天皇賞(秋)本番2
この話が掲載される頃には今日の競馬は終わってますね。
セントウルステークスは誰が勝ったんでしょう?
メイケイエールかソングラインか。はたまた別の馬だったんでしょうか。
本日は朝に前話を投稿しています。まだお読みでない方はそちらを先にお読みいただきますようお願いします。
「どうですかね?」
「わからんわ。マルコ、お前は?」
「わかんない。並んだ感触あるけど」
ゴール後、先頭で一着争いをした3頭の鞍上の横川 崇、池子 謙一郎、マルコ・デマルキの三人は話ながら地下馬道を通り脱鞍場へ向かっていた。
普段なら一着になった馬はスタンドへウイニングランを行うが、誰が一着かわからないので皆引き上げていた。
脱鞍場へ向かうとフクオが当然のように優勝馬の脱鞍場に入ろうとしていたが、そこには既にユメウタ陣営が待っていた為、崇は手綱を引いて笠原調教師がいる2着の脱鞍場へフクオを誘導した。
フクオはそれが不服なのか嫌がる素振りを見せたが、翔哉さんも加わりフクオを脱鞍場に入れ装備を外し始めた。
「フクオが一番勝利を疑っていないな」
「本当ですね。それで勝てたんですかね?」
「正直わからん。肉眼はおろか、ターフビジョンで見てもほぼ同時だ」
会話をしつつ、崇は検量室に向かっていく。
「ふーっ」
崇が検量室に行き、翔哉が判定が出るまでフクオを連れて歩かせている。その光景を見ながら笠原は大きく息を吐いた。
今日のフクオはこれまでに無いくらい仕上がった万全の状態。笠原としてはフクオの圧勝も考えていたが、それは流石に甘過ぎる考えだった。
今日は先行馬が多かったせいか全体的に早めにレースが流れた。それはいい。寧ろ望んだ展開だ。予想外はかなりのハイペースにも関わらず、上位人気馬が最後まで持ちこたえたことだった。
結果5頭がもつれる大激戦となったが、フクオはなんとか踏ん張ってくれた。まだ写真判定は続いているが、願わくば望む結果になってほしい。
「笠原先生」
「水嶋さん・・・」
***
「笠原先生、ありがとうございました」
「水嶋さん、まだ結果は出てませんよ。そういえばご家族は?」
「それならあちらに」
促され視線を向けてみればヴェンデッタを眺めている水嶋一家がいた。その近くにいるのは及川さんか。娘さんの肩を奥さんが押さえている光景は仲の良さを感じそうだが、実際には感情が爆発し、フクオに駆け寄りそうな娘を全力で押さえているのであった。
「実際のところ、ヴェンデッタはどうでしょう?」
「わかりません。今検量室でもジョッキーや調教師がゴールの瞬間を見ていますが、皆判断がついていないでしょう。それほどまでに難しいレースです」
そう言いながら笠原も検量室の方に視線を向ける。今も崇やゲイリーホーンやユメウタに騎乗していた池子にデマルキ、その他ジョッキー達が画面を見つめていた。
その瞬間、大きな歓声が響いてきた。結果が出たか。笠原も画面に視線を向ける。その結果は―――
***
『未だ場内のどよめきが止まない東京競馬場では判定の結果が出るのを今や遅しと待ちわびています。
あ、今掲示板に結果が出ました!
1着は・・・⑯!⑯番ヴェンデッタ!天皇賞(秋)制覇!史上7頭目の天皇賞春秋連覇を果たしました!しかも2着は同着!ゲイリーホーン、ユメウタ2頭同着!!競馬史に残る大激戦となりました!』
***
「いやこれ誰が勝ったんだ?」
「これユメウタ勝ったら配当エラいことになるな」
「ん?」
「お?」
「うぉぉぉ!ヴェンデッタ!」
「おめでt・・・え?」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」
「えぇぇぇぇぇぇ!?マジでぇ!!?」
「同着!?二着同着!?」
「あれ、これ馬券的にどうなるんだ!?」
「GⅠで2着同着って初めてじゃねぇか!?」
「どうせなら3頭同着にしろよぉぉぉぉ!」
***
「笠原先生!」
「水嶋さん、おめでとうございます!」
「ありがとうございます!本当に、本当にありがとうございます。まさか、まさかここまでやってくれるとは」
涙ぐむ水嶋と握手を交わす笠原。そして聞こえてきた嘶きに視線を向ければ、まるで勝利の咆哮のように嘶くフクオ、ガッツポーズをする翔哉。そして3人で抱き合って喜びあう水嶋一家だった。本当にフクオは皆に愛されている事を再確認した笠原は水嶋を促しフクオの方へと向かっていった。
その後、崇を改めて労い表彰式、口取りを行った。その夜、関係者一同で祝勝会で楽しい時間を過ごした。翌朝の競馬新聞はヴェンデッタの記事一色になると思われたし、実際一面に大きく取り上げられた。
しかし、ヴェンデッタと同じぐらい大きく取り上げられたニュースがあった。
『凱旋門賞馬ロードケラウノス、ジャパンカップ回避。体調面に不安』
天皇賞(秋) 着順
1着⑯番ヴェンデッタ
2着③番ユメウタ ハナ差
2着⑱番ゲイリーホーン 同着
4着②番 ラヴズフォーチュン クビ差
5着④番カノンディバティ ハナ差
という訳で天皇賞春秋連覇となりました。
ここでひとつ裏話。
菊花賞後続きを書くことを決めたときこの天皇賞(秋)のコンセプトは
“第4コーナーを曲がれたサイレンススズカ”
を思い描いていました。
一番人気1枠①番そこからの大逃げで後続馬を寄せ付けずゴールイン。
『あの日より続いてきた悲運の伝説、沈黙の日曜日は今日!栄光の日曜日に塗り替えられました』
的な感じですね。
宝塚記念も惨敗でなくケラウノスに一歩及ばずの2着。ケラウノスには及ばないものの、日本最強クラスの競走馬ポジション。ただのステイヤーではなく、中長距離の万能馬的評価。
どちらがより読者の皆様的に好ましいストーリーなのかはわかりませんが、今みたいになったのは・・・作者の性癖ですね!どうしようもないなこの作者。
色々表現が難しかったり展開がどうにも現実に引っ張られたりとどうするかで悩んだりしましたが、お楽しみいただけたなら幸いです。
新たな火種も出したことですし、これからもフクオさんが大変な目に遭う作品をよろしくお願い致します。




