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14・現実は物語よりも過酷成

「行っちゃったね……」

 藍は少し寂しげな様子で呟いた。

 都内の格安カプセルホテルをジョージに教え、彼女は宿泊場所へ移動する為に俺が住む地元駅の改札を潜って行った。

 友人としての付き合いを出来ないと言ったジョージを藍と共に見送ったが、俺の中で釈然としないものだけが残ったのだった。


「分かり会えないんじゃ仕方がないさ。」

 そう自身に言い聞かせるように言葉にして自分達も改札から離れる。


「しかしいきなり暇になっちゃったな。」

 本来であれば一週間程ジョージの観光案内等で時間を取られるはずだった。

 それが二日目の朝にはその予定が総崩れである。

 齢四〇目前だと云うのに大人気ないと自分でも思うが、家族の為に無感情なままと云うのも以前の戻りたくは無い自分自身になってしまう様で許せなかった。

 今回のジョージの来日による観光案内で今後の生活費にしようと思っていたが、その当ても外れた。


「なぁ藍、もし俺がお仕事で家を空ける事が多くなっても一人で大丈夫か。」

 蓄えも食い潰し、正直今月末までに纏まったお金が用意出来ないと借りている部屋の家賃すら払えない状態である。

 すでに末期な状態であるのは自覚しているが、早急に家賃だけでも用意しない事には今の生活を続けられないのは明白だった。

 人間関係で重い鬱になり、それが最近では少々緩和されたとは云うものの、それが即ち完治と云う訳では無い。

 だが背に腹は変えられず、古巣に頼み込んで今の生活を維持する為に藍に聞いてみた。


「パパに会えなくなる訳じゃないから大丈夫だよ。」

 藍は俺が聞いた意図が分からず少し思案た様子ながらもそう返事をしてくれた。

 俺は藍とアパートに帰る道すがら古巣である人材派遣業をしている社長へと電話をするのであった。



△▼△▼△▼△



「久し振りだな、最近の様子はどうだい?」

 俺はジョージを送り出した日の午後に古巣である人材派遣をしている社長の自宅兼事務所に来ていた。

 ここで雇って貰えるなら生活に困る事の無いくらいの給料は確保できる。

 昔からやり方や考え方が汚く、あまり近付きたくは無い人物ではあったが背に腹は変えられないし、他にあてがある訳でも無い。

 二十年近くも同じ業種で働いていれば多少のコネはあり、その業界で個人で仕事を受注する人達も存在するが、生憎俺はそのような人付き合いを苦手としており、コネを作る事もしないまま働いていた為に古巣に再び雇って貰うくらいしか選択肢が無かった。


「御無沙汰しております。急な話だったにも関わらず時間を取って貰って申し訳ありません。」

 堅くならない程度の挨拶を済ませ促されるままソファに腰を降ろす。


「嫁さんと娘さんについてはこんな仕事してれば良くある話のひとつだ。まぁ、気にするな。」

 以前の派遣先の契約が切られた際、社長からは次の派遣先も斡旋される事無く俺から契約の継続は無い旨を伝えただけだった。

 その事に対してその後も社長からは連絡は無く、海外から来日する友人に宿泊先を提供すると云う表立って言えない様な事をはじめる事となった訳だ。


「気持ち的には落ち着きましたが、何分(なにぶん)半年以上も無職のままでしたから金銭的に苦しくなってしまいまして。不本意かもしれませんが何処か仕事を紹介して貰えないでしょうか?」

 言葉を飾る事無く俺は自身の現状を社長に伝える。


「で、実際の所どうなんだい?以前の仕事先を辞める時よりは表情も良くなっている様だが、またあんな状態になってしまうんじゃねぇ……」

 社長はそう言って言葉を濁す。

 世知辛い話だが重度の鬱なんて早々改善が見られる訳でも無いし、場合によっては医者から障害者手帳を勧められる事すらある。

 俺自身も薬の量がかなり増え、医者から障害手帳の申請を促された。

 それを受け入れてしまうと社会的立場が弱くなり、普通に社会復帰する際に不利になってしまう側面もある為に俺は申請を見送ったままにしていた。

 社長もその点を気にしているのは当然だろう。


「何とかやっていると云った感じです。」

 大量の薬で気持ちを落ち着かせている状態は明かさずに曖昧な言葉で返事するしか無かった。


「スグに紹介できそうな仕事場を探すから少し時間を貰えないか?見付かり次第連絡はする。以前のまま連絡先は変わっていないのだろ?」

 俺の顔を覗き込むようにして社長は言った。


「はい、変わってません。連絡お待ちしています。」

 そう応えはしたものの、この社長が派遣先の話を出さないと云う事は俺に対して仕事を斡旋する気は無いのが理解出来てしまった。

 何年働いていたとしてもやはり精神を病んだ状態で事件と呼べるものに巻き込まれ職場を去った人材には良い印象が持てないらしい。

 そんな考えが頭の中を過るが、それを表情(かお)に出さない様に無理矢理笑顔を作る事だけに務め、出されたお茶で口を潤す。


「そういえば以前の仕事場を去った時の手続きをしていなかったな。丁度良いから今やって行け。書類関連を持って来るから少し待っててくれ。」

 そう言って社長は俺をソファに残したまま応接室を出て行く。

 以前の派遣先を去ってから半年以上も経つのに今更そんな事を言い出す社長に疑問を感じながらも俺は言われるままに待つ事にする。


「十年近く同じ派遣先でよく頑張ってくれたな、これは契約終了の為に客先に提出する書類なんだが、内容を見て納得したなら署名して欲しい。」

 程なくして戻って来た社長が俺の前に出した書類は社長の言う様な物では無く、簡単に言ってしまえば今後社長とは一切関係を持たないと約束させる様な内容のものだった。

 その書かれている内容も印刷物のそれでは無く、手書きで書かれた粗末なものだった。


「これはどう云う意味ですか?」

 家族に見放され、事件に巻き込まれた挙げ句に派遣先の職場に迷惑を少なからず掛けたと云う自覚は少なからずある。

 それが派遣先でなら厄介払いの為に契約打切りをしたのは納得が出来る。

 しかし自ら抱える働き手を派遣先と同様に厄介払いすると云うのは納得出来るようなものでは無い。

 何よりも口頭で書類の説明を受けた内容と書面に示されている内容が全く異なる事に俺は戸惑いすら感じてしまった。

 書類の内容に俺は思わず社長に聞いてしまっていた。


「嫁さんや子供に逃げられたからって、それを言い訳に仕事に穴を空けるような人材を求めていないんだよ。それに精神科に掛かるってのは言い方は悪いが気違いなんだろ、そんな危険な人物を雇用し続けられる訳無いだろう?」

 先程まで派遣先が見付かれば連絡すると言っていた事はまるで無かったかの様に言葉を吐く社長。

 先程までの朗らかに感じていた雰囲気は鳴りを潜め社長は冷たく言い放つのだった。

 世間一般ではそれだけで問題になりそうな物言いだが、ワンマンで自分の考えがズレている事にすら気付かず絶対的に正しいと信じて疑わない人物に対して何を言っても無駄であろう。

 こんな事を言われるならICレコーダーでも用意しておくんだったと後悔する自分が居た。


「何、お前にとっても悪い話では無いさ。素直に一筆書いてくれるなら十年も頑張ってくれたんだ、退職金代わりを手渡して良いと思っている。」

 まるで厄介払いでもするかの様な口調で嫌な笑みを浮かべながらそんな事を言う。

 この社長は以前か人の気持ち等考えてもいないような事を平然と言葉にする人物だった。

 それもあって余程の事が無い限り嫌な思いをする事務所に連絡をする事もしなかった。

 この社長から仕事を斡旋して貰っている他の者達から言わせれば何言われても彼に耳障りの良い言葉を向けていればそれなりに可愛がってもらえると話を聞いていた。

 それが処世術と云うものなのだろうが、生理的嫌悪が先に立ってしまい俺はそれを出来ないままでいた。

 その結果がこんな扱いであるが、人として尊敬も出来なかった人物だった訳だから今更と云う思いも強かったりはする。

 人柄的にも尊敬できず金払いに関しても良い感触を持てなかった人物である為に彼の言葉に何ら期待すら持てないが、事を荒立てても俺にとっては面白くない事柄が重なるばかりなのは分かり切っている為に書面に承諾の意味の署名をするのだった。


「今後は助けてやる事は出来ないが元気でやって行くんだぞ。」

 俺が署名をした書類を確認するとそんな心にも無い事を言いながら代わりに懐から茶封筒を俺に差し出す。

 たいした金額が入っているようにも見えないが、口約束した通りのものを出してくれるとは思っていなかった俺からしたらその行動は意外そのものもだった。


「お世話になりました。」

 封もされていない茶封筒の中に確かに現金が入っている事だけを確認し、それだけ言って頭も下げる事も無く社長の元から逃げる様に出ていくしか出来なかった。



△▼△▼△▼△



「パパ、帰って来てから元気無いよ?」

 自分の取った行動に帰路に向かう中あれこれ考え、もっとやりようがあったのに何も準備せずに向かってしまったのかを後悔しながら俺は帰宅した。

 茶封筒の中には思っていたよりも多くの現金が入っており、家賃未払いで借りているアパートを追い出される心配はとりあえず無くなったが、それでもそれがほんの少しの期間だけ先延ばしに出来る程度のものでしか無かった。

 具体的に言うならどれだけ切り詰めて生活しても二ヶ月先までに安定した収入を得られないならアパートを引き払わなければいけない状況である。

 帰宅してからと云うもの、それをどう打開するかあれこれ思案している俺に対して藍は心配しているかの様な状態で声を掛けて来たのだった。


「なぁ藍、エルフってのは幸せを共有する為に当選者の元に来たって以前言ってたけど、具体的にはどんな事をしたりするんだ?」

 藍が以前俺に言っていた事だが、あまりにも抽象的だった為にそれがどう云った意味を持つのか俺は知らないままでいた。

 先の不安を解消する為にも分からないなら、それを言った本人に聞けば良いと判断したのだ。


「パパが幸せを感じられる事なら何でもだよ。藍はエルフだから出来ない事もあるかもしれないけど、逆に人には出来ない事が可能かも。それを示すのはパパの役割、藍は行動でパパの望みを実現するんだよ。」

 そう応えたものの、その言ってる内容を藍自身が理解した上で言葉にしている訳では無いような様子だった。

 自身が発する言葉に首を傾げながら、以前に聞かされた内容を思い出してそれをトレースするかの如く音に変換している様なそんなふうに俺は感じた。


「それは誰かに教えてもらった事かい?」

 藍の話す内容に違和感を感じながらそう聞き返す。


「創造主?天帝?エルフを作った存在に刻み込まれている気がする……」

 自身が言ってる事の意味が分からず藍の言葉は尻す窄みになる。

 きっと藍が言ってるいる事はエルフと云う種の根底を成す部分に刻まれていた事を藍は自分の持っている言葉の中から探し出し、それを俺に伝えているようだった。

 俺がエルフと云う種を知る事が幸せを感じられ、それを共有できるかもときっと自身の存在を確かめながら言葉にしてくれたのだろう。


「そっか、藍も全て解ってる訳じゃないんだな……」

 そう言いながら彼女の頭を撫でてやると藍は嬉しそうに目を細めた。


「パパは創造主?に会ってみたいと思う?」

 頭を撫でられた藍はまるで言葉を選ぶように聞いて来る。


「会えるものなのかね?日本の警察は優秀だって聞いてるけど、それでも藍達がどこから来たのか結局分からずじまいだったのだろ?そんな存在が人前に出て来るとはパパは思えないな。」

 その名前の元となった藍色の髪を撫でながら彼女に言う。

 結局、各市に現れたエルフの出発点を調べていた捜査機関はその足取りを掴むことは出来なかった。

 中には一日以上も歩いた上で電車移動するエルフや、自意識を確認できた状態の時にはすでに電車の中で移動中であったとか、その後の聞き取りで判明している。

 つまりエルフと云う存在そのものが自分達が何故当選者の元に行かなければならなかったのか、意識の無いまま行動してそれを自覚した時にはもう行動の最中だったの云うのだから俄に信じられないような話だった。

 それはまるで夢遊病者や催眠術に掛かった者が気付けば知らない土地で目覚めたにも関わらず何の疑問も持たずにそのまま行動を続けていたのと同じ様なものだ。


「でもパパが藍にお願いしてくれたらきっとエルフの神様は会いに来てくれると思うの。」

 藍の中でエルフの創造主は神様と云う概念に合致したようだ。

 生命体を作り出し、それを意のままに操るような存在が神様なのかと問われれば疑問に感じる部分もあるが、そんな存在を生み出せるのは神か悪魔かのどちらかと言われれば納得ではある。


「当面は神様より目の前にある生活を続ける為のお金をどうするか考えなきゃいけないな……」

 俺が望む幸せ、藍が求めている幸福感、それを共に築いて行く事は可能だろうかと考えながら画面に映し出される求人案内サイトを彼女と共に覗き込む。

 家族に捨てられた俺がこんな状況であっても前向きに明日を考えられるのは藍のおかげなのは間違いない。

 これを幸せと云うのなら、俺は言葉にする事はしないが間違いなく幸せなのであろう。

 だが本当の幸せは生活に不安が無くなってはじめて成り立つものであると俺は思っている。

 本物の幸せを築く為にも頑張らなければいけないなと思うのだった。

 お読み下さり有難うございます。

 外宇宙のエルフさん、やっと二章が書き上がりました。

 当初のプロットでは来日したジョージと何も問題が起こらずに日本観光をして終わるはずだったのですが、何故か"理屈なき感情"を執筆している辺りからジョージと云う存在がプロットに無かった事を口走りはじめ、それに主人公である富夫が熱くなってしまった事で思わぬ方向に話が走ってしまいました。

 結局経済的にも人間関係的にも彼等は追い詰められるカタチとなってしまった訳ですが、作者としては何とか話を纏め上げ、これで物語的には良かった様な気もします。


 二章最後に少しだけ話題にあがったエルフの神様ですが、次章から少しづつですがその存在が明らかになって行く予定です。

(予定であって決定では無い。あくまで現在考えているプロットの上での事なので期待はしないように……)


 今まで物語中に出て来た人達もその事柄が終わってそれっきり出て来ないままでしたが、やっと思っていた風呂敷を広げ終わったのでこれからまた徐々に過去に登場した人物達が物語上で再登場する予定です。

(これも予定は未定って事で……)


 プロットは存在しつつもその通りに進まない行き当たりばったりな筆者ですが、今後とも外宇宙のエルフさんを宜しくお願い致します。

 また作者モチベーション維持の為にも感想、御指摘等お待ちしております。

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