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Relate/昏睡王女の転生譚《リスタート》  作者: いんだよう
第一章 キャメロット編
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一章ノ9 『異世界クッキング♪』


 ミスラがキョウヤに先生を紹介している頃──


 アーサーの自室にて。アーサーは椅子に座り、対面する形でローランも椅子に座った。


「ではローランくん。単刀直入に聞くが、君は味方なのか? それとも敵なのか?」


「俺に敵はいない」


「じゃあ味方か?」


「俺に敵はいないと言ったはずだ」


「……味方でもないのか?」


 やはり質問には答えず、ローランは立ち上がり、アーサーの頭に手をかざす。


「お、お前……」


「安心しろ。攻撃はしない」


 属性を持たない魔力で魔法を発動させる。白い光が部屋を満たし、ローランが手を下ろすと同時に消えた。


「な……なにをした」


「記憶を見た。少しだけな」


 ローランが初めて質問に答えた。もちろんそれにも驚いたが、アーサーが衝撃を受けたのはその答えだ。


「記憶を見る魔法、だと? そんなものあるはずが……」


「魔法──魔力を使う能力。ならば、これも魔法の一種と言える」


 言っていることがいまいちわからず、答えてくれないかもしれないが聞き返す。


「どういうことだ?」


「超能力とも言い換えられるが、これも無属性魔法だ」


「また……無属性魔法か」


 無属性魔法というのは、強化魔法と防御魔法、封印魔法の三種類しか存在しないはず。


 数少ない例外も稀に見るが、人族の中ではアーサーでも一人しか知らない。一人の例外には素直に驚いたが、もう一人となれば話は別だ。


 手放しに喜ぶこともできず、謎という不安が生まれ、疑惑の眼差しを向けざるを得ない。


「無属性魔法とは、一体なんだ?」


「そのままの意味だ」


「属性を持たない魔法と言いたいのか?」


「ああ」


 期待通りの答えが帰って来ず、アーサーは思わず机を強く叩いてしまう。


「そんなことはわかっている!! 聞きたいのはそういうことじゃない!!」


「これが全てだ」


「これだけじゃなにもわからない!!」


 席から立ち上がったアーサーは、ローランの真横まで移動した。


「知っていることを全て教えてほしい」


「お前が思っているような答えはない」


「……どういうことだ?」


「言ったはずだ」


 横にいるアーサーには目もくれず、ローランはその無機質な瞳で、代わり映えのない壁を眺めている。


「無属性魔法とは、属性を持たない魔法のこと。これだけだ」


「それだけなら、どうして他の人は使えないんだ。なぜ属性を持たないんだ」


「属性を持たない理由はない」


「理由はない、だと?」


「属性を持つ魔法と持たざる魔法があるだけだ」


「だが、それは使えない理由になっていない」


 二人が使えるにも関わらず、他の人族は強化と防御と封印の三種類しか使えない。

 アーサーは不思議で仕方なかった。


 だが、ローランの口からはわけのわからない答えしか出てこない。


「それは逆だ」


「逆、だと?」


「使えるのがおかしい。使えないのは当たり前だ」


「なら、どうして君は使えるんだ」


「さぁな」


 珍しく質問に答えてくれていたから、アーサーは忘れていた。ローランが質問に答えないことを。


「……そうか。では最後に一つ……君は味方か?」


「返答に変わりはない」


「なら質問を変えよう。君は何者だ?」


 最後の質問をしたが、ローランはなにも答えず、部屋の中は静寂に包まれる。


 自分の呼吸がはっきり聞こえるほど、互いになにも言わずにいると、ローランが口を開く。


「──時間のようだ」


 コンコンとドアが叩かれる。


「お父さんいる?」


 部屋の外からミスラの声が聞こえた。


 先生紹介を終えたのだろう。キョウヤと二人分の魔力を感知する。


「……いるぞ」


「入ってもいい?」


「ああ、いいぞ」


 アーサーが鍵を開けると、ミスラとキョウヤが部屋の中に入ってきた。


「話は終わった?」


「……大体な」


「じゃ、これから予定合わせたいから、お父さんはちょっと来てくれる?」


「それはいいんだが、その前に昼にしないか? 俺はグェネヴェアと食べるから、三人で食べてくるといい」


「オッケー。じゃ、キョウヤとローランには、王宮にある部屋を一つずつ貸すから、食堂に行くついでに今から案内するね〜」


「おお。宮殿で寝泊まりするのか。やったぜ」


 ガッツポーズを取り、キョウヤはミスラのあとについていく。ローランも二人に続き、アーサーとはここで別れた。



◇◆◇◆◇



 廊下を進んでいると、全てのドアに『来客用』と書かれたエリアに到着した。


「ここにある部屋のどこでもいいよ〜」


「よし、俺はここに決めた!」


 キョウヤは真っ先に部屋を決め、ローランは適当に部屋を選んだ。


「はい、これ鍵ね〜」


 私が懐から鍵を二つ取り出し、キョウヤとローランに投げ渡す。


「今からお昼ご飯だけど、一緒にどう?」


「俺は行くぜ」


「俺は遠慮しよう」


 食いつき気味でキョウヤは即決してくれたが、ローランは即断で断ってきた。


「え? どこで昼食べるの?」


「外」


「えぇ〜。どうせならここで食べようよ〜」


「いや、いい」


「……そっか」


 まさか断られるとは思ってなかったから、私はがっくりと肩を落として落ち込む。


「なら夕食は?」


「俺の分の料理はいらない」


「なんで?」


「とにかくいらん」


「……わかったよ」


 私はさらに項垂れた。


「おいローラン! 料理ぐらい食べてやってもいいだろ!」


 落ち込んだ私を見兼ねたのか、怒った様子でキョウヤが言う。


「お前だって消費も浮くし、良いことしかないだろ?」


「いや……いい」


「なんでだよ!」


「…………」


 やはりなにも答えてくれず、私たちに背を向け、ローランは外へ出ていった。


「なんだよ、あいつ」


「……気のせいかもしれないんだけど、ローランの表情……寂しそうだった」


「え? 変わらず死んだ目の無表情だったぞ?」


「……そう、だったよね。気のせいかな。断られると思ってなくて……いいように考えちゃったのかも」


「本当に寂しいなら誘いを断る理由はないしな」


「……だよね」


 違和感の正体を気にはしたが、それは気のせいだと結論付ける。


 というわけで、キョウヤと二人で昼食に行くことになった。王宮の中にある食堂でだけど。



 ──これまた広い部屋に到着した。


 金持ち特有の無駄に長いテーブルはない。普通サイズのがいくつか並んでいるだけ。


「ちょっと待っててね〜」


 キョウヤを置き去りにしてしまうが、席を外して私は厨房へ向かう。


「よっし、作りますか〜」


 仮にも王女である私だが、笑の頃はなにか食べることもできなかった。だから、動けるのが嬉しくて、なんでもかんでも自分でやりたくなってしまう。


 お母さんも料理が作れる身体じゃない。だから、普段から自分で料理を作って、お父さんとお母さんに振る舞っている。


 異世界召喚祝いも兼ねて、メインはゴブリンロードのステーキにしようかな。


 こっちの世界でのステーキはゴブリン一択なので、ゴブリンロードの肉を用意した。


 りんごに似てる果物『アヴラッハ』で発酵させた主食の白パンを、炎属性とフライパンでふっくらさせる。ゴブリンの肉も同様に焼く。


「ん〜〜っ、いい匂いだなぁ〜」


 肉を焼きながら、一見ただの草に見える『シルフィウム』を取り出す。生で食べると苦いけど、魔力がほんの少し回復する薬草。煮ると旨味成分を分泌する優れものだ。


 鳥系小型魔物『ジズ』を、丸ごと一羽でダシを摂った鶏がらスープ。そこへシルフィウムを投入する。


「これで完成かな〜」


 結構辛い塩コショウを少々で味付けし、ジズの鶏がらスープは完成。

 ロードの肉もいい感じに焼けた。彩りをつけるため、一緒のお皿にサラダを添える。


 きっちり二人分が出来上がり、土属性の魔法で食卓まで運ぶ。

 手だと二皿ずつしか運べないけど、土属性なら一気に全ての食器を持てるからね。


「おぉー、それが魔法かー」


「そっか、キョウヤは見たことなかったね〜」


 料理よりも先に魔法に驚かれた。それはちょっと予想外だ。


 全ての料理を食卓に置き終えると、キョウヤと向かい合う形で、私も席に座った。


「では、手を合わせてください」


 日本の学校であれば聞き慣れているだろうが、こちらの世界全体にはまだ浸透していない。


「いただきます!」


「いただきます!」


 私のかけ声に合わせ、キョウヤもお馴染みの台詞を続けた。

 体が動かなかったから地球でやったことはない。アニメで仕入れた日本の常識的な知識。


 食事前にいただきますと、お祈りのような仕草は、アエテルタニスにはなかったもの。


 見守ってくれているオーディン様と、植物や果物、魔物にまで感謝を込める。

 この世界に来たばかりの頃に、私が率先して実践して見せた。


 ありがたいことに、国民から慕われている私なので、今ではキャメロットの常識となっている。


「これ美味そうだな!」


「ああそれ、ゴブリンロードのステーキね〜」


「いっ!?」


 なにか言おうとしたキョウヤを、私が左手を挙げて制す。


「言いたいことはわかる。私も初めは勇気がいった。でも、普通に美味しいから大丈夫」


「ま……まじですん?」


「騙されたと思って〜」


「まぁ、見た目は悪くないな。……てか食べる前にその事実知りたくなかった!」


「でも食べてから知るのも嫌でしょ?」


「そ、それもそうだな」


 嫌そうに眉間にしわを寄せ、渋々といった様子で納得した。キョウヤは両手でフォークとナイフを持つ。


「見た目だって、日本人が気持ち悪がらないように作ったんだしね〜」


「え? もしかしてミスラの手作り?」


「うん、全部私が作ったやつだよ〜」


「えぇ!? まじで!?」


「お、おう。そんなに驚く?」


 驚いたキョウヤに私が驚く。


「俺……女子からの手作り料理……食べたことない」


「あ……」


「俺、明日死ぬのかな」


「こ、これから、もっと食べさせてあげるよ」


「マジか……異世界最高じゃねぇかぁ!!」


「今の会話に異世界関係なかったけどね」


 先程までの嫌な顔が嘘のように、泣きながらの笑顔で、キョウヤはゴブリンステーキを食べ進める。


 ナイフで切ると、じゅわっと肉汁が溢れるメインのゴブリンロードステーキ。

 味が濃いけど、ふっくらホカホカの焼き立て白パンやサラダと食べればちょうどいい。


 鶏肉であるジズと野菜のシルフィウムで、栄養バランスを考えた鶏がらスープ。


 肉が結構多めだが、キョウヤに筋肉をつけさせるためには致し方ない。


 前世ではできなかった分、私はよく味わって食べ進める。対称に、一瞬で半分以上平らげ、水を飲んだ後にキョウヤが叫んだ。



「うんめええェェェェ!!」




キョウヤ「魔法ってどう使うんだ?」

ミスラ「コンスさんに任せれば大丈夫だよ〜」

キョウヤ「早く使いたいんだよな」

ミスラ「もっと慎重になった方がいいよ」

キョウヤ「な、なんでそんな真剣な顔で」

ミスラ「下手すれば死ぬから」

キョウヤ「え……」




ミスラ「次回、『お勉強のお時間』」


キョウヤ「死ぬって……えっ」

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