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勇者は討伐する

 魔法使いと散歩した次の日。

『嫌いな奴と一緒に散歩するってどんな気分なんだろうな?』

「あ"ー"!」

 俺はごろごろとベッドを転げ回る。

「何言ってるんだ俺ー!」

 我ながらあれはなんか、痛いというかあまりにもかっこつけた発言だった気がしたんだ。

 魔法使いあれどう思ったんだろな? いや嫌いな奴にどう思われようが別にいいかってよくない仮にも相棒だぞ!? 違うんだあいつが相棒とか言うから意識してしまうじゃないかなんてことを言ってくれた魔法使い恨むぞいや恨みはしないが……

「ああ……」

 枕にぼふっと顔を埋める。

「知らないよなそんなの……誰がどんな気分だろうと……」

 いかん独り言を無限に漏らしてしまう。なんとかしなければ。黙るんだ俺。

「…………」

 勢いで一緒に買い物に行こうとか言ってしまったけど、どうなってしまうんだろうか。

 それよりやっぱり魔法使い、何かいつもと違ったというか、様子がおかしかった。

 服も着替えずメイクもせずに部屋にいるなんてらしくない。いや何があいつらしくて何があいつらしくないのかとか俺は知らないが、でも、昼ごろになっても寝間着を着たまま部屋にいる魔法使いがあいつらしくないということぐらいはわかった。

「ううむ……」

 やっぱり、情報が足りない気がする。何かを判断するにはあまりにも俺はあいつのことを知らなさすぎるからな。

 過去のことを訊いてみたけどそれとなくかわされてしまったし。

 本人が無いと言ってるなら無いとか言ったけど結局あったのかなかったのかどっちなんだ?

 って嫌いな奴のこと気にしたって仕方ないって思ってるのに……違うんだこれは情報収集の一環なんだ。だから俺が魔法使いの過去を訊いても許されるんだ。うん。そう。そうに決まってる。

「………」

 また奇声を上げそうになったのをぐっと堪える。

 らしくない……らしくない魔法使いか。

 俺は身体を起こした。

 たまには俺も討伐でも行くか。

 魔法使いを誘ってもよかったんだが、なんとなく、あいつ調子が悪そうな気がして、誘えなかった。



「討伐ですか?」

 ボーイが俺を見る。

「そうだ」

 頷く俺。

「珍しいですね、勇者さん」

「ああ」

「でもよかった、最近魔法使いさんが顔を出されないので少し依頼が溜まってきていたんです」

「……そうなのか」

「直近だとそうですね……ココピローが大量発生しているのでそれを討伐してきてくださると助かりますが」

「ココピローか」

 ココピローは植物型の魔物で、丸い身体に固い外皮と触手を持つ。

 外皮は固いが植物型というだけあって火には弱く、触手を燃やしてしまえば無力化できる。魔法使いによると本体は身体ではなく触手らしい。

 だが俺は火魔法は使えないんだよな。あれはいつも魔法使いに任せていたから……どうするか。

「大丈夫ですか、やれますか?」

「あ、ああ、大丈夫だ」

「本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫だ、やれる」

「無理はしないでくださいね。それでは……いってらっしゃい」



 ココピローのいる砂浜は広く、どこまでも続いていた。

 そこかしこに丸い身体が転がっている。

 見てる分には普通なんだが近付くと襲いかかってくるんだよなこいつら。

 なるべく体力を消費せずにまとめて焼きたいが、焼く手段……

 俺は考えた。

 そういえば、普段魔法剣に使っているだけの光魔法がある。

 それで焼けるのか?


 俺は遠くの方にいるココピローにそっと光魔法を使用した。

 燃える触手。

 無力化するココピロー。

 これはいけるのでは。


 それから俺は砂浜を走り回ってココピローを牽引した。

 ひとまとめにして燃やそうという算段だ。

 だが。

「うわっ」

 足を滑らせ、転んでしまう。

 違う、足を滑らせたんじゃない。

 隠れていた一体のココピローの触手に足を掴まれ後ろからは大量のココピローが……

 とりあえず足下のやつを光魔法で焼く。

 だがまずい、だいぶまずい。

 もうまずいとか言ってる場合じゃない。

 あいつらを焼かないと。

 群がってくるココピローの群れに俺は自分ごと光魔法を……


「おバカ! どきなさい!」


 突如身体が空高く浮き上がる。

 と同時に海岸で起こる大火。

 しゅうしゅうと触手を焼かれ、無力化するココピロー。

 ふわりふわりと離れたところに着地する俺。

 そこで相手を視認する。

「魔法使い……」

「おバカ、本当におバカ! 自分ごとココピローを焼こうとするなんて、超おバカ! もっと自分を大事にしなさい、おバカ勇者!」

「……すまん」

 よく見ると化粧が若干雑になっていて、服もよれている。

「ひょっとして急いで来てくれたのか」

「ち、違うわよ別に! たまたまよ、たまたま」

「そうか……ありがとう」

「アンタが素直に礼を言うのは珍しいわね……討伐出かけるんなら一人じゃなくてアタシも誘いなさいよ、相棒でしょ」

「相棒……」

 相変わらずその響きには慣れない。

 なんとなく、誘ってはいけないような気がして誘えなかった。調子が悪い……落ち込んでいるんじゃないかと思って。

 なぜかはわからない。俺はこいつのことを知らない、でもなんとなくそんな気がした。なぜだろうな。

 でもそんなことは言えない。言わないのが正しいんじゃないかと思った。

「アンタしばらく戦ってなかったからカンが鈍ってるんじゃないかと思ったのよね……これから毎日一緒に討伐行く? そんなんじゃ魔王も倒せないわよ」

「そうだな……毎日一緒に討伐か、いいかもしれないな。きっと俺はカンも身体も鈍ってしまったんだな……はあ。付き合わせて悪いな、魔法使い」

「な、いいわよそんな……いいわよ別に。どうせヒマだったし、やることが増えるのは歓迎よ」

「そうか……そうか」

 俺は頷く。


 日はまだ高く。

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