フォワ賞(GⅡ)
ウ○娘第一章を見た後だと、拙作の内容の薄さに割りと絶望してしまいますね。
原作が強すぎます。
8月、シャンティイに極東の地から一頭のダービー馬が渡仏した。その馬は今年のドバイシーマクラシックで一昨年のイギリスダービー馬ハンティンググローリーを降し、今年の凱旋門賞に出走するロードケラウノスだ。
10戦9勝2着1回。父コントレイルは国際GⅠジャパンカップを制したクラシック三冠馬。母父は同じく国際GⅠ香港スプリント連覇のロードカナロア。正に日本近代競馬を凝縮したような血統と言えるだろう。
そのロードケラウノスは現在フォワ賞に向けてシャンティイにして調整中だ。帯同馬や現地のポニーと仲睦まじく過ごす姿は、国際GⅠ含むGⅠ6勝の日本最強馬とは思えない程の穏やかさを見せてくれる。
しかし、いざターフを駆ければ穏やかな雰囲気など吹っ飛ぶような、日本最強馬の名に恥じない走りを見せてくれた。
5馬身差程前に馬をおいたところからスタートし、ほぼ馬なりで相手を交わし最後まで緩むこと無くきっちり追い切る姿は、今度のフォワ賞、ひいては凱旋門賞へ向けて順調であることをアピール。
日本調教馬初の凱旋門賞制覇に向けて準備万端と言ったところだろうか。
今年の凱旋門賞は例年に比べてレベルが高い。これまで紹介した日本のロードケラウノスの他に、今年のフランスダービー、パリ大賞典を勝ったこれまで無敗のフランス最強馬シャルルマーニュ、一昨年のイギリスダービー馬ハンティンググローリー、今年のアイルランドダービー馬ヴァンデン、昨年の凱旋門賞ハナ差の2着のパコ。
と言った錚々たるメンバーが出走を予定している。
日本贔屓から今回、最初にロードケラウノスについて綴った私だが、それでも我がフランスの勝利は揺るがないだろう。
シャルルマーニュやパコには諸外国の挑戦者を撃ち破り、フランスこそ最強であることを証明してもらいたい。
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「日本馬上げかと思えば最終的には自国上げかよ」
矢坂 義人調教師は読んでいた雑誌から目を離した。渡仏してから何度か日本馬の取材をしたいとの打診を受け、ほぼ断らずに受けていた。
真っ当な所もあったが、今回みたいにロクなもんじゃないところもしばしばあった。まぁ、それは日本でも似たようなものであったが。
「あぁ、この記事の取材を受けたのはあの時か」
矢坂は当時のときを思い出していた。ケラウノスのフランス輸送による影響。それに対して気を揉んだが、帯同馬のジャリーインテントが大抵の事には動じない性格だったことが功を奏したか、ケラウノスも比較的落ち着いて輸送出来た。
それでも馬体重減はあったが、それは折り込み済み。検疫を終えた後は手配したポニーのレオと引き合わせた。幸い、特に問題もなくケラウノスは海外輸送を乗り越えることが出来た。
その後はレオにべったりなケラウノスだったが、調教では日本の代表に相応しい走りを見せてくれた。欧州の芝もそのポテンシャルで難なくこなす姿は本当に頼もしい。
渡仏前の懸念だった悪癖に関しても鹿毛の馬を見つけてきて並走させた。前を走らせそれを交わし最後の最後まで追い切る。
悪癖は見受けられない。どうやら鹿毛の馬を対象にしているわけではなさそうだ。とりあえずは一安心か。
「さて、今週から新も来る。まずはフォワ賞。ここはきっちり勝っておきたいな」
そう言いながら矢坂は読んでいた雑誌を置いて仕事を再開した。
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フォワ賞(GⅡ)
『パリ、ロンシャン競馬場の第6レースを迎えます。GⅡのフォワ賞です。芝の2400m戦今日はトライアルレース3つ目。このレースには③番日本のロードケラウノスが出走しております。
それでは本日の出走馬をご紹介しましょう。
5枠①番 イゴーリ
1枠②番 クレイウス
4枠③番 ロードケラウノス
3枠④番 サーアドラス
2枠⑤番 シュガル
欧州ではゲートと馬番が違う場合がございます、お間違えの無いようお願い致します。
さぁ、ロードケラウノスの挑戦。鞍上は谷 新は既にゲートの中。最後に①番イゴーリがゲートに収まります。
スタートしました。ロードケラウノスはまずまずのスタート。②番クレイウスがいいスタートをきっています。
まずは先行争い。前に行きます、②番のクレイウス、そのまま端に立つか。外から①番イゴーリが上がってくる。
5頭、まだそれほど間隔は開いていませんが、三番手④番サーアドラス内に⑤番シュガル、そして、最後方に日本のロードケラウノス。落ち着いて、落ち着いてレースを進めております。
序盤は平坦なコース、先頭はこのレース3回目のベテラン6歳馬クレイウス。この馬が後続各馬を引き連れて逃げております。
そして二番手①番イゴーリ、三番手④番サーアドラス。
ロードケラウノス、一番後ろにてレースを進めます。未だ馬群は一団。先頭から終わりまで6,7馬身といったところ。
さぁ、ロードケラウノス、欧州の芝はどう感じているのか。この辺りから、高低差10mの登り坂になっていきます。先頭の②番クレイウスは後続との差を2馬身まで広げたか。
二番手変わらず①番イゴーリ、ダーニック・ミュラー。三番手④番サーアドラスはフランスGⅠ2勝の実力馬。そのすぐ後ろ⑤番シュガル、そしてロードケラウノスです。
4歳秋初戦のロードケラウノスは凱旋門賞に向けてどんなレースを見せてくれるのか。
さぁ、カーブを終えてこの辺りからフォルスストレートに入っていきます。
まだここでいってはいけません。我慢して我慢して抑えねばなりません。谷 新は宥めているぞ。
レースは中盤から終盤へと入っていきます。
ここで①番イゴーリが先頭の②番クレイウスに並びかけてきた。やや流れが速くなってきたか。ロードケラウノス谷 新はいつも通り外に持ち出した。
フォルスストレートから出てきて各馬は最後の直線533mに入っていった!
ロードケラウノスと谷 新!外に持ち出している!黒の雷霆が外から忍び寄る!
さぁ、5頭がラストスパートに入る!最内クレイウス!真ん中シュガル!その間からイゴーリとミュラーがやって来ている!
そして来た!ロードケラウノス来た!ケラウノス来た!大外からロードケラウノス先頭だ!漆黒の馬体が他馬を一気に薙ぎ払う!
先頭懸命の右鞭ふるって谷 新ロードケラウノス!ロードケラウノス先頭!その内からサーアドラス!並んでシュガル!
先頭はロードケラウノス!ロードケラウノス!凱旋門賞に向けて最高の形でフォワ賞を制しました!
大外一気!日本最強馬に相応しい走りを見せてくれましたロードケラウノス!まずはこのフォワ賞を勝利で飾りました!』
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「稲本さん、おめでとうございます」
「矢坂先生、ありがとうございます。よくケラウノスを勝たせてくれました」
ゴール直後、ロードケラウノスのオーナー稲本 匡と調教師矢坂 義人はがっしりと握手を交わしていた。
「新はよく乗ってくれました。この調子で凱旋門賞も頑張ってもらいましょう」
矢坂はホッとしていた。調教だけでなく、レースでもケラウノスは鹿毛の馬を抜いても緩むことはなかった。これで懸念はほぼ完全に払拭された。ケラウノスの悪癖はあくまであの復讐者に対してだけのものだと。
それと同時に一つの確信を得ていた。ケラウノスなら欧州の芝も問題なくこなせる。ある程度の根拠はあったが今回の勝利で確信に変わった。
(SSのサイアーラインでは凱旋門賞に勝つことは出来ないとよく言われる。確かに血統は重要だろう。だが絶対ではない。それは日本の競馬ファンならよくわかっているはずだ。あの忌々しい天皇賞馬という実例がある。
誰もが走るとは思わなかった馬が日本を代表する馬になりつつある。宝塚記念で惨敗するものの、札幌記念で汚名返上をコースレコードと共に果たした。
ならばケラウノスが凱旋門賞に勝ってもおかしくはない。いや、勝てる筈だ。ケラウノスならば)
矢坂がそのように思考を巡らせていたが、稲本の一言で現実に戻された。
「ケラウノスは今年一杯までですからね。最初で最後の挑戦。悔いの無いようお願い致します。ね、矢坂先生」
「え?稲本さん、ケラウノスは今年で引退させるんですか?」
思いっきり寝耳に水であった。確かにやや早熟な血統であることからその判断に変なところはないのだが、矢坂自身何も聞かされていなかった。
「はい。十分でしょう。衰えるまで走らせる必要はありません。第二の馬生を考えた場合、今の状態で引退させた方が良いと思いまして。
3歳、4歳で引退させた種牡馬の方がいい産駒が生まれるような気がするんです。ケラウノスの祖父ディープやクロフネ、アグネスタキオンやタニノギムレットみたいにね。まぁ、ディープ以外は怪我での引退でしたが」
これに関しては人によって意見が別れるだろう。モーリスやケラウノスの母父であるロードカナロアは5歳まで走っているのだからその限りではないといった具合に。
だがこれはオーナーが決めたことなら矢坂として拒む権利はない。
「そうですか、わかりました。では凱旋門賞はなんとしても獲らねばなりませんね」
「えぇ、よろしくお願いします。凱旋門賞の次はジャパンカップと有馬記念。共に出したいですね。最後は盛大に終わらせたいですし」
「それに関しては凱旋門賞後としましょう。ケラウノスの体調もありますし、まずは凱旋門賞です」
「勿論です。改めてよろしくお願いします、先生」
そう言って会話を締めた2人はロードケラウノスのもとへ移動するのであった。
まだ凱旋門賞を書いていないのに、天皇賞(秋)やジャパンカップについてのアイディアが沸いてきます。
凱旋門賞どんだけ書きたくないんでしょうね私。




