表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Relate/昏睡王女の転生譚《リスタート》  作者: いんだよう
第二章 シュヴァリナ編
21/43

二章ノ5 『ゾンビ』


 窓から薄っすらと差し込む日光に照らされ、私は目が覚めた。魔法で手早く身支度を済ませ、ヒョイっと窓から飛び降りる。


「よっしー! 裏路地を見てみよっかな〜」


 まだ朝ご飯の時間でもない早朝。ひんやりとした風を煽られながら、上空を駆けて裏路地へ向かう。


 地面スレスレまで急降下し、突風をブレーキにしてシュタッと華麗に着地した。


「さて、周りを囲んでる人たちに聞きたいことがありま〜す」


 四方八方を囲まれている。それは魔力を感知して判ったけど、幸いAランククラスの人はいない。


「なにもしないから出てきてくださ〜い」


 お願いする風だけど、実際は濃密な魔力を垂れ流し、脅す形にはなってしまう。そうしないと、言うことなんか聞いてくれないからさ。


「な……なんのご用でしょうか?」


 数十人はいると思うけど、その中で一番魔力が高い茶髪のおじさんが出てきた。


「まず一つ、どうして路地裏こんなところにいるんですか?」


「そ、それは……」


 茶髪のおじさんは言いにくそうに俯く。


「それは?」


「……グ……グッズを買いすぎてしまって」


「はぇ?」


「エリザベス様が美しいあまり、全財産を叩いてしまいました。ここにいる奴らはみんなそうです」


 ぞろぞろと私の目の前に姿を現した十数人が、うんうんと揃って共感するように頷いた。


「あ……ソウナンデスカ」


「今では、ここに迷い込む異国人の金銭を強奪し、我らがゴッデスのグッズを爆買いする日々です」


「強奪すな」


 後でエリザベスさんになんとかしてもらおう。


「それで、こんな場所に来るということは、貴女も異国人なんでしょう?」


「エリザベス様の魅力が解らない異端者が」


 異端者はあんたらだと思いますん。


「貴女には我らが束になっても勝てない。ですが、異端者は直ちにここを立ち去ってください」


「ふっ、それはどうかな!」


 懐に忍ばせておいたカードを、左手の人差し指と中指で掴んで前に出す。


「私はこのカードを使うぜ」


 一昨日作った会員カード。昨日の昼と夜も、高級店『セイファリス』の裏メニューを食べた。


 高級店限定会員カードの能力により、路地裏の面々が動揺してざわつく。


 無理もないだろう。なぜならこの会員カードは、通常よりもレアらしいから。

 やっぱり高級店で貰えるカードは、『無料』であっても『ただもの』じゃない。


「ま、まさか……」


「そ、そのカードは……」


 別に発光とかしてないけど、路地裏の面々は、なぜか眩しそうに腕で目を覆った。


 伝染するように路地裏に広がっていくどよめきを、私が左手を挙げて制す。


「皆まで言うな」


 私は一体なにを言ってるんだ。


「おぉ、同志よ」


「我らがゴッデス、エリザベス王妃様のご加護があらんことを」


「他国にまで同志がいたとは」


「同志に卑劣な行為をしてしまいました。お赦しくださいエリザベス様」


 空を見上げてるけど、一体なにが見えているというのだろうか。


「エリザベス様は全てを赦されるであろう」


「エリザベス様に万歳!」


「新たなる同志に万歳!」



「「「我らがゴッデスに万歳!!」」」



 数十人が同時に両手を万歳し、まるで、打ち合わせしたかのように声をハモらせた。


 ──仕方ない。ここは合わせておこう。


「ならば、一つ聞きたいことがある!」


「なんでもおっしゃってください。我らが同志にならば、我らが知りうる全てをお教えしましょう」


「呪剣〈ダインスレイヴ〉に心当たりはないか?」


「呪剣、ですか?」


「お前知ってるか?」


「んや?」


 数十人でひそひそとなにやら話す。でも、聴覚を強化することで、私は小声でも聴き取ることができる。


「誰か知らないのか?」


「知らないでござる」


「記憶にございません」


「知らんねぇ」


「さぁ……聞いたこともないなぁ」


 なにか隠そうとしてるのかと思ったけど、どうやらほんとになにも知らないらしい。


「申し訳ございません、同志よ。我らがエリザベス様の加護を持ってしても、呪剣なる知識は存在し得ませんでした」


 情報なしか。


「それなら仕方ない。では、私は──」


 これで失礼しようとしたんだけど、複数人からがっしりと腕を掴まれた。


「ですが、せっかく来ていただいたのですから、我らがコレクションをお見せしましょう」


「い、いえ、私は──」


「遠慮せずともよいですぞ」


「記念に気に入ったグッズをプレゼントしますよ」


「あ、あの、私はこれで──」


「さっ、こちらです」


「ちょ、ちょっとぉ!?」


 振り払おうとすれば簡単にできるはず。なのに、謎の圧から抜け出せず、私はズルズルと路地裏の奥へ連れ去られてしまった。




◇◆◇◆◇




 ──生い茂る樹木が日光を遮る森の中。



 地面の至るところが盛り上がり、人の腕が飛び出してきた。肌は腐ったように変色している。


 何事かと、ゴブリンの群れが近寄ってきた。すると、手についている五本の指がひとりでに動き出す。


 他の腕も、支えるように掌を地面に付けた。ぐっと力が入った途端、ボコっと土が弾け飛び、肌が腐った人が次々と地中から目覚めていく。


 その様子を見ているゴブリンたちは、なにやら話し合っていた。


「ウグルグル」


「ガウルゥゥ」


 アイコンタクトと取って相槌を打つ。と同時に、地中から這い出てきた『それ』へ棍棒を振りかざす。後頭部に命中すると、首から上が綺麗に落ちた。


「ウガ?」


 手応えがなさすぎる、と疑問に思ったのか、ゴブリンは首を傾げた。でも、始末は完了した、とばかりに『それ』に背を向ける。


 だが、死んだはずの『それ』の体はまだ動いており、取れた頭も元に戻っていた。


「──っ」


 後ろから首を噛まれ、ゴブリンは倒れる。他の仲間も同じように地に伏し、不死身の集団に体を喰われて死んだ。


「ウゥゥゥ」


 ゴブリンの群れを喰い殺した不死者ゾンビらは、苦しそうに唸り声を上げる。だが、すぐに収まり、人族の魔力をたくさん感じる場所へ進む。


 ──その進行方向には、漆黒のローブで全身を覆った人物が立っていた。


 ゾンビらは足を止める。そこへ、鎧を着た四人の人族が、ガサガサと草むらを掻き分ける音を立てながら現れた。


「──え?」


「どういう状況?」


「変色した肌の人たちとローブの人物」


「警戒態勢!!」


 先頭に立つ金髪の女性が号令し、四人は魔力を練って剣を構える。とはいえ、表情から困惑の色を隠せていない。


「なんだってんだよ」


「まさか、これが異変の正体か」


「どちらが敵で味方か。或いは両方……」


「こちらに攻撃した側が敵だ」


 三つ巴、と呼ぶには数の差が歴然だ。

 人族側は四人で、黒ローブは一人。対して、ゾンビらはざっと五十はいる。


 しかも、黒ローブとゾンビは敵対していない可能性が高い。

 仮に敵対しているのだとしたら、五十人を一人で相手にすることになるからだ。

 黒ローブの魔力は相当なものだが、見るからに怪しい。ゾンビらを従えるのが自然にも思える。


「──離れていろ」


 黒ローブが言葉を発した。と同時に、ゾンビらが一斉に動き出す。

 命令したとも考えられるが、その可能性はなくなった。なぜなら、ゾンビの大半は黒ローブに魔法を撃ったから。

 それに、先程の『離れていろ』という台詞は、人族らに言い放ったのは明らかだ。


「変色者らを迎え撃つぞ!!」


 金髪の女性──アリシアはゾンビを敵として〈爆炎弾エクスフレアショット〉を放つ。それに続き、他の三人も無詠唱で魔法を発動させた。


 ゾンビらが燃え盛り、焼け焦げてボロボロと体が崩れる。


 案外大したことはない。これなら五十もすぐに倒せる、と安心したのも束の間。

 ゾンビたちの朽ち果てた体は再生し、唸りながら襲いかかってきた。


「なっ……なんだこいつらは!」


 動揺しながらも、アリシアを筆頭にゾンビらを斬り裂く。だが、瞬時に元通りになる。


「きりがねぇ」


「どうすりゃいいんだよ」


「魔法でも物理でも駄目」


「くっ……狼狽えるな! 必ず、なにか、倒す方法があるはずだ!」


 仲間を鼓舞するアリシアだが、内心は焦っていた。このままでは魔力が尽きるだけ。

 黒ローブはどうしているのか、と視線を移す。だが、その姿をどこにも確認できない。


「……やはり術者だったのか」


 自分を襲わせたのは、信用させて油断させるためだった。そう考えると、額から嫌な汗が溢れ出す。


「──副団長!!」


 仲間の一人の大声で咄嗟に振り返り、木の枝から落ちてきたゾンビを爆破させる。だが、感謝する暇もなく、四方八方から襲いかかってきた。


 距離を取りつつ魔法を使い、近づいたゾンビは剣で斬り伏せる。そうして対処していたが、気付けば、アリシアは三人と離れてしまった。


「まずいっ」


 戻ろうと踏み足に力を入れたその時──メリッと鎧が潰れる音がし、左腕に痛みが走った。──ゾンビの顎が鎧を破壊し、腕を噛まれていたのだ。


「くっ!」


 剣をぶつけてゾンビを引き剥がしたが、アリシアはガクンと地に膝をつける。剣も手から落とし、ガシャンと鎧の音と共に倒れた。


「な……に……」


 大したことのない怪我。だが、体内の魔力が激減し、立つだけの体力すらなくなっていた。


 鎧のせいで、腕の一本すら動かせないアリシアに、ゾンビの〈風刃ウィンドブレード〉が放たれた。


 首に当たれば確実に死ぬ。普段なら容易く避けれるが、今は鎧で守ることもできない。


 やり残したことを思って目を瞑った。結局あの姉を超えられなかった、と後悔が広がっていく。──と、そこで不思議に思う。

 さすがにまだ当たらないのはおかしい。もしやすでにあの世にいるのか、と思いつつ瞼を開ける。


「──だから言っただろう」


 目の前には全身真っ黒の人物が立っていた。


「離れていろ」


 声質からして先程の黒ローブ。見慣れない服装をしており、その手には銀色の宝石がついた剣。無機質な瞳の少年だった。


 ゾンビらを水流で押し流すと、しゃがんでアリシアに手をかざす。温かい光に包まれ、魔力と体力が回復した。


「魔力を回復……だと……」


 他人の魔力を回復する魔法など、アリシアは見たことも聞いたこともなかった。


「他の三人と共にここから去れ」


「そっ……それはできない! 我らはシュヴァリナの聖騎士団だ! この国は我らが守る!」


「無駄死にするだけだ」


「なっ……なんだと!! それは、この私を聖騎士団副団長アリシアと知っての発言か!!」


「知らん。実力不足だ。さっさと立ち去れ」


 ただでさえ怒っていたのに、追い打ちのように言われ、アリシアは激怒する。


「それはこの国を愚弄したのと同義だぞ!!」


「ならそれでいい。お前の身を案じて言っている」


「私は案じられるほどやわではない!!」


「その場でしゃがめ」


「へ?」


 少年が手をかざし、アリシアの顔面へ〈爆炎弾エクスフレアショット〉を撃ってきた。


「うわあぁぁ!!」


 慌てて頭を下げると、真後ろにいたゾンビに爆炎弾が命中し、再生前に燃え尽きて灰になった。


「お、お前ぇ!! 私を殺す気かぁ!!」


 瞳が潤んで涙目になり、鼻声になりながらも、アリシアは少年に激怒する。頭に血が上っているため、少年が二属性を使ったことを気にしていない。


「やわじゃないのだろう。この程度避けられて当然だ」


「ぐぬっ」


 ごもっともなことを言う少年に、なにも言い返せずアリシアは押し黙った。


「ここは危険だ」


「危険から国民を守るのが我々だ!」


「逃げろとは言っていない。国に報告しろと言っている」


「だ、だが──」


 反論しようとしたアリシアの頭を、少年が手で押さえつけた。すると、すぐ頭の上を氷柱が通過する。


「ひぇ……」


「いいから報告してこい。三人を連れて」


「だが……それではお前が一人になるだろ」


「お前らが邪魔で全力を出せない」


「なっ……」


 心配して言葉を掛けたアリシアだが、少年は怒らせるような台詞を言い放つ。


「そういうことなら、お前が死んでも私は責任を取らないからな」


「ああ」


「即答か! ならばもう知らん!!」


 少年に背を向け、アリシアは他の三人に帰還指示を出す。ゾンビらに魔法を打ち込み、再生する前にこの場を後にした。



??「次回は僕が登場するにゃ〜」

ミスラ「今回新キャラ出てきたばっかだよ?」

??「関係ないよ〜ん」

ミスラ「よくわかんないけどなんかむかつく」

??「キャハハッ! なんでかにゃ〜」

ミスラ「よくわかんないけどお父さんたちを散々苦しませたサイコパスな気がする」

??「にゃははははッ!!」




ミスラ「次回、『異形なる者』」


??「……あの方の復活を」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ