5・予想外は日常に溢れてる
※2018.11.06:国際線到着便の描写を手直ししました。
「ふわぁ、パパ凄いよ!」
藍は高揚した声で俺に語り掛ける。
今日は我が家のエルフさんと共に一ヶ月程前から言葉を交わしていた海外からの友人を迎える為に東京国際空港ターミナル、通称羽田空港に来ている。
滞在期間は約一週間、当初は二日程を我が家で過ごす話だったが言葉を交わして行くうちに全日程を我が家で過ごし、その観光ガイドを全て俺に任せようと云う事で話は纏まったのである。
藍が半ばはしゃぐ様に高揚した声をあげているのは普段あまり遠出と呼べる様な事をする事が無く、出掛けるといっても年間の閲覧券を購入したプラネタリウムくらいだ。
俺と一緒でないと猛獣と同等の扱いで出歩く事もままならない藍だが、それでも今ではよく足を運ぶ人達とも程良い交流を持つ程になっている。
だが、それだけだ。
藍の行動範囲は俺と共に出歩ける範囲に限られこの様に新たな場所に赴くと云うのは制限されていると言っても過言では無い。
それ故に新たな場所を訪れた藍は気分を高揚させているのだろう。
出会った頃と比べれば、藍も目に見えて感情表現と云うものが手に取る様に分かる程になったものだ。
「確かに凄いな。」
俺自身、羽田空港は日本全国を飛び回っていた事もあり何度も利用した事がある。
しかしそれは現在藍と共に居る場所よりも奥にある国内線のターミナルである。
国際線のターミナルは初めて訪れたが、国内線のそれとは大きく異なっていた。
国内線ターミナルは機能的ではあるが飾り気の無い無機質な感じを受けるが、国際線ターミナルは海外からの受入口を意識してか視界のそこかしこに日本をイメージし易いものが配置されている。
到着ロビーから出てきて振り返れば季節柄もあるのだろうが、ライトアップされ紅に染まった紅葉の木が視界上方に見える。
気になりって実際にそこに行ってみれば秋祭りを模した神楽が立てられている。
到着便の予定はまだ三時間以上の余裕はあるが、俺と藍はその到着予定時間よりもかなり早い時間帯にこの場に訪れている。
その理由は俺自身が羽田ターミナルを案内するには不慣れな事、そしてそれを補う為に軽く下見をする為であった。
俺ですら長年日本と云う国に慣れ親しんでいると云うのにターミナル内から感じる日本感に圧倒されてくらいだ。
藍にとってこの場所から感じる様々なものは俺以上のものであると云うのは容易に想像する事が出来る。
「藍、それじゃ少し見て歩こうか。」
俺はそう声を掛け自身の気持ちを誤魔化す様に興味深げにあちこちと視線の先が落ち着かない藍の腕を取る。
彼女も俺の意図が分かったのだろう、自身の腕を俺に絡ませて歩を合わせる。
この場所には地球上の様々な場所から色々な人達が訪れている。
そんな中で俺達はどの様に見られているのだろう?
出来る事なら藍もそんな地球上に居る人達と同じ様に見てくれれば良いと考えながら俺は藍と共に海外からの友人が到着するまでの時間を楽しむ事にした。
△▼△▼△▼△
『Welcome George to Japan.』
タブレットには手書きで書かれた文字が踊り、それを藍が掲げている。
四時間程羽田空港国際ターミナル堪能した俺達は海外からの友人であるジョージの事を到着ロビーに通じるゲート前で待っていた。
藍とあちこち見て過ごして感じた事だが、ジョージにターミナル内を軽く見せてそのまま足を伸ばしB級観光をした方が喜ぶだろうと云うのが俺の感想だ。
ターミナル内を見て歩くだけなら日本的な作りの物は興味を惹くが、その場所で何かを楽しもうとするには当然だが金が掛かり過ぎるのだ。
俺に連絡をして来るヤツは言い方は悪いが観光の宿泊費を少しでも安くしたり、ガイドブック等には載っていない観光を楽しむ為に連絡をして来る貧乏旅行者だ。
ならば金銭的余裕はそれ程無いと見るのが普通だろう。
これから会うジョージも聞けばシカゴに居を構える自称貧乏学生との事で数年掛けて貯めたバイト代でこの日本観光との事だ。
俺の事を知ったのは藍のブログがきっかけだった。
日本で人類とは全く異なるエルフと云う知的生命種が突然現れた事は海外でもニュース等で取り上げられたらしい。
元々日本のサブカルチャーに興味の深かったが、そのニュースを見て色々とネットを徘徊しているうちに藍のブログを見付けたと云う訳だ。
ジョージからしてみれば今世界中のOTAKUが話題になっているエルフと一緒に日本で過ごせ、しかも通常の宿を利用するよりも安価での滞在が可能となれば多少無理してでも日本に行かなければと思ったらしい。
「ねぇパパ、まだなの?」
藍は先程から両手で持ったタブレットをバンザイ状態で掲げたままだった。
いい加減疲れて来たのか俺に問うて来た。
「あそこから人が一杯出て来たら目立つようにすれば良いよ。」
藍は勝手が解らずずっとタブレットを掲げたままの状態を維持していた。
そりゃそんな状態のままずっと居たら腕が疲れるのも仕方がない。
「それに、人が多くも無いのにタブレットを表示させたままじゃ電池も持たないだろ?」
俺は続けて言う。
本体の八割がバッテリーが締めているタブレットとは言え、そんなに長時間連続使用していては何時バッテリー切れを起こしてもおかしくない。
もちろんバッテリー切れを起こしてもそれに対処出来る様に予備電池も用意して来てはいるが、それだって限られたものだ。
とはいえ藍の鞄の中には予備バッテリーがふたつ入っている。
理論上は一日中連続使用してもまだ余裕を持って使えるだけの電池は確保してある状態だ。
藍もそれを理解しているのか掲げたタブレット下ろしてそのままお気に入りのアニメを見はじめ、待ち人が来るまでの時間を潰しはじめた。
俺はと云うと電光板の到着便情報に目をやる。
予定ではすでに到着している時間だが、その下部には四〇分程の遅れが生じている事が示されている。
天候等によって飛行機の到着が遅れると云うのはよくある事だ。
特に長距離便となればその影響は大きく出る。
それを考えれば四〇分程度の遅れはほぼ予定通りの到着と言っても過言では無い。
シカゴから羽田空港への直通便は日でこの一本のみだが、余程の事が無い限り終電が無くなって移動が出来なくなると云う事は無い。
「あそこで座って到着するのを待とうか。」
到着便の着陸案内が放送されるまで待合用に設置された椅子に腰を落ち着けて待つ事にでもするか。
そう藍に声を掛けて俺は腰を下ろす。
「パパ、飲み物買って来るけど何が良い?」
俺が椅子に腰掛けると藍はそう尋ねて来た。
ここ最近、藍は家でも気が向けば俺にコーヒーを入れてくれたりする。
現状貧乏な我が家では安いインスタントコーヒーばかりな訳だが、それでもそうやって俺を気にしてくれる姿を見れるのは心を解してくれる。
「藍に任せるよ。」
そう言って財布を取り出そうとするが、藍は俺の言葉を聞くとすぐにその場を離れ飲み物を買いに行ってしまうのだった。
午前中から慣れない場所を歩き回っていたとはいえ、こうやって椅子に身を預けていると自身が思ったよりも体力が落ちている事を感じる。
以前の仕事を辞めてからまだ半年も経っていないと云うのに、身体を動かす事が少なくなった今では以前みたいに思うように動けなくなっている。
仕事で身体を酷使していた時にはたまの休みで一日中遊び回っていても何とかなっていたが、今では午前中に少し歩き回った程度で疲れを感じてしまうのは歳をとったせいだろうか。
少し意識して鍛え直さなきゃいけないな。
「パパァ、飲み物買って来たぁ。」
体力低下の対処方法を考えていた俺に飲み物を抱えた藍が戻って来て声を掛ける。
手に持っている缶は黄土色のもので缶コーヒーでも買って来たものだと俺は思い、それを受け取る。
「藍、これは何かな?」
だが、その缶に表示された品名を見ると『うまだし』と書かれており、それが缶コーヒーで無い事に俺は少し驚き藍に聞いてしまう。
「よく分からない。」
藍は無邪気に応えるが、その手にしている缶はどう見てもネタドリンクと呼ばれる類の物にしか俺は感じられなかった。
しかしせっかく藍が俺を気遣って買って来てくれた物を無下にする訳にもいかない。
程良く暖められたそれのプルタブを起こし、それを口にする。
その様子を確認すると藍も俺の隣に腰を下ろして俺にならう。
二人してしばしの無言。
「これ、おでんの汁?」
藍は口にした缶の中身をそう評した。
確かに口にしたそれは商品名に偽り無しと言った感じでの出汁で、藍の言う様におでんのスープにしたら良い塩梅になる様な味だった。
このターミナルは確かに日本を感じさせる作りはしているが、こう云う所にまで和を放り込むのは如何なものかと俺は感じてしまう。
何事も振り切るまでやってしまうのは確かに日本らしいと言えば日本らしいが、それも良し悪しでこれは俺個人の感覚から言えば悪い方向性で振り切ったと云う感じだ。
そんな缶入りの出汁に何と返して良いのか解らず、俺はちびちびとその出汁缶の中身を口に運び続ける。
そしてこれから会う海外からの友人に思いを馳せる。
現在大学三回生であるジョージは幼少の頃に夢中になって見たアニメの殆どがに日本と云う国をで作られたものだと知って日本と云う国に興味を持ったらしい。
まぁ、良くあるサブカルチャーから日本に興味を持つと云う日本好きのステレオタイプと云うヤツだ。
地元ではサッカークラブに所属し週末には試合等で活躍していると云う話もメールのやり取りで知ったが、海外の自称オタクは日本のそれと違い何だか毎日活発的に充実した生活を送っている感じがある。
勉強にスポーツに趣味に、そしてそれらに加えてバイトと良くそれだけ時間を上手くやりくり出来るものだと俺個人は感心してしまうばかりだ。
スポーツで活躍するのならジョージはかなり引き締まった身体をした好青年なのだろう、そんな想像をしながらならば食事は和を感じさせつつもガッツリとした物が良いのかな?等と考えながら彼の事を待つ。
経済的に少し無理してまで日本に旅行に来るのだ。
俺自身の財布事情も苦しいのは確かだが、その中で最大限のもてなしをしてあげようと俺は思った。
「あ、パパ。人が一杯来たよ。」
これから会う友人の姿に思いを馳せていると藍が明るい声で到着ロビーのゲートから多くの人達出て来たのを知らせてくれる。
どうやら予定していた飛行機の人達が到着したようだ。
藍は飲み終わった出汁缶を椅子に置き、タブレットを掲げて、待ち合わせをしている目的の人物にアピールを開始する。
ゲートを出て来た人々は濃い灰色の肌を持つ彼女に興味本位の視線を向けるが、それぞれの目的の為にたいして気にする様子も無く藍の周りから過ぎ去って行く。
俺は藍の置いて行った空き缶を近くに設置されたゴミ箱に放り込み、藍の脇に立つ。
「Hi, Tomio and Ai. Thank you for your help.」
人の波が収まり、この便では無かったのかなと疑問を感じはじめた頃に俺が想像していた人物とは異なる女性が声を掛けて来た。
そこにはプラチナブロンドでショートボブなクールビューティと言って良い美人さんが居た。
俺は名前からして良い体格の青年が来日すると思っていたが、その想像は見事に打ち砕かれた。
着ているのはデニムのパンツにジャケット、だがTシャツにあるプリントのせいで美人さんは台無しだ。
胸にプリントされたそれは縦書きの筆文字で"他人の金で焼き肉食べたい"と書かれていた。
何だかその文字を確認して俺は何とも言えない脱力感を感じずにはいられなかった。
二一時少し過ぎ、これが後々まで付き合う事となる俺とジョージとのはじめての出会いだった。
お読み下さり有難うございます。
作者モチベーション維持の為にも感想、御指摘等お待ちしております。
また不定期連載中の物語も宜しくお願い致します。
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