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宮古島

作者: 小林桜美

沖縄県の宮古島に行ってきた。

沖縄県の中でも観光客などから特に人気の高い宮古島は、今や国内旅行者だけでなく、海外からの観光客からも高い人気を誇っているようだ。

さて、僕が宮古島に行ったのはちょうど3年振りだと思う。

その前までは毎年、年に2回くらい来ていたので、これまでに宮古島を訪れた事は回数的には10回近くになる。

プライベートで来たのは1度だけで、今回を含めて仕事の関係で来ている事が圧倒的に多い。

しかし、意外とオフの時間も多く観光的な事が出来ているので、島についてはそこそこ詳しくなったつもりでいた。

今回は、久しぶりだったので是非、徒歩で島を歩く時間を持ちたいと思い、ぶらぶらと歩いていた。

久しぶりに歩く道だが、僕にとっては馴染み深い道である。

小学校のグラウンドで野球をする子供達の姿、民家の前に咲く綺麗に手入れされた色鮮やかな花、そして見渡す限りのサトウキビ畑。

変わってしまったと思うような景色はどこにもない。

もちろん、市街地の中心に出ると見覚えのある店の名前が変わっていたりしたのだが、その辺りの懐かしいネオンの眩しさは変わらなかった。

さて、その散歩中の事である。

遠くの方にドス黒い雲が広がっているのが見えた。

この時点で、タクシーに乗り込んでおけば良かったのだが、懐かしい景色をもう少し散歩したくて、僕はそのまま歩き続けた。

すると、いきなりの豪雨である。

しかも、雨宿りするようなちょうど良い軒先はない。

ふと見ると、道の反対側に一階が金物屋さんというマンションがあり、ちょうど雨宿りに良さそうな軒先きを見つけたので、そこで雨宿りする事を決めた。

けれども、四車線の大通りは交通量も多く、結局そこそこ濡れてしまった。

さて、雨宿りに最適なこの金物屋さんは、19時前だというのに既に閉店していた。

しかし、シャッターの隙間から光が漏れ、中に年配の女性がいた。

僕はネットで検索して、タクシーを捕まえようとしたのだが、結局どこもタクシーは出ずっぱりのようで一台も捕まらなかった。

突然の豪雨だから仕方がないのかもしれない。

そもそも豪雨が凄すぎてタクシー会社の電話が遠くて、なかなか聞き取れなかったのも事実である。

流しのタクシーにも全て蹴られてしまう始末。

もはや、2〜3時間は雨を眺めていようと覚悟をした。

その時、背後のドアが開いた。

振り返ると、先ほどの年配の女性と僕より少し年上かなというような女性が二人。

「あの、傘貸しましょうか?」

優しい声だ。

「あっ、大丈夫です」

違う、本当は大丈夫ではない!絶対に傘を貸して欲しいのだ。だが、僕はこんな時どこまでも不器用である。

そして続けて、

「あっ、でもしばらく雨宿りさせて下さい!」

なんて言ってしまうのだ。本当は傘を借りたいのだ!何故だ、何故こんな事を言ってしまうのだろうか。

せっかく宮古島に来たのに、宮古島のせっかくの3時間を何故雨宿りに使ってしまうのだ!

情けない。

女性達はドアを閉めて、にこやかに去っていった。

雨はやまない。

道の向かいに見えるドンキホーテまでは100mくらいだろうか。この雨での100mは、服を着たままシャワーを浴びる事とまるで変わらない行為だし、そもそも20mほど離れたパチンコ屋に入ろうにもずぶ濡れは必須である。

雨はやまない。タクシーは来ない。傘はない。ずぶ濡れになる勇気もない。待つしかない。

そんな事を考えながら、30分ほどした頃だろうか、一人の男性と一人の女性が金物屋の上から階段を降りて来て、僕の横に立った。

「雨、凄いな」

男性が言った。

女性は先ほどの傘を貸してくれようとした僕より少し年上の女性。

「あれ、まだいたの?市内まで行くから乗りなさい。助手席ね、助手席!早く!」

僕はまたしても

「ありがとうございます。でも、大丈夫です。」

などと言ってしまう。

何故だ!大丈夫じゃないだろう!ありがとうございます、じゃお言葉に甘えて、だろう!!

しかし、女性はもう一度言ってくれた。

「いや、いいからいいから。遠慮しないで、さぁ」

と言う。

「すいません、ではお言葉に甘えて。」

よし、言えたぞ!道が開けた!

それにしてもなんて親切な人達だろう。

雲は厚いが、目の前が一気に明るくなった。

僕は助手席に乗り込んだ。

どうやらお二人はご夫婦のようで、根掘り葉掘り僕について聞くわけでもなく、かと言って沈黙を作るわけでもなく、あくまでついでに乗せてくれている感を出しながら、僕を市内まで乗せてくれた。なんと居心地の良い空間なんだろう。

僕は本当は、そこそこ宮古島に詳しいのだが、お二人の優しい口調がありがたくて、

「実は10年振りで、2回目なんです」

などと無意味な嘘をついてしまい、オススメのお店などを教えてもらった。

車に乗っていた時間は10分もなかったと思う。

そして、車から降ろしてもらう頃には雨脚も少しだけ弱くなっていた。

結果的にはあのまま雨宿りしていても、弱まった雨脚の中歩き出す事が出来たかもしれない。

でも、あの親切なご夫婦のお陰でより一層宮古島が大好きになった。

翌日、カラッと晴れた宮古島から見えた青い海、気持ちのいいほど高い空はあまりにも美しいものだった。

ご夫婦と別れた後、数時間後に待ち合わせをしていた友人と一緒に行ったコンビニのような一風変わった楽しい居酒屋さんの話は、また別の機会に話す事にしよう。


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