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Relate/昏睡王女の転生譚《リスタート》  作者: いんだよう
第二章 シュヴァリナ編
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二章ノ1 『女神を崇拝する国』


「し……死ぬ……」


「も、もう……動け、ねぇ……」


 予想はしていたけど、やっぱり死ぬほど疲れた。鼻呼吸だけだと追いつかず、口でも空気を吸い込む。めちゃくちゃ喉が痛い。


 キャメロットからシュヴァリナまでの約千キロを、休憩しながらも全力疾走した。しかも半日以内という短い時間で。


 こんなこと地球にいた頃じゃできなかったなぁ、なんていう感傷に浸る余地もない。


「ほ……ほんと……じ、ぬ……」


「ロ、ローラン……お前、なんで……そんな、涼しい顔……してられる、んだよ」


 私とキョウヤは大地の上で寝そべり、疲れすぎて動けなくなった。だがしかし、ローランは呼吸を乱してすらいないという。


「この程度では疲れん」


「この程度ときたか。千キロなんですけど?」


 体力回復に効果的な呼吸をし、先程よりは落ち着いて喋れるようになった。まだ息は切れているけど。


「ミ、ミスラ……な、なんで、そんな、早く……回復、してんの? 俺……まだ立てねぇんだが」


「キョウヤはまだ呼吸法を知らないからね〜」


「なに、それ」


「それはおいおい教えるよ〜。ただ、結構難しいから、先に魔法と剣術からだね〜」


 それから十分ぐらいでキョウヤも復活した。


「ここがシュヴァリナか〜。私も初めてきたよ〜」


 眼前にそびえ立つ鋼の壁を前にして、私は感嘆の声を漏らす。防御力に極振りしたんだろうか。


「王国っていうよりも帝国ってイメージだね〜」


「なんかすげえ」


「……」


「ローランは安定の感想なしと。知ってましたよ〜。よし、気を取り直して早く行こー!」


「おぉー!」


 さっきまでダウンしてた私とキョウヤが、子供みたいに先走る。ローランはお父さんのように、後からゆっくり歩いてきた。


 人族間での警戒心は薄い。魔族を倒すために力を合わせなきゃいけないんだから。


 鋼の門も、近くに強力な魔物の群れが住み着いてるからだろう。道中に超級魔物と何回か遭遇したし。災害級で吹っ飛ばしたけど。


 門番の人にお父さんの名前を出しつつ事情を説明すると、快く通してくれることになった。


 ガラガラガラと門が開いていき、門番さんにお礼を言って中に入る。


「よーし、シュヴァリナに到着! 早速、お父さんの友達のレークスさんに会いに行こー!」


「おぉー!」


 すでに外は真っ暗になっているが、光属性の魔法が電灯のように置いてあるから明るい。

 ちょうど夕飯時とあり、夜遅くでも人混みで賑わっていた。


「せっかくだし、観光がてらゆっくり歩こっか〜」


「そうだな。まだ夕飯食ってねぇし」


「一応門番さんに聞いといたよ〜。オススメは、ここから左に行って突き当たりを右に曲がったところにある『セイファリス』って店らしい」


「んじゃそこで決まりだな。ローランはどうする?」


 私とキョウヤは、後ろにいるローランへ振り向く。


「俺はいい」


「またかよ。大体予想はついてたけどな」


「ローランが食べるところ、まだ一回も見たことないんだけど〜」


「キョウヤ、俺の金を渡してくれ」


「はぁ……はいよ」


 キョウヤがなにもない場合に手をかざすと、空間が歪んだ。そこから、黒い革小物を取り出す。


 持ち物はかさばるから、剣以外はキョウヤに預けている。空間魔法の容量がどれぐらいなのか試したところ、二階建ての家なら二つ入るほどだった。しかも、まだ増えていってるらしい。


 革小物がキョウヤの手に乗ると、カチャンと金属同士がぶつかる音がした。中身は、ローランがギルドで稼いだお金。

 革小物は『ディヴェス』が発売した財布だ。


「ほんとに一人で食べるのか?」


「ああ」


「──そうかよ。なら、夕飯終わったら『セイファリス』に来てくれ。場所はさっき聞いたからわかるだろ?」


「ああ」


 キョウヤからローランがお金を受け取る。でも、なぜか中身が少ない気がするんだよね。


 ステラさんに聞いたんだけど、ローランはかなりハイペースで依頼クエストを受けていた。それにしては痩せている。


 アエテルタニスにお札はないから小銭しかない。AランクとSランクの依頼クエストをたくさんこなしたなら、財布はふっくらしてるはずなのに。


「ローラン、また後でね〜」


「ああ」


 私たちに背を向けて、ローランは人混みの中に消えていった。


「……じゃ、私たちも行こっか」


「お、おお。そ、そうだな」


 なぜか緊張したようになったキョウヤを余所に、私は飲食店『セイファリス』へと向かう。


 ──ローランと一緒に食べたかったな。


「……さっ、シュヴァリナのご飯は美味しいのかな〜。楽しみだね〜」


 落ち込んだ気分を切り替えるために、私は店まで走っていくことにした。



◇◆◇◆◇



 チャリンと鈴が鳴り店内に入る。中は高級感溢れる造りになっており、テーブルと椅子には白い布が敷いてある。


「いらっしゃいませ。二名様でよろしいですか?」


 懐かしさを感じる台詞。入り口では店員さんが出迎えてくれていた。店内は混雑しているが、奇跡的に待ち時間はなさそう。


「はい、二名で」


「では、ご案内します」


 店員さんに連れられ、私とキョウヤは二人席に案内された。


「こちらでよろしいですか?」


「オッケーです」


 キョウヤと向かい合う形で席につく。


「ご注文お決まりになりましたら、近くの店員にお申し付けください」


「わかりました。ありがとうございます」


「では失礼します」


 丁寧にお辞儀をし、店員さんは厨房に入っていった。


「よっし、まずはメニュー見よっか〜」


「メニュー表ってやつか」


 メニュー表を見ると、料理名が十種類ほど書いてある。日本よりはレパートリーが少ない。

 でも、普通の店だと二個か三個しかなかったから、これでも多いほうだと思う。


 あとはお酒なんかもある。一応成人したとはいえ、まだ抵抗感があって飲む気にはなれないけど。


「この『アヴラッハ』ってなに?」


 キョウヤがメニュー表のデザートを指差す。


「簡単に説明するならりんごね。多少違うかもだけど、見た目と食感がめっちゃ似てる」


「ほー。なら、この『特製ソースのハンバーグ』と、セットで『アヴラッハ』にしよっかな」


「ポテトとサラダもついてくるからね〜」


「ミスラは決まった?」


「う〜ん」


 ハンバーグもいいけど、さっき走ったからか、食欲がいつもよりない。もっとあっさりしたやつがいいな。


 頭ではお肉が食べたいんだけど、身体が拒否してる。仕方ないか。今回はお肉だけじゃないやつにしよう。


 ──は? なにこれ? 頼むしかないじゃん。


「……うん、私も決まったよ〜」


「じゃあ店員さん呼んでいい?」


「オッケー」


「すみませーん!」 


 キョウヤが近くにいた女性店員さんを呼んだ。


「ご注文承ります」


「セットメニューで、『特製ソースのハンバーグ』と『アヴラッハ』のセットを一つ」


「私は『エリザベス様一押し、絶品女神風パスタ』に『アヴラッハ』のセットでお願いします」


「かしこまりました。では『特製ソースのハンバーグ』と『アヴラッハ』のセットが一点、我らがゴッデス『エリザベス様一押し、絶品女神風パスタ』と『アヴラッハ』のセットが一点。で、よろしかったでしょうか?」


 なんか途中で、我らがなんとかって言ってた気がするけど、多分同じやつだよね。


「はい、それでいいです」


「ありがとうございます」


「ん?」


 店員さんが手を差し出してきた。よく解らないけど、とりあえずその手を取って握手してみる。


「貴女はわかってらっしゃいますね」


「え? は、はい」


「では、少々お待ちください」


 ブンブンと握手をされた後、その店員さんは歩いていった。


「おいミスラ、まじでそれ頼むのか?」


「だって一番目立ってたし、これ頼め、と言わんばかりだったからさ。気になっちゃった〜」


 頼まなきゃ後悔してたと思うし。


「俺はあえてそれをスルーしたぞ。なんかすげえ怪しい感じなんだよな」


「店員さんも変だったしね」


「今からでも変えれば?」


「確かに、後悔している自分もいる。けど、挑戦しなきゃなにも始まらないよ」


「なんかかっこいいこと言ってるけど、使う場面完全に間違ってね?」


 内心どんなものが出てくるのやらとドキドキワクワクしながら待つ。


 話しながら待つこと五分──キョウヤが頼んだセットメニューが到着した。


 ステーキ皿のような鉄板に乗り、ジューっと焼ける音を立てるハンバーグ。芳ばしい香りが食欲を掻き立て、ホカホカと湯気が立ち昇る。


「おぉー美味そう。てか匂いだけでもう美味い」


「値段も値段だからね〜。間違いないよ〜」


 それから一分も経たずして、私が頼んだ謎のパスタが運ばれてきた。先程とは違う男性店員だ。


「お待たせいたしました、同志よ」


 ん? 今なんて?


「こちらが、我らがゴッデス『エリザベス様一押し、絶品女神風パスタ』になります」


「あ、はい」


「それではごゆっくり」


 男性店員は丁寧にお辞儀をし、別のテーブルのお客さんの注文を取りに行った。


 アエテルタニスには写真がないから、注文するまで見た目がわからない。到着して実物を見るのが楽しみでもあり怖くもある。


 現在、私の前に現れたパスタは、地球ではまず見られないであろう姿をしていた。


 なにかを崇めるように、カラフルな野菜と鶏肉がお皿のふちに添えられている。

 鶏がらと野菜の香りが混ざり合い、あまり食欲がない私のお腹も鳴ってしまう。


 だけど、真ん中に立つ『なにか』の正体が判らず、私は手を挙げて店員を呼んだ。


「あの〜すみませ〜ん」


「はい、なんでしょうか?」


 店に入った時に、入り口に立っていた女性店員が来てくれた。


「真ん中のこれはなんですか?」


 私の視線の先には、水色の髪がすらっと伸び、ドレスを着る美しい女性がいる。否、美しい女性を模したなにかが立っていた。目の錯覚か輝いて見える。


「材料でしたらご心配なく。パスタに合う秘伝の食材を使い、調味料で味付けしております」


「あ、いや、このお綺麗な女の人は実在する方ですか?」


 自慢じゃないけど私も結構美少女だと思う。目の前にあるこの人が実在するなら、私ともいい勝負かもしれない。


「さすが! お目がお高いですね。こちらは我らがゴッデス! エリザベス王妃様を模して作られたものとなっております!」


「そ、そうなんですか。えっと、それだと王妃様を食べることになってしまうんですけど……」


 自分たちの国の王妃様を食べるって、それ大丈夫なのかな。


「それも計算のうちです! エリザベス様はレークス国王様のものになってしまいました。ですが! 私たちはエリザベス様そっくりの料理を作った。これにより! なんと! エリザベス様を美味しくいただけるのですよ!!」


 この人だけがやばいんじゃないかと一瞬だけ考える。だが、周りの店員とお客さんまでもが満場一致でうんうんと相槌を打っていた。


「は、はは……そ、そうなんですね」


「我らが新たなる同志よ。女神エリザベス様に守護されし、シュヴァリナ王国へようこそ」


 なぜ他国から来たと判ったのか。その答えを、私はもう知っていた。この状況を見て辿り着いた結論はただ一つ。


「この国、全員がエリザベス教の信者なのか」


 まだ解放暦二十年しか経っていないこの世界に、複数の宗教という概念はないのかもしれない。


 でも、オーディン様以外を崇め奉る宗教ができるのは、もう時間の問題だと、私は思った。


ミスラ「次回は食レポに挑戦するぞー!」

キョウヤ「宝石箱やー!」

ミスラ「いや丸パクリはあかん」

キョウヤ「と思いきやミミックやー!」

ミスラ「宝石入ってなかったか〜」

キョウヤ「た、助けて……くれ……」

ミスラ「比喩表現じゃなかった!!」




ローラン「次回、『名前と魔力のない少女』」


ミスラ「キョウヤ――!!」

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