4・エルフさんと過ごす何でも無い特別な日
人類とは異なる灰色の肌を持った生命体、その伝説上の見た目の類似性からエルフと呼ばれる彼女達が日本各地に現れてから約三ヶ月。
俺は便宜上"彼女"と言っているが、その容姿や声は中性的で性を象徴する器官も存在していない。
俺以外の人の元に現れたエルフさんは概ねその人物達と上手くやっているようだが、その中性的な見た目から俺とは違い少年の様に扱っている人達も少なからず存在している。
藍は俺の元に来た時に腰にまで届く長いその髪から少女のそれとして扱っているが、全ての人がそうでは無かったらしい。
藍は例の全裸で大捕物騒動を起こした事件の参考人として拘束された時に時間潰しの為に渡したタブレットを今では使いこなして日記代わりにブログの書き込みを行い、他のエルフさん達の情報を掲示板でやり取りをして収集していたりする。
俺も初期の頃は自らも書き込もうと思っていた時期もあったが、藍に先を越されてしまいそのタイミングを失ってしまっていた。
そんな事もあって藍はエルフ関連スレッドではエルフ自らがコテハンで書き込みを行っていると云うものあって、そこそこ知られた存在になっていた。
掲示板の書き込みで知った事だが、やはりと云うか髪の藍色から"あい"と名付ける人は多かった。
愛ちゃんやアイちゃん等、"あい"と名付けられたエルフさんはウチ以外にも多数散見していた。
そしてウチの藍以外にもネットに露出しているエルフさん達は存在している。
我が家の黒妖精と題されたブログで紹介されている輝君。
ブログ主は自ら縫製した服を輝君に着せ、それを紹介している。
中学生程度の見た目だとシックな服は着られている感じが強くなってしまい浮いてしまうが、程良く上品にな作りで少年と云う時期の魅力を上手く引き出す作りになっている。
そんな男でも無く男の子でも無い微妙な時期の見た目を持つ輝君は一部のお姉様方達から絶大な人気を得ていたりする。
ブログ主さんはオーダー服の宣伝の為に輝君をモデルにしているようだが、受け取り側は子供服専門のオーダーだと思っているらしくあまり売上が伸びてないような事をブログに書いているのを見掛けた事があった。
商売と言えば先週、俺はガイドの真似事をした。
ガイドをした人物は非常に喜んでいたが、結果だけを言えば逃げられたとしか言い様が無い。
お心付けが日本独自の文化なのは俺自身も理解している。
それ故に来日前に散々説明したつもりだったが、どうやら相手ははじめから支払う気等無く俺は良いように使われる結果に終わった訳だ。
我が家に宿泊するまでの日程でお金を使い過ぎたと云う言葉を信じて、お心付けは帰国後でも良いとしたが、彼が帰国した後にメール等で連絡しようとしたがそれらの連絡先は全て使えなくなっており、俺は丸損した。
どこも商売をすると云うのは厳しいものである。
とは言えまた数日後には別の人物が我が家を訪問する予定である、今度は逃げられない様に先にお心付けを貰う事にしようと俺は自身に言い聞かせるのだった。
ネットで露出と云うよりは芸能界で最近全国区デビューが決まったSAGAと云う十名のエルフさん達によるダンス&ボーカルユニットも存在している。
モニター当選者と呼ばれる該当者の元に来た時はまるで量産品といった感じの彼等であったが、このユニットに属する彼等はそういったエルフさんと云うイメージを崩した存在だった。
少年姿、少女姿それぞれ五人によるユニットだが楽曲によってその歌とダンスの人員構成は多様に変化する。
元々が美形とも言える中性的な存在だったのもあり、服や髪型が変わっただけで映える存在だが、それ以上に俺がネットで配信されていた彼等の活動を目にした時に驚いたのはその声である。
十人それぞれが異なる声をしていたのだ。
何を当たり前な……と思うかもしれない。
だが俺が知っているのは参考人として拘束された時に見掛けたエルフさん達だけだ。
その時に見掛けたエルフさんの見た目は全く同じで、出来の良い量産品の綺麗な人形といったイメージだった。
ウランジで見掛けたエルフさんに関してもそれは同様でまじまじと観察した訳では無いが、それでも耳に届いたエルフさんの声は藍のそれと違いを感じる事は無かった。
それ故に俺は感情と云うものはあっても人形と云うイメージが払拭出来ずにいたが、モニターの前で言葉を交わす彼等は声の質が異なり、似たような容姿はしているものの誰が誰であるかを判別出来る程度には違いがあったのだ。
それは確実にこの数ヶ月で個性を獲得したエルフさん達の姿があった。
その驚きからSAGAについて調べてみたが、その所属する事務所というか団体も俺を驚かせるものだった。
毎年何かしらのメディア露出しなければ滅んじゃうの?と感じさせる県の広報広聴課と云う部署に所属するエルフさん達だった。
他社コンテンツとコラボレーションする事は毎年の様に行っていた県ではあるが、県自らがコンテンツを売り出すと云うのは初めての試みではないだろうか。
藍と二人でプラネタリウムを見に行ってから一ヶ月あまりで珍しい存在だがそれなりに目にする機会もあり、あの大捕物があった事件は徐々に興味の無い人々の記憶の中からは世に多く出ているエルフさん達によって徐々に上書きされていた。
「パパぁ、暇ぁ……」
俺が新たな海外の友人と訪日した際の日程等のメールを確認していると藍が気怠そうな声でそんな事を告げる。
藍に預けたタブレットからは相変わらずお気に入りのアニメが流れていたが、何度も周回視聴してキャラクター達の喋るセリフまで覚えるくらいに見続けていては流石に飽きも感じたのだろう。
プラネタリウムの年間視聴券も持っている藍だが、法的には猛獣と同等な扱いの為に外出する際にはその保護者が必ず同伴しなければならない。
メディアに露出するようにもなったエルフと云う存在だが、一度決まってしまった法が変わると云うのは難しい。
物語上では多種多様な知的生命体が共に生活を営む世界と云うものも存在するが、現実世界においてはそれはまだまだ難しいようだ。
それ故、藍には外に出たい場合には俺にこうやって声を掛ける様に言い聞かせてある。
「どこか散歩にでも行くか?」
藍の声に反応して俺がそう応えると、その言葉が返答される事を期待してた藍の瞳が輝く。
何とも解り易い反応である。
俺も派遣技術者の仕事から身を引いてからと云うもの時間的な余裕はかなりある。
時間的な余裕は他の会社勤めしている人達からすればいくらでもあるが、資金的な猶予はもうそれ程残っていないのが実情だったりする。
数日後のガイド料が入って来ないと正直アパートの家賃すら支払えずに根無し草に成りかねない。
とは言ってもそんな不安な部分を藍に見せる訳には行かない。
俺は自ら意識して藍に笑顔を向けた。
「パパ、何か顔恐いよ?」
意識して作った笑顔を見て藍はそんな言葉を向ける。
のほほんとしているようでこのエルフさん、なかなか人を見ているようである。
「ん、何でも無いよ。」
俺は藍にそう返して外に出る準備をする。
とは言ってもいつも持ち歩く肩掛け鞄にスマートフォンと財布を突っ込むだけだ。
藍の方も基本的に俺と同じでスマートフォンの代わりにタブレットが鞄の中に入れられる。
タブレットは何処に行くのにも藍は必ず持って出て、気になる物があると小さくは無いその端末で写真を撮りまくる。
撮りまくった写真をどうするのかと言えば一部はブログにも掲載するが大半は使い道も無くそのまま放置される。
そのうちタブレットの記憶媒体の容量が一杯になってしまうが、それもそう遠い日では無いだろう。
俺はそんな事を思いながら藍と共に玄関を出る。
「藍が鍵やる。」
玄関を出た藍は自身の持つ鞄から鍵を取り出し、それをドアノブの鍵穴に差し込む。
戸締まりを確認すると満足そうな笑みを浮かべ藍は俺の顔を覗き込む。
よく出来ましたと云う感じで頭を撫でてやると藍は大層満足した表情を見せた。
「藍、長袖とか持っていなかったっけ?」
頭を撫でた時に気付いたのが、その格好だ。
秋も深まって肌寒く感じる日もあるが、藍のその格好は我が家に来た時のままのファストファッションであるTシャツにジーンズのままだった。
「うん、無いよ。」
何故そう問われたか解らないと云った感じで藍は応える。
普段部屋の中ばかりで過ごしていたが故にあまり気にしなかったが、この季節にTシャツと云うのは如何なものか。
他人に対して感心があまり向かなかったから元嫁さんや娘が俺の目の前から消えたと云うのに藍から好意を寄せて貰っているからとそれに甘んじていた自分自身に対して少しだけ気持ちが沈む。
好きの反対は嫌いでは無く無関心なのだと歴史に名を残すシスターさんの言葉があるが、他人に対して感心が無いと云うのは自分の世界にその相手は存在しないのと同義だ。
あぁ……そうか、家族の為にと云う理屈で誤魔化して仕事に明け暮れていたが、その家族にとって目の前に存在しない俺は彼女等の世界の中から居なくなっていたのか。
沈んだ気持ちが更に深淵に沈んで行く様な感覚だ。
「服、買いに行くか。」
藍の頭に手を置いたままその沈んだ気持ちを誤魔化す為に藍に聞く。
彼女は輝くような笑顔を向けて商店街へ続く道を歩き始めた。
△▼△▼△▼△
「ねぇパパ、これ似合う?」
肩口に展示されていた明るい青のチェック柄シャツを合わせて藍が俺に聞いて来る。
「さっき見たカーデガンと合わせるつもりなら同系色なのは避けた方が良いんじゃないかなぁ?」
冬まで着れる様なトップスを何着か購入するつもりで商業区にある大型デパートのファストファッション店で意見を交わしていた。
先程から藍は青系統の色のシャツばかりを合わせて俺に色々聞いて来る。
ジーンズはオールシーズン使えるのし、懐事情もあるので今回は見送り。
とりあえずワンシーズン困らない程度のトップスを買うつもりである。
このデパートにはファストファッション系の店が二店舗入っており、とりあず数を購入したい場合には結構便利だったりする。
「それじゃこっちならどう?」
藍は合わせていたシャツをハンガーに戻して別の色のシャツを合わせる。
「ここだけじゃなくもう一箇所あるからそっちを見てから決めても良いんじゃないか?」
藍にそう伝え、他の店舗も見に行こうと促す。
彼女の肌は暗い灰色である為に寒色系の物はあまり似合うと俺は思うのだが、好みと云うものは人それぞれ。
俺自身ファッション自体に明るくも無い為にこう云う店に来ても目的の物をさっさと購入してしまうクチだが、藍はどうやら違うらしい。
限られた予算と云うのもあるのだろうが、その中で最大限今後楽しめる服を選ぼうと云うのが見てとれる。
これも一緒に生活をはじめて色々と知識を蓄えた影響なのだろうか。
そんな事を考えながら藍と共に店を移動する。
「パパァ、ソラミちゃんの変身ステッキがある!」
服を見る為に移動した先のフロアのショーウィンドウの前で藍は釘付けになったまま動かなくなっていた。
そこには藍が大好きなアニメの魔法使い見習いの少女が変身の時に使うステッキが飾られていた。
もうアニメの放送が終わってから十年以上も経つのに未だにその頃の玩具が飾られているのも驚きだが、それよりも驚いたのはその売値である。
放送当時売られていたのは三千円程度だったが、ショーウィンドウに飾られているソレは二万円近い値札が付いていた。
「欲しいならお小遣い貯めて買おうな。」
俺はその値札を見なかった事にして藍にそう促す。
ショーウィンドウの前で目を輝かせて張り付いている藍を見ていると幼かった頃の娘と重なってしまい胸が締め付けられる。
失ってしまったものをきっと取り戻す事は出来ないが、藍と未来を紡いで行く事は可能だ。
俺はそう自身に言い聞かせながら藍の頭を撫でる。
藍はショーウィンドウに釘付けのままだが、その表情はとても穏やかなものだ。
藍と二人で何でも無い特別な日常を重ねていこう、そう俺は思うのだった。
お読み下さり有難うございます。
作者モチベーション維持の為にも感想、御指摘等お待ちしております。
また不定期連載中の物語も宜しくお願い致します。
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