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Relate/昏睡王女の転生譚《リスタート》  作者: いんだよう
第一章 キャメロット編
16/43

ちゃぷたーわんさいご 『ベテラン職員の憂鬱』


「はぁ……」


 自分のため息でハッとする。

 今はまだ仕事中、大変な仕事をこなす冒険者のためにも、しっかりしなければならない。


「先輩大丈夫っすか?」


「最近元気ないですよ」


 話しかけてきたのは二人の後輩受付嬢。

 右隣に座る今年で一年目となるキャルと、左隣に座る今年入ったばかりの新人エリナだ。


 女ばっかじゃないか、と思うのも無理はない。だが、四つの受付カウンターのうち三人は女性で一人は男性になっている。

 力仕事の多い冒険者の八割が男性のため、女性が多い方がなにかと得なのだ。


「あぁ……うん……」


 心配そうに声をかけてくれる二人だが、ステラの調子は戻りそうもない。


「ほんとどうしたんすか」


「……気になる?」


「いやそこまで気になってないっす」


「予想はつきますし」


「大方、『愛しのローランくんがいなくなって寂しい』ってとこっすかね」


「…………」


 裏声でものまねするのに苛つきはしたが、反論の余地はないのでステラは黙り込む。


「図星っすか。なんの捻りもなかったっすね」


「聞くまでもなかったですね」


「……だってぇ……まさかキャメロットから出てっちゃうなんて思わなかったんだもん」


 毎日来ていたローランが、昨日は姿を見せなかった。

 なにか知らないかギルドマスターのドクトルに聞いてみたところ、王女様と勇者と一緒にシュヴァリナへ向かったらしい。


「こりゃ重症っすね」


「今日は休んだ方がいいんじゃないですか?」


「……私が休んだら回らなくなるでしょ」


「仕事関係には冷静なんすね」


「この職についてから早十年。仕事しかしてこなかったこの体にはもう染みついてるのよ」


「そ、そっすか……」


 ステラから根深い闇のオーラを感じ、キャルはそれ以上追求するのをやめた。


「確認しますので席に座ってお待ちください。先輩、スフィリアス五です」


 採集依頼クエストを終えた冒険者の対応をしたエリナが、五つの薬草をステラに渡す。

 ステラが非番の日には別の確認係がたくさんいるが、今日は他に二人のみ。休んでしまえばギルドが回らなくなってしまう。


「はいはい」


 落ち込んでいるのは確かだが、勝手に体が動いて薬草を手に取り、虫眼鏡のようなレンズを使って確認する。


「……エリナちゃん」


「どうしましたか?」


「一枚は似てるけど違うわ」


「わかりました」


 心理状態は不安定だが、幅広い知識と鋭い観察眼に加え、的確な判断力によって瞬時に見分けた。


「スフィリアス採集のロアンさーん」


「はい!」


 座っていた茶髪の少年が元気に返事をする。


「どうでした?」


「五つのうち一つは別の薬草でした」


「やっぱり間違ってましたか……」


 ロアンは肩を落とす。成人になったばかりであり、冒険者になりたてのFランクなので、薬草の見分けがうまくできなかった。


「似ているため間違われることも多いので、気に病むことはありませんよ。Eランクにもまだまだ失敗する冒険者はいます。大切なのは、この失敗を次にどう活かすかですから」


「──ありがとうございます! もう一度取ってきます!」


「今度は間違えてもいいように、少し多めに取ってきた方がいいですよ。その分報酬は支払いますので」


 例え依頼クエスト分をオーバーしても、余った薬草はギルドで加工して販売している。


「了解です! アドバイスありがとうございます!」


「それではお気をつけて」


「はい!」


 男性冒険者がギルドをあとにし、エリナは笑顔という名の営業スマイルで見送った。


 男性冒険者の中でエリナは一番人気を誇る。受付係は基本的に容姿の整った人材が選ばれるが、他にはないものを持っているからだ。

 成人してすぐに職員となった新人のため、他の受付係よりも若い。

 ステラは二十四でキャルも今年で二十を迎える。一方のエリナは十五。とにかく若いのだ。


「あの新人くん元気でしたね。ほんと……」


 若々しさによってより一層可愛く見えるエリナだが、ステラは一つだけ問題視していた。

 それは、


「ばっかみたいに」


 男性を見下す傾向にあるということ。


「わざわざ私の受付に来るあたり、もう下心が透けて見えるんですよね。あぁーやだやだ」


 冒険者らには隠しているが、誰も来ないときはいつも独り言のように愚痴を言っている。


「まーた始まったっすね」


「そう、ね……」


「落ち込みモードに戻るんすね」


「……いっそ、私もあとを追おうかしら」


「ストーカー宣言っすか? どうせ行っても無駄っすよ。数日間滞在したら、今度はエトワールに行っちゃうんすから」


「そうよね……」


 アーサー王に直接聞いたというドクトルが言っていたので、その情報に間違いはない。


「早く帰って来ないかなぁ」


「……そんなに結婚したいんすか?」


「旦那さんがいるキャルちゃんにはわからないでしょうね」


「確かにそうっすけど、結婚なんてそんな夢のあるもんじゃないっすよ?」


「……前までの私なら納得してた」


 仕事しかしてこなかったステラは、もう自分に結婚は無理だと思っていた。

 今のキャルの言葉を聞けば、やっぱりそうだ、と逃げ道を見つけていただろう。


「そんなに好きなんすか?」


「……キャルちゃんってストレートよね」


「そっちの方が手っ取り早いじゃないっすか。自分、何事も効率的にやる派なんで」


 ステラはぽっと頬を染める。


「……好きな人がいないなら諦めてた。でも、ローランくんに出会ってしまったの」


「それにしてはほとんどアプローチしてなかったっすけどね。手を握ったりするぐらいで」


「それでも精一杯勇気を出したのよ」


「純情乙女か。十代じゃないんすから」


「だってぇ……」


「あ、自分んとこに人来ますんで」


 なにか大きなものを背負っている男が、キャルのカウンターへ向かってきていた。


「オーク討伐成功しました。状態もいいと思うので確認お願いします」


「了解でーす」


 営業スマイルが基本のギルド職員だが、キャルは普段となんら変わらない表情で受付する。

 それがまたいい、という冒険者もいるので、そういった人たちに需要があった。


「先輩」


「はいはい」


 冒険者自身に奥まで運んでもらい、人型の豚のような魔物──オークの状態を確認する。

 査定が終わるまで、男にはギルド内で座って待ってもらう。


「胴体を一突き……これは凄いわね」


 オークの心臓はお腹にあり、そこを見事なまでの一撃だった。

 お腹は脂肪が厚く貫通が至難。通常は脚を奪ったあと物理の連撃で心臓を潰す。

 だが、自己再生能力があるオークを倒すのはかなり大変で、一撃で仕留めるのが一番楽だ。


 戦闘時の厄介な脂肪は万能食材となり、様々な肉料理に使用可能。これだけ状態が良ければ買取価格もぐんと上がる。


「これだけできれば……」


 査定が終わり、ギルドの奥でなにか作業したあと、ステラは受付に戻って冒険者の名前を呼ぶ。


「オーク討伐のジャックさん」


 すると、オークを持ってきた男──ジャックが立ち上がり、カウンターまで歩いてきた。


「はい」


「念の為確認なのですが、お一人で討伐されたんですよね?」


「一人ですけど……やっぱり疑われますか」


「問題を起こして謹慎が解けたばかりですからね」


「そう、ですよね……」


 しょんぼりすると同時に、そうなっても仕方がない、とジャックは受け入れていた。


「ですが」


 ステラは続ける。


「最近のジャックさんは真面目に依頼クエストを受けて達成しているので、ここは信頼しましょう」


「ほ、本当ですか!?」


 あの事件以降、心を入れ替えたジャックは、ランクを一つ落とされてもめげなかった。

 謹慎中も自主トレを欠かさず、復帰後は横暴にならずに謙虚さを大切にし、着実に依頼クエストをこなす。

 その甲斐あって、ランクは元のCランクに戻る。だが、それでもSランクと比べれば未熟、とさらなる高みを目指して難しい依頼クエストも受けてきた。


「仕事ですから嘘は申しません。それとこちらを」


 ステラは銅を素材とした金属製のカードを渡す。


「おめでとうございます。本日よりBランクに昇格です」


「──っ」


 意表を突かれたように、ジャックは目を見張る。


「お、俺が……Bランク」


「オークを一撃で仕留めるだけの力があれば、Bランクは当然ですよ。次はAランクを目指して頑張ってください」


「……あ……ありがとうございます」


 胸ポケットに入るだけの小さなカードを、ジャックは頭を下げて両手で受け取った。


「じゃあ、早速なにか受けたいんですが……」


「今は緊急の依頼クエストはないので、Bランク級はありませんよ?」


「そうですか……なら、大変なのとか、報酬が釣り合わないのとかはありますか?」


「え? あるにはありますが……」


「じゃあそういうのを受けます」


 人はここまで変わるものなのか、とステラは内心驚嘆する。それも、ここ数十日ほどで。


「……わかりました。では、依頼クエスト受理します」


「よし、下水道掃除行ってきます!」


 誰もやりたがらない仕事を受け、ジャックは笑顔で依頼主の元へ向かっていった。


 普段と違うことがあって驚いたが、ステラはまた落ち込むことを考えてしまう。


「はぁ……ローランくん……」


 両サイドの二人は冒険者の対応をしているようで、話し相手もいない。

 カウンターに頬杖をついて顔を乗せ、何度もため息をついていると、また珍しい来客が現れる。


「ステラさん、ちょっといいかな?」


「はい! なんでしょうか!」


 ボーっとしてしまっており、授業中に寝ていたところを名指しされたように返事をした。

 顔を上げたステラだが、話しかけてきたのは見知らぬ金髪イケメンだった。


「え、えっと……どちら様でしょうか」


 名前を知っているので冒険者か知り合いということになるが、ステラの記憶に目の前の男は存在しない。


「ははは、わからないかー。見た目がほんの少し変わったからね」


 ステラは困惑していると、男から正体を告げられる。


「僕はノウブルっていうんだけど、覚えてるかな」


「……今なんて?」


「ノウブルだよ」


「は?」


 ノウブルという名前をステラは知っていた。が、その名と目の前の男は繋がらない。


「えっと……同じ名前の人なら見たことはあります」


「僕はそのノウブルなんだけど」


「またまたご冗談を〜」


 この前の事件を見た人が冗談を言っていると思い、軽く返そうとしたステラだが、男は黙って笑顔を作っている。


「……え? 本当に?」


「あの時は本当に申し訳なかった」


 金髪イケメン──ノウブルが頭を下げてきた。


「は、え、ま……?」


 驚きのあまり一時的に言語を喋れなくなったステラの問いに、ノウブルは黙って頷く。




「えぇええぇぇぇえぇぇ!!」




 ステラ、今世紀最大の衝撃だった。


「だ、れ、え、あ、の、え、は……?」


「ところでドクトルさんはどこに?」


 ステラの叫び声を聞き、ギルドマスターであるドクトルが奥の部屋から出てきた。


「あらぁー?」


「ドクトルさん!」


「ノウブルちゃんじゃなぁい、どぉしたのぉ?」


「実は……他の男じゃ満足できなくて……」


「そぉいうことならぁ大歓迎よぉ」


 ドクトルがウインクすると、ノウブルと共にギルドの奥へと戻っていった。


「あぁ……はいはい。そういう世界も……うん」


 今のやり取りだけで察し、一周まわって冷静になったステラは、感情を無にして姿勢を正す。


 今日一日でいろいろありすぎて、悩んだり落ち込んだり、ステラはしていられなくなる。


 自分を客観的に見て、うじうじするのはやめ、ローランが帰ってきた時に備えることにした。



 ──無知な恋愛スキルを上げておこう。



ステラ「一章はこれで終了となります」

ミスラ「次回はシュヴァリナだー!」

??「ついに俺たちの出番か」

??「二十年ぶりだね」

ローラン「次回に出番はないがな」

??・??「え?」

ミスラ「すみません。もう少し待っててください」




ミスラ「次回、『女神を崇拝する国』」


??・??「いつ出番なんだよー!!」

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