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青蘭学院シリーズ

初恋

作者: 高原 涼子

友人需要があったので書いちゃった。

個人的にはロリではないと固く信じたい……!

 ヤバい。

 初対面の際に英弘幸はなふさひろゆきが相手に抱いた感情はまさしくその一言に尽きる。

 その一言に付随する様々な言葉は頭の中をかけめぐっているけれど、それを口に出さないだけの理性は総動員した。

 人見知りしているのか、弘幸の友人の妹の後ろに隠れるようにして、顔をのぞかせている女の子から、目が離せなくなった。少しだけ目尻の上がった大きな瞳は、気が強そうにも見えるけれど、笑顔になるとふにゃりと優しく崩れていく。

 それを見た弘幸の頭の中は、かわいいとかいとおしいとか、そんな単語で占められていた。

 しばらく経って冷静になった時、今度は別の悩み事で弘幸の頭はいっぱいになるのだが、その時はそんなことはどうでもいいことだったのだ。


 ◇◇◇


 弘幸の親友の一人は巨大企業グループの御曹司だ。柔和な笑顔で生来の腹黒さを実に巧く隠しているのを知っている者だけが友人として扱われている。

 その御曹司サマは初恋が実って大変幸せそうであるため、ついうっかりと話してしまった。

「ひとめぼれぇ⁉︎」

 青蘭学院高等部の生徒会室の中に響く声に弘幸は眉を顰めて抗議する。

「声が大きいよ、悠」

「だってユキがびっくりするようなことを突然言うから」

 弘幸の言葉にごめんと口先だけで返した広瀬悠ひろせゆうは、先ほどよりはちいさな声で言葉を続けた。

 今更声を落とされても一番面倒くさい相手が聞きつけてきたから意味はないのだけれどと、苦笑いする。

「えーナニナニ?アタシに隠し事ぉ?」

「その話し方気持ち悪いからやめて」

 一番奥にある生徒会長用のデスクから届く声に対してものすごく嫌そうに答えた弘幸は諦めたというように一年生にして生徒会長を任されている関和己せきかずきを手招きした。

 楽しそうに近寄ってきた和己が近くにある椅子を引き寄せ、背もたれを前に跨いで机を挟んだ向かい側に座る。

「和己ちゃん、お行儀悪いよ」

 悠の指摘にもまあまあなどと言いながら、もちろん座り直す事はしない。

「ちなみに僕に話すと自動的に高槻には筒抜けになるけれど……」

 職員室へ行っているもう一人の幼なじみでもある藤原高槻ふじわらたかきは悠の恋人でもある。元々が幼稚園からの付き合いで、隠し事などほぼした事がない間柄なのだから、伝わることはわかっているよと弘幸もうなずく。

「そこはもう、諦めてるから」

「だったら高槻が戻ってくるまで待てば、悠ちゃんから話す手間も省けるな」

 和己の言葉にそれもそうかと頷いて、弘幸はちいさく笑う。

「付き合いが長すぎて、隠し事すら上手くいかないね」

 悠と和己も笑いながら仕方ないなんて言っているから、その言葉に相手への信頼もこめているのは、その場にいる二人にも伝わっているはずだ。

「話も長くなるだろうから戻ってくるついでに高槻にお茶買ってきてもらおうかな」

 思いついたというように悠がスマホを操作し始め、弘幸と和己もそれに便乗することにした。




「……俺が戻ったら今日は帰るって言ってなかったか?」

 四人分のペットボトルを抱えて戻ってきた高槻が机の上に広がる大量のお菓子を見て怪訝そうに言う。

 悠がおかえりと手を振って、自身の隣の椅子を提供すると、弘幸と和己にペットボトルを渡し、ごく自然にそこに座った高槻は悠に渡すはずのお茶の蓋を開けてから手渡してやる。

「相変わらず甲斐甲斐しいことで」

 揶揄うような和己のことは無視して

「何があったんだ?」

「ん〜、恋バナ?」

 高槻の問いかけに悠が少しだけ首を傾げて答える。

「誰の?」

「ユキの」

 その言葉に高槻は目を瞬かせてしばらく黙り込む。

「……俺、耳は悪くないと思ってたんだけど」

「大丈夫。たぁは耳も良いけど、顔も良いよ」

 言いながら悠が高槻の頬に触れる。

「いちゃつくな、バカップル」

 二人の世界に突入しそうな雰囲気を和己が牽制して、無理やりに本題に戻そうとした。

「アイドル大好き、かわいい女の子大好きなユキの恋バナ、高槻は興味ないのか?」

「あるに決まってる」

 和己の言葉に返事をすると、

「即答かよ」

 呆れたように呟いたものの、和己自身も気になって仕方がなかったので、期待に満ちたまなざしを弘幸に向けた。

「たいした話じゃないんだよ」

 興味津々な三対の瞳が向けられて、弘幸は笑う。

「恋愛するよりアイドルって言ってたヤツの恋バナとか、大したことないわけがないだろう」

「和己はもっともらしいことを言って、ひっかきまわしたいだけだよね」

 心から楽しんでいますと言いたげな和己をあしらうように告げた弘幸は淡々とした口調で続ける。

「悠と高槻みたいにキツい思いするくらいなら、別に恋愛なんてしなくていいと思ってたし、僕としてはアイドルグループの推しメンをテレビで観るくらいで十分だと思っていたんだけどね」


 ◇◇◇


 たまたま暇だったその日、幼稚部に通う双子の姉弟の延長保育のお迎えの時間にちょうどいいから一緒に帰ることにすると言った悠に、気まぐれで付き合って幼稚部の正門まで付き合った弘幸は、懐かしさを覚えていた。

「あの頃は遊具も全部大きかったのに、今見ると意外と小さいんだね」

 悠とそんな話をしながら待っていると、ちいさな女の子の影が走り寄ってくる。

「おにいちゃま〜!」

 そのまま悠の足に突撃してきたのは妹の柚李ゆうりだ。ふらついた悠の背中を支えた弘幸に気づくと、にっこりと笑う。

「ゆきおにいちゃま、こんにちは」

 兄の前ではおてんばな彼女が、お嬢様の仮面をつけた瞬間に、思わず笑ってしまってから

「こんにちは、ゆりちゃん。久しぶりだね」

 挨拶を返したところで、柚李の後ろからのんびりと歩いてきた双子の片割れの祐稀ゆうきが追いついた。

「こんにちは」

「ゆきくんもこんにちは」

 二人ともきちんと挨拶できて偉いねと笑いかけると、それぞれに笑みが浮かぶ。二卵性の双子のはずなのに顔も仕草もそっくりで、それがまたとても可愛いと、弘幸の気分が和む。

「あ」

 園庭の方を振り返った柚李が手を振る。

「さっちゃ〜ん!」

 おいでおいでと呼び寄せて、

「ゆりのおともだち!

 さやちゃんだから、さっちゃんなの」

 悠を見上げて説明する。

 そのままの勢いで振り返った柚李は

「ゆりのおにいちゃま。ゆうおにいちゃまだよ!あとねえ、おにいちゃまのおともだちのゆきおにいちゃま!」

 紹介できるのが嬉しいと、やや高めのテンションの柚李に驚いたのか、ただの人見知りなのか、少女は柚李の後ろに隠れてしまう。

「さやちゃん、こんにちは。僕たちもさっちゃんって呼んでいい?」

 悠がしゃがんで目線を合わせてにっこりと笑顔を見せ、それに倣うように弘幸もしゃがんでみせる。

 弘幸の兄弟は年子なので、正直ちいさな子との触れ合いはどうしていいのかわからなかったから、とりあえず悠に倣うことにしたのだが。

「こんにちは」

 悠の言葉に頷いたあと、ちいさな声が追いかけるように届いて、その子に改めて視線を移した弘幸は、柚李の後ろに隠れるようにして、顔をのぞかせている女の子から、目が離せなくなった。

「さっちゃん、いつも柚李たちと仲良くしてくれてありがとうね」

 優しい悠の台詞に安心したのか、少しだけ目尻の上がった大きな瞳は、気が強そうにも見えるけれど、笑顔になるとふにゃりと優しく崩れていく。

「ねぇ、さっちゃん。ゆりちゃんたちと同じくらい、僕たちとも仲良くしてくれる?」

 弘幸は自分の言葉に驚く。

 考えるよりも先に言葉になってしまったのだ。隣の悠もわずかに驚いた表情を弘幸に向けている。

「おにいちゃまたちも、さやのおともだち?」

 首を傾げて問いかけてくるのに、そうだよと答えると、その日一番の笑顔を見ることができた。


 ◇◇◇


「待て待て待て」

 一息つこうと弘幸がお茶を口に含んだ瞬間を狙ったかのように和己が言葉を挟む。

「なに?」

「その話、続くと保育士さんが出てきたりする?」

 念のため、というように問いかけられて、

「……出てこないけど?」

「デスヨネー」

 知ってた!と自暴自棄ヤケクソぎみに口にしてから和己は机に突っ伏した。

「幼稚部とか出てきた時に、すごい好みの保育士さんがいたとか、そういう話なのかと思ってたんだけど」

 うつ伏せたままボソボソ言う和己は、同意を求めるように悠と高槻に視線を移す。

「そうだねえ。僕もね、幼稚部の話が出た時、あの時先生にお会いしたかなとは思ったよ?」

 和己と悠の言葉にきょとんとした後に、弘幸はくすくすと笑う。

「……僕、そもそも年上は好みじゃないの、みんな知ってるよね」

「そういう問題か?」

 沈黙を貫いていた高槻が思わず、と言った風に声を上げる。

「さっちゃんって、アレだよな?俺は会ったことはないけど、ゆりと異様に仲良しの」

 幼稚部に弟がいる高槻も、存在は知っている。柚李と仲が良いことに、一人前に弟が嫉妬してみせていたから。

高橋沙矢たかはしさやちゃんだよ。いつきくんとゆりの取り合いしてるらしいね」

 うちの妹、愛されてるね、などと冗談めかして悠が笑う。

 話がズレているのは分かった上で、話しているのは、少しだけ話を聞く時間を先延ばしにしたいと思ったからだろうか。

「さすがに幼稚園児が離れた友達の家に来ることもないから、僕もさっちゃんに会ったのは今回が初めてだったんだよ。ゆりが女の子の中では一番って言うくらい仲良しで、先日は人見知りしていたけど、最後はしっかりとしてた。かわいらしくて、良い子だね」

 悠の言葉に頷いてみせる弘幸が、

「かわいらしくて良い子で、見た目は僕の好みのど真ん中の女の子が、おにいちゃまだよ?

 好きになるかどうかなんて推して知るべしだよね」

 きっぱりと言い切った。

「……お前、年の差わかって言ってる?」

 高槻が一応尋ねてみる。

「十年後には今の僕たちと同い年だね」

「十歳差っていうか、幼稚園児ってロリコ……」

 和己のツッコミに対して、弘幸が首を傾げて笑いかけると、少々怯えたような表情で和己が黙る。

「うわぁ。怖いもの知らずを笑顔だけで黙らせちゃった」

「今は年の離れたお兄ちゃんでいいんだよ。十年後には僕のことを好きになっていてもらうから」

 弘幸は笑ってさらりと宣言する。

「若紫かよ」

 源氏物語の一帖を思ったのか呟いた和己の言葉に悠と高槻も顔を見合わせて頷きあう。

「まあ、そういうわけだから」

 手も口も挟むなと告げた弘幸に、

「頼むから暴走だけは絶対にするなよ」

 高槻が告げる。

「しないよ」

 言い切った弘幸を三人は見守ることにしたのだ。




 ひとめぼれからはじまった恋の、出会いの話である。

いかがだったでしょうか?

個人的には年の差カップルの出会いの話なので、ロリではないのです。

これの続きは軽く10年後とか13年後とかになってしまいますが、需要ありますか?

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