1・それは最近の日常となった朝の様子
日間ランキング30位圏内に入りました。
こんな事はじめての経験で中身の人だいぶ驚いております。
これからも皆様に楽しんで頂ければ幸いです。
「パパぁ朝だよ、起きてぇ。」
「藍、昨日は遅かったんだ。もう少し寝かせてくれ……」
少し間延びした口調で俺の毛布を引き剥がすかつての自称エルフさん。
彼女は今では藍と云う名前があり、俺と生活を共にしている。
人死にまで出たエルフさんの大捕物があってから約二ヶ月。
結局俺は派遣先の契約を切られ、先月からは社会的には無職と云う扱いになっている。
引き継ぎ期間として一ヶ月の猶予が派遣先から与えられたが、客先の情報を引き継ぐのはそれ程多くは無く、契約が終了するまでの間は事務所の中で針の躯の中で生活している感覚だった。
引き継ぎ期間の間、派遣会社の社長から次の現場の打診もあったが、最低でも半年以上自宅を空け現場に詰めなきゃならない仕事であった事から藍の心配もあり、辞退するしか無かった。
結果、俺は所属していた派遣会社からも身を退く事となり四十歳を目前にして無職の身となってしまっていた。
エルフさん達はと云うと、日に日にその人数は増えていた。
毎日どこかの県で新たなエルフさんが幸福感を共有する為に現れ続けた。
ここ二週間程は新たなエルフさんが現れたと云うニュースは報道される事は無くなったが、その数全国に登録等で確認されているのが約七百人強。
このエルフさん達が現れると云う現象は落ち着いたが、東京都、大阪府、京都府、北海道にはエルフさん達が現れる事が無かった。
つまり一都二府一道以外の四十三県全てにエルフさん達が現れた事になる。
約七百人強と云う数字が多いのか少ないのかで言えば全国の各市に一人はエルフさんが生活しているのと同数と云う数字である。
半数程はその訪問先で受け入られる事となったが、全部が全部受け入られる事は無く、例の事件の事もあり受け入れを断固として拒否する者も少なくなかった。
拒否した人達の生活や何らやらを考えれば当然エルフさんとの生活を受け入れられる者ばかりでは無い。
ネットで募集されていた時にはモニターする対象が何であるかも明記されておらず、忘れた頃に人の姿はしているものの人で無いモニター賞品そのものが突然訪問して来るのである。
そのまま共同生活を出来ない者達が居ても何らおかしい事ではないだろう。
受け入れられなかったエルフさん達の扱いはどうなったか、それは彼女達の法的な立ち位置にも関係していた。
借りで決定された特定動物としての存在だったが、それが正式なものとなった。
生活を共にする事を望むなら特定動物の飼養又は保管の許可を取るようにと全国のニュースで大きく報じられる事となった。
簡単に言ってしまえば猛獣を飼う為に市長に許可申請しましょうって事だ。
エルフさん達の法的な扱いは猛獣な為、モニター当選者がその共同生活を認めたくない場合どこに連絡すれば良いのかといえば保健所となる。
保健所収容されたエルフさんは他の動物と同様に一定期間の里親募集があり、その期間が過ぎれば相応の処理されるのだが、マスコミで報道されたのは里親募集の期間が設けられると云う事のみが伝えられた。
この里親募集のニュースが世に知られる事になるとモニター募集の応募すら知らずエルフに興味を持っていた人達が里親として保健所に押し寄せる事となった。
俺自身は彼女達をペットとして扱うと云う国の方針に納得できないが、これは個人が一人で声をあげたところでどうにかなる様な問題でもない。
結果としてエルフと云うパートナーを求める輩は多く、保健所収容されても次々と里親は決まって行く状態だと報道されていた。
先月はそんな保健所収容されてから里親が見付かり、その後の生活をしている様子をドキュメント形式で紹介する番組が放送される等して例の事件があった事も人々の記憶から徐々に消えかけていた。
エルフさん達を俺は便宜上"彼女"としているが、彼女達に性別と云うものは存在しない。
一緒に生活をしはじめてから知ったのだが、彼女には性を象徴する器官が存在しなかった。
これは活動期間が四十年程で次世代を残す機能が存在していない事を意味する。
次世代を残さない為にそれを育成する為の器官も存在しない。
簡易的に彼女の姿を表現するならまるでマネキンのように均整のとれた身体ではあるが、マネキンは服を魅せる為の物であり人としての細かいアレコレが無いのと同様にエルフさんも生命体としてのアレコレが省略されている様な状態だ。
つまりエルフさん相手にエチーな事はしたくても出来ないのである。
腰まであった長い藍色の髪について本人に聞いた事があったが、彼女はその方がモニターの人達が好きな髪型にする事が可能だからだと当時感情を感じられない言葉で説明された。
藍と名付けた我が家のエルフさんの現在は肩のあたりで髪は切り揃えられ、ここに来た当時と同じようにファストファッションのジーンズに飾り気の無いシャツで生活する事が多い。
俺自身がファッションセンスが無いのもあるが、彼女自身が動き易い格好を好んだ事もある。
この好みについてだが、時間経過と共に少しづつではあるがそれぞれのエルフさんで違いが出はじめているのは掲示板の書き込み等でも見て取れる。
言葉についても同様で我が家の藍ははじめて見せたアニメが大層気に入り、四年間放送されたものをすでに三周程繰り返し見ている。
その影響からか主人公の女の子同様に活発な性格だが、思慮の少し足りないと云うそんな人格にを宿したみたいだ。
言葉もそれの影響か喋り口調も以前の様な機械が処理する端的な単語の連続だけのものでは無くなっていた。
──さて現在絶賛無職中の俺であるが、金を稼がなければいずれはこの場所も引き払い路上生活をしなくてはならない未来が現実になってしまうのも時間の問題である。
俺はそれを回避する為に派遣先を去る少し前から準備を進めていた。
灰色肌のエルフと云う存在は海外でも報道され、瞬く間に世界中で話題になった。
日本だけに次々と現れる彼女達に対して海外からの反応も興味津々な様子だった。
藍と共に生活をはじめて彼女専用の端末になったタブレット。
俺が見せたアニメがきっかけで手放さなくなった端末だったが、他にもそれで出来る事を教えたらそれらの操作もみるみるうちにおぼえてしまった。
俺はタブレットを初期化し彼女専用の端末として与えたが、彼女は日々の生活をブログで綴るようになった。
なんでも読み書きを覚える為にはじめたそうだが、筆記する事は未だに出来ない。
やはり筆記は実際に書き慣れないとなかなか上手く行かないのだろう。
俺自身だってパソコン等を日常的に使うようになってから筆記する際に漢字等が思い出せずスマホやパソコンで見て思い出すなんて事は最近では多くなってしまった。
彼女が書くブログの内容はたいした事では無く、はじめた頃はそれ程のアクセスも無かったが、タブレットで撮った写真等もアップしはじめるとエルフの日常が垣間見えると徐々に話題になっていった。
彼女はお気に入りのアニメの事をブログで書く事が多く、海外からも拙い日本語で書かれた感想にも全て返信し、その返信だけで午前中が潰れてしまう事も最近は多くなっていた。
そんな彼女の活動を身近で見ていた俺は『これ商売になるんじゃね?』なんて邪な考えが頭を過った。
海外からやってきた人達を民泊およびガイドをし、その代金で生活しようと俺は考えたのだ。
ただ、そんな施設を用意する資金なんて俺にあるはずも無い。
築は古いが部屋数だけは家賃の割に多いアパートがあるだけだ。
もちろん賃貸しているアパートを料金を取って宿泊させるってのは賃貸契約に反する為に行う事は出来ない。
それに宿泊業とするなら知事による許可やそれに付随する資料も必要になる。
また宿泊施設として届け出るなら食品衛生責任者や消防法令適合の許可も得なければならない。
調べれば調べる程に現実味の無い話だと諦めかけたその時、再び俺に邪な考えが頭の中を過る。
"友人を泊めるだけなら何ら問題ない"のではないかと──
こうして俺は海外から遊びに来る友人の為のサイトを作り公開する事になった。
英語は見るのも駄目って人では無いが、思いのままに操れる訳でも無い。
当然そこらは機械翻訳を駆使して書いてある内容が文法的に正しいのかどうか判断もつかない内容だが、それをそのままの状態でサイトを作って行く。
サイトには藍が書いたブログも表示させ、俺自身が海外の方達と交流を深めたい事をサイト内でアピールする。
友人になりたいと連絡をして来た人達と機械翻訳による英語で言葉を交わし、来日する際にはガイドの真似事もするし宿泊場所は我が家で泊まれば宿泊費も浮かせられる等、下心ありで言葉を交わしのがここ一ヶ月半くらいの出来事。
建前上は宿泊費等請求するつもりは無い、ただ来て貰ってもその頃には無職になっている為、ガイドの真似事をするからそれに見合ったお心付けがあれば非常に助かると云う趣旨を相手方には伝えてある。
多少なり残っている良心が少しばかり痛むが、俺自身も生活しなきゃならないのでそこだけは譲れない。
そんな感じで無職になってからの約一ヶ月、俺は大手を振って話を出来ないアレコレの準備を進めて来たのだった。
「パパ、今日は藍と遊んでくれるって約束したじゃん!」
毛布を引剥がしても丸くなって起きない俺に痺れを切らしたのか藍は俺にフライングボディプレスを仕掛けて来た。
当然寝ぼけたままの俺は彼女が飛び込んで来るのをそのまま受けるしか無く、ぐぇっと云う鈍い悲鳴と共に眠気を散らす事となる。
彼女に名前を与えて暫くは大喜多様だの、富夫さんだの、御主人だのと言っていたが、そのどれもが他人行儀で扶養していると云う俺自身の感覚もありパパと云う事で落ち着いた。
人様に大きな声で話せないような仕事をしているパパでごめんなさい、世間的には無職なパパでごめんなさい。
──とは思うものの、たいした資格も無い四十歳目前のバツイチ男が藍の寂死を回避する為には仕方が無いと自分に言い聞かせるのだった。
「ん、それじゃ朝食にしようか。」
飛び掛かって来た藍はそのまま俺の隣で横になり、見慣れた笑顔を向けている。
そんな藍の髪を撫でてやり、俺は起き上がって部屋のカーテンを開け陽の光を部屋の中に招き入れる。
台所に向かい冷蔵庫から薄切りされたボロニアソーセージとスライスチーズを出し、一斤百二十円の六枚切り食パン二枚をフライパンの上で弱火で温める。
我が家にはトースターが無いのでパンを焼くのは専らフライパンである。
ボロニアソーセージの白い油が目立たなくなりスライスチーズが溶け出したら皿に移してそれを藍が待つテーブルへと運ぶ。
藍は自身で大き目のコップに氷を入れ、数本の買い置きしてあるペットボトルから林檎ジュースを注ぐ。
林檎ジュースは初めて口にしたのも手伝ってか、藍のお気に入りである。
冷蔵庫には他にもオレンジやトマトのジュース等もあるが消費は圧倒的に林檎のものが多い。
「それじゃ、いただきます。」
そう言って藍との朝食の時間を迎える。
藍は食事をするのは日に一度、大抵は夕飯のみだ。
場合によっては何も食べない日もあったりするが、それでもエルフと云う種は問題なく生活する事が出来る。
とは言っても俺自身は食事を取らなきゃならないので、藍は俺が食事をしている時はこうして席を一緒して彼女は飲み物のみを摂取する。
会ったばかりの頃、藍は食事と云う行為はその幸福感共有の最も身近なものと言った事があった。
離婚も経験した俺だが、藍のその言葉は納得出来るものがある。
今は行方も分からなくなってしまった元家族だが、彼女等と食事の席を共にしなくなってからは幸せを感じる様な事は皆無だったような気もする。
きっと彼女達もそれは同じ想いだったのだろう。
それ故に家族である意味が見出だせなくなったと書き置きだけを残し、いつも食事を共にしていた娘と俺の目の前から居なくなった。
それを反省しているから藍と一緒に食事の席に着いている訳では無いが、彼女は俺が食事の用意をしているとかならず席を一緒し、俺が食べている姿を飲み物を傾けながら観察する。
生活を共にするようになって最初の頃はどうして良いかも分からず気不味さもあったが、今ではその姿が確認できないと俺の方が心配してしまうのでは無いかと思う程だ。
「で、今日はどこに連れて行ってくれるの?」
トーストを齧ってる俺に藍は尋ねて来る。
「今日は星空を見に行こうな。」
来週には海外の友人がはじめて我が家を訪れる。
今日はその案内の下見も兼ねている。
とは言っても我が家からは結構御近所である。
路線バスを利用して三十分程の場所にある市営のプラネタリウムに行こうと思っている。
市営のプラネタリウムと言っても馬鹿に出来ない。
何故ならその施設の装置は世界一の星空が見れる代物だからだ。
なんでもその装置の作成者がこの土地の出身者で、独学でプラネタリウム装置の事を勉強して従来の方式とは全く異なる装置を開発したとの事だ。
この装置は求める施設にも販売しているそうだが、装置作者が生まれ育ちプラネタリウムと云う存在に興味を持った市営の施設に自らが作った最高性能の装置を寄贈した。
それ故に市営のこじんまりとした施設ではあるが、その観覧料金は大人で四百円と格安だったりする。
他にもこのプラネタリウムは姉妹機が多数存在するが、常設されている多くの施設は市営や県営の施設が多く、そのどの施設で見るにしてもお値段はお手頃だ。
俺がまだ若かった頃、幾度かプラネタリウムの鑑賞をした事があったが、その当時よりも鮮明な星空を満喫でき、しかも鑑賞料は当時の半額以下で楽しめると云うのは良い時代になったと言えるだろう。
「これからお昼になるのに星空?」
藍は俺の言った言葉の意味が分からずに首を傾けながら聞いて来る。
その施設の近くには某有名漫画家や世界的有名画家の記念館等もあったりするが、今日全てを回らなくてもそのうち行く機会もあるだろう。
「まぁ行ってみれば分かるよ。」
俺は藍がどんな反応を示すのだろうかと想像しながらそんな返事をするのだった。
お読み下さり有難うございます。
作者モチベーション維持の為にも感想、御指摘等お待ちしております。
また不定期連載中の物語も宜しくお願い致します。
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