メイクデビュー本番
フクオ目線→崇目線です
返し馬を終えゲート裏で輪乗りをして待っていると、係員が各馬をゲートに連れて行き始めた。
そろそろ出走か。いよいよだな。他の馬は俺みたいにこれからレースが始まることを明確に理解している訳じゃないだろうが、おぼろげなしにこれから走りはじめることを察しているのだろう。
やけに気が立っていたり従順に指示にしたがったり様々だ。
と、思っていたら俺に付いている係員が俺を連れてゲートに向かいだした。勿論素直にゲートに入りますよっと。
「いい子だフクオ。もうすぐ始まるからな」
崇が声をかけてくる。馬は本能的に狭い場所を嫌がるからな。声をかけて馬をなだめるのも大切なことなんだろう。
「よし、始まるぞ。」
ガシャン!
よっしゃ、いったるぞー!
元々俺に合った脚質は逃げ。次点で先行であることは察しが付いていた。
何故なら俺の末脚がポンコツ過ぎて最後の直線ヨーイドンじゃ他の差し馬に歯が立たない事を生まれ故郷で嫌って程味わってきたからだ。
同じ事をおっちゃんと崇も思ったんだろう。
自分の事とはいえ素人の俺が気づいたんだ。プロである二人が気づかない筈がない。今日までの調教もスタート練習やラップタイムに重点を置いた走りをしてきたことからもその答えは明白だ。
なんて考え事してたがうまく先頭に立てたようだな。崇も特に俺を抑える様子もないし、このまま確実にラップを刻んでいこうか。
今回のコースはゴールの反対側からスタートして外回りコースを通ってコーナーを回って直線でゴールというオーソドックスな流れだが、この新潟競馬場、最後の直線が600m以上ありやがる。
長い直線として有名な東京競馬場の直線より100m以上長い。まぁ、その代わり東京と違って高低差はほぼない平坦な直線だが。
と、講釈ぶっていたら第3コーナーのカーブに入ったな。それでリードは・・・7、8馬身ってとこか。
ここで崇が息を入れるよう促してきた。大人しく従おう。
さて、 ここで1000m通過か。多分中々速いペースで来ている筈だが。
「58秒ちょいってとこか。いいぞ、いいペースで進めている。」
おぉ、作戦通りだな。
で、ここから第4コーナーに入るわけだが、ここで緩やかな下り勾配があるんだよな。大抵はここで後続のペースが上がって先頭との差が詰まるわけだが。
下り終えて直線コースに入った。
ここで崇が手綱をしごき始めた。行けってことね。
普通なら後方有利な新潟競馬場で58秒台のペースで大逃げを打てばこの長い直線で捕まるだろう。
が、今先頭を走っているのは自称スタミナお化けのこの俺だ。血統表に輝くライスシャワーの名は伊達ではないぞ!
崇から激励の鞭が飛んできているし、未だ追っている。残り300m。このまま突き進むぞ。
恐らく先行馬は潰せただろう。
残るは後方の馬だが、息を入れた1ハロンか2ハロン以外を1ハロン12秒かそれを切るくらいのラップを刻んできた俺を捉えるには、それこそ上がり3ハロン32秒とかで突っ込んで来なければ追い付けまい。
残り100m。崇も勝利を確信したのか強く追うのを止めていた。
そしてそのままゴールイン!
ひとまず俺は中央で戦っていけることがわかって良かったわ。それと、次のレースも鞍上は崇にならんかなぁ。
ウ○ポじゃ1回勝てればそのまま主戦になっていたけど、その通りにならんかなぁ。
スタートからゴールまでフクオはこちらの思い描くレース運びをまるでわかっているかのように実行してくれた。
スタートのダッシュ、息の入れるタイミング、直線でのスパート。
どれをとっても非の打ち所もなく、正に勝つべくして勝ったといった印象を受けた。2着と5馬身差の圧勝。
これは本当に行けるかもしれない。日本ダービーに。
次走以降の騎乗については正式にはまだ取り決めていなかったが、笠原先生がダービーの話を出した時の雰囲気から言って脈ありだろう。
勿論オーナーの意向もあるだろうが、ここまで強い競馬をしたのだ。現状反対する理由もないはず。
鉄は熱いうちに打てだ。勝利の熱が冷めぬうちに笠原先生にお願いに行くとしよう。
フクオor崇目線と実況目線を分けるか混合するか決めかねていて、今回は分けてみました。
実況目線は次話にて。