ダービー後のそれぞれ
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《日本ダービー大激戦!明暗分けたハナ差5cm!》
《無敗の二冠馬ロードケラウノス!秋は凱旋門か!?》
《最強の復讐者を下し、無敗三冠三代制覇に王手!》
「当然っちゃぁ当然だが、ダービーの記事ばかりだな」
「それはそうですよ。昨今のブームで競馬が注目されている今、あれだけのレースをして話題にならなかったら嘘ですよ」
美浦トレセン笠原厩舎では今週行われる安田記念に出走するランドトニーの追い切りを終えた笠原 雅道と、そのトニーの調教をフクオと共に行った調教助手である田中 翔哉が会話をしていた。
フクオはダービー後放牧に出される予定だったが、安田記念に出走するランドトニーの併せ馬をするためまだ美浦に残っていた。無論、馬主の水嶋に了解はとってある。
トニーとフクオと仲がいい。トニーがフクオに懐いていると言った方が正確か。
トニーはフクオといると機嫌良く調教を真面目にこなす為、フクオにはダービー後で疲れているのを押して参加してもらっている。
ダービー後、皐月賞の時以上に落ち込んでいる様子だったフクオがトニーといることで少しでも気持ちを持ち直してくれればという狙いもあった。
「それじゃフクオは今週放牧に出す。久々の帰郷だ。ここじゃあ気持ちは戻らなかったが故郷でリフレッシュしてもらおう」
「故郷で気持ちも新たにしてほしいですね」
2人が話すとおり、フクオの落ち込みようはトニーと併せても変わらずだった。
唯一の救いは併せたランドトニー自体はご機嫌で追い切りを終え万全でレースに臨めることぐらいか。
「そういえば、さっきの記事に書いてありましたけど、ロードケラウノスは秋どうするんですかね?」
「普通に考えれば菊花賞だろう。凱旋門賞登録をしているとは聞いていないしな」
凱旋門賞の出走登録はその年の5月初旬までの登録となる。追加登録も可能だが、登録料がはね上がる。通常の登録料が約100万円程に対して追加登録料は約1500万円程だ。
「やっぱりそうですよね。凱旋門行ってくれれば、フクオにもGⅠ獲るチャンスがあるかなと思ったんですが。もしくは秋天行ってくれないかなぁ」
「そんな心構えじゃロクなことにならんぞ。馬鹿な事言ってないで仕事するぞ仕事」
***
「秋は天皇賞(秋)を目指しませんか?」
栗東 矢坂厩舎では調教師である矢坂 義人が言葉を発した。話している相手であるロードケラウノスのオーナー、稲本 匡とロードケラウノスの今後について話し合っていた。
「それはつまり、三冠を断念すると?」
天皇賞(秋)は古馬王道GⅠの1つだ。菊花賞の翌週に東京競馬場で行われる、芝2000m。中距離戦における日本最強馬を決めるレースと言える。
このレースに出るということは菊花賞を目指さないことになる。連闘(二週続けてレースを行うこと)など論外だ。
「ケラウノスに3000mは長すぎるようです。レースの後、新から進言がありました」
「まだ走ってもいないのに長すぎるとわかったと?」
稲本は納得していないようだった。無敗で皐月賞、ダービーを制した馬が次に目指すとすればそれは菊花賞だろう。
「実際、レース後の消耗がこれまでより激しかったんです。恐らく2400mか2500mがケラウノスの適正距離と思われます」
「矢坂さん。グレード制が導入された1984年以降の日本競馬の歴史において、二冠馬が怪我以外で菊花賞を回避した例はありますか?」
「・・・ありません」
「それが答えです。天皇賞(秋)は来年も出られますが、菊花賞は今年しか出られない。例えケラウノス自身が走りたくなくても、今回だけは私のエゴに付き合ってもらいます。それに、王者が逃げるわけにはいかないでしょう。それも、ハナ差の王者では尚更ね」
こう言われてしまえば矢坂も否とは言えない。
せめて凱旋門賞登録をしておけばと思わなくもないが過ぎたことだ。
それに、ケラウノスが欧州の芝に適応出来るかも未知数な状態で博打は打てない。
「では、ケラウノスの秋は神戸新聞杯をステップに菊花賞を目指すということでよろしいでしょうか?菊花賞の次はジャパンカップか有馬記念をケラウノスの体調次第という事で」
「結構。ではよろしくお願いしますね」
そう言い稲本は帰っていった。
決まってしまえば問題点をどうにかするのが調教師の仕事だ。が、
「あの馬さえいなければなぁ」
そう思わずにはいられない。あの馬とは勿論、ヴェンデッタの事だ。
スピードと瞬発力が求められる日本近代競馬において、あの化石のような馬が勝ち残るわけがない。ないはずだった。
それが今では日本近代競馬の申し子と言えるケラウノス最大のライバルとなっている。
初めて見たのがホープフルステークスのとき。栄枯盛衰興亡は血統の常。もう見ることはないと思っていた血統の馬がいることに僅かばかり喜んだものだが、皐月賞あたりからそうも言っていられなくなった。
レース毎に着差が縮んでいく。遂にダービーではハナ差にまで並ばれてしまった。
しかも向こうの牝系は3頭の春の天皇賞馬を持つガチガチのステイヤー血統。距離延長による恩恵はこれまでの結果を見れば明らかだ。
考えれば考える程不利に思えてくる。これはいかん。
「今から考えても仕方ない。ケラウノスには休養中の成長に期待しよう。今は目先の事を考えるか」
矢坂厩舎では多数のオープン馬、重賞馬を管理している。そのうちの1頭が月末の宝塚記念に出走予定だ。
頭を切り替えながら、矢坂は仕事に戻っていった。
凱旋門賞登録云々はこの話を書いている途中に気づきました。
実際二冠馬が菊花賞回避したらヘイトがすごそうですね。




