次のレースに向けて
ブックマーク200人突破誠にありがとうございます。
今後も頑張って更新していきたいと思います。
2週間ほど外厩で過ごした後、俺は再び美浦トレセンに戻っていた。
そこで待っていたのは坂路、坂路、坂路の坂路尽くし調教だった。どうやらおっちゃんも俺のスピード不足を察したらしい。
坂路トレーニングは瞬発力や坂を駆け上がるパワーを鍛えるトレーニングだ。パワーつまり筋力が増せば自ずとスピードも上がるだろう。
人で例えればオリンピック100m決勝の選手は皆ムキムキだ。筋肉だるまは足が遅いっていうのは誤解らしいからな。
つまり、今の俺に足りないものを補うのに最適なトレーニングって事だ。
しかし、坂路っつーのは脚への負担が少ないトレーニングって話だけど、メチャクチャキツいトレーニングなんだな。
いや、坂を駆け上がるのがキツくないわけないんだけど。特に後ろ脚の負担がすごい。脚に乳酸が溜まってそうだ。馬も運動したら乳酸が溜まるかは知らんけど。
どこが脚の負担の少ないトレーニングなんだ?めっちゃ負荷かかってんじゃねぇか。ただ、その分、前脚の負荷はそれほどでもない。
馬の怪我の多くは前脚みたいだからその前脚の負担を減らすトレーニングって意味だったのか?
これはあれや。食うもん食わないとあっという間にガリガリになるやつだ。
つーわけで翔哉の兄ちゃーん、飯のおかわりくれやー。
飯が入ってる桶を使って音をたてると翔哉の兄ちゃんがやってきた。
「あれ、フクオまだ食い足りないのか!?凄いな、あんだけ坂路走って食欲が無くならないのか」
こりゃあ先生と相談して飼い葉の量増やさないとなどと言いながら、俺の馬主である水嶋のおっちゃんが差し入れてくれた林檎を俺にくれる。
この間の芙蓉ステークスに勝ったお祝いに箱で贈ってくれていた。今は秋、林檎が不味いわけがない。無論1日に食べられる量が決まっている競走馬の俺だけで食べてたら食べきる前に腐ってしまうので、厩舎のお仲間にもお裾分け。お隣のパイセンは今度レースなんだろ?これ食って頑張ってな!
馬にとって人参や林檎ってお菓子とかデザートみたいなもので、身体を作るには適してないようなことを前世に聞いたことがあったが、くれるんなら貰っとこう。駄目にしてしまうなんてもっての他だものな。
うむ、旨い。流石旬のもの。
林檎は身体作りには適さないと言っといてなんだけど、馬になってから味覚も変わったせいか、林檎や人参がめっちゃ旨く感じるんだよな。
とりあえず、この林檎で我慢しとくから飯の増量頼むぞ兄ちゃん。
「テキ、フクオの事なんですけど」
「どうした?何か問題が?」
事務所で翔哉からフクオについて報告を受ける笠原は内心不安で一杯だった。
フクオが放牧から帰ってからこっち、坂路メインの調教を積んでいる。前走前も坂路メインの調教だったが、そのときより本数も増やしている。
つまり負荷も増えているということ。
坂路とはそういう調教ではあるが、やりすぎれば馬に悪影響を及ぼすのは言うまでもない。
そんなことがないよう注意を払っているが、相手は言葉を話せない馬。気付かないところでなにがしかの不具合が起こっている可能性もあるのだ。
「問題って程ではありませんが、フクオの飼い葉の量を増やした方がいいと思いまして。飼い葉を平らげてまだ欲しそうにしていましたから。」
「本当か?帰厩してから調教の強度も上げてきたからそろそろ食欲が減り始める頃だと思っていたんだが」
「減るどころかますます食欲旺盛ですよ」
馬という生き物は調教によりストレスを溜める。ストレスによる精神的負担はその馬の食欲にも関わってくる。馬の食欲は調子のバロメーターというのは有名な話だ。
フクオも調教によるストレスが溜まる頃だと思っていたが。
「そうか。それは予想外だが食欲が衰えないのはいいことだ。フィードマン(それぞれの馬の飼い葉を作る人)の猪狩には増量するよう伝えておく」
「お願いします」
「それと、レース前二週の追い切りは崇が乗るからそれまでフクオの事頼むな」
「わかりました。」
そう言い、事務所から出ていく翔哉。
「調教は順調。フクオの調子も上がっている。なんとか勝たせてやりたいものだ」
フクオが次のレースに勝てば、一昨年引退した管理馬メテオサンダラー以来の重賞馬となる。そもそも2歳でオープン馬になった管理馬など何年振りか。
水嶋さんには本当に感謝している。例え偶然だとしてもフクオをうちに預けてくれたことに。
自分の仕事は預かっている馬をレースで勝たせてやること。その為にも、やれることは全てやる。
笠原は改めてフクオの調教プランを練るのであった。
前書きでこれからも頑張ると言っておいてあれですが、今後は投稿が不定期になります。
理由は思うように執筆が進まないためです。
可能な限り出来たら投稿するようにしますので、ご容赦のほどよろしくお願いいたします。