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未だ互いを知らず

 何もかもがだめになったような気がしていた。

「勇者ちゃん、最近元気ないんじゃなあい?」

 魔法使いが俺に問う。

「元気はあるさ」

「どうしてそう言えるの?」

「俺が元気があると言ったら元気があるんだ」

「へえ……あなたってば相変わらずねえ」

「ああ」

 相変わらずはお前の方だ。心配する風でいて本当は全く心配なんてしていないのはわかっている。

「放っておいてくれ」

「ま。あなたってばいつもそう」

「いいだろ、別に。俺の勝手だ」

「あら、そう言われちゃあねえ。ゆっくりお休みなさい」

 いやな男だ。どうせこいつも俺のことをわがままで暗い奴だと思っているのだろう。

 一般人に前の世界のことなんてわかるはずもない。そうだ。誰もそれを知らない。対の魔王が死んだことなんて。

 今思えば、そうだ、どうしてあんなことをしてしまったのだろう。知らなかったとはいえ、それで俺の世界は崩れてしまった。

 勇者としてこの世界に来て、誰も対の魔王のことなんて知らない。一人で抱えるしかない。俺が世界を滅ぼした、なんて言ったら石を投げられる。

 厄介だ、厄介だ。とかく民衆は厄介だ。

 あいつもそんな一人なんだろう。



「勇者ちゃんにも困ったものねえ」

 蒸留酒をロックで飲みながらアタシはぼやく。

「はは、そうですな」

「気難しいオトコは嫌われるわよっていっつも言ってるのに」

「違いない」

 事故に巻き込まれてない、家族も死んでない、アイツ、何も不満なんてない生活なのにどうしてあんなわがままなのかしら。いっつもトゲトゲ不満だらけ、暗いオトコはモテないわよ。

 アタシだって好きであんな奴とコンビ組んでるんじゃないのに。まったく、なんだって世界はあんな勇者とアタシを組ませたのかしら。つまらないわ。


 遅くまで飲んで寝たらまたあの時の夢を見たわ。

 事故の日の朝、家族と朝食を食べたときの夢。

 いってらっしゃい、って笑った弟に、急いでたアタシは適当な返事をして。それが最後になってしまった。

 もっと優しくしてあげればよかったなんて思っても後の祭り。


 つまらないわ。事故の後、何もかもが色を無くしてしまった。

 せめてアタシが世界を楽しくしようとお洒落とかして言動にも気を使ってはいるけど……こんな傷だらけの顔じゃ限界があるわねえ。

 なんてこと、アイツは一切気付いてやしないんでしょうけど。



 勇者と魔法使いは互いを知らず。

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