門司港駅の食堂はいいぞ
ある日、私は門司港へ降り立った。目的は門司港駅に前年オープンした食堂。普段の生活で疲弊していた私は、何か非日常を求めていた。話題になっていたこの食堂のことを思い出して、暇な日を利用して行ってみることにしたのである。
食堂は駅の二階にある。改札から徒歩一分だ。食堂の前にロビーのような空間があり、ランチの営業時間を待つ客が何人かいた。私は事前に予約していて、営業開始ぎりぎりに着いても席に案内してもらえたが、この日は予約で満席になっていたらしく、私の前の客が入店を諦めていた。
予約はコース制になっており、最初にタイのカルパッチョやスズキの酢漬けとコンソメスープ、それにパンが運ばれてきた。あともう一品、前菜として運ばれてきたのだが、耳慣れないメニュー名だったので忘れてしまった。美味だったということだけは覚えている。ナイフやスプーンも机の上にあったが、いちいち持ち替えるのも面倒だと思って箸を手に取った。あっさりした味で箸が進む。酒に弱い体質なので、ドリンクにワインを選べなかったのが残念だ。
オレンジジュースで喉を潤すと、続けてフライの盛り合わせとしてコーンクリームコロッケ、アジフライ、エビフライがやってきた。メインディッシュはこの次なので、あまり身構えていなかったのだが、揚げたてで温かく、衣の食感も良くて驚かされた。また、パンや水がなくなるとホール担当のスタッフがすぐに声をかけてくれた。
フライにはそれぞれ別のソースが添えられていた。コーンクリームコロッケには赤い粘度のあるソース。トマトペーストだったのだろうか。アジフライには茶色のソース。一般的にフライにかけるソースと言われてイメージされるソースと同じだと思う。エビフライには大きめの具がたっぷり入ったタルタルソース。トマトなど少量の野菜も付け合わせられており、これまた箸が止まらない。
そして満を持してメインディッシュのビーフシチューが姿を現した。ナス、ニンジン、インゲンといった色とりどりの温野菜たちを従えて、ソースをたっぷり纏った牛肉が皿で大きく自己主張している。私は何か未知なる食の領域へ一歩踏み込んだ思いがした。箸よりこちらの方が良いかと思ってスプーンに持ち替えてみたが、牛肉は非常に柔らかい。それでいて口に入れた後の歯ごたえはしっかりとする。濃厚なソースの味も良い。
デザートとコーヒーが運ばれてくるまでの間、ひと息ついて天井を見上げた。明治期を思わせるディテールに目を惹かれる。ビーフシチューを食べているときに思ったことだが、純白の皿に照明が反射して高級感を演出している気がした。そんなことを考えていると、デザートが運ばれてきた。チーズケーキと、マンゴーのジェラートだ。
チーズケーキは余計な盛り付けのないシンプルなもので、甘すぎることもなく美味しくいただけた。ジェラートは酸味が効いていて、これも良かった。そして最後がコーヒーだ。薄いシャツだけで来ていたので、少し冷房が強く感じていた私はホットを選択した。コーヒーの知識については疎いので、香りも味も素晴らしかったとだけ記述しておく。
少しばかり門司港を散策したのち、満腹感と満足感で心地よく快速列車に揺られていたとき、今日の感動を誰かに伝えたいと思った。そして自らの職業を思い出した。そうだ、私はインターネットライターではないか。これは記事にしなければ。そう思い立って、記憶のみを頼りに仕上げたのがこの記事である。許可を取っていないので名前を出せないが、この食堂の魅力を少しでも伝えられたなら本望だ。