天皇賞(春) パドック
この話がupされる時は丁度ドバイワールドカップデー真っ最中ですね。
私の夢はパンサラッサ(2回目)です。
第3回 京都競馬 4日目 第11レース
天皇賞(春) (GⅠ) 芝3200m 天気:晴れ 馬場状態:良
「フクオ、号令だ。テキと横川ジョッキーが来るぞ」
フクオに声をかけ2人が来るのを待つ。阪神大賞典後多少の疲れは見せたがそれも快復し、今日のフクオの体調は良好だ。あくまで体だけだが。
「翔哉さん、今日はよろしくお願いします」
「横川ジョッキー、こちらこそよろしくお願いします」
挨拶を交わしながら横川ジョッキーに騎乗してもらい本馬場へと移動を始める。
「やはり気持ちが入っていないな。返し馬でどこまでやる気が出るか。
先々週にメタトロンが京葉ステークスを。先週はここでトニーがマイラーズカップを勝ってくれたからな。勢いを借りてフクオにも頑張って欲しいんだが」
テキの言うとおりフクオはパドック中全く集中出来ていなかった。元々パドックではやる気を見せないフクオだが今回は特に酷い。
「やっぱり鞍上が崇ではなく自分なのが不満なのかな?」
「いや、前走の時親父さんに乗ってもらったときも途中集中出来ていなかったと翔哉から聞いている。だからあまり自分を卑下するな忠生」
「いや、別にそこまで深刻に言っているわけじゃありませんけど、実際これまでの実績で見れば崇や親父に劣っていると言われても仕方ありません。未だGⅠ未勝利ですし」
そう。今日フクオに乗る横川 忠生ジョッキーは横川 崇ジョッキーの兄で今年13年目のフリー騎手である。つまり、横川 光典ジョッキーの息子でもある。
先程自身が言ったようにGⅠ勝利こそないが、関東リーディング上位の実力を持つジョッキーである。
肉親が凄すぎるせいで今一つ評価されないところもあるが。
「うわ、馬ってここまでわかりやすい悲しい顔するんですね。まるで尽くしてきた男に捨てられた女みたいだ」
そう言われフクオに目を向けると忠生ジョッキーが言うとおり、フクオが本当に悲しそうな顔をしてした。そして視線の先には
「捨てた男の方も罪悪感でこっち見れないみたいですね。本人の意思じゃなく、家に強制されて別の女性と結婚させられたみたいな感じでしょうか?実際の家長である親父は呆れてましたが。我が弟ながら面白すぎるでしょう」
横川 崇ジョッキーがいた。
今日のレースでは横川 崇ジョッキーはフクオではなく他の馬に騎乗していた。
その馬は小柄な馬体に愛くるしい顔立ちからメロディレーンを彷彿させると今人気の4歳牝馬クインレンゲだ。
2月に行われたダイアモンドステークスに未だ3勝クラスながら格上挑戦で臨んだ際は3着に好走。
今回も格上挑戦ながら陣営は出走に踏み切っていた。
とは言え格としてはGⅠホースであるフクオと比べるべくもない。ネット上でも疑問の声が上がっていたが、中には崇ジョッキーとテキや水嶋さんとの不仲説なんてのも飛び出して混迷を極めていた。
大手クラブとの関係から今回だけのテン乗りじゃないかという、真実を当てている人も中にはいたが。
「そういえば、フクオ君に妹が産まれたんですよね?」
考えに耽っていたら忠生ジョッキーがお願いしていた話題を振ってきた。
「えぇ。芦毛の牝馬が。毛色は母からの遺伝ですね。後は姪っこも産まれたようですよ」
「あぁ、キャッチングハートの初子ですか。フクオ君、妹と姪っこにいいとこ見せる為にも落ち込んでいる場合じゃないぞ?兄として恥ずかしくない走りをしないと」
「そうだぞフクオ。兄や伯父が天皇賞馬となれば妹達も期待されるぞ」
普通、馬にこんな話をすることはない。意味がないからだ。ただフクオは
『こいつ、人の言葉理解してるんじゃね?』
と疑いたくなる程に賢い。前走の阪神大賞典でもこういった会話をしていたら急にレースに集中し始めた。験担ぎというか、ルーティンと呼ぶには数を重ねていないが事前に横川ジョッキーに話を振ってくれるようお願いしていた。
これでうまくいけば儲けものだ。
等と話していたら本馬場に到着した。
「さぁ、大舞台だ。フクオ、現役最強ステイヤーを証明してこい」
そう言い、返し馬のため引き綱を外してフクオを見送った。
***
騎乗依頼が来たときは何かの間違いかと思った。もっと他のベテランに依頼するものかと思ったが、オーナーの水嶋氏が中々のロマンチストなのか自分を指名してきたらしい。
あの崇が馬主との付き合いをしくじってド本命馬に乗れなくなったことは知っていた。
今の競馬業界では馬主の力は絶大だ。馬主から不興を買えば騎乗数は激減してしまう。その為、今回のようなことが起こったわけだが。
崇にとって幸いなのはヴェンデッタの馬主である水嶋氏は理解のある人で、崇の事情を慮り主戦から外したりはしないことだろうか。
あわよくば今回をきっかけにヴェンデッタの新たな主戦になってやろうかという黒い欲望もあるにはあったが、今日の様子を見てその考えは消えた。
調教助手の田中 翔哉さんからヴェンデッタに発破をかけるような話題を聞かせるようお願いされたときは正気を疑ったが、一種のルーティンだと言われてとりあえず了承した。
神頼みみたいなものだと思う。
そうした会話を経て返し馬を行ったわけだが、返し馬後のヴェンデッタの様子がおかしい。悪い意味ではなくいい意味で。
パドックまでは本当にこれがGⅠ馬か?と思うくらいの覇気の無さだったが、今は別の馬じゃないかというくらい気力に満ち溢れている。
返し馬を行うことによって一変する馬はいるにはいるが、ここまで極端な馬はそういないだろう。会話を聞かせるルーティンが効いたというのか?
メイクデビュー前に話題になったときは癖のない素直な馬という評価を聞いたことがあった。確かに素直な馬なんだろう。崇もそう言っていた。
だが、癖のないなんて評価した奴の首根っこ引っ掴んで訂正させてやりたい。こりゃあとんでもない癖馬だと。主戦なんてとても務まりそうにない。
よく崇も親父も勝たせたものだ。一歩間違えればやる気無しでロクに走らないんじゃないかこの馬。いや、しかし昨年のクラシック全連対の菊花賞馬で、現役最強馬ロードケラウノスに現状唯一土をつけた馬なんだよな。本当に意味わかんねぇ。
それもこれも笠原厩舎の方々の努力によるものなのだろう。と思うことにした。
とにかく、俺は俺の仕事を全うしよう。実力があるのは間違いなく、今はやる気に満ちている。ならば後は勝たせるだけだ。
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某SNSより抜粋
@○○○○○○
本日の天皇賞(春)に生産馬ヴェンデッタ(横川忠J)が出走します。先日ヴェンデッタの妹と姪っこが産まれました。兄として叔父として頑張りますので応援よろしくお願いします。
@○○○○○○
崇ちゃうんか
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@○○○○○○
馬主や調教師との不仲説、兄に寝取られた説、クラブ馬主からの圧力に屈した説などがあります
@○○○○○○
親父やないんか
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@○○○○○○
親父はエノモタイアに乗るからのぉ
@○○○○○○
ヴェンデッタの妹、全兄弟やん
@○○○○○○
走るかどうかはわからないけど繁殖として、配合自由度の高さは魅力
@○○○○○○
芦毛って出産報告の投稿で書かれてたけど、褐色なんだが?
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@○○○○○○
芦毛って生まれたては黒かったり褐色だったり茶色だったりして、年を重ねる毎に白くなるのよ。
ゴールドシップの生まれたての写真は完全に栗毛だったし。
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@○○○○○○
最近だとクロノジェネシス、昔の馬だとハシルショウグンも芦毛だけど現役時代は芦毛に見えなかったな。
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@○○○○○○
生まれたときから白い馬は白毛だな。ソダシで有名な
@○○○○○○
春天はヴェンデッタ本命か?
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@○○○○○○
鞍上がなぁ
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@○○○○○○
忠生も別に下手ってイメージはないけど、何故か勝つってイメージが沸かないな
@○○○○○○
ゴールドアローズの連覇期待しているで
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@○○○○○○
和智さんとのゴールデンコンビ頼んまっせ
@○○○○○○
逆に忠生にはここで勝って実力を示して欲しい
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「また今回も崇くんじゃないんですね」
パドック馬主エリアでは水嶋一家が各馬・・・ではなくヴェンデッタの様子を見ていた。
「あぁ。まぁ、色々あって今回は崇くんのお兄さんに乗ってもらっている」
まさか、馬主としての力関係で主戦を盗られたとは言えずヴェンデッタの馬主である水嶋 穂高は言葉を濁した。
その態度に質問した妻の美恵は何かを察したのか追求せず別の話題を振ってきた。
「今日のレースは3月に走ったレースよりも走る距離が長いんですね」
「そうよお母さん。天皇賞(春)は日本GⅠ最長距離3200mのレースよ。このレースを勝った馬にはヴェンデッタの曾お爺ちゃんであるシンボリルドルフを筆頭にシンザンにエイコーンゼイラー、シュクフク、ライスシャワーと5頭もいるんだから」
「姉さんいつの間にそんなこと調べたの?」
「貴方のヴェンデッタノートに書いてあったじゃない!」
「あれ見たの!?隠しておいたのにどうやって!?」
ヴェンデッタノートなんてものを作っているのかと嬉しいような呆れるような何とも言えない顔を浮かべながら、穂高は子供達のやり取りを眺めていた。
が、
「雄大。ヴェンデッタちゃんが好きなのはとてもとても良くわかるけど、もう中学生なんだからヴェンデッタちゃんにかまけて学校の勉強を疎かにしないでね。楓も。貴女今年受験なんですからね」
「「は~い」」
最近子供達の教育を妻に任せっきりな気がしていたが、妻が纏めてくれた方が綺麗に治まるためついつい甘えてしまう穂高であった。
「じゃあ各馬が本馬場に行くから我々も移動しよう。ヴェンデッタの勇姿をしっかり見ないとな」
「そうね。今日はヴェンデッタちゃんどんな走りをするんでしょうね?前回みたいに4番手くらいから最後に追い抜くのかしら?いつもみたいに最初から大きくリードするのかしら?」
「きっと大逃げよ!菊花賞もそうやって勝ったんだもの!」
「先行じゃないかなぁ?わざわざ大逃げしなくても好位から抜け出して勝てることは前走でわかったんだし」
どんな騎乗をするかを馬主である水嶋は調教師の笠原や鞍上の横川騎手に口を出すことは出来る。
中には積極的に指示する馬主もいるとかいないとか。
が、穂高は笠原を信頼し特に口出しはしなかった。きっとその方が勝率が高いからだ。
その為、穂高もヴェンデッタがとのようなレースをするか家族と一緒に予想しながら愛馬の勝利を願うのであった。
そして今日は高松宮記念ですね。
正直どの馬が来るのか全く予想がつきません。馬場状態も良くなさそうですしどの馬も可能性がありそうに思えてしまいますね。
勝って欲しいと願っているのはサリオスですが、前年の高松宮記念2着、過去3戦全連対のレシステンシア本命予想が多そうです。
ただ大外枠に波乱を呼びそうな馬がいるので本当に楽しみですね。




