報知杯弥生賞ディープインパクト記念(GⅡ)パドック
今年もあと一月ですね。
第2回 中山競馬 4日目 第11レース
報知杯弥生賞ディープインパクト記念(GⅡ) 芝 2000m 天気:晴 馬場状態:良
俺が激太りして美浦に戻ってから約1ヶ月。俺は中山競馬場のパドックにいた。弥生賞出走のためだ。
この1ヶ月は本当にツラかった。笠原のおっちゃんが鬼に見えた。
自業自得なのは理解しているし、美浦に戻った時も『ごめん、マジでごめん』とおっちゃん達に謝り倒していたが、伝わるはずもなく戻った翌日からプールプールひたすらプールだった。
飯の量も放牧前より明らかに減らされ、おやつで貰えていた林檎も無しになった。
3月になると晴れてオープン馬になったらしいランドトニーパイセンも放牧から戻ってきたが、俺の無惨な姿に目を丸くしていた。
まさか馬になって『く、殺せ』とリアルに思うことになるとは。実際喋った訳ではないが。
そんなこんなでどうにか馬体重を絞りまともな調教を始めたところで弥生賞の日となった。
そんなわけだから今の俺の調子は上向き始めといったところか。
流石に勝つのは厳しいとおっちゃん達もわかっているのか、 今回は叩いて調子を更に上向かせるのが目的らしい。
ただ、今日のレースにあの化物は出走していない。どうやらトライアルは使わず、皐月賞へ直行らしい。それが唯一の救いではある。
あの化物がいないということでオッズの方も割りとバラけている。
本来ならホープフルステークス2着の俺がぶっちぎり一番人気であるはずだろうが、太め残しの俺を見て敬遠しているんだろう。現状僅差の一番人気となっている。
馬体重が前走から+16㎏と大幅増加しているからな。俺も今日は流石に勝つ自信無いもの。
どうにか3着以内に入れれば御の字かな。獲得賞金的にここで凡走しても皐月賞への出走自体は出来るだろうし、気は楽と言えば楽。
まぁ、凡走で終わる気は更々ない。見せ場くらいは作らないとな。
「おっと、どうしたフクオ。今日はやけにやる気じゃないか」
翔哉の兄ちゃんが声をかけてくる。そらそうだ。
ここで凡走なんてしてみろ。次の皐月賞までまた鬼と化したおっちゃんにしごかれるに決まってる。
それはなんとしても阻止せねば!
「まぁ、いつもがのんびりだからな。このくらいがちょうどいいか。ほら、号令だ。横川ジョッキーが来るぞ」
お、もうそんな時間か。よーし、やるぞぉ。
「翔哉さん、今日もよろしくお願いします」
「横川ジョッキー、こちらこそよろしくお願いします」
二人は挨拶を交わすと崇は俺に騎乗し、本馬場に向かう。
「それにしてもフクオが激太りしたと聞いたときはどんなものかと思いましたけど、想像してた程ではなかったですね」
「それは横川ジョッキーが今週のフクオしか見てないからですよ。帰厩したときは本当に酷いもんだったんですから。」
「そこまでですか?」
「そこまでですよ。テキが必死にフクオを絞ってやっと太め残しぐらいまで戻ったんです」
しょ、翔哉の兄ちゃん。やめて。傷を抉らないで。黒歴史に触れない優しさはないんか?救いはないんか?
「そうなんですか。それなら笠原先生の努力に報いるためにも相応の結果を出さないと。フクオ、お前仮にもホープフルステークス2着馬がここで凡走したら恥ずかしいぞ」
言われんでもわかってるよ崇。その為にもリードを頼むぞ。
「そういえばテキから何か指示があるんですか?」
「えぇ、ラップタイムに重点をおけと」
周りを気にしながら崇はそう答えた。
つまりはいつもの大逃げではなく前々から話していた、速いラップを刻んで後続に息を入れさせない戦法を試すってことか。
今の俺は本調子ではないから大逃げしたくとも出来ない風に見えるからな。おっちゃんも策士というか転んでもただでは起きないというかなんというか。ただの鬼ではないってことか。
んじゃまぁ、頑張りますかね。
昨日のことですが、テーオーケインズ、チャンピオンズカップ優勝おめでとうございます。




