一章ノ2 『一応貴族』
タイトルは変更する可能性ありです。
水色髪のイケメンに連れられ、私は王宮殿最奥の大きな扉の前に来ていた。
「兄さん、お姫様が来てるよ」
「よし、すぐ通してくれ」
中から声が聞こえ、ゆっくり扉が開かれる。そこに金髪美少女のミスラ王女こと私が入場します。
最初は王族みたいで──みたいじゃなくて本物──緊張したけど、今はもう慣れ太郎。
広さは、一般的なコンビニの倍ぐらいで、天井は五メートルから十メートルの高さ。広間の真ん中には、丸くて大きなテーブルがある。
一番奥の席には私と同じ金髪の人物。その人物は、私を見ると、立ち上がって歩いてきた。
「よく来たなミスラ」
待っていたのは私のお父さんであり、キャメロットの国王でもある金髪のおじさ──男性。
もう四十近いのに、見た目は二十歳と言っても通用しそうなほど幼い。人族の英雄とも呼ばれるアーサーだ。
「なにかあったの?」
「……ミスラと二人で話したい。ガラハッド、悪いけど席を外してほしい」
水色髪のイケメンはガラハッドと言って、お父さんの弟だから、私の叔父さんにあたる。
「わかってるよ」
お父さんの言うことを予言していたかのように、ガラハッドはすぐに部屋から出ていった。
ドアが閉じたことを確認し、私から話を切り出す。
「……わざわざ呼び出すってことは、どうせなにかあったんでしょ〜?」
「さすがミスラだ。実はな、冒険者ギルドに凄い新人が来た、とドクトルさんから連絡が来た」
「凄い新人?」
「この間ミスラの成人式をしただろ?」
「うん」
「その時に冒険者登録したという、身元不明のローランという少年なんだが」
「あっ」
成人式の日に見た、パレードに興味を示さない人物のことが脳裏に浮かんだ。
──絶対あの人じゃん。間違いないね。
「どうかしたか?」
「いや……大したことじゃないよ。それよりその少年がどうしたの?」
「それがな……ナートゥライトを素材にした魔力を測る水晶があるだろ?」
「クリスタキウムね」
「そうそう。その少年がクリスタキウムに触れると、原型も留めず粉砕したらしい」
「ってことはAランク以上の魔力があるってこと?」
ナートゥライトというのは、解放軍が発見した鉱石。それが、世界ナンバーワンの商会『ディヴェス』に加工され、魔力量を測る水晶として商品化した。
そうそう壊れる代物じゃなかったはず。やっぱり凄い人だったのかもしれない。
「ドクトルさんによると、ミスラと同じぐらいの歳らしいのだが、そんな若くしてそこまでの才能がある少年が、なぜ今まで見つからなかったのか……」
確かに妙だ。もしかしたら転移者とか転生者とか、そこら辺の可能性もある。
──私が直接確かめてみたいな。
「……私が直接見てこよっか?」
「察しが良くて助かる。俺もいい娘を持ったもんだな」
「ありがと〜」
親とゆっくり話し、褒められる。こんなこと日本にいた頃にはできなかった。
今は耐性ができたけど、最初の頃は、嬉しくて泣き出してしまったこともあった。今でも目頭が熱くなる。
「あっ、そういえば、私もお父さんに話さないといけないことがあるんだった」
「お? なんだ。なんでも言ってみろ」
「実は……」
私は懐から金色の鍵を出す。
「それは?」
「異世界から『勇者』を召喚できるらしいものなんだ」
「……勇者……?」
「簡単に言えば、魔王を倒すことができるかもしれない人族のこと」
「なにぃ!? なんでそんなものをお前が持っているんだ!?」
突然大声を出したお父さんに、私が驚いた。
「えっと……オ、オーディン様から貰い受けた」
「オーディン様から!?」
オーディンとは、このアエテルタニスを守護していると言われている神のこと。
本当は地球の女神ダムキナ様から貰ったんだけどね。でも、別の神様の名前を出すわけにはいかないし。
「オーディン様か……そうか……だが、ミスラのことだからそれも頷けるな」
先に言い訳しておくと、自意識過剰のナルシストになったわけじゃない。
私は生まれながらの天才であり、周囲からは神の使いと思われている。
変な知識を持っていたり、私自身が否定していないということが主な原因。
オーディン様とコンタクトを取れてもおかしくないと、一時期は崇められた。
全部前世の知識だし、父親に崇められるとか普通にやだ。
否定していないのは、完全に否定しきれないから。神の使いであることは、あながち間違ってはない。
オーディン様じゃなくてダムキナ様だけど。
「六人目の魔王が生まれるかもしれない。そしたら今度こそ人族は滅亡する。この現状を打開するには、もうこれを使うしかない。だから、今度勇者を召喚しようと思う」
「……そうか」
「そういうわけだから。今日はもう遅いし、明日ギルドに行ってみるよ」
「ああ。手間をかけさせてすまないな」
「私は──いや……もう寝るから」
「もう少し話していかないか、ミス」
お父さんが言い終える前に部屋を出た。ここで振り返れば、延々と話が終わらなくなるのは必然。
──私は、外に出て歩けるだけで幸せだから、手間なんて思ってないよ。
心の中でお父さんに伝え、私は長い廊下を歩いて自室へ向かう。
普通の人がこの世界に転生したら、絶望していたのかもしれない。
でも、私は歩くだけでも嬉しくて楽しい。だから、こんな状況でも今を楽しんで生きているのだ。
──そんな私にも日本に一つだけ心残りがある。
毎晩、ふかふかのベッドの中で考える。周りにイケメンが多くても、私の心は動かない。多分、まだ忘れられないから。
ぶんぶんと頭の中に浮かんだことを振り払い、無理やり明日のことを考えることにした。
そうしないと、また『笑』をなくしてしまう。
──いつか忘れられるかな。
◇◆◇◆◇
「これでAランクに昇格です! おめでとうございます!」
実質最高のAランクに昇格しても、ローランの無機質な瞳はどこか遠くを見ている。その事実には、微塵も興味を示していない。
「もっと喜んでもいいと思いますよ! Aランクですよ! Aランク!」
滅多にいないAランクの誕生に、ステラは喜びを露わにする。だが、ローランは一切反応しない。
「本当に……相変わらず無反応ですね」
すっかりローランの無反応無口に慣れ、ステラは普通に会話ができていた。
ちなみに、ジャックはあれから心を入れ替えたらしい。一時停止処分にしたが除名はせず、現在はDランク冒険者として地道に活動している。
「これからなにかクエスト受けますか?」
答えずローランが後ろに振り向く。と同時にギルドのドアが開き、一人の男がずんずんと歩いてきた。
「あ、あれは……」
誰だか知っていたステラだが、お腹がぽっこりと出たくすんだ金髪の男に対して怯えた視線を向ける。
脂肪の塊のようだが、指輪やアクセサリーなど、装飾品で無駄に着飾っている。金持ちそうな男は、恨めしそうにローランを睨みつけた。
「君、そこをどいてもらえるかな?」
「なぜだ?」
「僕はそこのステラに用があってね」
脂肪の男とローランが話していると、ギルド内の冒険者たちがざわつく。
「おいあれ、あの家のやつじゃねぇか」
「また来たのかよ」
「あいつステラさんを狙ってるらしいぜ」
「知ってるよ」
「貴族様だろ?」
冒険者の一人が恨みったらしく言った貴族とは、他の人族よりも金を持ち、恵まれた生活を送る者。
他の人族は貴族の言うことを聞くしかない。なぜなら、貴族は金で人を雇っており、逆らうと報復される。最悪の場合、殺されるのだ。
「貴族様と話しているやつ、例の新人じゃねぇか?」
「本当だな」
「大丈夫かあいつ」
他の冒険者は他人事のように話しながら、恐る恐るといった様子で見守る。
「とにかくそこをどけ」
貴族がローランの肩に手を伸ばす。だが、ローランは手が届く前にかわし、道を開けた。
「ふんっ、それでいい」
不満げに鼻で笑い、邪魔者がいなくなったため、貴族はステラのカウンターまで足を運ぶ。
「な、なんの御用でしょうか……」
普段の営業スマイルを忘れ、ステラは怯えて引きつった顔を青ざめる。
「この間の件だ。君をこの僕、ノウブルの愛人にしてあげよう」
この間ギルドに来たとき、ノウブルはステラを気に入ったらしい。だが、ステラはその話を保留にした。貴族相手に断れなかっただけ。
有耶無耶にしたつもりが、ばっちりと覚えられており、その答えを聞きに来てしまった。
「どうした? 僕の愛人になれば一生金には困らずに暮らせるぞ?」
上からの態度や、そもそも顔も体型も良くない。金なんかより、この男の愛人になるなどあり得なかった。
だが、断ればどんな目に合うかわからない。
どうにか切り抜けようと思考を回していると、
「言いたいことがあるなら言え」
そんな言葉をローランがかけてきた。
「お前は黙っていろ! 僕はステラと話しているのだ」
「……私は……」
「おお、ようやく僕の愛人になる決心がついたか」
全く見当違いなことを、ノウブルは本気で言っている様子。
余程の自己中で傲慢なのだろう。だから、はっきり言わなければ伝わらない。
「私は……あなたの愛人になる気はありません」
覚悟を決めて断った。
ギルド内からは、クスクスと小馬鹿にした笑い声が上がる。
「ぷっ、振られてやんの」
「あれの愛人とか死んだほうがマシよね」
基本的に冒険者は、苦労もせず金を持っている貴族のことが気に入らない。
日頃の鬱憤を晴らすように面白おかしく話す。
だが、ニコニコと気色悪かった笑顔が一変し、ノウブルは怖いほどの真顔になった。
「は? なにを言っているんだい? 君に断るなんて選択肢はないよ」
「え……」
「もし断るなら、君の家族がどうなってもいいんだね?」
「そ、そんなこと……やめてください!」
「なら僕の愛人になるんだ」
「そんな……」
自分の立場を利用し、脅してきた。その気になれば、ノウブルは本当にステラの家族を潰せるだろう。
予想はしていたことだが、この場にいる冒険者全員がノウブルに怒りが湧いた。
「うっわ、最悪だな」
「クソ野郎じゃねぇか」
「最低の男ね」
冒険者らは文句を呟きはする。だが、自分や自分の家族のためにも、直接ノウブルに文句を言うことはしない。
無駄に持っている権力を振りかざし、ステラを連れて行こうとするノウブルは止められなかった。
「君に選択肢はない。こんなくだらない仕事など今すぐやめて、僕と来た方が君のためでもある」
ギルド職員の仕事が好きなステラは、それを馬鹿にされたようで腹が立った。
だが、ここで言い返せば家族に被害が及ぶ。
「さぁ、早く来るんだ。そうすれば、今晩は君を愛してあげるよ」
「ひっ」
全身から鳥肌が立ち、血の気が引く。
ステラの豊富な胸をジーッと凝縮し、ニタリとしてノウブルが手を伸ばしてきた。
──気持ち悪い。吐き気がする。でも、断ることはできない。
こんな最低最悪の男の慰物になるぐらいならいっそ自害しよう、と魔力を練る。
ステラは小さな氷の針を生成した。これを首に突き刺せば楽に死ねるはず。
「今晩が楽しみだ」
仕事ばかりでそんな暇はなかった。だけど、死ぬ前に結婚はしたかったな、と後悔しながら自分の首へ氷を放つ。
だが、
──ステラの後悔は極小の氷に拾われた。
氷の針は、首元を覆った極小の氷に妨害される。
「さっさと消えろ」
その一言が空気をぶち壊す。
ミスラ「今回はそのまま次回に繋がるね」
ノウブル「僕の見せ場はまだかなー」
ミスラ「ちょっと黙っててくれる?」
ノウブル「なんだと! 僕は貴族だぞ!」
ミスラ「私は王族ですけど?」
ノウブル「どうか命だけは!!」
ミスラ「次回、ノウブル死す」
ノウブル「え? 確か『Sランク冒険者』じゃ