菊花賞パドック
間が空いて申し訳ございません。
第4回 京都競馬 7日目 第11レース
『クラシック三冠レース最後の一戦、長距離3000mに挑む菊花賞です。
3歳世代、7100頭あまりのサラブレッドの中から勝ち抜いた、18頭の優駿たちがまもなくパドックに姿を表します。
本日の実況は私藤本。解説は元調教師であります、臼井 最強さんです。よろしくお願いします』
『よろしくお願いします』
『今、京都競馬場の地下馬道に18頭が姿を表しました。
まもなくファンの前にその姿を表します。
今年はなんと言っても無敗の二冠馬、ロードケラウノスの三冠達成に注目が集まります。
現在の人気は①番ロードケラウノスが単勝1.7倍で一番人気。それにホープフルステークス、皐月賞、日本ダービー全て2着の実力馬、⑥番ヴェンデッタが2.8倍に続く形で2番人気と2頭に人気が集中しております。
ロードケラウノスの三冠か、ヴェンデッタが一矢報いるか。はたまた他の出走馬による大逆転か。
出走馬がパドックに入って参りました。
では、パドック解説の前に、菊花賞トライアルレースであるセントライト記念と神戸新聞杯のハイライトをお送りします』
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セントライト記念
『最後の直線に入って、先頭僅かにトリグリアか。外は①番マニュスが先頭に変わる!その後ろから追い込んでくるダンシングウィナー!
内から内からミズルコディーテが伸びてくる。
先頭はマニュス!内からミズルコディーテ!外からダンシングウィナー!3頭並んでゴールイン!
僅かにミズルコディーテ優勢か。なんと差しきったのはミズルコディーテ』
神戸新聞杯
『残り200mを切って、先頭はロードケラウノス!
持ったまま、持ったまま3馬身、4馬身差を広げる!2着争いはフェザーミリオン、ウソダドンドコドン、大外からアイアンクライ、フトウフクツが伸びてくる。しかし、先頭はロードケラウノス、ロードケラウノス圧勝ゴールイン!
ロードケラウノス、危なげなく無敗を守り前人未踏の親子三代無敗三冠へむけて視界良し』
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『菊花賞トライアルの2レースを見ていただきましたが、パドックの様子を含めて特に気になる馬はいますか臼井さん』
『トライアルに出走した馬を見ればやはりロードケラウノスが頭一つ二つ抜けていると言っていいのではないでしょうか。
ダービーのときから神戸新聞杯が馬体重プラス10キロ、そして今日の菊花賞でもプラス4キロと馬体重自体は増えているのに見た目に太め感は全く無く、全て成長分だと思われます。
一部では距離不安も囁かれてますがそれを払拭するには十分な説得力を持つ、とても頼もしい馬体に見えますね』
『では、2番人気のヴェンデッタはいかがでしょう?』
『そうですね。今回ダービーからの直行でこの菊花賞へ挑戦するわけですが、輸送による馬体重の減少どころかダービーからプラス6キロと、輸送による不利は全く無さそうですね。
この馬はパドックでは物見をする事も多々あったんですが、精神的成長に因るものか今日は力強く集中して歩けています。
血統背景からも3000mを苦にすることもないでしょうし、勝機は十分あると思いますよ』
『ありがとうございます。ではここで東京10レースをお送り―――』
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某動画
『はい、皆さんこんにちわ~。
今日はクラシック最終戦菊花賞という事で、レースについて予想していきたいと思います。
なお、先週牝馬三冠レース最後の一冠である秋華賞が行われ、デアリングタクト以来の牝馬三冠に挑んだラヴズフォーチュンは惜しくも敗れ、秋華賞はウマダッティが勝利しました。
馬号に文句を言うわけじゃないですけど、もうちょっといい名前無かったんですかね?ウマダッティて。
それはさておき、菊花賞についてですがなんと言ってもロードケラウノスのクラシック無敗三冠が気になるところ。
先日の神戸新聞杯を見て思いましたが、一夏越えて一回りも二回りも成長した風に感じますね。元々飛び抜けたスペックの持ち主でしたが、更に進化したように思います。
これは三冠に向けて大きなプラスですね。
そしてロードケラウノスの対抗馬であるヴェンデッタですが、ダービーからの直行なんですよね。
どこかで書いてあったんですけど、これまでダービーからの直行で菊花賞勝った馬っていないんです。
それに、データが少ないのであれなんですけど、ヴェンデッタって長期休養明けから帰ってきてからの初戦、これを鉄砲って言うんですけど、鉄砲で連対外す事が多いんですよ。
こちらも一夏越えて成長はしていると思うんですけど、実際にレースでその姿を見たわけではないので判断が難しいですね。
ただ、追いきりのタイムはとてもいいものでした。
まぁ、それでもレースでは凡走なんてのもよくあることなんですけど。
そこを踏まえた上で、予想を立てていきますと―――』
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「また何万円も馬券外せばいいのに」
「この配信者、基本的にロードケラウノス推しで、反面ヴェンデッタには辛いっていうのが既にわかりきっているのに、なんでまだ見てるの?」
「そんなの決まっているじゃない。ヴェンデッタが勝ったらこいつを煽り倒すためよ」
「そういう行為はお父さん感心せんなぁ」
「ヴェンデッタちゃんが絡むとやけに好戦的になるわね、楓は。誰に似たのかしら?」
多分、美恵じゃないかなぁと内心思いながら、勿論口には出さない水嶋家の大黒柱にしてヴェンデッタの馬主である水嶋 穂高は妻の発言をスルーした。
夫婦円満に必要なのは夫の度量とスルー力。それはこれまでの人生で十分学んできていた。
水嶋家は全員で京都競馬場のパドックにいた。普段は馬主席でレースを見ている穂高だが、今回は家族の誘いもあり、パドックから自分の、いや、もはや水嶋家の愛馬となったヴェンデッタを見ていた。
「それでヴェンデッタの調子はどうとか何か聞いていないの?」
そして、まだ小学生でありながら完璧なスルー力を身に付けている息子を内心称賛しながら、新たな話題に乗っかるべく穂高は話を広げることにした。
「笠原先生からは自信ありの言葉をもらっているよ。さっきの配信者じゃないけど、夏を越えて身体も大きくなって走力も増しているらしい。放牧に出されている間も、体調管理を徹底して春のような激太りを回避したからな」
「そうよ!そのせいであの子に会いに北海道に行ったとき何もあげられなかったんだから!」
「だって楓。お前、袋一杯のニンジンだけでなく、氷砂糖一袋全部いっぺんにあげようと考えていたんだろう?」
「ホント、普段はしっかりしてるのになんでヴェンデッタちゃんが絡むとポンコツになるのかしら?」
だから、それも多分お前の血だよ。と内心2度目のツッコミを入れつつ、穂高は夏に家族旅行として北海道の新冠に行っていたことを思い出していた。
家族旅行と銘打っているし、家族サービスも行うがもう一つの目的に馬があったことは言うまでもない。
及川牧場でヴェンデッタの様子を見にいったり、新たな馬を探すべく幼駒を見たり、ヴェンデッタの全兄弟をスカイシャワーが受胎したから産駒が産まれたら優先的な交渉権をお願いしたりと、色々行っていた。
以前と違い、家族からも馬関係の理解を得られたのが大きい。本当にヴェンデッタ様様だ。
こうして家族と自分の馬を応援出来るなんて数年前は思ってもみなかった。
そんなヴェンデッタにはまずは怪我なく無事に。更に欲を言わせてもらうなら、自分の馬主生活初GⅠをプレゼントしてもらいたいと願わずにはいられなかった。
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「とまーれー」
(号令がかかったか。大一番だな)
横川 崇は今日のメインレースである菊花賞に最早相棒と言っていいフクオのもとへ向かっていた。
今日はこれまで8レースに乗って1着2回2着1回といい流れを作ることが出来た。
クラシック最後の一冠、なんとしても手に入れたい。
GⅢ、GⅡはおろか、GⅠすら勝つ力のある馬に乗っているんだ。気性難でも脚部不安のある馬でもない。
それなのに勝てないのは鞍上である俺の未熟さだ。フクオに報いるためにもここが踏ん張りどころだ。
「崇、フクオは万全の状態に持ってこれた。ダービーの時と同等か、夏を越えて成長した分も加味すればそれ以上にだ」
「はい」
「気合も十分。集中も出来ている。あとはレース前にテンションが上がりすぎないよう注意してくれ」
「わかりました」
「それとスタートしてからだが、今回もフクオ以外にどうしてもハナに立とうとする逃げ馬はいない。ただ、ダービーのときのサーブドラケンのように、ついてくる馬はいるかもしれんが大した問題ではないだろう。
単騎の逃げになれたら打ち合わせ通りレースを進めてくれ」
「ついてくるとしたら親父くらいですが、親父はこのレースで乗りませんし恐らく思い描いた通りの展開に持ち込めると思います」
ダービー後、親父と話した際に
『いい馬だなヴェンデッタは。いつもお前が1人で逃げてばかりじゃつまらないと思って追いかけたが、話にならなかったわ。
なぁ、菊花賞あの馬俺に乗らせてくれよ』
等と言っていた。昔親父が乗っていたセイウンスカイとフクオを重ねているんだろうか?
「じゃああとは任せた」
「任されました」
「横川ジョッキー、今日もよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
笠原先生との打ち合わせを終え、フクオのもとにたどり着き、調教助手の翔哉さんと挨拶を交わしフクオに跨がる。
「さぁ、行こうかフクオ。今日の主役になりに」
その返答なのか短く鳴くフクオ。
時々フクオはこちらの言葉を理解しているんじゃないかと思うときがある。
恐らく、フクオという名前に反応したのだと思うが、それにしたって賢いやつだ。
この賢い相棒ならきっとやってくれる。ホープフルステークスから始まり、皐月賞、日本ダービーと負け続けてきたんだ。そろそろその名が示す通り、最大の復讐劇を見せようじゃないか。
戦線離脱していたタイトルホルダーが日経賞に出るようで嬉しい限りです。
今から天皇賞(春)が楽しみです。




