牧場の人たち
どこまで実在の競走馬を絡めていいのかわかりません。
「いやぁ、それにしてもスカイシャワーの仔の取引がまとまってよかったですね」
発言した壮年の男は主人公の世話をしている牧場スタッフである。
「全くだ。成田さんの時はクワイトファイン産駒と知った途端、手の平返されて御破綻だったからな」
その発言を返した中年の男は及川 叶太。北海道新冠町にある及川牧場の3代目社長である。
「成田さんは大分血統を気にしていましたね。まぁ種がクワイトファインとなれば無理もありませんが」
「自分で決めといてあれだが、普通ならあり得ない組み合わせだからな。」
「これまでスカイシャワーにはサンデー系やキンカメ系の種を普通に付けてきたのに、ここ最近は避けるようになりましたよね?何故クワイトファインの種を付けたんです?」
「理由はいくつかあるんだが、一つは経営方針というか遺言というか。初代、つまり俺のじい様が言った事を守っているんだよ。
“流行に乗れず廃業した同業者をいくつも見てきた。しかし、流行も行きすぎれば、種も肌も同じ血統なんて事になるかも知れねぇ。セントサイモンみてぇにな。だから、常に主流から離れている血統馬を持っていろ”ってな」
及川牧場は非サンデー、非キンカメ系の種牡馬、繁殖牝馬の保有率が高い。
流石に全ての保有馬がそうというわけではないが、それでも他の同業者と比較してみてもその比率は圧倒的である。
「初代ってまだノーザンテーストやサンデーサイレンスが日本に来る前に亡くなっているんですよね?それこそセントライトとかの時代を生きた人では?先見の明が凄いですね」
「その産物がエイコーンゼイラーやシュクフクってわけだな。サンデー産駒が犇めく中、よく勝ってくれたよ。」
2頭とも非サンデー、非キンカメ系であるため配合の自由度が高く、一定の需要を得ていた。
なお、主人公が見た種牡馬が主人公の母方の祖父であるエイコーンゼイラーである。
「でもそれならヘニーヒューズやドレフォン、ハービンジャーやバゴと言った輸入種牡馬でも良かったんじゃないですか?
実際、去年生まれたスカイシャワーの仔には輸入種牡馬の種を付けたわけですし。」
「それはその通りなんだがな。そこでもう一つの理由が出てくるわけだ」
「もう一つの理由?」
「まぁ、こっちはあまり胸を張って言えることではないがな。少し前から過去の競走馬をモチーフにした擬人化ゲームが流行っているのを知っているか?」
「えぇ。エイコーンゼイラーやシュクフクの父であるセイウンスカイやライスシャワーもそのゲームキャラクターになっているとか」
「そう、そのゲームでは2頭とも割と人気らしい。
2頭とも既に他界しているが、その血を継いだ種牡馬がいるとSNSを活用して宣伝したら、観光客の数が例年の3倍になってな。お陰で土産物の売れ行きも過去最高になったよ」
「それは知ってますけど、それとクワイトファインがどう繋がるんです?」
「なんだお前、ここまで聞いてまだわからないのか?クワイトファインの父は誰だ?」
「そりゃトウカイテイオーでしょう・・・って、あぁ。そういうことですか。いるんですね、トウカイテイオーもそのゲームに」
「そういうことだ。だから他の理由の答えは “人気目的” だな」
1990年代前半、三冠馬シンボリルドルフの初年度産駒として栄光と苦難、そしてドラマを生んだ名馬トウカイテイオー。その血を継いだ競走馬が走るとなれば注目される可能性は高い。
それも母父としてではなく、父父としてなら尚更だろう。
「だが、別に走らない馬を作ろうと思って種付けたわけじゃねぇ。実際、最初こそパッとしなかったあの仔馬は今じゃうちの当歳馬で1番だ。
中山牝馬を勝ったオービアアンサーにサンデー系のサイライズの種を付けた仔にも勝ってたからな」
「確かに。1頭で放牧地をグルグル回ったり、親離れの時もやけに落ち着くのが早かったりと何かと印象に残る馬ですね」
「サンデー系はディープインパクトの死後、それに並ぶ後継馬こそ出てきていないが、未だ権勢を握っている。当歳馬同士のお遊びみたいな競争とは言え、その血統馬に勝っている。期待もするってもんだ」
実は牧場からの評価が高い主人公であった。
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