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Relate/昏睡王女の転生譚《リスタート》  作者: いんだよう
第二章 シュヴァリナ編
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二章ノ17 『犯人はこの中にいる!!』


「は?」


 どういうこと?


「私の記憶では……このドームの入り口付近で寝ていたところから始まっている」


「記憶はあったんじゃなかったのか?」


「……ローランと会った時には記憶があった気がするが、それがなにか思い出せん。すまない」


 これまでのアリスは、なにか伝えたいのに言えない、という感じだった。でも、今は記憶がなくなっているようだ。


「ステラちゃんがローランから離れたのはいつ?」


「そうだな……『呪剣』探しが終わり、昼休憩時にローランがドームを去った。魔族が攻めてくる前だが、まるで侵攻を予言しているようだったな」


「予言ってどういうこと?」


「これから危険になるから足手まといの私は連れていけない、と言っていたな」


「魔族が来る前に?」


 アリスは肯定するようにこくりと頷く。


 そんなことがあったとは知らなかった。


「ローラン、どういうこと?」


「シュヴァリナ付近の森でパンドラの魔力を感知した。聖騎士団副団長に聞けばわかる」


「副団長さん?」


「パンドラとの抗戦中に遭遇した」


「なるほどね。レークスさん、副団長さんは今どこにいるんですか?」


「エリザベスと一緒に復興作業の指揮をしてるはずだ」


 暇な聖騎士団はみんな仕事中だもんね。今すぐ呼ぶってわけにもいかないかな。


「ならあとで話を聞きましょう。私はローランを信用してるので大丈夫だと思いますし、確認だけならすぐ終わりますから」


「そうだな、もうじきエリザベスと一緒に帰ってくるだろう。俺から直接声をかけておく」


「ありがとうございます」


 ローランは怪しいし、なに考えてるかわからないけど、少なくとも悪い人ではないからね。


 残る問題は、


「……ローランがいなくなって、アリスちゃんはそのあとなにしてた?」


「廊下を一人で歩き、エリザベス王妃様たちと昼をご一緒させてもらったな。それから部屋に戻り、ローランたちが帰るまで一人だった」


「次の日には連れ去られたアムネシアちゃんを救出してたから、その時間も一人だったってことだよね?」


「その通りだ」


「……記憶がなくなったのはその時間のどこかってことかな。けどそうなると……ドーム内にいる何者かの仕業ってことになるね」


 廊下を歩いている時と部屋にいる時、そのどこかで記憶を奪われた可能性が高い。


「あっ、ちょっと待ってやり直すから」


 ──完全に忘れてたよ。


 音を立てて勢いよく立ち上がり、ビシッと部屋の天井を指差して私は言い放つ。




「犯人はこの中にいる!!」




 シーンと場が静まり返る。


「ふぅ〜」


 全力でやりきった私は、汗も出てないのに腕で額を拭く仕草をし、満足して椅子に座った。


「い……今のは……」


 レークスさんは明らかに困惑し、キョウヤはなにか思い出したように「あっ」と口に出す。


「名探偵のやつか」


「認識うっすぅ」


 私が死んでからもう十五年経ってるんだもんね。完結しててもおかしくないかぁ。


「……なんでもないです。続けてください」


 ぐすんと出てもいない鼻水をすすり、しょぼんと猫背になってレークスさんにバトンを渡す。


「えっと……ドーム内ということは、聖騎士団に魔族が紛れ込んでいるのか? さすがに魔力までは偽造できないと思うが……」


 レークスさんの言う通り、魔族と人族の魔力の質はまるで違うため、探知すればすぐにわかる。

 だからそれはないだろう。


「アリスちゃんの記憶を消したのは魔族じゃないと思いますよ」


「なに? どういうことかな?」


「だって、魔族が攻めてくる前からアリスちゃんには魔法がかけられていましたから。アリスちゃんが聖騎士団団長でも違くても、魔法で制限があったことは確かです」


「だが……まさかこの国の誰かがやったとでも?」


「あくまで私の考えですが」


 無理やり考えれば魔族の可能性もゼロじゃない。

 攻めてくる前から潜入済みだった。幹部の中には記憶と魔力を奪え、さらに──あれ?


「……アリスの記憶を奪ったのと、素性を話せなくして魔力を奪った犯人は別かもしれませんね」


「──確かにそうだな。記憶を奪えるなら、素性を話さないようにする、なんてわざわざ大変なことをしなくていい」


 二人いるのかもしれない、という私の理論にその一人だけは反論する。


「それはないだろう」


 ローランが言葉を発した。


「え?」


「術者は一人で間違いない」


 確固たる自信があるように断言する。


「どうして? 一人なら記憶を奪う必要は……」


「記憶は徐々に消えていった」


「……確かにその可能性もあるけど、どうしてそう思ったの?」


「ドームに来た時はまだ地下通路の記憶はあった。が、レークスやエリザベスのことは覚えていなかった」


「──っ!」


 通路を知っているから国の関係者であるのは確実。なのに、自国の王や王妃、王子や王女を知らないなんてことはありえない。


 今思い返せば、レークスさんにため口だったり、信仰してるエリザベスさんに反応してなかった。


「レークスさん、団長さんは普段からため口で話してますか?」


「いや……きっちりしすぎなほどの敬語だな」


「やっぱり術者はローランが言う通り一人ってことか。でも……魔力を全て奪って記憶を少しずつ消し、素性に関するあらゆる行動を禁止するって……そんな魔法使える人いるわけないよ」


「……他者の魔力を奪う魔法を使う奴がいれば、今頃この世界はそいつに支配されてるな」


 レークスさんの言う通り、魔力を全てなくすことができちゃえば、さすがに最強無敵すぎるよ。


「だが、一度きりしか使えない。かはわからないが、なんらかの重い制約があるだろう」


「だよね。そうなればローランの説が一番有力になるか」


「問題は何者なのかだが……」


 ローラン、レークスさん、私が頭を悩ませる。キョウヤだけは、授業内容が理解できてない生徒みたいにポカンとしていた。


 すると、なにかひらめいたようにレークスさんがトンとテーブルを叩く。


「術者に繋がるかどうかはわからないが、団長であるアーデルちゃんには妹がいてな、それが副団長のアリシアちゃんなんだ」


「えぇ!?」


 知らなかった新事実に、驚愕の声が思わず漏れ出てしまう。


「姉のアーデルちゃんには対抗心を燃やしていたな。常日頃から、あの姉なんかに負けない、と鍛錬を頑張っている。その姉が消えてしまったが」


「さっきも副団長のアリシアさんが出てきましたけど、話を聞く限りだと一番犯人っぽくないですか? 邪魔な姉を消したかったとか」


「それはないだろう。副団長としてシュヴァリナのために尽力をしてくれている」


「そうですか? でも、今すぐ呼んできた方が話し合いも進むと思いますよ」


 と、私が言ったところで、この部屋のドアがガタンと開く音が耳に入ってきた。


「おっと、噂をすればなんとやら、だね」


 もう夜も遅くなったため、復興作業を終えたエリザベスさんとアリシアさんだ。

 アリシアさんは報告のためだろうけど、帰宅するタイミングばっちりすぎやろ。


「報告します! 全壊した民家の修復及びその持ち主である住民の食糧補給完了しました!」


「大まかな復興作業はもう終わったよ」


「二人共報告ありがとう」


「では、私はこれで失礼します!」


「ちょっと待った」


 種を返そうとしたアリシアさんを、レークスさんが声をかけて止める。


「どうされましたか?」


「副団長……アリシアちゃんに聞きたいことがあるそうなんだ」


 アリシアさんの目線と私の目線が合う。


 何回か見かけたことはあるけど、話したことは一度もない。

 とりあえず笑顔で手を振ってみる。


「ど、どうも」


 ペコリと頭を下げてきた。

 顔を上げてローランを視界に捉えると、アリシアさんは驚いたように目を見開く。


「なっ……なぜお前がここに……」


「話を聞きたいのは俺たちだ」


「質問の答えにはなっていないぞ」


 ローランは質問に対して返答しないので、私が代わりに答えておこう。


「私たちは第六天魔王を倒そうと思ってるんだけど、その報告と戦力確保のためにシュヴァリナとエトワールを回る予定なんだよ」


「第六天魔王を討伐する、だと……そんなことが可能なのか?」


「とりあえず自己紹介からしようかな。私はキャメロット第二王女ミスラっていうよ」


「えぇぇ!? ああああのミスラ様!? 英雄アーサーの娘で神の使いとまで噂されるあの!?」


「あ、いや、うん……それで間違ってはないけど……様とか神の使いはやめてほしいなぁ」


 その話なに? 有名なの?

 お父さんがレークスさんに手紙を送ったのは知ってるけど、情報流出しすぎじゃないかな。


「ももも申し訳ございませんでした!! 先程は知らずに偉そうな態度を取ってしまって……」


「いや、あの……堅っ苦しい態度とかはやめてほしいんだけど……敬語使わないとかできない?」


 アリシアさんはポカンと目を丸くした。


「やはり……噂通りの人格ですね。エリザベス王妃様の次に尊敬するお方に敬語を使わないなどできませんが……少々待ってください」


 胸に手を当ててアリシアさんは深呼吸をする。


 ん? エリザベスさんの次に尊敬するとかなんとか今言わなかった?


「……これで緊張も多少ほぐれました。なるべくですが、堅苦しい言動は控えることにします」


「それよりも……別の国の王女だけど、エリザベスさんの次に尊敬するとか聞こえたような気がしたんだけど」


「はい! レークス国王様が話しておられたので存じていましたが、話を聞けば聞くほど素晴らしいお方だと思い、ぜひ一度会ってみたいと思うようになりまして……今も興奮して手の震えが収まりません。感激の極みです!」


「そ、そうなんだ……」


 そこまでの熱量で言われるとどう反応していいのかわかんないけど、悪い気はしないかな。

 ただ、一応シュヴァリナ国王のレークスさんが泣きそうだからやめたげて。


「あっ、申し訳ありません。つい感動して力が入ってしまい……私に聞きたいことがあるのでしたね」


「そうそう、長くなりそうだから座ってね」


「はっ、ミスラ王女様の質問にならなんでも答えますよ。スリーサイズから今履いている下着の」


「そういうのいいから!」


 変なことを口走るアリシアさんが座ったところで、早速本題に入ることにした。


「スリーサイズとかより答えにくいかもしれないんだけど、お姉さん兼団長でもあるアーデルハイドさんについて聞いてもいいかな?」



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