フクオ陣営、フクオの問題点を話し合う
実際は違うんだろうなーと思いながらも、いいや押し通してしまえと思いながら書いています。
「まずは弥生賞ご苦労さんだったな」
「ありがとうございます」
弥生賞から数日経った笠原厩舎では調教師の笠原 雅道とフクオの主戦騎手である横川 崇、同じくフクオの持乗調教助手である田中 翔哉が次走に向けての会議を行っていた。
と言っても次走は皐月賞と既に決まっておりこれから話すのは弥生賞で改めてわかったフクオの問題点についてだった。
「それでフクオなんだが、確認の為改めて聞く。今回の走りをやってみてどうだった?」
あの走りとは速いラップを刻む走りである。
「率直に言って、現状あの走りはフクオに向いてませんね」
「そうなんですか?あの出来で4着なら万全だったら勝っていたと思うんですけど?」
そう疑問を投げ掛ける翔哉。確かに傍目から見れば、万全とは言いがたいコンディションでの4着。万全ならと思う気持ちはわかる。
「理由は大きく2つあるんですけど、1つ目は後続との距離です。息を入れないあの走りだと大逃げは難しいので、後続の馬がすぐ後ろにいることになります。
レース中フクオが大分後ろを気にしていたんです。後続馬が常に視界に入って足音がずっと聞こえていたんでしょう。怯えている風にも見えましたね」
その話を聞いて笠原は当歳の時のフクオの話を思い出していた。
フクオは生産牧場で同じ当歳馬の群れで放牧していたとき、群れから離れぎみだったらしい。いじめられていたとは聞いていなかったが、もしかしたら似たような状況だったのかもしれない。
それなら後続馬への怯えというのも合点がいく。図太い性格だと思っていたが、無くはない話だ。
かの三冠馬オルフェーヴルも暴君と言われるほど気性が荒い馬だったが、実際はいじめられっ子で人に対しては気が大きくなるから気性難と言われていたらしい。
フクオもそれに似て人と馬で対応が違うのだろう。寧ろ人の方を同種というか味方と考えているのかもしれない。
「なるほど。それで2つ目は?」
「はい。それは抜かれた際に食らいつく力、勝負根性のなさです。ホープフルステークスの時は大外からあっという間にロードケラウノスに抜かされてしまったので分かりませんでしたが、今回の弥生賞ではダンシングウィナーとウソダドンドコドンに抜かされた際、簡単に先頭を譲ってしまいました。」
「でも、あれはフクオは既に一杯のようでしたし、元々抜かれたら差し返すような脚をフクオは持っていないじゃないですか」
「それを踏まえたとしても粘りが無かったと言うことだな?」
「その通りです。以上の2点から現状フクオにラップを刻む走りは向かないという結論に至りました」
なるほどなぁと心で呟き、笠原は思案する。
最後の直線で競り合う勝負根性が弱いことは気付いていたが、後続に怯えるというのは予想外だった。
特に後者はすぐどうにか出来るものではない。場合によっては直らない可能性もある。だが、前者の方は打つ手はある。
「じゃあフクオには皐月賞まで単走ではなく併せ馬をメインに調教を進めていこう。丁度トニーとの併せ馬を考えていたところだ。フクオも仲のいいトニーとならそこまで精神的な負担も少ないだろう」
「トニーとの併せで勝負根性を養わせるってことですね、わかりました」
併せ馬というのは調教のときに2頭以上の馬で並んで走ることで単走と違い、併走させることによって競走馬の闘争本能を引き出し、それをかき立てる効果がある。それによってフクオに欠けている勝負根性を養わせようというのだ。
と、話が一段落ついたところで翔哉が別の話題を出す。
「そうそう、ここで横川ジョッキーと無関係な話をするのもアレですけど、トニーの次走の鞍上は誰にするんですか?井上さんが不安がってましたよ」
「あぁ、その問題もあったな」
先程からトニーと呼ばれているランドトニーは4月に中山競馬場で行われるダービー卿チャレンジトロフィーに出走予定の競走馬だ。
ちなみに井上とはそのランドトニーの担当厩務員である。
そのランドトニーの目下の悩みは主戦騎手が決まっていないことである。
「トニーが勝つようになって騎乗の営業も増えたが、皆一度こちらから依頼して断られた騎手ばかりだ。今さら手の平返されてもこっちからお断りだ」
「いや、そこは妥協しましょうよ!騎乗依頼が断られるなんて良くあることじゃないですか」
「うるせい!嫌なもんは嫌なんだよ!そうだ崇!お前トニーに乗らねぇか?」
「え?」
突然話を振られて反応が遅れる崇。
「いや、無理でしょう。その週は大阪杯ですよ?」
「ダービー卿チャレンジトロフィーは土曜で大阪杯は日曜だ。やれなくはないだろう?」
「すいません、その週は土日とも阪神で騎乗することが決まっているんです」
横川崇は関東リーディングジョッキーだ。当然GⅠレースの騎乗依頼も多い。大阪杯も例外ではなかった。
「やはり無理か。なら、親父さんや兄貴は空いているか?今まではツテが無かったんで依頼出来なかったが、今じゃお前さんっていうツテがある」
笠原が言う親父さんや兄貴と言うのは崇の父である横川 光典と崇の兄である横川 忠生のことである。
「それは聞いてみないことにはなんとも。え?本気ですか?」
「本気だとも。この際だ。笠原厩舎と横川親子との関係をより深める為にも是非頼む」
フクオの話をしに来た筈なのにいきなりなんでこうなったんだと首をかしげつつ、崇は家族に連絡を取るのであった。
遅くなりましたが、先週の香港スプリントでの落馬事故により予後不良となったアメージングスターとナブーアタックの関係者の方々にはお悔やみ申し上げるとともに、亡くなった名馬のご冥福をお祈り申し上げます。




