矢坂厩舎と不安の種(フクオ製)
最近全くプレイしてなかったウ○娘のクライマックスを初めてやったところ、簡単にSランクを叩き出して驚きました。
8月上旬、滋賀県栗東市にある栗東トレーニングセンター、矢坂厩舎ではロードケラウノスの欧州遠征に向けて最終確認が行われていた。
「明日検疫を終えたケラウノスとジャリーインテントが関西国際空港からフランスに行く。それに併せて俺も一度渡仏するからその間よろしく頼む」
「わかりました。それで、現地での帯同馬は?」
「あぁ、勿論手配している。一番図太いと評判のポニーを用意してもらった」
馬は本来繊細で臆病な生き物だ。慣れない土地に向かう海外遠征では馬が寂しがる傾向になり、体調に変調をきたす原因になる。
その為、帯同馬を用意し寂しさを緩和させる。また、現地で帯同馬を増やしたりする。
有名なのがラヴズオンリーユーとマルシュロレーヌがブリーダーズカップ挑戦の際の帯同馬、現地のポニー、ラコだろう。ちなみにラコはイメージしやすい小柄なタイプのポニーではなく、クォーターホースだ。現地では誘導馬のような役割の馬をひっくるめてポニーと呼ぶ。
「ケラウノスは極度の寂しがり屋ですからね。ドバイの時はうちだけでなく他の厩舎の馬とも一緒に空輸出来たので、現地に着いた後も問題ありませんでしたが、今回一緒に行くのはジャリーだけですから少々不安が残りますし、サポートしてくれるポニーがいれば心強いですね」
そう、巷では“黒の雷霆”や“英雄の正統後継者”、一部では“化け物”等と呼ばれているロードケラウノスだが、厩舎スタッフから見れば内気な寂しがり屋だ。
視界に仲間がいないと途端に不安がる。それはGⅠ6勝、現役最強と呼ばれるようになった今も変わらない。
「そうだな。帯同馬として同行するジャリーもパン賞に出すし、負担は少なくしたい。その為のポニーだ」
海外遠征を行う際、帯同馬もレースに出す場合がある。有名なのがトゥザビクトリーの帯同馬としてドバイ遠征を行ったステイゴールドだろう。当時、世界最強馬と言われてきたファンタスティックライトを降したドバイシーマクラシックは競馬ブームが再燃した現在、多くの人に改めて認知されている。
「輸送による負担もそうだが、新に言われた別の不安要素も気になるところではあるんだよなぁ」
「え?新さんが何か言ってたんですか?」
「宝塚記念の後にな。『ケラウノスがヴェンデッタを抜いて先頭に立った途端、伸びなくなりました。まるで満足したかのように。あれが無ければ2馬身差どころかもっと着差は広がっていたはずです。勝敗に影響はありませんでしたが、少し気になりまして』と言ってきたんだ」
「先頭に立つと満足して走る気を無くす馬はよく聞きますけど、ケラウノスは今までそんな素振りはありませんでしたよね?何でまた・・・」
「あくまで推測だが、相手がヴェンデッタだったからじゃないかと思っている」
「ヴェンデッタ?」
「ホープフルステークス、皐月賞、日本ダービー、菊花賞とケラウノスはヴェンデッタを追いかけていた。そして菊花賞以外はヴェンデッタを差したところでゴールだった。それでケラウノスはこう思ったんじゃないか?
『ヴェンデッタを抜けばゴール』だって」
馬は賢いとよく言われるが、実際の知能は幼稚園児程だと言われている。その代わり記憶力に優れており、1度覚えたことは中々忘れない。
何度もレースでヴェンデッタを追いかけ抜いてきた。それも毎回ゴール直前でだ。その結果、ヴェンデッタがゴールの基準になってしまった可能性は無いとは言いきれない。
「有馬記念やドバイではヴェンデッタはいなかったし、大逃げする馬もいなかったから勘違いすること無くゴール出来たんだろう。だが、これがヴェンデッタそのものを認識しているわけではなく、例えば鹿毛の逃げ馬を基準にしているとなると厄介なことになる」
鹿毛は競走馬の毛色の中でもおよそ半分を占める。逃げ馬に限らず最後の直線、その時先頭に立っているのが鹿毛である可能性は高いだろう。
それが凱旋門賞の最後の直線、そこで失速し最後に交わされる。オルフェーヴルの二の舞なんて事になったら目も当てられない。まったくなんて事してくれたんだあの馬。
「あの馬、こっちになんか恨みでもあるのか?」
「いやぁ、恨む理由は大いにありそうですけど。ケラウノスが三冠を阻まれたように、向こうもケラウノスに三冠を阻まれたようなもんですから」
スタッフの至極真っ当なツッコミを無視して矢坂は思案する。
ケラウノスに関してはあくまで推測だ。とは言え無視するわけにもいかない。フランスで鹿毛の馬と併せて様子を見てみるとしよう。
それに、昨今大逃げする馬等そうはいない。まぁ、ヴェンデッタとオットリガタナという
例外が2頭ほどいるが。万が一そんな悪癖が付いているなら矯正するだけだ。ケラウノスは内気な寂しがり屋だが素直な性格でもある。矯正は容易だろう。
対象がヴェンデッタに対してのみの悪癖でなければだが。
だがまずは海外輸送だ。輸送負けの危険性も考えて余裕をもったスケジュールで渡仏させるが、油断は出来ない。
矢坂はそう自分に言い聞かせ、最終確認の打ち合わせを再開した。
正直、海外を舞台にした内容は日本以上に情報がないので書きづらいですね。これの続きが思うように書けません。
それでもなんとか形にしていけるよう頑張ります。




