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3・星空を見に行こう(後編)

「ふわぁ~、パパ凄かった。お星様一杯だった。ソラミちゃんの魔法より凄かった!」

 藍は入場の際に借りた双眼鏡を返しながら興奮した様子で俺に語り掛けて来る。

 平日の昼間の上演なので入場者数はそれ程多くない。

 それでもメディアで報じられた灰色肌のエルフさんとの違いに周りの人達も柔らかな表情で彼女を見てくれていた。


「もう一回見たい。一杯のお星様、もう一回見たい!」

 藍の興奮は冷めやらず、次の上演も希望する。

 もちろん次の上演も見るつもりで俺は来ていた。

 このプラネタリウム、閲覧料は普通だと四〇〇円掛かるが、年間閲覧券を購入するなら一〇〇〇円で何度でも見る事が可能だ。

 ちなみに中学生以下は元々料金が無料であるが、エルフさんの場合はどうなの?と尋ねたら、職員の人達がかなり困った顔をして、お試しって事で無料入場させて貰った。

 しかし何度も無料でと云うのも気が引ける。

 藍が気にいったのであれば年間閲覧券を購入した方が良いだろう。

 発券カウンターに年間閲覧券を求めてスタッフに声を掛ける。

 先程は好意で無料で見させて貰ったが、気に入ったようなので年間閲覧券を買いたい事を告げるとまた困った顔をされてしまい、他のスタッフと相談した後に学生用の物を購入させて貰う事で話は纏まった。


「裏面にお名前を書いてくださいね。」

 学生用の年間閲覧券の代金である五〇〇円を支払うと星空が印刷されたチケットを手渡され、スタッフからそう言われると満面の笑みで藍は俺を見る。

 一緒に生活をはじめてから二ヶ月程でタブレットでブログを書き、驚異的な学習能力で出会った時よりも表情豊かになり言葉も人のそれと変わらなくなった藍だが、文字を書く事に関してだけは全くと言って良い程駄目だった。

 もちろんタブレットで入力したものを写して書く事は不可能では無いが、筆記用具を用いて文字を書くと随分と歪なものになるのだった。

 それ故、文字を書かなくてはいけない場面ではこうやって俺の顔を見て書いてくれと訴え掛けて来るのだ。


「ほら、書いてやる。」

 そう言って手渡されたばかりのチケットを藍から受け取り、彼女の名前"大喜多 藍"と裏面に記入してやった。

 藍は自分の名前が書かれたチケットを受け取り、自身のピンク色の財布に大事そうにしまう。


「次の上映はあと十分くらいではじまりますから楽しんで下さいね。」

 スタッフのお姉さんがそう告げると藍は満面の笑みで返事をして入場を待つ列の最後尾に加わった。

 俺はそんな藍を微笑ましく眺めながら彼女の後に続く。


 入場はすでに開始されており、先頭の人達からプラネタリウムのドーム内に次々と人が入って行く。

 とはいっても平日の昼間の上映なので、それ程人数が居る訳では無い。

 入り口の扉の前でスタッフの青年がチケットと交換で双眼鏡を手渡して、来場する人達を誘導する。

 藍も自分の財布から先程購入したばかりのチケット取り出し、スタッフの青年にそのチケットを渡す。


「藍ちゃんね、お星様の物語を楽しんでね。」

 裏面を確認するとスタッフの青年は笑顔でチケットを返し、藍がチケットを仕舞うのを確認すると双眼鏡を手渡す。

 双眼鏡を受け取った藍は笑顔で返事するとここぞと思うベストポジションの席を確保する為に小走りにドームの中に入って行く。

 俺は苦笑しながらスタッフの青年に自身のチケット出し、藍が座った席の隣に腰をおろした。


 先の上映の時は俺が魔法によって星空が見れると云う言葉に期待して上映がはじまるまで質問責めだった藍だったが、今は再び圧巻とも言える星空にを待ち切れないと言った様子で足をブラつかせて白いドーム型天井を見上げている。

 今は連絡する事さえ敵わず行方すら解らない俺の娘も幼い頃は藍と同じ様に満点の星空を期待して同じ様にドーム型天井を見上げていたっけ……

 そんな事が思い出され俺は胸が苦しくなる。

 あの出来事があってからそろそろ四年にもなると云うのにまだまだ俺の心はその現実を受け入れる事は出来ていないらしい。

 そんな鈍い痛みと共に締め付けられる様な感覚で俺は藍を視界の中から外す。


「パパ、どこか痛いの?」

 先程までの期待に満ちた表情(かお)とは違いまるで今にも泣き出しそうなそんな心配した様子で藍は俺の顔を覗き込む。


「ん……何でも無いよ、大丈夫。」

 声を掛けて来た藍は多分心配しての事だろう。


「藍、さっき見た星の話は面白かったかい?」

 誤魔化すように俺は藍が興味をひくであろう話題を振る。


「お話?お星様一杯で綺麗でそれが凄かった。」

 あまりの星空に圧巻されていた様で星の解説があったのも藍は耳に入っていなかったらしい。

 俺もこの施設以外でもプラネタリウムを見た事を何度もあったが、それでもここの施設の星空は凄かった。

 あの鉄アレイを巨大にしたような投影機とは比べ物にならない様な飲み込まれてしまいそうな星々の輝き。

 双眼鏡で確認しても詳細まで確認出来るそれは地球上のどんな場所であっても見る事が敵わない仮想のものだが、確実に存在している真実の姿でもある。

 俺だってはじめてこの施設のプラネタリウムを見た時はどう表現して良いかも解らず言葉を失ったものだった。

 プラネタリウムを見慣れていた俺でも言葉を失ったのだから、藍が解説の言葉が耳に入って来ないと云うのも自然と納得が出来る。


「お星様綺麗だよな。」

 俺自身、想いや気持ちを伝えるのは上手いとは言えない。

 そこらが上手く出来ていたのであればきっと今こうして藍と一緒に生活すると云う事も無かっただろう。

 何が正しかったなんて俺にも解らない。

 現実はいつだって厳しく、苦痛を与える事も多い。

 それでも時間は残酷で人々をそのままにはしておく事をしない。

 俺の隣の席には柔らかな笑顔を向ける灰色肌のエルフさん。

 ドヴォルザークの"新世界より"第二楽章が流れはじめ、施設は照明が少し落ちてドーム型の天井はオレンジ色に染まる。

 空を模したドームが染まると同時に西の方角には太陽を模した光源が映し出された。


「お星様、はじまるね。」

 オレンジから茜色に変わって行くドーム状の天井を見上げながら藍は一言そう溢す。

 ドヴォルザーク"新世界より"第二楽章が終わると藍の髪の色よりも明るい藍色の空に申し訳程度の星が瞬いていた。


「今見ている空は今日見える夜空の状態です。でも街の明かりが強くて星があまり見えませんよね。では邪魔な街の光は退場して貰って素敵な夜空を楽しむ事にしましょう。」

 スタッフの女性により前説がされ明るさの残っていた藍色の空は漆黒に染まって行き、それに反応する様に数えるのも馬鹿らしくなる程の星達が空を染め上げる。


「人の作る光に退場して貰うとこれだけ沢山の星達が姿を現します。今日はこれから星達の物語を皆さんに楽しんで貰いましょう。」

 アナウンスの女性が言っている事は正しくない。

 どれだけ人の作った光が無かったとしても、空気による屈折が弱い星の光を遮ってしまい地球上で確認出来るのは六等星から七等星が精々だろう。

 それ故、巨大な鉄アレイの様な形をしたプラネタリウム投影機は六等星程度までしか映し出さなかった。


「それでは皆さんの前に姿を現した星達の凄さをもっと感じてもら為に空を双眼鏡で見てみてください。」

 アナウンスの女性はそう言って入り口で貸し出した双眼鏡の使用を促す。

 先の投影回では星達の洪水に圧巻されっぱなしで只々その星空を見上げるままだった藍だったが、今回はアナウンスに耳を傾けるだけの余裕が出来たようだ。

 アナウンスに従って藍は首から下げた双眼鏡を使って人工的に作り出された星空を見た。


「すっご~い!」

 周りの人達は感嘆の溜息程度で己の感情を表している中、藍は大声でその感動を表す。

 真っ暗な中きっと他の人達は声のした方に注視しているのだろう。

 そんなふうに思ってしまうと俺は恥ずかしくて仕方がない。


「はい、凄いですよね。この投影機の姉妹機は全世界に三十箇所以上の場所で活躍してますが、一億四〇〇〇万を超える投影を出来るのは採算度外視で作られた試作機とも言えるこの施設の投影機だけなんですよ。」

 アナウンスの女性はそんな藍の感嘆の声に反応して、投影機の説明を付け加える。


「採算を度外視した試作機が量産機より性能が良いと云うのはアニメでは良くある定番のネタですね。これからも本館の投影機が星の表現力で負ける事は無いでしょう。」

 そんなアナウンスに来場した人達からの笑いが溢れる。

 最近は終始機械任せにしてしまう施設も多いがこのプラネタリウムはその時々の来場者の反応を見てアドリブを混ぜて来場者を楽しませる。

 俺がはじめてこの施設を訪れて気に入ったのは世界最高峰の機器があるからでなく、そう云う人間味に惹かれて気に入ったのかもしれない。

 自身の好きを身近な人に知って貰うと云うのはくすぐったい思いもあるが嬉しいと云う思いも同時にある。

 俺はそんな言葉で表現するにはもどかしい思いを抱いたまま人工的に作られた夜空を見上げるのだった。




「凄かった、お姫様を助ける英雄の話面白かった!」

 先の投影は大人も楽しめる内容の落ち着いたものだったが、先程見終わった投影は子供向けの英雄物語だった。

 秋の星座の中には囚われのお姫様であるアンドロメダ、そのお姫様を救う英雄ペルセウス、英雄を助ける天馬ペガサス、そして敵役であるクラーケンの全ての星座が揃っている。

 英雄ペルセウスの物語は秋の星座を紹介する子供向けのプログラムでは定番のものである。

 そんな解り易い英雄物語に藍は明るくなった場内で興奮した様子で俺に語り掛けて来る。

 席を立ち出口に向かう人々はそんな藍の様子を微笑ましい笑みを見せながら場内を去って行。


「お姉さん、楽しいお話をありがとう。」

 興奮冷めやらぬ声で操作盤の前で後片付けをしている女性スタッフに礼を告げる藍。


「また来て頂戴ね、次も楽しいお話を準備しておくからね。」

 スタッフの女性は藍に笑顔を向けて灰色肌のエルフさんの頭を撫でるのだった。

 藍は嬉しそうに頷くと早足で出口に向かい借りていた双眼鏡を回収スタッフに渡すのだった。



─・─・─・─・─



【思い出を】我が家にエルフが来た 17人目【作ろう】


1:無名の名無しさん

 まるで人形のような愛らしさを持つエルフちゃん。

 ここはエルフスキーが集うスレッドだ。

 人と似てるけど全く異なる種だから未だに解っていない事も多い、そんな情報交換の場所としても活用して欲しい。

 エルフちゃんと一緒に生活をしている野郎どもの自慢やエピソードも待ってるZe。

 現在判明しているエルフちゃんの特性等については下記の通り。

 現実のエルフちゃんと接触する機会があれば下記の事に注意してより良い関係を築いてもらいたい。


・エルフちゃんは各県の市に一人づつの割合で存在しており、現在確認されているのは七百人強。

・人間よりも優れた身体能力故に法的な扱いは猛獣と同様。

・施設や交通利用料は概ね子供料金で扱われるが、この扱いは自治体によって異なり法的な扱いが未だに定まっていない。

・唐辛子に極度のアレルギーを持っている為、食すと最悪死亡する危険性あり。

・唐辛子が駄目なのにエルフちゃんは総じて辛いものが好物のようだ。

・外見はどのエルフちゃんも同一だが、髪型や服装等によって男の子にも女の子のようにも変化する。

・灰色の肌でどの人種のものとも異なるからって恐がる必要性なんてないんだからな。



284:麻婆豆腐

 鷹の爪を使わずに我が家のエルフちゃんの為に麻婆豆腐を再現したいんだが代わりになる材料が見付からん。

 料理が得意な奴、オラに力を分けてくれ!



288:無名の名無しさん

>>284

 鷹の爪を使わないカレーならすでにあるんだけどな。

 そっちじゃおまいのところのエルフちゃんは納得しないのか?



291:無名の名無しさん

>>284

 カプサイシンじゃ無い辛味成分で似たような味の物って存在しないんだよな……



296:ハニワ

>>288

 エルフ用のカレーって興味あって作ったけど、子供用のカレーって感じで何か物足りなかったんだよな。

 それってやっぱり鷹の爪が入ってないせい?


301:

>>296

 材料に鷹の爪が含まれているのはそれが唯一無二だからなんだよな。



308:麻婆豆腐

 苦味が出てしまう山椒とかで何とかするしか無いか……



312:藍

 藍は辛いのって食べた事無いけどそんなに美味しいの?

 それとね、今日はパパとプラネタリウム行ってきたの。

 すごいくキレイで星が一杯で夢の中に居るようだった。



314:無名の名無しさん

>>312

 藍ちゃん久しぶり。

 どこのプラネタリウム行ってきたの?



317:麻婆豆腐

>>藍

 久しぶりだね。

 辛いものはエルフにとって悪魔の食べ物だから知らないなら知らないままの方が良い。



326:藍

>>314

 試作機?のプラネタリウムがあるところ。

 星がいっぱいでペルセウスって人のお話が凄く面白かった。

 それと星が乗ったパフェ食べてきた。

 おいしかった。


>>麻婆豆腐

 悪魔の食べ物?

 どんなのかわからないや。



330:麻婆豆腐

>>藍ちゃん

 きっとパパが藍ちゃんが苦しまないようにしてくれているんだと思う。



334:無名の名無しさん

>>藍ちゃん

 ブログは更新されてないみたいだけど、今日の事は書くの?



339:藍

>>麻婆豆腐

 苦しいの?藍は苦しいのイヤだな。


>>334

 写真もいっぱいとってきた!

 これから書くよ。



345:無名の名無しさん

>>藍ちゃん

 ブログ楽しみにしているね。

 ウチのエルフもそのうち公開する予定。



352:藍

>>345

 他の子見た事無いからたのしみ。

 公開したら教えてね。



─・─・─・─・─



 帰宅してから藍はタブレットと向き合ってキーボードを叩いているので掲示板を覗いてみたら案の定か……。

 でも余程嬉しかったみたいだ。

 そんな掲示板に書き込みをしている面々とのやり取りをパソコンで確認をしながら俺は疲れた身体を椅子に預けるのだった。

 物語本編で誤解が生じるといけないので蛇足的な後書きです。


 今回のプラネタリウム施設はモデルが存在していますが、平日の昼間は一般公開されていません。

 夕方に1回のみ一般公開プログラムが存在して、物語の中のみたいに一般公開プログラムと子供用プログラムがあるのは土日祝のみになります。

 物語中では"試作機"と書いていますが、実際は採算を度外視した最新鋭機で他の施設には量販モデルである物が設置されているとの事です。

(依頼があれば販売も行う様な感じはありますが、この最新鋭機が設置されているのは世界中で1箇所しか存在していないみたいなので、劇中では試作機と表現させて頂きました)

 このモデルになっているプラネタリウム投影機ですが、最新鋭機で無くてもその星達の表現力は凄まじいものです。

 具体的にどれだけの星が見れるのかと言えば、ハッブル宇宙望遠鏡で見れる星空と同等のものがプラネタリウムで楽しめます。

 国内で設置されている場所はどこも手軽な金額で投影鑑賞出来ますので、興味の出た方は検索してみてお近くに設営施設があるなら是非一度鑑賞してみる事をお勧めします。

(実在する機械の名前を出せないのは察してください……)


 またそのホームユース版である商品も一万円程で販売されています。

(季節毎限定機能の物なら四千円程度で購入が可能です)

 それでも従来の投影型プラネタリウムに迫る性能を持っていて、家庭内で手軽に本格的なプラネタリウムを楽しむ事が可能です。

 こちらも商品名は出せませんが、少し調べればそれらしい情報は沢山出て来ますので星に興味を持たれた方は手にされると良いでしょう。


 そんな何ともモヤモヤ感が残る蛇足的説明で申し訳ないですが、掲載許可等も取っていない為の表現しか出来ない事を御了承下さい。

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