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Relate/昏睡王女の転生譚《リスタート》  作者: いんだよう
第二章 シュヴァリナ編
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二章ノ14 『迷宮超速攻略』


 第四地区に入ってすぐ、地下鉄の入り口のようなものが見えてきた。


「普段なら土属性と炎属性を一人ずつ見張りにつかせているが、昨日の戦いで不死の軍勢相手に魔力を使いすぎて休息中だ! 許可はいらねぇぞ!」


「ネクタールは障害解除をお願いね!」


「うん!」


 減速せずネクタールを先頭に迷宮へ突っ込む。


 階段の途中の二箇所は石で塞がれていたが、ネクタールが連続解除して止まることはない。


「入るとき以外は魔物が入ってこれないように入り口は塞いでるんだよ」


「仮に壊されても見張りの土属性が直し、緊急事態が起きても炎属性の合図で対応している」


 エリザベスさんとレークスさんの説明を聞きつつ、行く手を遮る魔物を通りすぎながら斬る。


「この迷宮って全何回層ですか?」


「中規模だから十五階だよ」


「シュヴァルツ迷宮って名前だ」


「十階層から超級いるから気をつけてね!」


「了解です!」


 中ボス的なやつかな。超級程度なら瞬殺だ。


 中規模迷宮なら一人で攻略可能。実際、私を含めた六人で駆け抜けると、一階層攻略には十秒とかからなかった。

 攻略したことがあるレークスさんたちの案内で道もわかり、二階層に来るやいなや数秒で三階層。


 あっという間に十階層かと思えば、出てきたのはゴブリンチャンピオンとキング。でも、どっちも上級だったはずだから他にいるってことか。


「十階はゴブリン階とかゴブリンの巣とか呼ばれてる。この意味がわかるか?」


「ロードですね」


「来るぞ!」


 チャンピオンやキングが複数に、杖を持ったメイジやちょいデカのホブゴブ、剣のソードに弓のアーチャーなどがいる。


 基本的にゴブリンはキングに従う。だが、ロードは格上のキングやチャンピオンであろうと、ゴブリンである限り支配し操る能力を持つ。

 しかも、支配したゴブリンの身体能力は倍以上に向上するという、超級でもオーガより厄介。


「まっ、所詮は超級だけどね」


 レークスさんの<絶対零度アブソリュートゼロ>でロードを含めて全員凍り、私が<ワズラ>で粉々に破壊。


「ここからは魔物のレベルも上がるが、魔力消費は極力抑えつつ速度は落とさずに!」


 指示を出すのが妙に様になっているエリザベスさんだけど、元解放軍軍団長らしいから当然だ。


 魔物を放置しておくのはもったいない。アムネシアちゃんを連れ戻したらキョウヤに運んでもらおう。

 ロードの上質な肉は絶対確保しときたいし。


 十一階層からオークやトロールなど上級が増え、オーガやベヒモスなど超級もたまにいる。

 それらは瞬殺だけど、アンデットはほんとやめてほしい。

 上級だとデュラハンとかファントム、超級にはスペクターとかリッチが出てきた。


 ──ファントムは特にだめ。


 ただでさえ怖いのに、ファントムの能力は恐怖心を倍増させる。対処法は、出会ったら耳と目を塞ぐ。


 と、そんなこんなでファントムに怯えながら進むこと数分で、十四階層の階段を降りていた。


「あれ? いつの間に……一瞬だけ意識が飛んでたような気が……」


「覚えてないのか? ファント厶の能り」


「やめろ!!」


 なんだろう。よくわかんないけどキョウヤの言葉を最後まで聞いちゃいけない。

 私は記憶を抑えるように頭を押さえる。


「もうなにも言わないで、ここに来るまで特になにもなかった。いいね?」


「お、おう。裏社会の人間みたいな台詞だな」


 階段を降りると、その先は行き止まりだった。


「この向こうにいますね?」


「ここは迷宮の主の部屋に繋がる門だったはずだが……」


「早速壊しますよ」


「多分気付かれてる。奇襲が来るから警戒してね」


 振りかぶった<ワズラ>を千倍にしてぶつける。


 盛大に壁が崩れる──と同時に、膨大な魔力が膨れ上がって私たちに放たれた。

 突然の<絶対零度アブソリュートゼロ>に対応が間に合わず、私たちは凍りつく。


「……この程度で死なんだろう」


 躊躇なくとどめを刺しにくるマーラを、災害級の氷を溶かした灼熱の業火が襲う。

 飛んで避けられたが、凍結した全員を解放する。が、ローランだけは凍っていなかった。


 パンドラとマーラの真後ろの壁の中から現れ、『無我の刹那』で<デュランダル>を引き抜く流れで二人を斬り裂く。

 危なげなく回避されたが、二人がどいたことでアムネシアの姿を捉える。


 ──それは、あまりに無惨な姿だった。


 整っていた顔は肉が見えるほど抉られ、手足の爪が全て剥がされて血まみれ。両肩両太ももに矢が貫通し、伸びていた髪も引きちぎられ短い。

 首、手首、足首、に枷がはめられ、お腹に数えきれない斬り傷。瞳は虚ろで、ビクビクと痙攣のように体が動く。まるで悪夢を見続けているような。


「貴様らぁ……」


「解放軍の仲間も何人殺した──。私たちの子供にまで手を出すのか……」


 怒り、憎しみ、許せない、その感情がこの場で一番高かったのは、レークスさんやエリザベスさん、ネクタールさんでもなかった。

 誰よりも早く地面を蹴り、マーラとパンドラの顔面を殴り飛ばす。


 私や魔族の二人も含め、誰もが予想だにしなかっただろう。

 まさか、一番戦闘慣れしていないキョウヤが先陣を切って一撃を食らわせるなんて。



◇◆◇◆◇



 立ち上がったマーラとパンドラも、驚いたように突っ立っている。

 ミスラたちも呆然として動けず、殺し合いの最中とは思えないほど静まり返った。

 沈黙を引き裂くように、キョウヤがパンドラとマーラを睨んで口を開く。


「まだ十四歳だ……なんで……そんな残酷なことを……なんで……なんで、そんなことすんだよ」


 アムネシアを見るその瞳からは涙がこぼれ、拳を握りしめて荒ぶる感情を鎮める。


 キョウヤの過去になにかあるわけでもない。

 それが、『勇者』に選ばれた理由だからだ。


 ──他者を真に思える心。


 誰よりもそれが強く、赤の他人でも関係なく幸せになってほしいと願う。

 キョウヤは自覚はしていない。生まれつき持っていたものだが、地球ではそれが表に出る機会が少なかった。


「許せねぇよ。なんだよお前ら……理不尽に、なにかを奪おうとするんじゃねぇ!!」


 勇者は自分のためには戦わない。人のため、誰かのためと思うほどに、成長は加速し進化する。


 空間を渡って移動し、マーラの背後から<ブンドゥギア>で左脚を撃ち抜く。


「がっ!」


 突如足から流れる血に困惑しつつ、マーラは<絶対零度アブソリュートゼロ>を使う。が、分解されて消えた。

 落ちていた<レーヴァテイン>をローランが拾ったのだ。


 別の場所に移したかったが、パンドラですら<レーヴァテイン>には干渉できない。取ってくださいと言わんばかりに置いてあった。


「くっ」


 氷属性で速度がないマーラは、ローランと一対一では間違いなく勝てない。


 このままとどめ、といければ良かったが、動かなかったパンドラの魔法が完成していた。


「さすがにこの人数相手に真っ向勝負しないよ〜」


 迷宮全体を闇で覆い尽くし、パンドラは特大規模の魔法<深淵迷宮世界ゼルラビリュストワールド>を発動する。


「じゃ〜ね〜ばいば〜い。キャハハハハ!!」


 気味の悪い高笑いが響く。


 キョウヤの「絶対助けてやる!」という叫びが途切れ、気付けば全員がバラバラになっていた。



◇◆◇◆◇




 真っ暗でなにも見えず、魔力探知をしても周りからはなにも感知しない。

 迷宮内にいるはずだが、半径数百メートルに魔物が一匹もいないのは妙だ。


「……どこだここは」


 しばらくすると暗闇に目が慣れ、辺りを認識できるようになる。

 レークスが飛ばされた場所には植物がたくさん生えていた。


「魔族はどこいった……? 見つけたら殺す」


 魔族やアムネシア、エリザベスを捜索しようとしたレークスだが、前方から魔力を感知する。


「さっきまではなにもなかったはずだが」


 まるで、その場で生まれたかのように出現した。警戒しつつも慎重に近づいていく。


「──っ」


 まさか、と思いレークスは立ち尽くす。

 後ろ姿でも見間違えるはずもなかった。


 レークスに似た青髪をエリザベスのようにすらっと伸ばす。振り向いてくると、その瞳とレークスは見つめ合う。

 どこかエリザベスに似た雰囲気。自分に似た顔を持つ碧眼の女性を見て確信した。


「母ちゃん……なのか」


 記憶は定かではない。だが紛れもなく、三十年前の解放軍の任務中、魔族に殺されたレークスの母だった。


「なんで……生きて……」


 レークスがまだ五歳の頃の、生前と変わらない姿で母は優しく微笑む。


『レークス、おいで』


 両手を広げて柔らかい口調で言う母に、レークスはふらふらと歩いていく。


 優しい笑顔の母の前で立ち止まると、レークスはおもむろに手を振りかぶって、


「んなこと母ちゃんが言うわけあるかぁぁ!!」


 おそらく魔族に作られた幻想と言えど、仮にも自分の母親をぶん殴った。


「おたくはどこの母ちゃんだよ! 俺の母ちゃんはそんな風に微笑んだことありませーん!」


 吹っ飛んで倒れた母にレークスは手をかざす。


『え? ちょま』


「母ちゃんはがさつで乱暴なんだよ!」


 抵抗もせずに凍結した母を踏んづけて粉々に割ると、闇に紛れるように消えていった。


「……あれは……俺の理想の母ちゃんだな」


 包容力のある母親というのも、子供の頃から体験してみたいとレークスは思っていた。


「でも……乱暴で俺の髪をぐしゃぐしゃにしてきて、歯を見せて笑うのが俺の母ちゃんだ。包容力ならエリザベスがあるからもういいんだよ」


 自分の母はあのままがいいと想いながら手を合わせ、思い返してレークスは笑みを浮かべる。


「さて、ひとまず誰かと合流するか」


 迷宮が組み替えられたことで、レークスでも地理が全くわからなくなった。

 とにかく探知を使いながら歩を進める。



◇◆◇◆◇



 どこか部屋のような場所に飛ばされたエリザベスの前には、椅子に座る水色髪の女の子がいた。


「これは……」


 あまり見覚えのない顔だが、それが誰だかエリザベスはすぐにわかった。


「……昔は鏡がなかったから見覚えはないけど」


『三十年前は鏡なかったからね。自分の顔は水辺でしか見たことないのによくわかったよ』


 目の前で無理に元気を装って笑う九歳の少女は、エリザベスにとって三十年前の自分自身。


『レークスに出会う前のエリザベスだよ』


「だと思ったよ。それで、なにか用?」


『辛辣だね。せっかく自分と話せるのに」


「早くアムネシアを助けなきゃいけないから」


『それよりさ、周りをよく見てみてよ』


 九歳エリザベスが座る椅子と机は、手作り感満載にガタついている。

 ゴブリンやオークなどの肉が壁に立てかけてあり、天井には穴が空いて雨を凌げそうにない。


「……叔母さんの家だね」


『思い出した? 両親が死んだあと面倒を見てもらった叔母さんの家だよ』


「御託はいいよ。結局なにが言いたいの?」


『わかってるでしょ? 私は貴女なんだから』


 黙って答えない現在エリザベスを見て、九歳エリザベスの表情から笑顔が消えて椅子から飛び降りる。


『怖いなら戦わなきゃいいじゃん。逃げればいいじゃん。臆病なんだから諦めようよ。アムネシアを助けるなんてできっこないよ』


「…………」


『ずっと叔母さんと暮らしていれば、仲間が魔族や魔物に殺される日常を見なくて済む。後悔してるんでしょ? 私は解放軍に入らないよ。今の私を見てそう決めた。叔母さんと暮らす方が幸せに』


「私の癖になにもわかってないね」


 九歳の話を現在が遮った。


『なにがわかってないの? わかってないのはそっちだよ』


「君は心のどっかに眠ってた私だね。奥にしまって見ないようにしてた私の葛藤」


『そうだよ。私はずっと後悔を』


「良かった。気が楽になった」


『は?』


 なにを言ってるんだ、と言うかのように、九歳の口がぽかんと開いた。


「悩んでたよ。……だから出すのが怖かった。でも、魔族の魔法かな? 無理やり出てきちゃったんだね。──おかげで安心できた」


『あん……しん……?』


運命の人(レークス)と出逢えばわかるよ。少なくとも今の私の中には……もう後悔はなくなってた」


 曇りなき、迷いのない眼差しを向けられ、九歳は動揺したのか床にぺたんと尻もちをつく。

 頑張って作っていた笑顔も剥がれ、床にポツポツと水滴を垂らす。


『ほんとに……そんな人が、来るの……?』


「うん。年下なのにめちゃくちゃ強くて……才能もあって、一緒にいて……喋っていて楽しい少年がね」


『でも……』


 九歳の姿からいつの間にか変わっており、解放軍副軍団長の頃──十八歳のエリザベスがいた。


『仲間が死んじゃう……毎日誰かが死んでいく……辛い、苦しい、もう耐えられないよ……』


「そっか……私はずっと……かつての私にこう言ってあげたかったんだね」


 ボロボロと涙を流す自分をそっと抱きしめ、子供をあやすように背中をさする。


「本当に……よく頑張ったね。──お疲れ様」


 幽霊が成仏するかのように、かつての自分は静かに消える。周りの景色も、叔母さんの家から岩だらけの迷宮に戻った。


 ──そこへ無数の氷矢が飛来する。


 魔力の接近には気付いており、大渦で自分を囲んでエリザベスは防いだ。


「別れの余韻にも浸らしてくれないんだね」


「……自分で作り出した幻想にすぎんだろう?」


 離れた位置から岩の影に隠れ、神器<バビアス>の能力でマーラは氷矢を連射する。


「魔族に心はないの?」


「……感情など理屈の二の次だ」


 防戦一方になるが、エリザベスは攻められない。

 氷属性が相手では、水属性に勝ち目はない。例え災害級を使っても凍らされて終わりだ。


「……一匹ずつ処理していく。まずは容易く殺せる貴様からだ」



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