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合流のために

「おいっ、今誰か消えなかったか」

 魔物を攻撃しながら、アルガスが怒鳴る。魔物を見据えながら、それでも視界の端にあった人影が一瞬でなくなったことに気付いたのだ。倒れたとか、そんな消え方ではなかった、ということも。

「エルがいないっ」

「ロスタードもいないぞ」

 その言葉で周囲を確認したルーベルとライドルトは、自分達のクラスメイトが消えたことを知る。

「雑魚に見えても、おかしな力を持つ個体がいるようですね。みなさん、気を付けてください」

 カダルゴの言葉は今更だが、とにかく全員でコウモリもどきの魔物を全滅させる。

「エル! どこなの」

「おーい、ロスタード。返事しろーっ」

 周囲に呼び掛けるが、二人からの返事はない。

「近くにはいないようね。あの魔物のレベルなら、そんなに離れた場所へ飛ばされたとは思えないけれど」

 だが、声の届く範囲にいないなら、それなりの距離があるはず。

「ロスタードくんがエルレシアさんを援護していたように見えました。ちゃんと確認してはいませんが、恐らくその後で二人一緒に飛ばされたようですね。エルレシアさんだけが飛ばされた訳ではないのは、不幸中の幸いでしょうか」

 ロスタードが一緒なら、まだ救いはある。絶対二人は一緒にいる、と断定できないのがつらいところだが、とにかくばらばらになっていないことを祈るばかりだ。

「早く見付けに行かなきゃ。エルのことだから、知らない場所に飛ばされてパニックになってるわ」

 だてに三年もクラスメイトはやってない。ルーベルは友人の性格をよく把握している。

「どうする、カダルゴ? 捜すのはいいとして、この人数で同じ場所を捜すのは効率が悪すぎるだろ」

「そうですね。二手に別れるとして、どうしたものか」

 魔物退治は三人以上、というルール。しかし、今は仲間(しかも一般人扱い)を捜すためという例外の状況だ。この際ルールについては目をつぶるとして、どう別れるか。

 現在、この場には三人の魔法使いと二人の見習い魔法使いがいる。見習いは一人ずつにするとして、三人の魔法使いをどう分けたものか。

「あ、ちょっと待ってください。連絡が入ったようです」

 カダルゴが水晶を取り出した。ルーベルとライドルトは「もしかしてロスタードが」と一瞬期待したが、応対するカダルゴの口調からして違うようだと悟る。

「はい……はい……。今はナエラの森です。現在任務遂行中ですが」

「仕事の真っ最中に連絡が入るなんて、珍しいな」

「何か問題でもあったのかしら」

 ルーベルとライドルトは早く二人を捜しに行きたいので、タイミング悪く入って来た通信に時間を取られていらいらする。

「え? ああ、その子達なら一緒です。申し訳ありません、連絡が遅れました」

 カダルゴの言葉に、ルーベルとライドルトは顔を見合わせる。彼が年長者とは言え、フィオやアルガスを「その子」とは呼ばないだろうし、チーム編成は把握されているはず。だとすれば自分達のことだ。

「はぁ。あの、それがですね。たった今そのうちの二名が行方不明になりまして……ああ、はい。もちろん、今から捜しに行こうという話をしていたところです」

「間違いなく、あたし達のことね」

「バルドンが捜すように連絡してくれたんだな」

 移動装置で行く場所と言えば、魔物のいる場所。そこに魔物退治で向かっている魔法使いもいるだろうから、該当しそうな場所にいる魔法使いに連絡を取るよう、バルドンがクインドラに頼んでくれたのだろう。

 フィオ達は四人がバルドンの店から飛ばされたとは聞いたが、魔法学校に捜索願が出されている状態とは思っていなかったので、すぐに連絡をしていなかったのだ。

「こんな時にまた飛ばされるなんて、エルったらもう……」

 もちろん、エルレシアのせいではないことはわかっているが、ルーベルは頭を抱える。魔物の力が働くタイミングがあまりにも悪すぎたのだ。

「察しはついてると思いますが、みなさんのことで連絡が入りました」

 通信が終わったカダルゴが、ルーベルとライドルトを見る。

「不明になった二人については、早急に捜し出せということです。本来の任務よりこちらを優先させろということで……言われなくてもそのつもりですけれどね。さて、先程の話の続きですが、メンバーの割り振りをどうしましょうか」

 魔法使いは三名。二人と一人に別れることになる。その一人の魔法使いが見習い魔法使いの命を預かることになるのだ。

 いくら単なる学生ではなく、魔法使いの卵だとしても、何かあった時に頼る訳にはいかない。この先もほぼ確実に魔物が出るだろうということがわかっているから、なお責任重大になる。魔法使いが二人いれば何とかなるだろうが、もし一人しかいない方のチームに大ザルの魔物が現れたらとんでもない。

「人間ってのは面倒だな。この俺がルーベルちゃんと一緒にいるんだ。魔法使いが何人だろうと、それで問題ないだろ」

 ルーベルの肩にいるレスアークが、偉そうな口調で魔法使い達に言う。

「あら、レスアークがあたしの保護者になってくれるって訳?」

「かわいいルーベルちゃんを、他に誰が守るって言うんだ?」

「どっちかって言うと、お前が守ってもらうみたいに見えるぞ」

 ライドルトの言葉に、ルーベルもちょっと頷きたくなる。魔力はともかく、見た目だけなら着せ替え人形サイズの妖精だ。火の力に関して言えば妖精と人間では雲泥の差だということはわかっているが、守ってもらう、という感じではない。

「何だよ、見た目も必要ってか? 仕方ねぇなぁ」

 レスアークはそう言うと、ルーベルの肩からふわりと飛んだ。その姿が見ている間に大きくなる。

「あら、いい感じね」

 見ていたフィオが感心する。小さかった火の妖精が、あっという間に人間のサイズにまで大きくなったのだ。しかも、ライドルトより少し背が高い。

 いかにも火の妖精らしい赤の髪は、ルーベルと同じように真っ直ぐ腰辺りまで伸び、それを軽く一つに束ねている。大きくなることではっきりわかるようになった深い赤の瞳は、ルーベルの持つ魔石のようだ。さっきルーベルの魔石の色をほめていたが、つまりは自分の瞳をほめたかったのだろうか。

「ほら、これで見た目の人数も揃うだろ。文句ないよな」

 レスアークがやる気を出してくれているようなので、ここは火の妖精に頼っておいた方が色々と助かる。火の力限定であっても人間より魔力は強いし、火の妖精がミスって森を火事にしてしまうことはまずない。

「それじゃ、私がルーベルと一緒に。リージもそばにいてくれるわ」

 魔法使いと見習い、火の妖精にロック鳥の子ども。ずいぶんバラエティに富んだ組み合わせになった。だが、それぞれ魔力が強いから、多少のことなら対処できるはずだ。

「わかりました。では、アルガスさんとライドルトくんは私と一緒に。フィオさん、連絡用の水晶はありますね」

「ええ、ちゃんと持ってるわ」

「フィオ、もしサルに遭っちまっても無理はするなよ」

「もちろん。みんなと一緒の方が楽しいものね」

「あのなぁ……。お前の言うことは、どこまで本気かわからねぇよ」

「あら、私はいつも本気だけど。さぁ、行きましょうか、ルーベル。私達はこちらを捜してみるわね」

 フィオはそう言って、ルーベルを伴って歩き出す。そのやや後ろをレスアークがついた。人間サイズだと浮遊は難しいようで、ちゃんと歩いている。

「私達も行きましょう。少しでも早く二人を見付けなければ」

 フィオ達とは反対の方へ向かって、ライドルト達は歩き出した。

☆☆☆

「はぁ……」

 エルレシアは大きく溜め息をついた。

「学校でもこんなに魔法を使ったことなんてないよぉ」

 ロスタードに任されたエリアにある木の根元を、エルレシアは順番に攻撃していった。

 動かない的というのは、本当に楽だ。余程コントロールが悪くなければ、何とか当たるのだから。

 魔物の卵があるかわからないが、エルレシアはとにかく木の根元に攻撃を続ける。たまに卵の殻のようなものが土から飛び出すことがあるので、当たりもあるらしい。それを見ると、やっている甲斐があるというもの。

 だが、ここは森だ。木がたくさんある場所だ。密集はしていないが、数は結構ある。とりあえず自分達がいる場所から見える範囲だけだが、それを全部つぶしていこうと思うとかなりきつい。

 しかし、休んでいる間に魔物が生まれたら、自分達がエサにされてしまうかも知れない。一匹だけならともかく、一斉に孵化することだってありえるのだ。それがロスタードにも対処しきれない数だったりしたら……。

 そう考えると、エルレシアは手も口も休められなかった。呪文の唱えすぎでのどが渇く。でも、休むのが恐い。

 ロスタードは自分が向いた方にある木の根元をほぼ全滅させ、そうしている間に現れた魔物を斬り、四苦八苦しているエルレシアを手伝ってくれた。当然、エルレシアより魔法の使用量はずっと多いが、魔物を全滅させたであろう今も彼はそんなにつらそうな顔をしていない。

「無駄な力が多いから、疲れるんだ。もう少し肩の力を抜いても、呪文を間違えなければ魔法は発動するぞ」

「う……抜き方がよくわからないもん」

 そう要領よくできたら、低レベルで……なんて悩みはきっとないだろう。

 とにかく、ロスタードが手伝ってくれたおかげで、だいたいの木の根元は攻撃できたはずだ。たとえもれていたとしても、わずかな数だろうからすぐに対処ができるはず。……対処するのはロスタードだが。

「これでどうにか居場所は確保できた、というところか」

 すれ違いをさけるため、やはりロスタードはこの場からあまり離れないようにすると決めたらしい。エルレシアにいいアイディアはないので、彼の判断に従う。

「雨にならなかっただけ、まだいい方だな」

「うん。こんな所でカサなんてさしていられないもんね」

 一応の安全を確認し、二人は少し太めの木にもたれながら立つ。真上から飛び掛かられない限り、幹を背にしておけば後ろからいきなり襲われることはないだろう。木に同化されたらどうしようもないが、言い出せばキリがない。

 何かあればすぐに動けるよう、二人は立ったままだ。でも、少しもたれられるだけでも楽になる気がした。

 ロスタードが結界を張る。対魔物のためでもあるが、外との空気を遮断することで肌寒さも少しマシになった。森では陽射しがかなり遮られるため、街にいる時より少し寒いと思っていたエルレシアはほっとする。さっきまでは動いていたから自覚しなかったが、ただ立っているだけだと冷たい空気が全身にまとわりつく気がしていたのだ。

「ロスタードなら、魔物退治に出ても活躍するよね」

「そうできるように、練習してるからな」

 フィオには学生だからということで一般人扱いされていたが、実力を見れば正規の魔法使いと言っても通るはず。……エルレシアの個人的見解だが。

「ロスタード、どうして魔物退治の仕事に進もうと思ったの?」

 間がもたない、というのもあるが、ちょっとした好奇心でエルレシアは聞いてみる。魔物退治を希望するクラスメイトに、これまであえて質問したことがないのだ。せいぜいルーベルくらいか。

 適当にあしらわれるかと思ったエルレシアだが、思いがけずロスタードはちゃんと話してくれた。

「母方のじいさんがやってたんだ。親父は俺が物心つくまでに亡くなってるから、色々と影響を受けたのはじいさんからだ。魔物に足をやられて引退しても、話は色々と聞いていたからな。じいさんのケガのこともあるし、おふくろは危ない仕事だからと言ってあまりいい顔はしなかったけど、クインドラへ通うことに反対はしなかった。言っても俺が聞かないとわかってたんだろうな」

 学費を自力で稼いでまで行こうとする息子を見れば、母親も口は出せないだろう。

「魔物退治は確かに危険なこともあるだろうけど、今までのロスタードを見ていたら大丈夫って感じがする。きっと卒業試験もトップよね。あたしはパスするかも怪しいけど」

「どうして?」

 当たり前のように聞き返され、エルレシアは少し詰まった。

「どうしてって……さっきまでのあたしの魔法を見ていたら、何となくわかりそうなものでしょ。ロスタードはさっき、レベルの高いクインドラだからあたしのレベルは低くなるけど、他の所なら低くないみたいなこと言ってくれたけど……。卒業試験を受けるのはクインドラでだもん。あたしのレベルは低いままだわ」

「お前、横着だな」

「お、横着?」

 疲れてちょっとグチってしまったが、ロスタードの口から意外とも言える言葉が出て、エルレシアは目を丸くする。この会話の流れでなぜ「横着」なのだろう。

「卒業試験まで、あと何ヶ月あると思ってるんだ。パスするのが難しそうだってことが自分でもわかってるなら、少しは練習しろ。そういう言い訳するのは、魔法のレベルが低いんじゃない。お前の場合は意識レベルが低いんだ」

 ロスタードの言葉が、さくっと胸に刺さった。鋭いナイフ数本が深々と刺さった気分だ。ルーベルにもまだ三ヶ月近く先だから、とは言われたが、意識レベルが低いとまでは言われなかった。

 結構きついこと言う人だなぁ。……当たってるけど。

「卒業試験のパスが難しいと思う程、成績はひどくなかったはずだぞ。お前の場合、単にやる気の問題じゃないのか」

 確かロスタードは、エルレシアのクラスメイト、のはずだが……これだと話す内容はほとんど担任の先生だ。

 でも、近いものかも知れない。彼は自分の実技向上のために、エルレシアを含めたクラスメイトの実力をしっかり観察しているのだ。実際にそうしているところを、エルレシアは見ている。どんなに隠そうとしても、エルレシアの実力はしっかり知られているのだ。

「最終目的が魔物退治に出ることでなくても、クインドラに入った以上は魔法使いという肩書きがほしかったんだろう? あと少しで手に入るところまで来てるのに、どうしてそう簡単にあきらめられるんだ」

「あきらめてはいないけど……」

 そうだろうか。まだ時間があるのに、パスできそうにない、などと言ってしまうのは、心のどこかですでにあきらめているから、だろうか。

 ロスタードは今、ひどくない、と言ってくれた。でも、エルレシア自身は実技の成績があまりいいとは思ってない。もしかすると、成績がよくない、ということを逃げる言い訳にしようとしているのだろうか。

「エルレシアは魔法使いになったら、何がやりたいんだ? そう言えば、さっき糸がどうのって言ってたな。そのことと何か関係あるのか?」

「うん。魔法使いのローブとか、そういうのを作りたいの。魔物退治をする人達の防御が少しでも上がるようにって。クインドラ以外の友達やいとこには、地味だなって言われたけど」

 どうしてローブ作りなのよ。魔法使いなら、魔物退治が花形じゃないの? 危険だけど、成功した時の報酬と賞賛はすごいらしいじゃない。

 それはものすごい大物を仕留めた時だけど……とは思いながらも、エルレシアは友達のその言葉を否定できなかった。

 確かに、魔法使いなら魔物退治が一番の仕事だ、と思ってる人は多い。エルレシア自身もそうは思うものの、自分にそんなすごい力があるとは最初から思っていないし、実際成績も芳しくないから、逆立ちしたって無理だろう。そもそも、魔物が恐い。言ったら笑われるから、これは黙っているが……。

「あたし、そんなに器用じゃないけど裁縫は好きなの。一針ごとに気持ちを込めていい服が作れたらって思ってるけど、地味なのは否定できないわよねぇ」

「目立てばいいってものじゃない。それも必要な仕事だし、魔物退治に関わってる」

 ロスタードが言葉に困るかな、などと思いながら、普段思っていることがつい出てしまった。それなのに、予想もしない言葉が返ってくる。ロスタードと話していると、エルレシアが考えてもみないことをよく言われるような気がした。

「え……だって、服を縫ってるだけよ? それで魔物退治に関わるの?」

 魔物退治は、魔法使いが自分の魔力を使って魔物を倒す……というものだったはずだ。ローブを作る人間がどうやって魔物を倒すのだろう。

「服を作る人間が手抜きすることなく仕事をすれば、高い防御力の服が仕上がる。極端な話、一針の違いで生死を分ける時だってあるかも知れない。無事でいられれば、その魔法使いは次の魔物退治へ行くことができる。そうやって仕事を続け、人間に被害をもたらす魔物を倒すことで、命や生活が助かる人が増えていくんだ」

「……」

 エルレシアは隣りに立つロスタードの横顔をやや斜め下から見詰めながら、黙ってその言葉を聞く。

「確かに見た目は地味かも知れない。でも、魔物退治という一連の流れの中で、絶対に必要な仕事だ。バルドンのように魔法道具を調達してくれる人も、その魔法道具を作り出す人も。その仕事のあるなしで、救われる人間の数が大きく変わってくる。本当にその仕事をするつもりなら、もっと誇りを持っていい。魔物がいる現場に立っているか、いないかの違いだ」

 エルレシアは今まで、そんな風に考えたこともなかった。他のクラスメイトや先生にこんな話をしたことはないから、誰も教えてくれなかった。話していたら、こんな考え方もあると教えてくれただろうか。

 魔力が低いので最初から選択肢にはなかったが、魔物退治はできないと思っていたのに、実は別のところで関わっている、なんて。

「そっか……。あたしも魔法使いとして魔物退治に関われるんだ」

 好きなように裁縫ができれば、それだけで充分。そう思っていたのに。

 自分でもロスタード達のように、魔物退治に関われる。人を助ける仕事ができる。

 そう思うと、とても嬉しくなってきた。

「あたし、ずっと魔物退治を他人事だと思ってた。あたしにはできない仕事だって。でも、そうじゃないのね。嬉しいな。……嬉しいってことは、本当はあたしも魔物退治をしたいって思ってたのかな」

 見果てぬ夢だと最初からあきらめて、だから他人事だと思うようになっていたのだろうか。

 考えてみれば、裁縫がしたいのなら魔法使い用のローブにこだわることはない。普段着でもドレスでも、普通の人が着る普通の服を作ればいいだけなのだから。

「役に立ちたいって思ってるんだろ。自分の無意識の中で」

 確かめるように、ロスタードがエルレシアを見る。

「そうなのかな……」

「魔法使いになりたいという奴は、気持ちの強さがどうであれ、そう思ってるはずだろ。でなきゃ、高い学費を払って毎日練習なんてできないんじゃないのか?」

「うん……」

 練習熱心とは言いかねるエルレシアは、この点についてあまり大きく頷けないが。

「肩書きだけがほしいからと言って、金にものを言わせて手に入る技術じゃない。根底に何か思うところがなかったら、すぐに音を上げて退学するのがオチだ。でも、エルレシアは卒業試験目前まで来てるだろ」

「……うん」

 それなのに、あたしは試験をパスできそうにない、なんて泣き言を言って。意識レベルが低いって言われるのも当然だわ。

「あたし、向き合い方が変えられそう。ありがとう、ロスタード」

 最初はきついなと思ったロスタードの言葉も、こうして話しているうちにエルレシアを前に向かせてくれる光に思えてきた。誰かの言葉が、こんなにも気持ちを変えてくれたのは初めてだ。

「別に……。全員で卒業できた方が、気持ちいいだろ」

 タルグを含めた留年組と、入学と同時に一緒に進級してきたクラスメイト。付き合っている年数に多少の差はあれど、同じ教室で勉強してきた。ロスタードが言うように、みんなで卒業できれば気持ちいいし、嬉しい。

「うん。あたし、ロスタードと同じクラスになれてよかった」

 ロスタードに言ってもらわなきゃ、あたしは言い訳したままで留年していたかも知れないもん。

 そう言って嬉しそうに笑うエルレシアを見て、ロスタードは彼女から視線を外す。その頬はかすかに赤らんでいたが、薄暗い森の中ではエルレシアも気付かなかった。

「……それより、俺達がここにいることを知らせる方法を考えないとな」

「あ、そうよね。こんな森の中じゃ、火を焚いて知らせるってことも難しいかな」

 木が邪魔だから、空に光を放ってもきっと見てもらえない。逆に向こうがそうしていても、こちらからその光を見ることは難しいだろう。

「火……そうか。エルレシア、さっき割れた俺の魔石、持ってるな」

「うん、持ってるけど」

 割れて落ちた魔石をエルレシアが拾い、その後ロスタードに渡しそびれて持ったままになっていた。孵化しようとする魔物を攻撃するため、一旦ポケットに入れていたのだ。

「それを燃やそう」

「え、魔石を? えっと……魔石って燃えるの?」

 ロスタードの言葉に、エルレシアは目を丸くする。魔石は……名前の通りに石のはずだが、燃えるのだろうか。

「木や紙みたいな燃え方はしないだろうけどな。魔力があるなら、それなりに役立ってくれるはずだ」

 ロスタードの言葉に、エルレシアは首を傾げるしかできなかった。

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