていたんですが、言葉通り最も善い選択をしていただきました」
横川 光典という騎手は勝ちは勿論だが何より人馬の無事を優先する騎手でもある。
それを批判する人も少なからずいるが、今回はそれによりトニーは最悪の事態を免れたと言っていい。
「とりあえず、トニーは放牧に出す。今後もスプリント路線も狙っていくかは飯田オーナーと相談の上で決めることにするか」
飯田オーナーとはランドトニーの馬主である。
「さて、切り換えていくか。今週はいよいよフクオのジャパンカップだ」
「フクオ、体調崩さなくて良かったですね・・・崩してないですよね?」
「多分大丈夫なはずだ。これでまた隠されていたら泣くぞ。まぁ、天皇賞(秋)程の仕上がりは出来なかったが、十分勝負出来る仕上がりになるはずだ。後は水曜の最終追い切りで崇に乗ってもらって確認してもらう」
会話をしながら予定を組み立てる笠原。同時に映していたテレビでは天気予報のニュースをやっていた。
『太平洋沖に発生した台風21号は勢力を強め日本周辺に接近する見込みです―――』
やはりマイル戦だとレース時間が短いのもあって、レース実況で言うことに装飾的なものを入れられないですね。




