ホープフルステークスに向けて2
内容が薄い自覚はあります。
ぬおおおおおおお!おりゃああああああ!
今俺は坂道を駆け上がっている。
美浦トレセンにある坂路コースだ。全長1200m、高低差18mにも及ぶ。と言っても最初の300mくらいは助走のための平らなコースだから実際の坂路は800mくらいか。残りの100mは減速するためのものだな。
坂の前半は左回りのカーブで東京競馬場みたいなもんらしいけど、走ったことないからよくわからん。そして後半の400mから傾斜が急激に上がり始める。
特に最後の数十mはえげつない角度になっている。距離が短いのが救いだ。
レースに負けてから幾日経ってようやく調教が再開された。
どうやらまだ見限られてはいないようで、笠原のおっちゃんも俺の調教中は毎日俺の様子を見ている。そのせいか調教が再開してからどんどんスパルタになっている。
前のレースで俺が重賞を取れなかったのが悔しかったのだろうか?今、おっちゃんの厩舎でオープン馬は俺だけらしいし。
と言うか、厩舎唯一のオープン馬。しかもまだ2歳の俺を見限る訳がないか。冷静に考えれば当たり前の事なのに、思考がネガティブに振りきれてそこまで思い至らなかった。
と、己のアホさに呆れていたら坂路を登り終えた。
「よーし、お疲れさんフクオ」
俺に乗っている翔哉の兄ちゃんが声をかけてくる。これで坂路は終わりか。慣れてきたとはいえ、やはりツラいものはツラい。
で、調教が終わったら身体を綺麗にしてもらって朝飯だ。飯の量もレース前の量に戻った。それでも飯の量に若干物足りなさを感じているが、おかわり要求は次勝ったときまで我慢しよう。
“勝てもしないのに飯だけは一丁前に要求する馬”とか言われたら羞恥で死ぬ。
でも次はGⅠレースなんだよな。多分前のレースで俺に勝った2頭も出てくるよな。
それだけじゃない。他にもいくつか実質的なステップレースみたいなものもあったはずだ。
でも2歳馬の大目標は芝馬に関しては俺の次走であるホープフルステークスの他にも朝日杯フューチュリティステークスというレースがあったはずだ。
朝日杯は阪神競馬場で行われる芝1600mのGⅠレースだ。ホープフルステークスがなかった昔はこの朝日杯が中山競馬場で行われていた2歳馬の大目標だったらしい。
優勝馬にはグラスワンダーやドリームジャーニー、ニホンピロウィナーやナリタブライアンといったスーパーホースが多くいる。
俺の鎌か肉かの運命を回避するためにも、有力馬には是非とも朝日杯の方に行ってほしいものだ。
「今年はホープフルステークスの出走馬のレベルが高いな」
「ロードケラウノスのことですか?」
話しているのは笠原とフクオの世話を終えた翔哉である。
「それだけじゃねぇ。この間は特に説明しなかったが、ゲイリーホーンにも注意が必要だ」
「確かに。芙蓉ステークスでは勝ちこそしましたが、あの最後の末脚は脅威でしたね。東京2歳を勝ったのも納得です」
「オルフェーヴルの血を引いているだけはある。気性難とも言われているが、鞍上が池子 謙一郎に乗り変わるらしい。癖馬なら池子なんて言われているくらいだ。うまく乗るだろうさ」
「フクオもえらい相手達と同期になったもんですね」
「それは向こうも同じだろうさ。約800mを実質息を入れずロングスパートで駆け抜けるような馬とこれから走らないといけないんだ。しかも端から見れば前も後ろもこなす自在脚質。これほど厄介な馬もいないだろうよ」
実際、他の陣営はフクオの事を大なり小なり警戒していた。
逃げればレースがハイペースになる。しかも最近は走力も上がってきたのか最後の直線で粘られる可能性もあり、そのハイペースに付き合わねば差しきれない。後ろから来ればロングスパートを行い強引にスタミナ勝負に持ち込み、それに反応した馬のスタミナをすり潰す。
どちらに転んでも厄介この上ない馬と認識されていた。
「どんなに良血馬で能力が高いなどと言われても、同じ2歳馬なんだ。必要以上に恐れることもなかろう。向こうがこちらを恐れてくれる分には構わんがな。」
「それもそうですね」
「来週の追い切りからは崇も参加する。それまでフクオのこと頼むぞ」
「わかりました」
物語を書くって難しいと痛感する日々です。
次回からホープフルステークス編になります。




