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Relate/昏睡王女の転生譚《リスタート》  作者: いんだよう
第二章 シュヴァリナ編
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二章の終 『三人が知らないところでは……』


 ミスラたちが発ってから一日後──


 早期の復興を目指し、騎士団と国民らが協力し合って作業を頑張る中、誰よりも努力している人物がいた。


「そこで一回転! からのポーズ!」


「は、はい!」


「遅い遅い、遅すぎるよ!」


「すみません!」


「水分取ってもう一回!」


「はい!」


 場所は地下訓練場。二十年で染みついた謎のプロ意識を見せるエリザベスが先生となり、アムネシアを一からアイドルにするためビシバシ鍛える。


「今日は徹底してダンス技術を磨くよ!」


「はい!」


「アムネシアにはすぐ習得してほしいから、ここからはもっときついよ! 覚悟してね!」


「はい! お願いします!」


 償っても償いきれないアムネシアは文句一つ言わず、がむしゃらにエリザベスの指導についていく。


 普段は使わない筋肉や体の動きが体力を削り、終わったあとはアムネシアでも仰向けで寝た。


「もう疲れたの?」


「い、いえ……大丈夫……です」


 息切れしたまま立ったアムネシアだが、脚に力が入らずエリザベスに支えられる。


「大丈夫じゃないよね」


「す……すみません……早く……お母様に追いつかなければなりませんのに……」


「無理はしないで休憩を挟むよ。万全の状態じゃないと効率悪いからね」


「……はい……ありがとうございます」


 焦る気持ちが先に突っ走るが、技術や体力、精神力だけでなく慣れが必要な仕事。やる気とは裏腹にそう簡単にできることでもない。


 このままじゃだめだと反省するアムネシアの側に、余裕の笑顔を見せるエリザベスが座った。


「随分しおらしくなっちゃって……どうしたの? 前までは『お兄様は渡しません』って感じで頑固だったのに」


「……反省してるんです。……わたくし感情のコントロールが難しく、また暴走しないようこれからは抑えようと思いまして」


「ふ〜ん……だから、キョウヤくんに伝えるのも直前でやめたんだ」


 痛いところを突かれたアムネシアは薄っすら桃色に頬を染め、エリザベスの反対方向に顔をそらす。


「……はい。振られたらもう立ち直れません。死ぬしかないです」


「極端だなー」


「自分でも制御しきれないんですよ。感情を」


 元々感情が豊かなアムネシアは、自分で暴走を止めることができなかった。


「ただ、シュヴァリナを壊滅までさせた記憶がないんです。ずっと海の底へ沈んでいたような……」


 記憶を思い返そうとしても、浮かぶ光景は暗黒の世界と常闇の大海。それがなにかも不明。

 だが確実になにかはいた。思い出そうで思い出せない。靄がかかったようにシルエットだけチラつくが、その姿を捉えることは不可能。


 痛む頭を片手で押さえながら、顔を歪ませて探るアムネシアに、エリザベスが微笑みかける。


「覚えてないならしょうがないよ」


「どうして……わたくしを信じるのですか。全て言い訳にすぎないかもしれませんのに」


「誰よりもわかってる。だってアムネシアは私が産んだんだから。理解はしてるつもりだよ」


「でも……わたくしはお母様の右手を奪ってしまいました! もう剣は振るえないじゃないですか!」


 抑えていた感情がこぼれた。怒鳴ってしまったと後悔し、深呼吸をして落ち着かせる。


「すみません。少し取り乱しました」


「全然いいよ。だって、私を想ってくれてるからこその怒りでしょ? 私が傷ついて悲しいから怒ってくれてる。怒りは悲しみから来るからね」


「──っ」


 図星を突かれてアムネシアは押し黙った。


「罰されなきゃ赦されないと思ってるんだよね。でも、少なくとも私はもう赦してる」


「お母様……」


「それに、罰ならあの人が死ぬほど与えてくれるから。全く気にしなくてもいいよ」


 エリザベスが指差した方へ首を向けると、怒りのオーラ溢れるレークスが歩いてきていた。


「お、お父様……」


「さて、休憩は終わったな? 俺も時間が空いたから剣と魔法を鍛えてやる」


 指や首を回してポキポキと鳴らし、覚悟しているアムネシアですら萎縮してしまう。


 座ったままグーサインを作り、エリザベスがアムネシアへウインクを飛ばす。


「ね? レークスが私のために怒ってくれる。すごい嬉しいから私は止められない。頑張って」


「が……頑張りますわ」


「さて……どう絞ってやろうか」


「お……お手柔らかにお願い致します」


 お手柔らかになど全くならず、鬼畜訓練を死に物狂いでこなし、アムネシアは生還を目指した。



◇◆◇◆◇



 片手で軽々と持ち上げた瓦礫を電圧でチリ塵にし、和装を纏う金髪の美女はため息をこぼす。


「ないか……まさか魔族が? いや……ローランの話では撤退したと言っていたな。だが見つからん」


 アーデルハイドが捜索に専念し、どこへ行ったのかと脳内を模索したながら探していると、


「姉、見つかったか?」


 妹であるアリシアが空中から降りてきた。


「ここ一帯はくまなく探したが……なんらかの手段で魔族が持ち出した可能性が高いだろう」


「それは……まずいな」


「ああ。確定ではないが警戒しておくに越したことはない。土属性部隊以外の団員は魔力を温存しておくよう通達しておいてくれ」


「姉様が直接言えば良いのでは? 団長が『呪剣』捜索など地味な作業では団員に示しがつかない」


 以前はアリシアがアーデルハイドを敵視していたため、あまり会話をすることがなかった。

 だが、とある事実を知って以降、アリシアのアーデルハイドへの認識が改まったのだ。


「私は地味な仕事をやりたい気分なのだ」


「……どうして?」


「今は各々が行動し一刻も早く国を再建させねばならん。即ち指揮官の重要性は薄い。暇ができれば嫌なことを思い出してしまうだろう」


「そんなにあいつがいいのか?」


 アーデルハイドはポッと頬を染める。


「……悪いか? ……ローランが好きで」


 アリシアはローランに散々な目に合わされている。それを好きというアーデルハイドが正直信じられない。


「あいつだけはない。私は御免だ」


「それは安心した。もう姉妹喧嘩はしなくて済みそうだな」


「……これまでは反省してる。私の勝手な劣等感で姉を一方的に嫌ってきた」


「ならば私も謝らねばならん。長年お前が感じていたことを気付いてやれなかった」


 向い合って同時にお辞儀し、顔を上げると示し合わせたかのように握手した。


「今はまだ足元にも及ばないだろうが、これまで以上に鍛錬を重ね、いずれは必ず勝つ」


「楽しみにしているぞ。私も鍛錬を欠かさぬがな」


 アリシアが鼻先でせせら笑う。


「恋沙汰に夢中な姉など容易く超えられる」


「むっ……否定はできん。ローランのことを考えて夜も眠れんしな。夢でもローランが出てくる」


「……重症だな。恋の病とでも言うべきか?」


「ふっ、うまいことを言う。そんなものがあれば間違いなく私は重症だろうな」


 前は冗談など乗ってこなかった。変わったアーデルハイドが意外で、アリシアは目を丸くする。


「さて、では私が向かおう。多くの人と関われば思考を使わずに済む。アリシアは休息を取っていてくれ」


「わかった」


 関係性が良くなったことを嬉しく思いつつ、アーデルハイドは団長として現場の指揮と情報交換、働き詰めだったアリシアは一時休息。


「休息、という名の魔法鍛錬でもやるか」


 空いた時間を有効活用しなければ、遥か高みにいる姉には到底勝てない。

 魔力の『回復力』や『支配力』を上げるため、魔力消費を極限まで抑える訓練を始めた。


「まずは低級からだな」


 焦らず最初は低級の消費を減少させる。低級とはいえ並大抵の苦労ではないが、毎日の積み重ねが力となることは確かだから。



◇◆◇◆◇







 人族と龍族が暮らす大陸ブリタニアと、極寒の大陸ソレイユの間に浮かぶ小さな島──ケーラ。


 ソレイユの近くということもあり、一年中真冬のように寒いケーラに二つの魔力が上陸した。


 一面が氷で覆われている海の上を高速で移動していた魔力が止まる。渡り終えると、止まっていた海は元の姿に戻っていた。


 薄暗い森林の道なき道を掻き分けながら進んでいくと、樹の一つもない拓けたエリアに到着する。

 中心には、この場に似つかわしくない繊細で透き通った二メートル超はある巨大な水晶。否、水晶に見えるそれからは、物質が持たざる魔力が漂う。


「お待たせして申し訳ございません。全ての準備は整いました」


 顔の半面が爛れている灰髪の魔族が、水晶のようなものへ丁寧にお辞儀する。

 隣に立つ紺青髪の魔族も渋々頭を下げた。


 シュヴァリナでは数々の想定外があったが、特に最悪だったのは魔王パズズの復活。

 危うく計画が台無しになるところだった。


 だが、無事にパズズは倒され、そのあとに現れた正体不明の存在によって人族は見失う。

 おかげで当初の予定通り、全員が戦闘に集中している隙に命懸けで回収できた。


 灰髪の魔族──パンドラが血濡れた剣で自分の左腕を断ち切る。

 勢いよく噴射された鮮血を喰らい、血濡れた剣であり『呪剣』でもある神器<ダインスレイヴ>がパンドラの魔力を格段に高めた。


「さぁ……今封を解きます」


 広大な海を二十年もの間探し続け、十二日前にパンドラが発見したもの。それが、巨大な水晶──『魔を超越せし者』が封印されし結界だった。


 増幅した魔力を全て注ぎ込み、パンドラは強化された裏の魔法を発動させた。


「<犠牲崩壊サクリファイスディケイド>」


 詠唱の直後──ドクンと結界が脈動する。


 二十年前、アーサーの家族が命を賭した封印系結界。さすがのパンドラも解除は容易ではなかった。

 生まれつきの膨大な魔力をさらに強化した魔法でさえも、それだけでは崩壊まで至らない。


 だが、封印されたものがパンドラを遥かに超越する化け物であればその限りではない。


 繊細な水晶が外部と内部から闇に包まれ、ボロボロと音もなく溶けるように崩れ去った。



 ──それは、平伏するパンドラに目を配らせる。



「……腕を治そう」


「ハッ、無上の喜びにございます」


 左腕があった箇所から絶えず血を流し続けるパンドラへ手をかざす。淡い光が染み込むように断面に当たり、失った腕が元に戻った。


「この時を待ち焦がれておりました。──ナイアルラトホテプ様」


 白と黒の対極に分かれた髪色。燐光のような青白く光る左眼に底のない常闇の右眼。

 魔族の象徴たる二本の角と、他の魔族とは一線を画す美しい漆黒の肌。

 これ以上はない完成された超絶美系。


「パンドラには感謝せねばな」


「恐悦至極に存じます」


 魔王に与しない魔族の中でも異質なパンドラが、唯一付き従うナイアルラトホテプという男。


 目覚めたばかりのナイアルラトホテプに、平伏するパンドラが現状の説明を始めた。


「現在二名ですが、ノーデンスを追跡するダエーワとアスラを含め合計四名です。『呪剣』奪取の犠牲となった幹部が二名おり、想定より数を揃えられませんでした」


「問題ない。俺が借りを返す」


「ですが、まだ魔力が戻らぬのでは」


「心配は無用だ」


 一言だけ置きナイアルラトホテプの姿は消える。



 人族の解放から二十年の歳月を経て──




 魔族の王たる第六天魔王すら敵わない存在。魔族を逸脱した『魔を超越せし者』が解き放たれた。




二章完。前期ラスボスは世界に舞い戻る。


実はナイアルラトホテプ、『聖剣使いの英雄譚』にて力の一端を見せています。本気は出していないので読まなくてもミスラの物語に影響はあまりないですが、アーサーとの因縁がとてつもなく深いキャラですね。

三章ではどんなことをやらかしてくれるのやら……。

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