ホープフルステークスに向けて
ラヴズオンリーユーとマルシュロレーヌ、BC優勝おめでとうございます。
「それにしてもジャパンカップは残念だったな」
ここは美浦 笠原厩舎の事務所。最早恒例となったフクオの次のレースについての会議の為集まっていた。発言したのはこの厩舎の主、笠原雅道だ。
「全力は尽くしたんですけど力及ばずでした。それはそれとして先日のレースはすみませんでした」
謝罪の言葉を出したのは横川崇だ。
「出遅れてしまったものはしょうがない。寧ろ、よく3着に入ってくれた。水嶋さんも次のレースも頑張ってくれと言っていたしな。」
その謝罪を軽く受け入れる笠原。
「それに元々後ろからの競馬を試してみたいという考えもあってな。今回期せずしてそれが出来たんだ。それも想像通りのレース展開でだ。やっぱりフクオは前の方が性に合ってるみたいだな」
「はい。前走同様前に行きたがっていましたね。仕掛ける際も、普段より反応が鈍かったので、後ろを走らされてやる気を失っていたのかもしれません。
それでも根は真面目な馬ですから。すぐ動いてくれましたよ」
「そうか。で、そのフクオはどんな様子だ?」
笠原はそう言うとこの部屋にいるもう一人に視線を向けた。フクオの持乗調教助手である田中翔哉だ。
「レース直後はなにかに怒っているというか機嫌が悪かったんですが、美浦に帰ってきたら元気がないと言うか、落ち込んでいる感じですね。今回、レースに負けてしまったことがわかっているみたいです」
「頭のいいやつだからな。初めて負けて落ち込んでいるんだろう。もう数日様子を見よう。飼い葉の食い具合はいいんだろう?」
「それはもう。馬でもやけ食いってするんですかね?ってくらいの食いっぷりですよ」
実際やけ食いである。レース直後それも遠征から帰ってきたばかりという事で、フクオは引き運動のみでモヤモヤを発散させる方法が他になかった。
「そうか。食欲が全く衰えないのは驚きだし良いことだが、運動量が減っている今は少し飼い葉の量は減らしておこう。猪狩に言っておく」
「お願いします」
「で、フクオの次走なんだが、これは前々から言っていた通りホープフルステークスを予定している。そこで改めて確認なんだが崇、ホープフルステークスはフクオに乗ってくれるという事でいいんだな?」
笠原は崇にそう投げ掛けた。
関東リーディングジョッキーである崇が騎乗している2歳馬は勿論フクオだけではない。崇がこれまで乗ってきた馬の中にはフクオと同じようにホープフルステークスに出走を予定している馬もいる。
「はい。今回はフクオに騎乗させてもらいます。というか、今後も優先的にフクオに乗せて欲しいとお願いしたいくらいですよ。前走であれだけ強い競馬をしたあいつを他の誰かに乗られたくないですね」
「そこまで惚れ込んでもらえるとはフクオも幸せ者だな。こちらとしても有り難い限りだ。では改めて今後もよろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします」
「じゃあ、鞍上の心配も無くなったところで改めてホープフルステークスについて話すか」
そう言うと笠原はタブレットを出し、保存していた映像を流し始めた。
「今年のホープフルステークスは現時点での出走予定は13頭。頭数自体はそこまで多くはないが、それでもメイクデビューを除けば今までのレースの中では最多頭数になるな。
明確な逃げ馬はいない。先頭争いは問題ないだろう。
主な出走馬は東京2歳を勝ったゲイリーホーン、京都2歳でフクオに先着したフェザーミリオン。萩ステークスの勝ち馬ロードケラウノス、アイビーステークスの勝ち馬カノンシンキング。
この辺りが有力馬として上がっているな」
笠原は今言ったライバルのレースをタブレットで流しながら説明する。
「ゲイリーホーンとフェザーミリオンは既に対戦済みですね。他の2頭の評判はどうなんですか?」
動画を観ていた翔哉が質問を投げ掛けた。
「まず、カノンシンキングは4戦2勝。デビュー3戦目で初勝利からアイビーステークスを勝ち、注目馬となった。先行好位からの抜け出しを得意としているようだ。タイプとしてはこの間のフェザーミリオンに近い」
そう言うと笠原はアイビーステークスの動画を流し始めた。
「血統や体型から察するに基本マイラーなんだろうが、1800mも問題なくこなしていたからな。陣営は2000mも行けると判断したんだろう」
そう言いながら笠原は次の動画を流す。
「そしてこれが世間では本命と目されているロードケラウノスだ。2戦2勝。父コントレイル、母父ロードカナロアの超良血馬だ。前走の萩ステークスでは最後の直線で後方から他馬を大外一気で抜き去り4馬身差で圧勝した。鞍上は谷 新だ。
英雄の正統後継者とか前人未踏の無敗の三冠親子三代制覇とか言われてるな。気の早いこって」
そう軽口を叩く笠原であったが、崇と翔哉の2人は笑えなかった。それほどまでにロードケラウノスの走りは圧巻の一言だった。
なるほど、英雄の正統後継者と言いたくなるのもわかる。映像でもそれは十分に感じられた。
「噂には聞いていましたが、これがロードケラウノスですか」
「テキ、やけに落ち着いてますけど、これ次のレース勝てるんですか?」
崇と翔哉がそれぞれ口を開く。
「今回は正直厳しいだろうなぁ」
「今回は?」
「フクオはまだ成長途中だ。本格化するのは恐らく早くて来年の夏前から秋。ギリギリダービーに間に合うかどうかだと思う。
それにフクオの適正距離は2000m以上と言ってきたが、恐らく本当の適正距離は2400m以上じゃないかと思っている。まだ走れる身体になっていないがな」
2歳は2000m以上のレースがない。まだ身体が出来ておらず、精神的にも幼い2歳馬には2000m以上のレースは長すぎるからだ。
「それとロードケラウノスは見たところ中距離が適正距離だろう。2000m以上はまだわからんが、フクオが勝負になるとすれば2400m以上のレースだ」
「ではどうしますか?」
話を聞いていた崇は笠原に問いかけた。
「どうするもこうするも、さっきも言ったじゃねぇか。わざわざ性に合わない後ろからの競馬をさせるよりもフクオには思いっきり端を切ってもらおうぜ。向こうの鞍上は萩ステークス同様谷 新だろう。レジェンドが相手じゃ小細工なんて意味ないだろうしな」
谷 新とは栗東所属のフリー騎手だ。JRA全国リーディングジョッキー獲得数歴代最多、通算勝利数4000勝を越える日本競馬界のレジェンドだ。
「勿論負けるつもりはねぇ。フクオにはレースまでまた坂路でバシバシ鍛えてもらうぞ。崇。お前にはまたレースの2週前から調教に参加してほしい。翔哉、それまでフクオを頼むぞ。」
「「わかりました」」
あー、負けちまったなぁ。一番人気ってことで慢心があったんだな。
はぁ。出遅れるはキレ散らかすはで笠原のおっちゃんや崇に見限られたりしてないかな?
次のレースは多分ホープフルステークスだよな。
そうなると崇、俺から降りるのかな?嫌だなぁ。それは嫌だ。レース中あんだけボロクソに言ったけど崇のことは好きだ。
俺が出るレースに崇が俺以外の馬に乗っているのを想像すると更に心が沈む。
水嶋のおっちゃんと奥さんはレース後労ってくれたけど、内心怒ってないかな?
翔哉の兄ちゃんはいつも通りだったけど、ちょっと腫れ物扱うみたいな感じ?うわ、面倒臭い馬だなこいつ的な。
あー、ヤダヤダ。本当前世からこうだ。こうやって失敗すると悪い方悪い方へ考えてしまう。今回は自業自得だけどさ。
前世なら酒飲んだりゲームしたりして気を紛らすんだけど、どっちも出来ないしな。レース直後で運動も引き運動のみだし。
そうなるとやけ食いしかやることないんだけど、そうしたら飯の量も減らされた。ロクに動いてもいない奴がバクバク食うんじゃねぇってことですかそうですか。
あーもー、ホントツラいなぁ。ツラいなぁ。
次は負けないよう頑張るからさ。だから早く調教再開してほしいな。
という訳でライバルが映像にて登場です。父コントレイルの母父ロードカナロアという血統馬、数年後絶対出てきそうですよね。インブリートもストームキャットの4×5くらい?だと思うので。
あと、翔哉や崇が他の馬について無知すぎる気もしましたが、話の演出上仕方なかったんです。
それと、今後は投稿する時間を基本18時に固定しようと思います。
曜日も固定してほしいとの声もありましたが、締切みたいになって私の心がツラくなるのでご容赦を。
予定としてはもう一話くらい挟んでホープフルステークス編になると思います。
ホープフルステークス編はまた毎日投稿するよう頑張るのでよろしくお願いします。




