4・エルフさんは大量生産品で確定しました
上司からの許しも出て早目の帰宅が出来た俺はネットのニュースサイトを眺めていた。
目当てのニュースは昼間社員食堂で見た謎の死体についての記事だった。
以前は我が家にも部屋の大きさに合わない大画面のテレビがあったが、離婚騒動の際にそれも持ち出されており現在はパソコンやタブレットを通じてニュース等は確認しなければならない。
テレビが無くなり契約解除の旨を数度連絡しても放送ヤクザからの受信料と云う集金は未だに続いており、俺はその事については諦めてしまっている。
「お、あったあった。」
癖になってしまった独り言を呟きつつ、探していたニュース記事に目を通す。
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"早朝から各地で謎の死体報告相次ぐ"
本日早朝から灰色の肌をした少女らしき姿の生命体死亡を知らせる連絡が各地から寄せられ警察は困惑している。
外見は服を着ており人間のそれと変わりないが、灰色の肌をしたそれは人にあるべき器官が複数存在しない等、死体を調べた解剖医を困惑させている。
また昨晩から深夜にかけて同様の生命体と思われる存在の不調を訴える連絡が消防庁にも寄せられており、現地に向かった隊員達を混乱させた事も取材中に明らかになっている。
いずれも一般人が保護した家庭で食事を与えた後に苦しみ出し、深夜から早朝にかけて死亡した事が現在の調査で判明している。
現在までに死体が確認できているのは神奈川で四体、島根で二体、青森で一体が確認されおり、その他の地域についてはその様な生命体に絡む連絡は入ってないとされている。
謎の生命体の不調を連絡を受け現地に向かった救急隊員の話によればこの生命体の血は黒く、対処できる施設が無い事から該当施設に搬送出来なかった事も明かされている。
警察は感染症等の危険性が無いか慎重に判断し、今後の対策にあたるとしている。
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これ我が家に来た自称エルフさんと同系の者だろうな。
ってか、神奈川に島根に青森って分布が広範囲過ぎだ。
我が家に来た自称エルフさんは全部で十九体とか言っていたけど、掲示板に書かれていたのは全部で十体と数に開きがあるし、そこも謎だ。
掲示板は読むばかりで書き込んだ事は無いけど情報を整理する為に書き込んでみるか……
多分あの掲示板が現状で自称エルフさんについて最も情報が集まっている場所だ。
俺はそう考えながらエルフ関連のスレッドを開いた。
─・─・─・─・─
【抽選に】我が家にエルフが来た【当たりました】
682:無名の名無しさん
ニュースやワイドショーで偉い騒ぎになっているな。
695:無名の名無しさん
>>682
神奈川、青森、島根って随分とバラバラな発生だよな。
他の場所で同様の事が起こっていないのも不自然に感じる。
702:無名の名無しさん
それよりも死んだエルフがもう解剖されてる件。
人にあるべき器官が色々存在しないとかホラーもいいところだろ。
713:無名の名無しさん
>>702
人と構造が違うってのは何かあっても医療で対処不可能って事なのは確かだろうな。
実際に血の色が違うってだけで何人ものエルフがあぼんしてる訳だし。
718:無名の名無しさん
>>713
あぼんとか死語過ぎるだろw
722:無名の名無しさん
死体が確認されているのって全部で六人だろ?
このスレで他にエルフちゃんに接触が確認できてるのって1と麻婆豆腐と追い返したっていう奴の三人だから、それらを合わせるとほぼ全滅って事じゃん。
唐辛子による死亡ならその致死率って恐ろしいよな。
724:無名の名無しさん
>>722
全滅ってなんで?
725:無名の名無しさん
>>704
1嫁
733:無名の名無しさん
>>722
全部で十人って言われているのに内半数以上が逝ったのか。
確かに全滅と言ってもいいわ。
746:麻婆豆腐
俺のところに来たエルフちゃん、腫れも少し引いて今朝よりもだいぶ落ち着いたから再び報告に出てきた。
エルフの人数で盛り上がってるみたいだから俺のところのにも聞いたら八人って答えが返って来た。
1の所に来たエルフが十人って答えているのにこの人数の差はなんだ?
俺の聞いたのと人数の差はあるけどこっちは会話もできる程度には落ち着いたからだいぶ安心できた感じなのは確かだな。
保護して貰う為に警察に連絡とも思ったが、こんな事あって変な情が湧いてしまったのかもしれん。
看病に付き合ってくれたオトンもオカンもそれは同じみたいで、これからどうしようかって家族会議する事になりそうだ。
がいにばば掴んだ気もしなくは無いが、おまいら気にしてくれてたみたいだから報告まで。
748:無名の名無しさん
>>麻婆
エルフちゃんが無事で良かった。
しかしいっちが戻って来ないのは本当気になるな。
751:無名の名無しさん
>>麻婆
エルフちゃんが元気になる呪いをかけておく。
色々大変だろうけど頑張れ。
769:1
色々と精神的にきついがスレ立てた責任として報告だけしておく。
我が家に来たエルフは苦しんだ挙げ句に名前も知らないまま死んでしまった。
青森の死亡ってのは俺のところ。
警察とか色々処理が残ってるから顛末だけ。
落ち着いたら吐き出しに来るかもしれないからその時はよろしく頼む。
─・─・─・─・─
ここまで読んで俺の掲示板へ書き込もうって気持ちが凄い勢いで萎えてしまった。
麻婆豆腐の書き込みを見た時は色々自身の中でもやもやしたのを書き込んで解決したいと思ったりもしたが、見た目が人のそれとは多少異なるとはいえ人型が目の前で死んでいくと云う報告を目にしまってはそんな思いも消え失せてしまった。
一人暮らし故、我が家にもレトルトのカレーは大分買い置きがある。
変に情を出して食わしていたらと思うとゾッとする。
多分1もそんな買い置きしてあったレトルトカレーを自称エルフに出してしまったのだろう。
そんな考えが頭の中を支配してしまい俺は夕飯も食べないまま睡眠導入剤を飲んで早々に布団の中に逃げ込んだ。
△▼△▼△▼△
昨晩は早々に布団に潜り込んだにも関わらず余程気持ちが揺さぶられていたのか眠ったと云う感覚は皆無だった。
今日は警察に出頭し、自称エルフさんの事について色々と聞かれる事だろう。
とは言っても俺だって彼女と顔を合わせてから保護してもらうまで数時間の間に数える程度の言葉を交わしただけだ。
何かを伝えられる程のものを持っている訳では無い。
それならば掲示板に書き込んでいた者達の方が俺なんかよりも色々と詳しい事を知っている事だろう。
そんな事を思いながらタブレットで朝のニュースを確認する。
青森でまたエルフさんが一人、アレルギー性ショック死と思われる原因で亡くなった事を伝える記事が出ていた。
どんな内容の事を聞かれるかは分からないが、俺の元を尋ねて来た自称エルフさん関連である事は間違いないだろう。
その為の準備は用意した上で出掛けた方が良いだろうなと思いつつネットのニュース欄を眺めていた。
慣れているルーチンワークをこなすだけなら惰性に任せて何とかなるものの、それから外れる事をしようとすると心身が拒絶反応を起こす。
倦怠感が増し軽く頭痛もするが行動を起こさないと逆に面倒が増える事になると自身に言い聞かせ、俺は肩掛け鞄にスマホとタブレットを放り込んで指定された警察に向かうのだった。
タブレットで経路を確認しながら昨日指定された警察署に向かう。
朝の通勤ラッシュからは時間帯は外れているものの電車の中はそれなりに混んでおり、ドアにもたれ掛かったまま流れる風景を頭を空っぽにした状態で眺める。
無関心状態と診療医に診断されたからと言って自身の意識は社会と完全に分離されてる訳では無く、俺の場合が逆に無関心を意識していないと頭痛や恐怖感と云うものを感じる状態だった。
仕事上である程度言葉を交わす人から俺を見れば自身から業務上以外で人に言葉を投げ掛ける事は無く、無表情で機械のように仕事をこなす為に近寄り難いと言われた事がある。
下手にプライベートスペースに踏み込まれても俺は恐怖感に苛まれるだけなのに、好き好んでそんな面倒な事を行いたいとは到底思えないので他人がどう見てようが構わないと思っている。
派遣先の事務所では笑い合ってプライベートの予定等を話す人も多いが、それが普通と云う人達だというなら俺は確実にその枠の外の存在であるだろうから異常な存在なのだろう。
しかしそれでも人は人、自分は自分である。
俺自身は倦怠感や頭痛、恐怖感と云うものを感じないのであればそれに越した事は無い。
頭の中を空っぽにして流れる風景を眺めていたつもりの俺だったが、視界の脇に入ってくる人の姿のせいでそんなとりとめの無い思いが頭の中でグルグルと廻っていた。
ターミナル駅に電車が到着すると乗客たちは自分の目的地へと向かう為に人の流れが作られる。
俺は乗り換えの為に流れの最後尾に着き人の濁流に飲み込まれない様に気を揉む。
この駅は乗り換えを行う際、かなりの距離を歩く事になる。
しかし多くの人は乗り換え目的でなく下車する人が大半な為、そのその人が落ち着くまで俺はホームの奥で壁に寄り掛かり待つ事にする。
何故なら乗り換えを行う為には出口に向かう人々に逆らってホームを端まであるかなければならない為に人の流れに逆らわなければならない。
多くの人が行き交う場所と云うのは俺は苦手な為、人が落ち着くまで待つと云うのは俺の中では当たり前の事になっていた。
この様な乗り換えがもう一回あるかと思うと溜息も出るが、こればかりは仕方がない。
一時間近くの電車移動が終わり、地下道から地上に出ると海が近いせいか僅かに肌に纏わりつくような潮の香りが俺の鼻孔をくすぐる。
と、同時に排気ガスの匂いも……
手にしたタブレットで地図を確認すると目的地は海側に面しているらしい。
俺はその地図に従って歩きはじめる。
途中、赤煉瓦の異国情緒溢れる古い建物があったり、適度な間隔で緑があったりと流石観光地としても有名な土地だと思いながら、その景色を楽しみながら歩を進めた。
目的に建物は都市型刑事ドラマに出てきそうな白く大きなビルで、建物の前には警邏をこなす人達が仕事をしていた。
その警邏の窓口に目的と昨日電話で聞いた担当の名前を出し、受付を済ませる。
しかし何だろうね、別段悪い事をしている訳でも無いのに警邏の人から見られていると思うと身が縮こまるような感覚になってしまうのは……
「わざわざお呼び立てして申し訳ありません。」
暫く警邏の居る受付で待っていた俺に丁寧な口調でそう挨拶をして来たのはグレーの少しくたびれたスーツに身を包む俺と同年代と思われる男性だった。
「ニュース等で確認されているかもしれませんが、死亡事故になった灰色の肌の少女についてです。保護を求めて連絡して来たのは大喜多さんの他にも数名居たのですが、少々困った事になっているんですよ。」
建物の中を歩きながら眉根を寄せ男はそう告げる。
「あ、名前の読みはオキタです。一般的にはオオギタと読むらしいですが、紛らわしくてすみません。それで困った事とは?」
俺は名前読みの間違いを告げ、その困った事は何かと返す。
「まぁ、それは実際見てもらった方が良いでしょう。」
エレベーターを降りて案内された先のドアを開けると、俺の元に訪ねてきた自称エルフさんと全く同じ姿の者が七人居たのだった。
いや、着ているシャツは各々違うがそれでも長い藍色の髪、目鼻の作りが全く同じで、しかも無表情な状態だと安いパイプ椅子に座っている彼女達はまるでそこに置かれている大量生産品の人形を思わせる。
その七人のエルフさん達はどれも無表情で視線だけが俺に向けられる。
それは何とも言えない不気味さを感じさせるが、その中のひとりが俺の姿を確認すると花が咲いたかの様な笑顔になり俺に飛び込んで来る。
「大喜多様ぁ~。」
まるで親に甘える子供の様に抱きついて来た自称エルフさんの状態に俺は戸惑う事しか出来ずにいた。
お読み下さり有難うございます。
作者モチベーション維持の為にも感想、御指摘等お待ちしております。
また不定期連載中の物語も宜しくお願い致します。
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