凱旋門賞
札幌記念はジャックドールがパンサラッサを差しきり重賞2勝目を挙げましたね。
私の本命グローリーヴェイズは6着でした。
エフフォーリアの秋が白紙になった今、今年の秋天はこの2頭に人気が集まりそうですね。
フランス ロンシャン競馬場
凱旋門賞(GⅠ) 芝 2400m 天気:晴れ 馬場状態:良
『総てのホースマンが求めてやまない最大の栄誉。凱旋門賞。
1969年、果てなき旅路が始まった。そして1999年、日本のエルコンドルパサーにより夢は悲願へと変わった。
初挑戦から半世紀以上。数々の名馬が挑んだが、100回を越える凱旋門賞の歴史に勝者として日本馬の名は未だ刻まれていない。
今年のビッグレースを制したヨーロッパ屈指の強豪がパリ、ロンシャンに集結した。
注目を浴びるのは未だ無敗、欧州最強の名を持つフランスダービー馬、シャルルマーニュ。
今やアラブだけでなく世界にまたをかける競走馬組織バルブからはアイルランドダービーの覇者、ヴァンデン。
日本からは昨年7着の雪辱に燃えるスフィアライダー。そしてドバイで世界にその実力を見せつけた日本最強馬ロードケラウノスが参戦。
歴代最強とも呼び声の高いメンバーが揃った今年、日本の悲願は果たされるのか。日本のホースマンの夢を背負い、優駿達がターフを駆ける』
『パリ、ロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞デー。現地では日本人を含め多くの観客で盛り上がっております。
こんばんは。海外競馬中継。本日はフランス、ロンシャン競馬場で行われる世界最高峰のビッグレース凱旋門賞を中心にお送りしていきます。
日本からはロードケラウノスとスフィアライダーが参戦。歴代最強とも言われる今年の豪華メンバーの中でも見劣りしない、日本馬の活躍に期待したいですね。
そして、現地では海外競馬評論家、世界の會田こと、會田 慶博さんに見所を聞いてみましょう。會田さん』
『こんばんは。よろしくお願いします。そうですね、今年はロードケラウノス、スフィアライダー2頭の凱旋門賞参戦にとても注目しています。
特にスフィアライダーは日本の競走馬の中でも特にヨーロッパの馬場の適性が高い馬だと思っていますし、ロードケラウノスも前走フォワ賞の走りを見る限りヨーロッパの馬場への適性は十分あると思いますので、この2頭がどれだけの競馬を見せてくれるか楽しみですね』
『ありがとうございます。それでは今年の凱旋門賞、その出走メンバーを確認しましょう』
7枠①番ヴァンデン
10枠②番オーヴァードラマティック
16枠③番パコ
1枠④番ロードケラウノス
6枠⑤番ホッフシュトラッセ
9枠⑥番メンジェール
2枠⑦番シャルルマーニュ
11枠⑧番アルリャック
5枠⑨番バロンゴルディ
3枠⑩番ウエストエンデア
15枠⑪番メリカーデ
13枠⑫番ハンティンググローリー
4枠⑬番ロドリゲスデリーズ
8枠⑭番ヴォルケイノシー
12枠⑮番ガッスルドン
14枠⑯番スフィアライダー
『フランスの競馬は馬番とゲート番が異なっております。
そして気になりますロンシャン競馬場の馬場状態ですが、良の発表になっております。會田さん、気になる馬場状態、そしてお天気の方はどうでしょうか?』
『はい、フォワ賞やニエル賞が行われたアークトライアルデイ直後から一度天気が崩れまして、今週に入ってからようやく天気が回復して良馬場発表となりました。しかし、限りなく稍重に近い良馬場といったところで、パンパンの良馬場とは程遠いという状態となっていますね』
『そうですか。それと會田さん。凱旋門賞のオープンストレッチについても教えて下さい』
『はい、えー、ロンシャン競馬場は秋開催の間、周回コースに仮柵があったんですが昨日の競馬の後その仮柵が取られました。
なので本日の凱旋門賞はゴール前450mから内側6mが開けるオープンストレッチを使用してのレースとなります。
特に、ロードケラウノスは最内枠でのレースとなりますから、このオープンストレッチをどう活かせるかが鍵となると思われます』
『なるほど。レースの重要な鍵となるオープンストレッチにも注目していきたいですね。
では、ここで気になる日本馬の近況をお伝えしていきたいと―――』
***
ロンシャン競馬場パドックではロードケラウノス調教師、矢坂 義人とロードケラウノス鞍上、谷 新がいた。既に新はロードケラウノスに騎乗しており、これから本馬場へと向かう最中であった。
「ここまで来てあれこれ指示する程の仲でもあるまい。全てはレジェンドに託すとするか」
「託されましょう。ここまでの馬に育て上げた先生や厩舎スタッフの方々に報いるためにも」
「それとどうだ?今日の出走メンバーを直に見て」
「ホントすごいメンバーですよね。凱旋門賞歴代最強クラスのメンバーと言われるのも納得ですよ」
「同じような謳い文句は何年か毎に言われているがな。まさか過去最低のメンバーなんて言うことはあるまい」
これから世界一を決めるレースに出走するとは思えない程穏やかな雰囲気で談笑する2人。緊張や不安は見られない。2人とも信じているのだ。ロードケラウノスが勝つことを。
「よし、では頼んだぞ」
「えぇ。歴史を変えてきますよ」
軽い別れを交わし、返し馬に向かう管理馬を矢坂は見送るのであった。
***
@○○○○○○
今年こそ日本馬の優勝が見れるか
@○○○○○○
ギリギリ良馬場とはいえ、ほぼ稍重かぁ。やはり厳しいか?
@○○○○○○
日本のオッズは1番人気ロードケラウノスなのに、ブックメイカーだと1番人気シャルルマーニュか
|
@○○○○○○
まぁ欧州最強とか言われとるしな
@○○○○○○
スフィアライダー頑張ってほしい
@○○○○○○
もうすぐ出走か。緊張してきた
@○○○○○○
もうここらで一回勝っていいと思うんだぼかぁさ
@○○○○○○
香港やドバイ、サウジ、アメリカで勝っても欧州は未だに牙城を崩せてない感
|
@○○○○○○
だから今日!ここで!その牙城を崩すんだよぉ!
***
『今日は日本の競馬が大きな意味を持つ日です。1969年スピードシンボリが世界の頂点に挑んでから早、半世紀以上。今日が我々の願いが、夢が、果てなき旅路にも思える道程、その終着点となるのではと期待に溢れています。
今年の凱旋門賞は16頭立て、その中で日本馬はゼッケン④番ロードケラウノスは最内1番ゲート、⑯番スフィアライダーは14番ゲートからスタートします。
そのスタート地点に16頭は既に集合し、枠入が始まっております。
さて、本日の解説は1999年エルコンドルパサーで凱旋門賞に挑戦した、元調教師の一ノ宮 敬幸さんです。一ノ宮さんよろしくお願いします』
『よろしくお願いします』
『一ノ宮さん、今回馬番とゲート枠が違うので混乱しがちですが、有利不利、どう見ますでしょうか?』
『そうですね。ロードケラウノスは1番枠を引いたんですけど、元々スタートはダッシュしないタイプの馬ですから、内外どちらを引いても変わりないでしょうね。
スフィアライダーは14番枠と外枠を引いたんですが、仮柵が外されて内の馬場状態も良いと思われますので、外外を回されて距離ロス、スタミナロスしないよう上手く立ち回ってもらいたいですね』
『なるほど。ではロンシャン競馬場の特徴を教えて下さい』
『はい。えー、スタートは向こう正面のポケットから400m程は平坦な直線コースですが、他のコースと交差する地点からと長い上り坂が始まります。坂の前半300m程で高低差7m、残り300mで3m。600mで高低差合計10mの坂を上ります。
坂の頂上辺りから第3コーナーは下り坂になりまして、第4コーナー、フォルスストレートを通り直線コースへと入ります。
直線コースは序盤と違い平坦な直線で仮柵の無いオープンストレッチになります』
『ありがとうございます。では日本馬の位置取りはどうなるでしょうか?』
『そうですねぇ。ロードケラウノスは恐らく後ろからになると思われます。スフィアライダーはスタート次第ですが恐らく中団、それか中団やや後方といったところでしょうか』
『ありがとうございます。ファンファーレも何もない中、ロードケラウノスとスフィアライダーは既にゲートの中。
さぁ、ゲート入りは極めて順調。淡々と粛々と進められていきます。
日本の悲願、日本の夢。ロードケラウノス、スフィアライダーに掛けられる期待の大きさはいかほどか。今から3分後、我々が見ているのが日本の悲願成就でしょうか。歴史を変える準備は整いました。
最後、フランスのパコがゲート収まりまして凱旋門賞スタートしました!
この豪華なメンバーが2分半の攻防を繰り広げます。各馬はこれから第3コーナーに向かって駆けていきます。
そしてスタート直後の位置取り。重要な最初の位置取りとなりますが日本馬はどうでしょうか、一ノ宮さん』
『はい、スフィアライダーは好スタートをきって中団よりやや前につけていますね。ロードケラウノスは今回中団よりやや後ろからですね』
『中団よりやや前にスフィアライダー、そして中団やや後ろにロードケラウノス。そして先行グループの流れが速くなってきているんでしょうか。
黄色い勝負服、⑩番ウエストエンデア。これが今回のペースメーカーです。そして青い勝負服②番オーヴァードラマティックが続いています。今年のドバイシーマクラシック3着、一昨年のフランスダービー、凱旋門賞2着馬。欧州勢も非常に良いメンバーが揃った中、⑦番シャルルマーニュ、そしてその前にいます①番ヴァンデンの存在。非常に驚異に映ります。
⑦番シャルルマーニュ、この馬が日本の凱旋門賞制覇最大のライバルです。ただいま3,4コーナー中間地点。まもなく、まもなくフォルスストレート、偽りの直線に差し掛かって参ります。
ここはまだ、まだぐっと我慢しなくてはなりません。ロードケラウノスとスフィアライダー。我慢できているぞ。まだここで行ってはいけません。ロードケラウノス中団最内、スフィアライダーはその外側です。
勝負どころは最後の直線。仮柵が外された内側は馬場状態の良い直線コース。その中で自らの競馬が出来るかどうか。
最後の第4コーナーのカーブ。日本の夢を乗せてロードケラウノス、スフィアライダー!
そしてここから、ここから最後の直線。最後の直線に各馬が入ってきました。日本の夢を乗せて、残り530m!
先頭はハンティンググローリーに変わった!2番手はパコ!真ん中から欧州最強シャルルマーニュも伸びてきている!
スフィアライダーは外、ロードケラウノスは最内を選択!残り400mを切って最後の大勝負!
ハンティンググローリー頑張った!ハンティンググローリー頑張った!ここで先頭はシャルルマーニュ!フランスのシャルルマーニュ先頭!そしてロードケラウノスだ!ロードケラウノスが最内から伸びてくる!外からはパコ!しかし!ハンティンググローリーまだ頑張っている!
ロードケラウノス伸びてきた!ロードケラウノス!頑張れ!頑張れ!ロードケラウノス2番手!しかし中々差が詰まらない!外からパコが伸びてくる!残り200m!』
***
ロードケラウノス鞍上谷 新はこの状況でも冷静だった。諦めた訳じゃない。今も身体は勝利を求め全力で追っている。しかし齢50を越え、肉体の衰えはいかんともしがたい。正直もうさっさと終わらせて帰って大好きな酒を浴びるほど呑んでしまいたい。
だが、どうせ呑むなら敗北のやけ酒より勝利の美酒の方がいい。それも、凱旋門賞制覇の祝い酒なら最高だ。後にも先にもこれに勝る勝利の美酒は無いだろう。敗北のやけ酒はもう胸焼けするほど呑んだ。ここらで勝利の美酒を味わいたい。
その為には前を走るあの馬をどうにかしなければならない。欧州最強シャルルマーニュ。そう言われるのも納得の強さだ。
7戦7勝。フランスダービー、パリ大賞典、イギリスセントレジャーとGⅠ3連勝は伊達ではない。
しかしこの馬にはやけにデジャヴを感じてならない。
そうだ。あの馬はケラウノスだ。三冠を取ったケラウノスだ。多少の違いはあれど、中距離、クラシックディスタンス、長距離と全てのレースを勝った姿は昨年の今頃、ケラウノスの未来を思い描いた理想の姿そのものだ。
じゃあ三冠を取れなかった現実は理想には勝てないのか?
否!断じて否だ!こいつは負けを知った。負けることの苦しさを知った。なら敗北を知らない相手に負ける道理はない!
まったく、ここに来てあの馬に感謝する日がくるなんてな。だが、それが今ここに繋がっている!
「覚悟しろ欧州最強。お前の敗因は復讐者に出会えなかったことだ」
***
『先頭はシャルルマーニュ!内からロードケラウノス食らいつく!外からパコ!この3頭の争い!ケラウノス!ケラウノス!パコ!シャルルマーニュ!シャルルマーニュ先頭!
しかし!ケラウノスだ!ロードケラウノスだ!ケラウノス!差しきれ!ケラウノス!シャルルマーニュ!ケラウノス!ケラウノス!ロードケラウノスだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
あの日のジャパンカップ、ラストフライトで見た飛行機雲は凱旋門への道標でした!
日本調教馬、凱旋門賞初制覇!ロードケラウノス谷 新!!日本、ひいては世界の競馬の歴史に新たな1ページが刻まれました!
最後3頭の叩き合い。その中で魅せてくれた勝負根性。欧州最強シャルルマーニュを捩じ伏せ、見事凱旋門賞の栄誉を得ましたロードケラウノスです!
そして、谷 新。遂に凱旋門賞初制覇!』
***
@○○○○○○
うぉああああああああああ!!!!
@○○○○○○
やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
@○○○○○○
ケラウノスぅぅぅぅ!よくやったぞケラウノスぅぅぅぅぅぅ!!
@○○○○○○
お“お”お“ヴえ”あ“あ”あ“あ”
|
@○○○○○○
気持ちはわかるが日本語喋れ
@○○○○○○
谷 新さんおめでとうございます!
@○○○○○○
万歳、万歳、おおぉぉォッ、万歳ァィ!
***
「矢坂先生!」
「稲本さん!」
ロードケラウノスがゴールした瞬間、矢坂 義人と稲本 匡の2人は抱き合って喜びを爆発させていた。
「やりました!やりましたよ!」
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!貴方にケラウノスを預けて本当に良かった!」
2人が喜んでいると1人の男性が近付いてきた。
『失礼ムッシュ。ロードケラウノスの関係者の方でしょうか?』
突然現れた男性に虚をつかれたが2人は気を持ち直し、
『えぇ。私がロードケラウノスのオーナーの稲本。こちらが調教師の矢坂です。失礼ですがどちら様でしょう?』
『私シャルルマーニュのオーナーのピエール・フォンティーヌと申します。今回はしてやられました。このリベンジは近い内にという宣誓ですな』
どうやらリベンジを言いに来たらしい。似たようなことは稲本も経験がある。気持ちはわかる。
『それはそれは。しかしロードケラウノスは今年いっぱいで引退の予定でして。あとは日本のレースを予定していますので、リベンジは難しいかと』
『日本にはジャパンカップがありましたね。そのレースはご予定にありませんか?』
どうやら日本のレースについても把握しているらしい。これは本気のようだ。
『えぇ。おっしゃる通りロードケラウノスの次走はジャパンカップを予定しております』
『なるほど。ありがとうございます。では次はジャパンカップでお会いしましょう。それでは』
そう言うと足早にムッシュは去っていった。せっかちな男である。
「稲本さん、彼はなんと?」
英語ならともかくフランス語はわからなかった矢坂は会話の内容がわからなかった。
「矢坂さん、ジャパンカップにシャルルマーニュが出るそうです」
「はぁ!?」
「ロードケラウノスにリベンジしたいとのことです」
「あ、あ~。な、なるほど?え、えぇ~?ジャパンカップに?欧州馬が?」
突然の展開に理解が追い付いていない様子の矢坂だったが、ロードケラウノスが帰ってくる。出迎えねば。
「矢坂さん、お気持ちはわかりますが、今はケラウノスと新君を出迎えねば。参りましょう」
そう言い矢坂を促し、愛馬とその鞍上を出迎えるのであった。
ちなみにその夜はケラウノス関係者全員が痛飲し、翌朝酷いことになるのだがそれはまた別の話。
***
『マリィ!』
『あ、おじさん・・・シャル、負けちゃったね。まさかシャルが差されるなんて』
ピエールの姪であるマリィは悔しそうに顔を歪ませていた。
『そんな顔をするな。勝負の世界なんだ。負けることもある。それよりも今後を考えよう』
『うん・・・そうね。まだ一回負けただけだもの。で、次走の話ね。先生は今マスコミに囲まれているからもう少し掛かりそう。
確か前にBCか香港って言ってたわよね?順当に考えるなら香港かしら?香港ヴァーズか香港カップのどちらかと言うなら香港カップの方が良さそうだけど』
『それなんだがなマリィ。次走はもう決めてあるんだ』
『あら、そう言うってことは香港じゃなさそうね。BCの方?それともドバイまで休養?』
『ジャパンカップだ』
『・・・え?』
『ロードケラウノスは今年で引退らしい。後は日本のレースしか走らないとのことだ。だから、ジャパンカップが唯一のリベンジのチャンスなんだ。
だから、シャルの次走はジャパンカップにする』
『え、ちょっと待って?ジャパンカップ?ジャパンカップって日本の?』
『そうだ、他にどのジャパンカップがあるんだ。あぁ、先生もマスコミから解放されたようだ。では言いに行くとするか』
『待って!待って叔父さん!冷静に考えて!いくらシャルでも日本の芝は未知数というか分が悪いというか。
あぁんもう!だから待てって言ってんでしょハゲ!』
『ハゲとらんわぁ!』
これで一応凱旋門賞編は終了です。
次回から秋のGⅠ編へと入っていきます。
2022/8/23後書き内容変更しました。
ここで少し裏話。
本作では主人公でなくライバルが凱旋門賞を勝つという形にしました。
ケラウノス君を凱旋門賞で勝たせたのは、昨年のジャパンカップでコントレイルの調教師である矢作氏がコントレイルの産駒で凱旋門賞を勝ちたいと言っていたので、物語の方でお先に勝たせてもらいました。
あの発言がなかったら多分この作品もこういう流れにはなっていなかったと思います。
是非現実でコントレイル産駒の凱旋門賞制覇を見てみたいですね。




