フクオと笠原厩舎の近況
あけましておめでとうございます。
今年もマイペースに進めてまいりますのでよろしくお願いします。
皐月賞から数日、俺は短期放牧に出されていた。
今回も1,2週間程だろう。
レース直後は悔しさのあまり飯もロクに食わなかったが、生きていれば腹も減る。
飯食うのも仕事と食い始めたら笠原のおっちゃんや翔哉の兄ちゃんがホッとしているようだった。
皐月賞では大分ギリギリの走りをしたせいか、心持ちコズミ(筋肉痛みたいなもの)みたいになったようだ。歩きにくいことこの上ない。
こっちで筋肉注射やマッサージなんかをしてもらったお陰で良くなったけど。
皐月賞では走り終わった直後は悔しさのあまり聞き逃していたが、どうやら俺はレコードタイムで駆け抜けていたらしい。レース後水嶋一家が来たとき話題になっていた。
そらコズミの一つにもなりますよ。逆に言うとそれでもあの化物には勝てなかったわけだが。
多分どう頑張っても芝2000mではあの化物には勝てそうにない。
だが、これからのレースは距離が長くなる。自他ともに認めるステイヤー血統である俺としては距離延長は歓迎だ。人としての理性があれば3000mだろうが4000mだろうが鞍上の指示通り走れる。
だが、昨今の競馬では長距離の価値が低くなっているらしいから長距離のみでの実績では目標である種牡馬入りは難しい。
入ったとしても牝馬を集められず、人知れず引退なり処分されるやもしれん。
そうなると中距離の実績も必要だが、2000mは化物がいるから厳しい。
だが、2400m辺りならこちらにも勝機はある。
ある、よね?あると思う。あるといいなぁ。頼む、あってくれ。
もう頭の中であの化物が馬の皮を被った何かに思えてくる。血の代わりにガソリン流れているんじゃない?
俺の次走は十中八九日本ダービーだろう。まさか青葉賞なんかのトライアルは使わないよね?あったら放牧には出されないか。
日本ダービー。日本のホースマン全ての憧れ。
『ダービー馬のオーナーになることは一国の宰相になることより難しい』
なんて言葉もある。
でもそれ創作らしいし、ディープインパクトやキングカメハメハの馬主さんとかダービー何勝してんのよって思わなくもない。
でも水嶋のおっちゃんはダービー馬のオーナーになったことはないよね多分。
次こそはGⅠ勝利をプレゼントしないとなぁ。それに奥さんやおっちゃんの子供達にも。
娘さんの方はそれはまぁ目をキラキラさせながら俺を見ての第一声が
『この子が次のダービー馬ね!』
なんていきなり言い放った時は皆爆笑していたな。あの身内贔屓というか、俺を信頼してくれる姿を見るに、娘さんは奥さん似だな。
娘さんのダービー馬発言にも真面目に同意して盛り上がっていたし。
逆に息子さんの方は終始黙って俺を見ていた。かといって嫌われている感じではなかったから、姉がド直球な分奥手な性格なのかもしれん。
人の頃より馬になった今の方が多くの人に期待されているし大切にされているのをひしひしと感じるな。
まぁ、既に人として働いていた頃より稼いでいるわけだし、当然ちゃ当然か。総獲得賞金とか億近く行くんじゃないか?
ダービーまであと1ヶ月かそこら。体調を整えて臨まないと。
つーわけで、世話してくれている姉ちゃーん。飯足りないんだけどー。
***
「それにしてもレース後食いしん坊であるフクオの飼い食いが悪くなったときは焦りましたね」
「まったくだ。軽めだがコズミの症状も出ていたし、すぐ食欲が戻ってくれて本当に良かったよ」
美浦笠原厩舎には調教師の笠原雅道と調教助手である田中翔哉がいた。
「食欲が戻ったのはいいんですが、大丈夫ですかね?短期放牧とはいえこの時期にまたデブオ化したら大分不味いことになりませんか?」
「そうならないよう放牧先にはくれぐれも気を付けるよう言ってあるし、俺もこの後フクオを見に行く。コズミの方は快復したし、このままなら何事もなく戻ってくるはずだ」
笠原厩舎では今年の春以降フクオの体重管理に心を砕いていた。
理由は勿論フクオが放牧から帰ってきたら繁殖入りした馬並みに太って帰ってきた、あの事件があったからである。
その為、笠原厩舎では放牧先の所属馬の管理も怠らない戒めとして、デブオ事件と名付けている。
「今週は鎌倉ステークスにメタトロン(牡5)が出る。正直厳しいが、勝てば3頭目のオープン入りだ。最近うちの厩舎も調子がいいし、トントン拍子にいけば言うことねぇな」
「ええ、本当に」
「それじゃあフクオの様子を見てくる。その間、お前と井上で対応しておいてくれ」
「はい、いってらっしゃい」
そう言い、笠原は厩舎の看板となりつつあるフクオの様子を見に行くのであった。
次回から東京優駿日本ダービー編です。
編という程長くはありませんが。
面白くなるかはまだわかりませんが、頑張って書いていくのでよろしくお願いします。




